プロローグ
俺は河野聡、22歳中学校の教師一年目だ。現在はなぜか見知らぬ世界、都市アレストラで教師兼戦闘士をしている。それは数日前に遡る・・・
正しいことをしたはずだった。
クラスの片隅で起きていた陰湿ないじめ。それを主導していたのはお偉方の息子。
他の教師たちが「生徒同士のよくあるトラブル」と見て見ぬふりをする中、教師一年目の俺——河野聡(22)だけは、黙っていられなかった。
生徒を守るため、職員室で学年主任や教頭と激しく怒鳴り合った。新人のくせに秩序を乱すな、波風を立てるなと詰め寄る上層部に、俺は一歩も引かなかった。
だが、事なかれ主義の組織が下した裁定は、あまりにも理不尽なものだった。
『河野先生。君の指導力不足が原因で現場が混乱した。世間体が落ち着くまで、しばらく自宅待機を命じる』
実質的な謹慎処分。
ワンルームの狭いアパートのベッドに寝転び、俺は悔しさと、自分の無力さに歯噛みしていた。
机の上には、いじめられていたあいつを励ますために、徹夜で作った授業の指導案ノートが置かれたままだ。
「……クソ。なんで正しいことをした奴が、部屋に閉じ込められなきゃいけないんだ。俺はあいつらに、まだ何一つ教えてやれてないのに……!」
窓の外の濁った夕空を見つめ、深く、重いため息をついた。
——その瞬間だった。
ふっと、五感からすべての音が消えた。
重力があべこべになったかのように、アパートの床が底抜けし、俺の体は底なしの暗闇へと真っ逆さまに落ちていく。
「え——?」
声すら出ない。視界が完全にブラックアウトし、意識が急速に遠ざかっていった。
◇
「おい、起きろ。大丈夫か、あんた」
鋭い声と、頬を叩かれる軽い衝撃で目が覚めた。
ゆっくりと瞼を開けると、視界に飛び込んできたのは、アパートの安っぽい天井ではない。見たこともないほど巨大な、白い石造りのアーチ状の天井。そして、俺の顔を覗き込んでいる、腰に剣を帯びた見知らぬ異国の服を着た男の姿だった。
俺は河野聡、22歳。中学校の教師一年目だ。
——そして現在はなぜか、この見知らぬ世界、都市「アレストラ」で教師兼戦闘士をしている。
あの日、アパートの部屋で世界が暗転してから、数日。
俺の奇妙で、激動の異世界教師生活は、ここから始まったんだ。




