プロローグ
何も無い空間でくるくるくると彼女は踊る。
上も下も右も左もない、真っ暗な空間。
鈍く光る鎌を手に黒い髪を舞い躍らせて、くるくるくるくると回り、踊る。
その頬を濡らしながら、か細く唄いながら、規則もなくステップもなくただただ思うがままに、くるくると踊る。
心優しき一人の死神。
流す涙は死に行く人を送る導となり、
唄う言葉は魂を優しく包み込む。
人のことが大好きな死神。
今日もまた、1人で泣きながら、踊りとも言えない踊りを踊ってる。
静かな夜だった。
月明かりの無い、新月の夜。星明りだけが部屋を照らしていた。
『………だれ…?』
真っ白い部屋の中央、簡素なベットに寝ている少年が、ふと視線をドアへと向ける。
『…おねぇさん、だぁれ?』
『誰、かしらね。好きなように呼べばいいわ』
黒いフードに星明りを受けて鈍く光る鎌を手にした少女が静かに言う。
彼女はベットの脇に立って少年を見る。
『ぼく、しぬの?』
『……えぇ。迎えに来たのよ』
『おねぇさん、ないてるよ。かなしいの?ぼくがしぬから?』
『泣いてなんかないわ』
『なかないで、なかないでおねぇさん。ぼく、おねぇさんがむかえにきてくれてよかったよ。ぼくのためにないてくれる。おかあさんもおとうさんもみんな、ぼくのためにないてくれる。これいじょううれしいことはないよ』
にこっ。っとあどけなさの残る顔で笑う少年。
少女はただ無言で頬を涙で濡らしながらも鎌を少年にあてがう。
『ぼくはね、うまれてきてよかったとおもったよ、おねぇさん。さいごにそばにいてくれて、ないてくれてありがとう』
静かに泣きながら少女は鎌を振り下ろした。
穏やかな顔でベットに横たわる少年にそっと触れて部屋をでた。
『…どうか安らかなる眠りを……私には祈るしかできないけれども』
命を刈り取る私が祈るなんておかしいかもしれないけど、どうか
死した人たちに安らぎと安息を与えてください
全てのいとしい人々に、残酷なまでに平等な愛と慈悲を与えてください
私の流した涙の数だけ
罪が許されればいい
私の流した涙が、人の心を洗ってくれればいい
どんな人でも、私は最後に傍で泣いているから
世界に愛されていることを知ってください
世界に望まれていることを知ってください
私は、傍にいます
命尽きるその瞬間まで・・・