いつだって、キュアパワー☆
既に人類は滅んでいた。
あたりは薄暗く、輝かしい栄光の象徴たるビル群は一様に倒れ、無残な残骸ばかりが広がっている。
かつて栄華を極めた人類の歴史。その尽くが憎むべきイノールドによって破壊しつくされている。
人類は滅んだ。
一年前、侵略種の王たるアームスにより引き連れられたイノールドの軍勢は人知を超えた力を持ってして、わずか九ヶ月で人類を滅ぼした。
万物の霊長と謳った人類の面影は、今では数える程しか残っていない。
人類は滅んだ。
しかし侮るなかれ。人類でなくなった者は、人類を超越した者は、魔法少女は滅びてなどいない。
「──キュアパワー」
命号に呼応したマナが褪紅に染まり、周囲の廃墟を照らし出す。
「グabギGィヤaaaaa!!!」
対するは侵略種の王アームス。
筋骨隆々たる巨躯は一呼吸する度に周囲に泥緑のマナを発散させ、半径千キロメートルを腐食し続ける死の大地へと変貌させる。
「──キュアパワー」
その力はまさしく超常そのものであり、侵略種も魔法少女も。その全てが等しく地に伏せ、倒れている。
立っているのはこの惨状を引き起こした張本人である王アームスと、魔法少女キュアパワーの二名のみ。
「──キュアパワー」
相対する両名。
最初に動いたのは王アームス。
最後に動いたのもまた、王アームス。
「──キュアパワー」
何やらブツブツと言い続けるキュアパワーを相手に、最大限の警戒と敬意を持ってして、初手から全てのマナを集中させる。
「aグhデジMaa!」
泥緑のマナが王アームスの口砲へと集まり、あまりのマナ密度により漆黒に染まる。
放たれるは王アームスの四番目の秘奥技。
その効果は知的生命体への特効。ゆえに、未だ残っていた人類の残滓である魔法少女を、瞬く間に殺し尽くした。
人類の完全敗北であ───────
「──キュアパワー」
命号とは、すなわち魂の発露の強制。
「──キュアパワーキュアパワーキュアパワー!」
正規の手順で行えば最低でも十年はかかるそれを早める裏技。
当然身体への負担は著しく、普通は一度使えば二度とは動けない身体になる。
しかしキュアパワーは別。彼女の命号は光を操るでも空間の断絶でもない、純粋な肉体強化。
そして、その肉体は命号の負担を超える、人類の範疇から遥かに超越した強度を誇る。
ゆえに、
「── キュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワーキュアパワー!!」
彼女は何処までも強くなれる。
「これは人類の分、これは魔法少女の分!そしてこれは、私の十四時間と二十三分を奪った分だぁぁぁ!!!」
拳を握り締めて煌めく褪紅のマナを噴出し、輝き瞬き、周囲を覆う漆黒のマナを吹き飛ばす。
その勢いで空を跳び、噴出するマナでひたすらに加速し続ける。
「命号解方☆究明覇我!」
全マナを拳へと一点集中させた捨て身の一撃。
振りかぶった極光のごとき輝きは、勢いそのまま王アームスを穿ち抜き、そして───
〈GAMECLEAR〉
『魔法少女戦線〜魔に魅入られし少女達〜』は二年前に発売されたVRゲームである。
内容としては侵略してくるイノールドを魔法少女となって倒すというもので。
プレイヤーは総勢百名いる魔法少女の中から一人選び、その魔法少女として戦っていくことができる。
また、魔法少女として戦うだけでなく、他の魔法少女と共に町に出かけたり、遊園地に行ったり、果ては結婚したりとかなり自由度が高い。
そのおかげで一昨年はかなり売れていて、それでいてかなり荒れていたのを覚えている。
そう、荒れたのだ。
一言で言えば、鬱ゲー。
戦線だったり、魔に魅入られしだったり、とにかく色々な所で匂わせられてはいた。
しかし、まさか登場人物全員がどのルートでも死んでしまうなんて誰が予想できるのか。
当然、プレイヤー達は必死の形相で生存ルートを模索し、その全てが水の泡と化した。
まさに阿鼻叫喚。ネット上はお通夜のような暗さを見せ、魔法少女達の名前の前に必ずキュアがつくことから当時のことをキュア事件と呼んだりもした。
そんなひと騒ぎを起こした魔法少女戦線であるが、実はつい最近生存ルートが見つかったのだ。
題して、いつだって魔法少女キュアパワー☆ルート。
ちゃんと☆まで言ってようやく正式名称だ。
やることは至ってシンプル。
最初に選択する魔法少女一覧から、キュアパワーを選択し、ゲーム開始からひたすら命号を唱え続ける。
これによりゲーム内時間で六ヶ月、現実で十二時間が経過する頃にはアームスを倒せる程にまでステータスが上がるというわけだ。
何故これが二年前に発見されなかったのかと言えば、命号のシステムが悪いとしか言えない。
命号はいわゆる最期の一撃として用意された自爆特攻である。
普通は使えば死ぬか運が良くて半身不随になるためか、命号の効果もそれに合わせて一撃にしか反映されない。
さらに都合の悪いことに攻撃したという判定は敵エネミーとの全ての接触がカウントされる。
そのためプレイヤー達は敵を攻撃せずに敵の攻撃を避けることを強要され、敵を攻撃しないがために、他の魔法少女から責められる。
助けようとしているのに非難されるという、当時のプレイヤーからしたら罰ゲーム以外の何物でもない代物。
手を出そうとする人はまずいない。
いつだってキュアパワー☆ルートは二年の時を経て、傷が癒えた挑戦者が発見した、まさに奇跡の道筋なのだ。
本当に、大変だったろう。
一章のボスは最初のボスにしては馬鹿みたいに速いわ、二章のボスは視覚偽装による同士討ちを誘ってくるわ、その他にもボスは山ほどいるが、その全てが漏れなく強敵だった。
それら全てを避け続け、魔法少女達に責められ続けて、そうして得られたトゥルーエンドがキュアパワー以外死亡という結末に先駆者は何を思ったのだろう。
私には分からない。知りたいとは口が裂けても言えない。
ただ一つだけ、思うことがあるとすれば。
「とりあえずこのシナリオ書いたやつは人じゃないってことで良いのでは?」
パッケージの裏表紙に小さくでかでかと、一番下の方にあったクレジットを見ながらそう言った。
なんか謎に思いついたから書いてみた。文章力ほしい




