Case.8 ──旧友──
CLAW本部にブルーとアンジーの馴染みの顔が現れる。元CLAW所属のデイヴは足を洗ってアイスクリームショップに勤めていたが、相棒であったポールが白昼堂々襲われ暗殺されたことを語る。果たしてCLAWはデイヴを守り切ることができるのか。
デイヴ・ジャックスとポール・グリッグスは特殊捜査任務懲罰部署<現:CLAW>に所属していた元アニマル市警の警官である。
デイヴはガサツな態度の悪い白人の男で元50チームのライフルマンであったが、新人イビリで訴訟を受けた結果、上層部からの意向で左遷された。
ポールは元々K9ユニットのハンドラーであったが、何を間違えたのか自身が調教した警察犬であるノスフェラトゥ・ザ・ブラッドシーカーが犯人を問答無用で嚙み殺すという事案を何度も起こしてしまい、結果的に犬と共に左遷されてしまった。
彼らは古参メンバーとしてアンジーやブルーと共に活動し、〝前任者〟であるクロウ・S・マーロンの指揮下で過激な捜査を行い、メキシコの超巨大麻薬カルテルであるロス・クルティードに対抗しており、遂にはカルテルのリーダーであるエル・アルテサーノの補佐を務めていた副官、ディアス・サンチョスを殺害することに成功するがその後に事件は起きる。
祝杯を挙げた晩のこと、帰宅中であったクロウ・S・マーロンはカルテルの殺し屋の奇襲に遭い、昏倒させられそのまま辱められた上に凄惨な拷問を受けて肉体を損壊され、最終的には〝皮なめし〟にされてその死の映像が全て記録されたビデオテープと共に彼女の自宅に荷物として送られたのだ。
届いた荷物を最初に見つけたのはブルーだった。個人的な理由で精神的に追い詰められ、やつれていた彼女にクロウが世話を焼いていた時期があったのだ。
荷物の宛名には差出人が書かれておらず、不審に思った彼女がその包みに爆弾が入っていないことを確認した後に開封すると中には何かの皮とVHSのビデオテープが入っていた。
その皮が〝かつてクロウだったもの〟だったと気づいたブルーはひどく動揺し、その場で嘔吐して涙を流し、「私があの時付いていれば彼女は死ななかった。」と、とにかく自分を責め続け、そのショックが原因で最低限機能していた自活能力を完全に失った。その数時間後、ブルーの連絡を受けたアンジーもその惨状を確認するとさっきまで二日酔いだったのが噓かのように青ざめた。
本部に戻って4人でVHSの内容を恐る恐る確認すると、映し出されたあまりにも惨い光景に全員はショックや恐怖を感じ、その日は全員その場で呆然とし続けた。
その後、〝クロウだったもの〟を火葬して葬式を済ませると、デイヴとポールは「クロウがいなくなったココではやっていけない」と、ACPDを辞職することを決意したのだ。
取り残されたブルーとアンジーは中毒になり狂いながらも正義のために奔走し、自分たちに世話を焼いてくれたクロウに対する畏敬の念から、特殊捜査任務懲罰部署という堅苦しい組織の名前を彼女の名前とポリ公を意味するスラングであるClawとかけ、CLAWと名付けたのである。
話を戻すと、その退職した二人は退職金及び貯金を使ってアニマルシティ内のチェーン店舗である〝キューティ・アリスちゃんのハッピーアイスクリーム〟という店とフランチャイズ契約を結び、今は街のアイスクリーム屋さんとして生計を立てていた。
流石にあれだけの事件を経験したこともあり、かつてのチンピラのような態度は鳴りをひそめ、今は真人間として暮らしているのである。しかし、悲劇は訪れる。
ある日のこと。二人が経営している店に浅黒い肌の男が現れた。
その男の接客をしようとポールが近づいたその瞬間、サプレッサー付きのスターム・ルガーMk.IVが放つ22口径の弾丸に頭を貫かれ、ポールの脳漿はアイスクリームのフレーバーの一つになると、そのまま床に倒れて動かなくなった。
奥で事務仕事を行っていたデイヴはそのサプレッサー付きの銃声と倒れる音ですぐに危機を察知すると、コンシールド・キャリーしていた3.6インチモデルのスタッカートHDを抜いて、店内へと移動して額を撃ち抜かれたポールの遺体を確認すると、そのまま躊躇なく銃を持っていたメキシコ人を射殺し、応援が来る前に急いで金庫の金を回収すると、裏口に向かってポールの飼い犬であるノスフェラトゥを連れ出し愛車のトヨタ・ハイラックスで逃げ出した。
あたりには複数人の殺し屋が隠れていたようで気が付けばハイラックスの後部は穴だらけになっていた。
彼が逃げる行先は言うまでもなく、かつての仲間の元であった。
ブルーは悪夢を見ていた。暗く淀み、ヘドロのような質感の赤い太陽が照らし出す血みどろの世界。
今まで殺してきた人間の顔に囲まれる。ただの虐殺者から子供まで数多くの人間がブルーの周りに集まり、血走った目で睨みながら罵詈雑言を浴びせ続ける。
それに対してブルーは力なく謝り続ける事しかできない。
かつて失った仲間たちがM4ライフルをブルーの頭に突き付け、「お前はなんで生きているんだ、なんでお前だけ。」と恨み節を伝えてくる。
何度逃げ惑っても目から血の涙を流し、損壊した肉体を無理矢理動かしながら追跡してくるかつての仲間たちから逃れることができない。
ただひたすらブルーに対して「死ね」と言いながら銃撃を繰り返し続ける。
建物に隠れてただひたすらに目をつぶって耳に手を当てて「これは夢だ」と繰り返しても、悪夢が収まることはない。
何度「ごめんなさい」と謝ってもかつての仲間は殺しにやってくる。
ひたすら鉄臭い血の香りが漂い続ける夢の世界で永遠に苦しみ続けている。
気が付けば殺される。額を撃たれ、首を撃たれ、胸を撃たれ、腕を撃たれ、足を撃たれ、ナイフで体をズタズタに切り裂かれる。夢の中でいろんな死に方をした。
死ぬたびにまた生き返り、仲間たちに殺され続けるのだ。
そしてその夢の終焉が訪れ始めるとクロウが現れ、ブルーを最も残虐な方法で殺す。
毎晩その痛みを感じてそれでようやく〝起きることを許される〟のだ。
目が覚めると体中に油汗をべっとりと掻いていて、昨日は家に戻らずにCLAW本部のソファでそのまま寝たことを思い出した。
少し脱水気味の状態で小汚い冷蔵庫の中にあるボトル入りの飲料水を開けて一気に飲み干し、その辺に置いてあったミント味のガムを口にして疑似的な歯磨きを行った。
洗濯をしようにもコイン・ランドリーに行く金すらない為に使い古した袖がカットされている青いクライのG3コンバットシャツをもうかれこれ一週間は着続け、自分でも気になるほど汗の臭いが酷くなっていた為、外にある蛇口からホースで全身に身も凍るかのような水を浴び、手洗い用の石鹸で体を洗ってなんとか清潔感を保とうとしていた。
ブルーはここ最近、とにかく借金が嵩んでいる。
かつての婚約者への慰謝料や退役後に負傷した際の病院代に無理して買ったコルベットのローンと家賃に生活費、そして幾度となく減給処分になりたったの1200ドルしかない給与明細と家のポストに押し込まれ続ける警告色の支払い催促を思い出して頭を抱えることしかできなかったが、いくら口に銃口を加えても依然として死ぬ覚悟はできそうになかった。
浮気された時に「お前が何度も流産した挙句、戦地で負傷して子供を産めなくなったから」とかつての夫に言われた時のことを思い出して強く憤り、自分が殺した仲間の遺族にカバー・ストーリーではない本当の死因を伝えようとして狂人と思われ腹を撃たれたことを思い出して悲しむ。
考えを纏めると一つの結論に至る。生きることが自分への最大の罰なのだと。そう考えていると全てが虚しいものに思えてくる。
ユニクロの安いTシャツすら買うことができない財布事情に苦しみながら、これまた使い古したタンクトップに着替えてコンバットシャツを錆びた物干し竿で干した。
とても寒かった。何故なら今は冬だからだ。だがここはストーブどころか毛布すらないのだ。防寒具を買う金も無い。
それに腹も空いていた。ここ数日は豆やツナ缶すら買えない苦境が続いているからだ。
この苦しみのほとんどはアンジーがブルーに犯人轢殺の罪を擦り付けたことが原因だが、ブルーはけしてアンジーを恨もうとは思わなかった。
何故なら、今の彼女の友達と呼べる存在はアンジーだけだからだ。
他は皆仕事仲間で、訳ありのブルーに対してはプライベートでは冷たい。
だがそんな唯一の友人であるアンジーも最近はタイラーとばかり親しくしている。
ずっと寂しいという感情を抱えていて、もしかしたらアンジーは自分のことを友達とは思っていないかもしれないという不安を常に抱えている。
慰めてくれる者は誰一人としていなかったし、求めようとしなかった。厳しい家庭環境でほとんど愛情を知ることができず、軍隊で厳しく教練された彼女は強く生きるために弱音を吐けなくなってしまったからだ。
それに勇気を出してお金の融資を頼みに行った時も断られてしまった。彼女にとってはこの行動をするだけでも物凄く勇気が必要だったにも関わらずだ。
空腹続きで体は連日の仕事疲れで筋肉痛。汗汚れの不快感が常にあり心は寂しく金も無ければ、友達もいないし、遊びに誘うお金だってない。
そんな状態で彼女はCLAW本部の薄汚いプレハブ小屋でただひたすらに凍えながら泣くことしかできなかった。
そんな最中だった。あたりから車のエンジン音が聞こえてくる。だがその音はシビックのVTECでもなければCBR500RのDOHCエンジンでもなかった。
聞き覚えのないエンジン音にブルーは警戒すると、タンクトップ姿のまま寒さも忘れて部屋に置いてあったファースト・ラインについているサファリランド製の6004ホルスターからキンバーTLE/RL IIを抜くと建物の陰に隠れて音がする方向を狙った。
すると、前から銃痕だらけの見覚えのあるトヨタ・ハイラックスが走ってきた。
そして力なく中の人間はドアを開けると、血が出ている足を抑えながら犬と一緒に出てきた。
「デイヴ…?」
ブルーがそう聞くとデイヴはしんどそうに頷いた。
「よぉ…まだ…いたんだなここで…追っては撒けたが足に一発貰ってよ…愛車もボコボコになっちまった…」
「喋らないで!今すぐ治療するから。」
ブルーはデイヴを引きずってプレハブ小屋内にあるソファーの上に寝かせると、デイヴの着ていたパンツをナイフで引き裂いて傷口を露出させ、アンジーが残しっぱなしにしていたウイスキーをかけた。
デイヴは傷口がアルコールで消毒される痛みに叫び声を上げている間に、ブルーは自分が干していたコンバットシャツをデイヴの傷口にあてがって抑えるように指示し、プレートキャリアの医療用ポーチの中に入っているターニケットを取り出すとデイヴの足へと巻いて緊縛止血をした。
そしてそのままスマートフォンを取り出して911に通報し、救急車を呼ぼうとしたがそれをデイヴは止めた。
「待て…今俺は追われてるんだ…一般の病院に運び込まれれば消されるだろう…現にポールが…ポールが殺されちまったんだ…」
「ポールが殺された…?いったい何が…」
「わからない。メキシコ人だった。ロス・クルティードかもしれない…俺たちを殺しに来たんだ…頼れる先がここしかなかったんだよ…」
「わかった。今のボスを呼ぶ。医療従事者が親族にいるんだ。それでなんとかしてもらおう。」
たどたどしいタッチでブルーはエマに連絡した。
「ブルー?なんだこんな時間から。」
「ボス…怪我人!昔の仲間が足を撃たれた。治療したけど、殺し屋に追われてて病院にもいけない!ボスの夫は医者でしょう…?連れてきて!」
「殺し屋…?何が何だかわからんが、とりあえずそっち向かう。待ってろ。」
数十分するとCLAWの本部にエマとその夫であるアレックスがやってきた。
「とりあえず医療品持ってこられるだけ持ってきた。だが、ここで手術するわけにはいかないだろう?環境が不衛生すぎる。というか、エマ、ここはほんとにSWAT本部なのか…?ギャングの住処に見えるんだが…」
「あーえーと…所謂、特別捜査任務なんだ。秘匿性から口外できなくて…とりあえず時間は1秒を争う。とにかく治療してやってくれ。明らかにブルーがパニックになり始めてる。」
「…わかったよエマ…何か綺麗な布の類をこのソファーに敷いてくれ。銃創みたいだな…このまま摘出すれば激しい痛みが伴う。麻酔か鎮痛剤の類はあるか?あと血液型を教えてくれ。」
「…ある。アンジーのモルヒネが。まさかこんなところで役に立つなんて。血液型はO+。」
「モルヒネ…?なんでそんなものがここに…」
「気にしちゃいけない!ブルー、早くこの負傷者にモルヒネを持ってきてくれ!」
ブルーはアンジーのロッカーに向かって中に入っている怪しげな注射器を走ってアレックスに手渡すと、アレックスは慣れた手つきで空気を抜いてデイヴの傷口に注入すると、デイヴは純度の高いモルヒネに一気にトリップして大人しくなると、その隙にアレックスは数十分に及ぶ手術を開始したのだった。
数時間後、デイヴは薬物による麻酔状態から目覚めた。
足に少々違和感があると思って少し触ると痛みがあり、見れば綺麗に縫合されている。
腕には輸血パックを通して血液が充填されていて、撃たれて数十分立った後の失血状態の気持ち悪さはもう既に消えてなくなっていた。
「目覚めたか。俺はアレハンドロ・エストラーダ・ロペス、アレックスでいい。そこにいるエマの夫だ。今回の手術は時間が無かったから本当に簡易的なものだ。この後時間があるならちゃんと病院に行ったほうがいい。」
「アレックス先生、助かった。マジに死ぬかと思ったよ。それで…ブルー、そこにいるのが今のボスなのか?」
「…そう。そこにいるのが今のボス。エマ・カストロ・マルチネス二等巡査部長。」
「お前と一緒にやってた頃は最初は四十代の老けたキャリアだけしか考えてねー馬鹿野郎で、二回目が俺より年下のイカれた嬢ちゃんだった。マジに言うが…最高のボスだった。そんで今は…俺と変わらないぐらいの年の奴か。二等巡査部長ってことは相当修羅場を潜り抜けてきてるな。俺はデイヴ、デイヴ・ジャックス元二等巡査だ。」
デイヴはそういうと、エマに対して握手を求め、エマもそれに答えて握手を返した。
「それで…言いたくはないが治療費はどうしようか。勝手に病院から輸血パックや治療器具一式を持ってきてしまった。書類作成や諸々の手間を考えると少々面倒そうだ。」
「俺のハイラックスの中に金庫から持ってきた貯金がある。それで工面してくれ。もし足りないなら、請求書を後で送ってほしい。」
「わかった…それでエマ?この状況をどうにか説明してくれないか?」
「あー…とりあえず外で話そう。」
エマはそういうとアレックスを引っ張ってプレハブ小屋の外に出ていった。
するとシバサンとルフィナとタイラーが家の前でお座りをしている犬の頭を撫でている。
犬はその顔つきから母親がジャーマン・シェパードで毛並みや耳の特徴から父親がピットブルであろう雑種の成犬で、よく調教されているのかかなり人懐っこい様子だった。
「あ、ボス。ウチって犬なんて飼ってましたっけ?この雑種犬、どこで拾ってきたんです?というか表に停めてあるボロボロのハイラックスは一体?」
「色々事情があってな…今、逃げ込んできたやつを治療したとこなんだ。」
「容体は大丈夫ですの?」
「大丈夫。私の自慢の夫が助けてくれたさ。」
「あぁ、アレックスさんか。あの病院占領事件以来ですね。ご苦労様です。」
そういいながらシバサンはその雑種犬にお手やお回りをさせて楽しんでいた。
すると何時ものように遅刻してきたアンジーが驚いたような顔で犬に近づく。
「おお、ノスフェラトゥじゃないか。会うのは1年ぶりか?久しぶりだなダメ犬!」
そのノスフェラトゥと呼ばれる犬はアンジーを見るや否や表情を強張らせながら、牙を見せて威嚇し始める。
「バカアンジーってワンちゃんに嫌われるタイプ?普段からの行いがサイテーだもんね!というか僕のダッジの修理費いつ返してくれんの?こっちは貯金はたいてるんだけど。」
「うるせ、その犬は麻薬捜査と爆発物探知のイロハを両方を叩きこまれてるんだよ。つまり、昨日の晩にコカキメながら射撃場で銃を乱射して薬物と火薬の臭いが両方する私には反応して当たり前なんだよ。それにあのダッジはお前のじゃなくて全員共有の車だろうが。勝手に愛着持ってるのはオメーじゃねえか。」
「バカアンジーは愛着以前に車を丁寧に扱うってことを覚えるべきだと思うけどね!それに合計の修理費で多分もう一台新品で買えるぐらいは払った気がするんだけど…まあいいや。このワンちゃんは僕が飼うもんね!」
「あ、ズルいですわ!私もワンちゃん触りたいですわ!」
シバサンとルフィナは楽しそうに犬のリードを引っ張って全員で一緒にプレハブ小屋の中に入っていく。
「おお、アンジーじゃないか、久しぶりだな。それにノスフェラトゥ、外に放置してて悪かったな。」
デイヴの顔を見たアンジーは驚いた表情で近づいた。
「デイヴ、デイヴじゃないか。どうしてこんなところに。お前はもうここを辞めたはずだろ?」
「アイスクリーム屋をやってたんだ…ポールと一緒に。だが、ポールは今朝死んじまった。頭を撃ち抜かれて死んじまったんだ。それでココに逃げてきた…」
「ポールが…?」
アンジーの遊び疲れた顔は一瞬にして吹き飛び、額からは冷や汗のようなものが流れ出ていた。アンジーはクロウが殺された時のことを思い出し、何かこれからヤバイことが起きるのではないかと本能的に感じ始めていたのだ。
「メキシコ系の男だった。おそらくロス・クルティードのシカリオだろう…だが、後になってどうして俺たちを殺しに来たのかはわからない…お前ら最近なにか心当たりはあるか?」
「最近ようやくロス・クルティードのしっぽを掴みかけてるんだ。もしかしたらそのせいかもしれない…得体のしれない組織も出てきた。お前がまだCLAWにいたころには知りえなかったことだ。」
「そうか…というか、CLAW?お前ら、死んだボスの名前をここに付けたってのか?」
「そうだ。忘れないためだ。ヤバイ奴だったが私たちを導いてくれたからな。それに、特殊捜査任務懲罰部署なんて堅苦しくて長ったらしい名前を一々読み上げたくないしな。」
「違いない。俺もあの堅苦しい名前にはウンザリしてたさ。」
デイヴはそういうと犬と遊ぶ三人に目を向けた。
「若いな。あいつらが俺たちの後任なのか?お前と同じロシア系にアジア系もいるのか。」
「あぁ、そうだ。それにあそこにる若い奴が副リーダーさ。一等巡査部長。」
「若い奴がボスってのはもう経験してるが、あいつより若いな。全く警部も面白い人事をしやがるもんだ。おい、お前ら、ノスフェラトゥ・ザ・ブラッドシーカーは確かに人懐っこい奴だが〝8人殺してる〟ぞ。気を付けたほうがいい。」
「「「え…?」」」
犬と遊んでいた三人は一瞬にして表情が凍ると、犬のリードを力なく地面に落とした。
「ポールが元々育てていたメスのジャーマン・シェパードが、飼い主から逃げてきたオスのピットブルと交尾して生まれた奴なんだ。ポールはその獰猛さと優秀さを兼ね備えた犬を警察犬として調教した。だが、どこで育て方を間違えたのか初任務で犯人の腕にかみつくはずが首根っこを嚙み千切っちまった。その時はまだ犬が危険を察知したと判断されたが、その後も任務に派遣されるごとに人を噛み殺していった。結果、ポールはココに左遷されてノスフェラトゥは警察犬をクビになった。警察犬をクビになるなんて面白い奴だろう?血の臭いを嗅ぐとどうも本能を抑えきれなくなるらしい。大好物は人と豚の血だ。毎回餌に豚の血を混ぜ込まないと不満そうな顔をしやがる。金のかかる犬だ。」
そういいながらポールは自分の失血を止めるために使われた血まみれのブルーのコンバットシャツをノスフェラトゥに投げると、目をギラギラとさせながら一心不乱にしゃぶりついて放そうとしなかった。
ただひたすらに悦に浸ったような顔でねぶり続ける状況に三人は青ざめると、後ずさりしながら犬からを距離を取っていく。
「…あっ、シャツを食べないで…私の大事なシャツ…一着しかないから…このシャツ一着300ドルもするから…」
ブルーは困った顔でノスフェラトゥに近づいて噛み付かれて少し穴が空いたコンバットシャツを大事そうに取り上げた。
すると、犬はシュンとした顔で耳を後ろに倒してどこか切ない表情を浮かべている。
「あっ、ごめんね…ごめんね…」
再度シャツをノスフェラトゥに渡すと、またもや一心不乱にシャツに噛り付いてねぶりはじめた。
「あぁ、すまん、悪かった。そういえばお前貧乏だったな…俺の財布に300ドルちょうどある。これをやるから新品のシャツを買えよ。」
デイヴは300ドルを渡すと、ブルーは久しぶりに人に受けた施しに涙していた。
「さてと…話はひと段落すんだな。それじゃ俺からお願いがあるんだが…ここから逃がしてほしい。ベガスに逃げたいんだ。アニマルシティで殺し屋が来たってことはここじゃ絶対殺されちまう。連中は街中に蔓延ってるから州を変えないとな。それと…俺を襲ってきた連中は複数人いた。事件現場に行けばロス・クルティードに繋がる情報を何か掴めるかもしれない。ダウンタウンにある。フランチャイズだからグーグルで検索すれば出てくるよ。」
タイラーは口を開く。「逃走ならシバサンが最適解だ。彼女は公道を数百キロでぶっ飛ばす。このスピードなら殺し屋が追跡するのも不可能だ。グルカで運べば銃弾も通らないから一石二鳥。巡査部長はちょっと立て込んでるみたいだし、私が指揮を執るよ。シバサンとアンジーは私と一緒にデイヴを州の外まで運ぶ。ブルーとルフィナはポール元巡査が殺された事件現場を調べてきてほしい。」
その声を聞いた全員は準備を開始し、デイヴ逃走作戦及び現地調査が始まるのだった。
ブルーとルフィナはタイラーから借りたシビックで現地へと移動していた。
二人はCLAWのメンバーの中では特に関わりが浅く、まともに話したこともブルーが金の無心を懇願した時しか無かったため、中では気まずそうな空気がどんよりと漂っている。
そんな中でブルーはなんとか自分の中の浅いボキャブラリーの中から最適なワードを導きだそうと頭をフル回転させていた。
「えっ…えっと、この車、オートマだから左足が暇…」
「私、特に車に興味はないですわ。」
「ほ…ほら、ポルシェに乗ってなかった…?カブリオレの…」
「あれはお父様とお母様から誕生日プレゼントに貰っただけですわ。別にポルシェが私の好みというわけじゃないですの。それにお父様も車好きというわけではなくって、ただお金が有り余って使い道がわからずに値段の高い車を選んでるだけだと思いますわ。プライベートでもしょっちゅうランボルギーニやフェラーリを乗り換えていますし。」
「へ、へぇ…」
ブルーはそういった最新式の超高級路線の車には全く興味がなく、どちらかと言えばダッジやシボレー、フォードといったV8エンジンを搭載している古き良きクラシック・マッスルカーやファスト・アンド・フューリアスで神格化された80スープラやGT-Rが好みであったため、やはり会話はそこでパッタリと止まってしまった。
無言の空気をウインカーのリレー音が更に気まずくしていく。
「…そういえばお風呂に入りましたの?少しは匂いがマシになったと思いますわ。」
「…あっ、今朝水を浴びたの…ウチ、水道が壊れてるから…水道代払ってるのに一週間シャワーを浴びれなくて…休みに修理業者さんを頼んだけど、業者さんは周りのゴロツキに身ぐるみ剝がされて社用車を盗まれた挙句、全裸になって困ってたらたまたま通りかかった警察官に見つかって公然わいせつで実刑になっちゃって…そのあと電話かけたら二度と呼ぶんじゃねえこのクソブスビッチが、死にやがれって…代金前払いだったからちゃんとお金払ったのに…」
不幸な体験談はその場の空気の最悪にし、今までの人生でそういったライフラインで困ったことが無かったルフィナはただただ引き攣った笑いをすることしかできなかった。
ブルーはまたやってしまったと思った。自分に話せるボキャブラリーが無さすぎる余り、自身の不幸な体験談を話してしまうのはただただ他人を不快にさせるだけだということを改めて認識した。
そう話してるうちにポールとデイヴが経営していたダウンタウンにあるアイスクリームショップに辿り着き、ようやく気まずい瞬間は終わりを迎えた。
だが、どこか空気がおかしく、人が死んでいるはずなのに野次馬は誰一人おらず、他の警察官はどこにもいなかったどころかあたりの封鎖されてすらいなかったのだ。
ごくありふれたアイスクリームショップから香る怪しげな雰囲気にブルーはキンバー、ルフィナはベレッタを抜いてハンマーを起こすと、さっきまでの気まずさが嘘だったかのように息のあったツーマンセルでハンドサインで意思疎通を行いながら店の中へとドアを蹴破って突入し、二人のメキシコ系と中東系がポールと思しき遺体をシーツで包んで運んでいる最中だった。
「止まりなさい!アニマル市警ですわ。その遺体をゆっくりと置いて手を上げなさい!」
警察が来たと分かった瞬間、メキシコ系の男が銃を抜こうとしたところをブルーは容赦なく額を撃ち抜いて射殺し、残った中東系の男の腕を撃ってポールの遺体を離させ、怯んだ隙にルフィナが足を引っかけて転ばせると、そのまま関節技を決めて額を地面に押し付け、動けない状態に追い詰めた。
ブルーは22口径で綺麗に額に穴を空けられたポールの遺体を見ると無言で弔った。
「こいつは22口径如きで死ぬべき人間ではなかった」と強く心の中で思った。
「何のためにポールを殺した…?」
ブルーは物凄い剣幕で拘束されてる中東系の男の指に強くキンバーの銃口を押し付けると、零距離で3ホールトリガーを引くと45ACP弾は炸裂し、派手に指はあたり一面に飛び散り、大きな叫び声がアイスクリームショップの中で響いた。
「ブルーさん!?」
「探し物をしていただけだ…お前らの仲間を漁れば何か出ると言われた…」
「探し物?それにお前らは誰なんだ!クルティードなのか!」
もう一本の指がはじけ飛ぶと、男は激痛に大きな悲鳴を上げ、青ざめた顔で話し始める。
「お、俺たちはマズバハだ…こいつらを辿れば病院での聖戦で行われた同志を殺した人間を探れるとクルティードに言われた…俺たちは敵討ちのためにここを探っていた。」
その言葉を聞いた瞬間、ブルーの今までのおどおどとした態度が豹変し、目つきが変わると怒りのあまりに体が震え始める。
「敵討ちだと!?ふざけるな、このゴミ野郎。自分から市民を虐殺しておきながら敵討ちだと!?ふざけるんじゃない、ふざけるな、この馬鹿が、死ね、死んでしまえ、死んでしまえ!」
そういいながらブルーは中東系の男の右手の指を全て吹き飛ばすと、男は失血からか段々と反応が鈍くなってくる。
「ブルーさん、落ち着いてください!」
ルフィナが静止すると中東系の男の尻ポケットに入っていた電話が鳴り始める。ブルーはその電話を取ると聞き覚えのある声から何かを確信し、中東系の男の左指を一本一本撃っていき、その泣き叫ぶ声を丹念に銃声を電話越しに聴かせる。
「イサド・アル・ガイーブ、待っていろ。お前を必ず見つけ出して生きたまま生皮を剥いではらわたを引きずり出してやる。」
最後に中東系の男の額を撃ち抜いて射殺し、通話を消して携帯を懐へと仕舞い込んだ。
「ブルーさん、一体どうしたんですの?明らかに様子がおかしいですわ!」
「黙ってろ!」
乱暴に言い放つとブルーはルフィナを置いて勝手にシビックに乗って走り去ってしまった。
一人取り残されたルフィナは唖然としたままその場に立っているしか無かった。
ルフィナは今まであんなに温厚なブルーが激しく激昂する姿を見たことが無かったのだ。
銃声が響いたことでようやく通報が入るとあたりに人だかりが集まり始め、しょうがなくルフィナは裏口から出てアイスクリームショップから距離を取ると、スマートフォンから自家用リムジンを呼び出して本部へと戻ることにしたのだった。
──一方そのころタイラーたちはグルカによるスリリングな180kmのハイウェイ・ドライヴを満喫していた。
「おい、なんだこのスピードと音は、縫った傷口が開いちまうだろ!それにノスフェラトゥもビビってるじゃないか!」
内部が魔改造されているグルカはその体躯に見合わないスピードとターボ・チューンのV8エンジンをフル稼働させながら、アンチラグシステムでまるで銃声かのような騒音をまき散らしながらあたりの車をあみだに切り抜けて走っていた。
「しょうがないだろ、シバサンの運転はいつもこうなんだ。だけどこれなら敵は絶対に追いつくことはできない!合理的な判断だと思うね!」
「いや…そうでもないみたいだ!」
後ろからどこからともなくハンヴィーが追いかけてくる。スモーク・ガラスであるため中に何人いるかは視認できないが、少なくとも上部ハッチからM2ブローニングを構えているフル武装の兵士らしきものが見えている。このスピードのグルカに迫る勢いであることから、そのハンヴィーもまた何かしらのカスタマイズがなされているようだった。
ハンヴィーは距離を詰めてくると思い切り50口径の轟音を響かせながら白昼堂々とグルカを銃撃してくる。
耳を割くような激しい轟音があたりを襲い、周りの車も左右によってスピードを落として道を開け始めた。
「おい、まさか足に穴空くどころか50口径で全身ミンチなんてことにはならないよな!」
「大丈夫だ。おいシバサン、スピードはそのままにしてくれ。私が牽制射撃する!」
タイラーは持っていたガイズリー・スーパーデューティに弾倉を挿して薬室に弾を込めると、グルカの上部ハッチを開けてシールド越しにハンヴィーをサイティングして捉えると、セレクターをフルオートにして射撃を開始し、車内には大量の5.56mmの薬莢が撒き散らされた。
だが、スピードによる揺れと風の抵抗で全くと言っていいほど5.56mmの弾薬は真っすぐに飛ばず、相手を多少怯ませて時間稼ぎをする程度しか効力を発揮しなかった。
「ヘイ、相棒。新しい弾倉を取ってくれ!」
タイラーはマガジンを落下させてアンジーから受け取ったマガジンをスーパーデューティに再装填すると、次は弾薬をすぐに撃ち切らぬように指切りのバースト銃撃を開始する。
だが、そうこうしているうちにハンヴィーからの撃ち返しでグルカの後部はどんどんと銃痕で凹んでいった。
そしてその銃弾はタイラーのスーパーデューティに当たると、大きく銃はねじ曲がってひしゃげ、撃てなくなった。
「ヒュー、危なかった!このAR-15に命を救われたよ。もう使い物にならなくなったけど!」
「仕方ない、私がやろう。大口径のライフルがないのはちと怠いけどな。」
「しょうがないだろ相棒。車両の任務で狙撃銃なんて持ってこないのは当たり前だしな。」
「ああ、こんな時にバレットがあればなあ!」
アンジーはそういってタイラーと交代すると激しく動くグルカの動きを頭の中で計算しながら、イオテック製のホロサイトを覗く。
マークスマンとしての技術を鍛えられたアンジーでも、ホロサイトで狙撃するのは初めてであり、さすがに緊張が走る。
「なぁ、何か砂状のものってないか。あれがあれば簡易的な風読みができるんだが。」
「持ってるわけないだろ。」
「しゃーないか…もったいねーけど。」
アンジーは懐に入っているコカインを爪で切って中身を軽く掴むと、重力に任せて自重で落下させ、風の勢いを読み、照準の狙う個所を若干ずらした。
4秒ずつ息を吸って吐いてを3回繰り返すタクティカル・ブリージングで慎重にトリガーを引くと、見事重機関銃手の頭部に命中し、その銃手が倒れたことで視界を塞がれたハンヴィーはハンドル操作を誤ってその辺に走っていたトヨタ・プリウスに追突すると体制を崩してそのまま一回転し、ボディを地面を勢いよく擦りながら沈黙した。
「ハァ、ハァーーーー!やってやったぞクソッたれどもめ!今度追いかけてくるときは戦闘機でも持ってくるんだな!」
そういって車内に戻るとタイラーの様子がおかしくなっていて、ノスフェラトゥが強く吠えていた。
「おい、どうした相棒。」
「相棒、なんかさ、気分がふわっとして気持ちいいんだよね…お花畑が見えるんだよ…ダンキン・ドーナッツがいっぱいある。とっても甘くて美味しいな。ああ、それにシビックがいっぱいいる。FL5型もEK9もEG6にFKまで…あ、ワンダーにグランドシビック…!あはは、あっははははは!VTEC、しあわせ~」
「お前が風読みでコカインぶちまけたせいでコイツ、キマっちまったみたいだぞ。」
「ああ、マジで言ってんのか…まぁ、いいか…仕事は終わったし…」
その後数時間が過ぎると、砂漠の中でグルカは止まってパーキングに入りシバサンが後ろ側に向かって壁を叩く音が聞こえた。
「おい、タイラー!バカアンジー!ベガスだよ、起きろ!」
シバサンはグルカから降りて扉を開けると、デイヴとアンジーは疲れで眠っていてタイラーは隅っこで体育座りで縮こまってひたすら鬱屈とした言葉を並べていた。
「ああ、あの時救えなかった人たちがいっぱい私を責めてくる…ああ、ごめんよ…君のお母さんを私は救えなかった…ごめんよ…」
「おい、おい、バカアンジー!タイラーに何した!」
「え、えーあー…あ、あー…ありゃ完全にバッド入ってるな。しばらくしたら腕に虫が這ってるとか腕がカタナになってるとか言い始めるぞ。」
「何やってんだバカアンジー、タイラーは一時的にボスなのに!何考えてんの!」
「いや、これは事故みたいなもんでさ…」
「うん…あぁ、ついたのかベガスに…ああ、助かったよシバサン。」
騒々しい喧嘩の声にデイヴは目を覚ますと足の傷口を抑えながらノスフェラトゥのリードを掴んでとぼとぼとグルカの外へ出た。
「おい、タイラー、起きなよバカ!」
シバサンはバッド状態になったタイラーの頬を何度も叩いて正気に戻すと、胸倉を掴んで外の空気を強引に吸わせた。
「うん…うん…あぁ、私は何してたんだっけ?たしかシビックに囲まれて楽しかった気がするんだけど…」
「バカアンジーのコカインでトリップしてたの!ほら、デイヴの護送だよ、思い出しなって!」
「あぁ…あぁ、そっか!そうだった。」
デイヴはそんなCLAWチームの様子を眺めながら懐に入っていたアメリカン・スピリッツを一本取りだして、ジッポライターで火をつけて一服していた。
体の中に数時間ぶりのニコチンが駆け巡り、彼の気分を落ち着かせてすっきりとした感覚に錯覚させた。
「ふぅ…よし、お前たち今回は本当に助かった。アンジーやブルーも元気そうで安心したぜ。特にブルーはいつ死ぬか分からないヒヤヒヤする奴だったからな。」
「それで…デイヴはこれからどうするんだ…?」
「まあ、ベガスでイカサマでもやってちまちま金を増やして…クルティードをお前らが潰すまでノスフェラトゥとひっそり生きていくさ…ポールの奴が死んじまったからな。俺が面倒みねえといけねえ。あいつの分まで。」
「そうか…じゃあ達者でなデイヴ。ゴキブリみたいにしぶとく生き残れよ。」
「あたぼうよ。なんてたって俺は凄腕の──」
その時だった。1km以上先の近くからスコープの反射光が見えた瞬間、デイヴの脳漿はグルカの後部ハッチにぶちまけられた。
つい1秒前まで元気に話しているデイヴはまるで意図が切れた操り人形かのように倒れると一瞬にして動かなくなった。地面には彼の血液が蜘蛛の巣のように広がっていき、あたりは不気味なほどの静寂に包まれたのだった。
「巡査部長…任務は失敗に終わりました。デイヴ元巡査は死亡…おそらく7.62mmの弾薬を使用する狙撃銃で撃ち抜かれました。我々に危険が及ぶと察知して遺体を放置して逃げました。残ったのはこのノスフェラトゥという雑種犬だけです。」
「そうか…残念だ。しかし、狙撃手か…前にも似たようなことがあったな。まるで真相を知っているものを皆始末するかのようだった。この件、もしかするとシバサンやルフィナの一件ともつながりがあるかもしれないな…」
「今回は私のミスです。デイヴが死んだのは私の監督不行き届きだ。」
「…自分を責めるな。人はそうやって成長していくものだ。それに今回の案件はかなり闇が深いはずだ。ミス以前の何か別のものを感じるんだ…」
そのころ、ブルーはデイヴ死亡の報を聞いて一人、ノスフェラトゥと向き合っていた。
「私と一緒…お前も孤独か…」
ノスフェラトゥはただひたすらに寂しそうな表情をしていたので、ブルーは思わず抱きしめると久しぶりの暖かさになんだか涙が出そうになった。
昔飼っていたゴールデン・レトリバーのサミュエルのことをふと思い出した。
その犬は病気にかかり、動物病院に連れていく金が無かったブルーはただただ見捨てることしかできなかった苦い記憶があった。
その時のことを思い出して、涙を流しながら犬の体に顔を擦りつけて匂いを嗅いだ。
「…お前も復讐したいよな…?」
独り言を言ったブルーはスマートフォンを出すと、目つきを変えてとある連絡先に電話をかけた。
「ケイト。マズバハを見つけた。私は奴らの生皮を剥ぐ。」




