勘違いの代償
短めの短編小説です。
最初の勘違いは、ほんの小さなものだった。
「最近さ、あの子とよく話してるよね」
何気ないふうに言ったつもりだったのに、声は少しだけ尖っていた。
彼は一瞬だけ考えてから、
「まあ、席近いし」
とだけ答えた。
それだけなのに。
私は勝手に、“否定しなかった”ことに引っかかった。
ああ、やっぱり。好きなんだ、あの子のこと。
本当は、違ったのかもしれない。
でも私は、確かめなかった。
代わりに、勝手に決めつけて、勝手に距離を取った。
「最近、冷たくない?」
帰り道、彼がそう言ったときも。
「別に」
素っ気なく返した。
違う。
冷たくしたかったわけじゃない。
ただ、期待してるって思われたくなかった。
でも
「……なんかあったなら言えよ」
その言葉すら、私は曲げて受け取った。
“面倒くさいな”って、思われてる。
そう感じてしまった。
それから私は、さらに間違えた。
わざと、彼の前で他の男子と話した。
楽しそうに笑ってみせた。ほら、私だって平気だから。
そんなつもりだったのに。彼は、何も言わなかった。
ただ一度だけ、少しだけ困ったような顔をして。
それだけで、私はまた決めつけた。
ああ、興味ないんだ。私なんて、どうでもいいんだ。
気づけば、私の中の“彼”は、どんどん都合よく変わっていった。優しかったはずなのに、冷たい人に。
不器用だったはずなのに、無関心な人に。
本当の彼なんて、もう見ていなかった。
「ねえ、あの子のこと、好きなんでしょ?」
ある日、我慢できなくなって聞いた。笑いながら。
どうでもいいみたいに。でも本当は、違った。
否定してほしかった。必死で。
「……は?」
彼は、明らかに困った顔をした。
「別に、そういうんじゃないけど」
その曖昧な答えを、私はまた、間違えた。
「ふーん。じゃあ、頑張りなよ」
「……何を?」
「だから、付き合えばいいじゃん」
言った瞬間、空気が止まった。
彼は、しばらく何も言わなかった。その沈黙が、怖くて。
私はさらに、余計なことを言った。
「応援してるし」
終わった、と思った。そのとき、初めて。
「……お前さ」
低い声だった。
今まで聞いたことのないくらい、冷たい。
「ずっと何言ってんの?」
胸が、ぎゅっと潰れた。
「別に俺、あいつのこと好きとか一回も言ってねえけど」
「でも――」
「全部お前の中の話だろ」
何も、言い返せなかった。
「勝手に決めつけて、勝手に機嫌悪くなって」
彼の声は、静かなのに刺さった。
「で、急に突き放して」
「……そんなつもりじゃ」
「じゃあ、どういうつもりだよ」
答えられなかった。本当のことなんて、言えなかった。
好きだった、なんて。今さら。
「……もういいわ」
その一言で、全部が崩れた。
それから彼は、本当に私と話さなくなった。
避けられてる、ってはっきりわかるくらいに。
そして数日後。彼があの子と一緒にいるのを、見た。
前みたいに自然じゃない、少しぎこちない距離。
それでも、確かに並んで歩いていた。
ああ。
これでよかったんだ。
だって私は、自分で選んだんだから。
勝手に疑って、勝手に傷ついて、勝手に突き放して。
最後に、本当に突き放された。
帰り道。
スマホを何度も開いて、閉じた。謝りたかった。
全部、勘違いだったって。ちゃんと聞けばよかったって。
でももう、遅い。
「……ほんと、バカだな」
涙で滲んだ画面に、彼の名前はもうなかった。
最初の勘違いなんて、小さかったのに。
それを認める勇気がなかったせいで、
私は、全部を失った。
勘違いで決めつけないように...




