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Case.5 ──幽霊の銃──

エマが病院を襲ったテロリストが3Dプリンター製のゴーストガンを使用していたことを告げるとシバは動揺する。自身のミスが原因で出回っていることを話せず、単独で出所を調べている最中、ゴーストガンによって兄を失いその情報を調べている日系人の記者と出会う。

先日のテロリストによる病院襲撃事件に遭遇したエマは事の真相を探るべく手がかりを探していたが、その中で行き着いたのはフレームが3Dプリンターで製造された違法な銃器<ゴースト・ガン>だった。

「これが押収したテロ組織〝マズバハ〟のメンバーが使用していたAKライフルとグロックだ。見ての通りロアレシーバーがカーボン・ファイバーやガラスのような添加物で強度を上げた高温耐久ナイロン・フィラメントで構成されてる。百二十度の高温まで耐えられるから火薬の熱にも十二分に耐えうる強度がある。フルオート射撃だって余裕だ。それにこの整形のクオリティに着目してくれ。普通この手のゴースト・ガンは表面に層が刻まれていたり、プラが毛羽立っていたり、造形が浅かったり、ある程度の粗があるはずだが、手製にしては妙に奇麗に作られている。きっと、かなり高性能のプリンターを使用しているんだろう。」

「バレルの線条痕による特定はできないんですか。」と、タイラーは質問する。

「当たり前だが犯罪に使用される違法な銃器のほとんどは米国内にあるものではなく、メキシコから運ばれてくることがほとんどだ。それに確認したが既にライフリングが削り取られていて特定することは困難だな。」

するとアンジーとブルーが手を上げる。

「…このグロックなら見たことがある。前任者と一緒にいたとき。」

「これと同じ半透明の白色フレームだったな。そこでさっきのメキシコの話とつながるんだ。これと同じ銃を持っていた連中は〝ロス・クルティード〟だった。もしこの銃がメキシコから運ばれてきたんだとしたら十中八九奴らが作った可能性が高い。そうやって作ったものをアニマルシティ中の犯罪組織にばら撒いたか、違法な銃取引か…どちらにせよカオスに行き着くのは変わりないかもな。もちろん確固たる証拠はないわけだが…」

そんな話の中、イブキ・シバミネは一人険しそうな表情をしながら一言も発することはなく、自分の過去の過ちに関して思い出していた。

「シバサン、妙に険しい顔をしてるが何か心当たりでもあるのか?」

「…ないよ。全然ない。」

エマはシバの表情を見て自分が過去に学んだ心理学のことを思い出していた。シバは平静を装って入るが指の動きや目の動かし方が隠し事をしている人間のそれであることに確信を持っていた。

「いいか、シバ。隠し事をするなとは言わないが、事件に関わることなら素直に話した方がいい。何か手がかりがあったほうが──」

「本当に何でもないってば!」

シバはそういうとCLAW本部のプレハブ小屋を足早に出ていき、愛車であるホンダ・CBR五〇〇Rのハンドルに引っかけたショーエイ製のヘルメットを被るとクラッチ・レバーを握って左足でギアを一速に入れ、半クラッチでアクセルと繋げてバイクを動かすとCLAWの基地を後にしたのだった。




今から数年前、〝シバサン〟ことイブキ・シバミネは日本の警視庁で働いていた。

成績優秀で完璧だった彼女は常に学校でも成績トップでその時までは至極普通のつまらない生活を送っていた。

そしてある時、英語が話せることから警察内の海外交換訓練プログラムに志願して新たな刺激を求めてアニマルシティ・ポリス・デパートメントに出向し、そこで半年間制服警官として勤務していた。

毎日のように人が死に、血が流れ、仲間もまた死んでいく…日本のような外に高価なスマートフォンを放置しても盗まれないような平和な環境で生活していたシバにとってこれは全く新しい未知の感覚であった。

支給されたグロックで犯人を撃ち、ジュウドーでヤク中を投げ飛ばした。

そうして半年が過ぎ、気が付けば刺激的な時間は過ぎ去っていった。

日本に帰ればそこはクソほどもつまらない光景が続いていた。一時停止で止まらない車に切符を切り、暴走族を追いかけ、コンビニで顔を赤くして怒鳴る親父を抑えつける…何も面白くはなかった。

やがてシバの心には日本を出るという決意に満ちていた。アメリカにいた際に面倒を見てくれていた〝警視〟に相談した。

警視は快く願いを聞き入れると、シバは交換訓練プログラムによる特別手当と今まで貯めてきた貯金を手にして両親の反対を無視して単身でアメリカへと渡ると、アニマル市警の警察学校に一部の科目を免除される形で入校。

そして気が付けば若くしてスワットの三〇チームに所属の三六Dとして勤務していた。

そんなある時に入ったある大規模な任務だった。それはアニマル市警、FBI、アニマルシティ群鉄道保安局との合同作戦。メキシコから貨物列車で送られてくる密造された銃器の確保が目的だった。

FBIがこの情報を察知して計画を立案し、鉄道保安局による周囲の封鎖とヘリボーンによる上空からの両スワットの降下を行う奇襲作戦だった。

作戦は順調…かに思えた。だが罠だった。三〇チームがベル四一二・ヘリコプターから降り立った貨物にはC四爆弾が仕掛けられており、先行していたチームリーダー含む2名が爆風に巻き込まれて殉職。その周辺にいた保安官数名も破片が突き刺さり殉職した。

「隊長がやられた!このままじゃ…」

「いや、大丈夫だ。僕が指揮を執る。目標を確保するんだ…!」

残ったシバが動揺している隊員とヘリ・パイロットを取り纏めて指揮を執り、退却はせずそのまま三〇チームは貨物列車への強行突入を開始した。

最初こそ爆風で戦闘不能になっていた武器商人たち数名はすんなりと射殺することに成功したが、他の商人たちは密造レシーバーを使った銃器や旧式のRM二・メンドーサといったマシンガンで反撃し、シバ以外の他の隊員は徐々に徐々に被弾していき、戦闘不能に陥った。

残ったシバは無我夢中で全力で任務を遂行していくが、振り返ればそこは息絶え絶えの仲間たちがいた。

その瞬間に我に返り、傷を負った隊員を連れて貨物列車から脱出し、退却した。

保安官たちと共に比較的軽症な仲間の手当てをしてレスキューアンビュランス・ユニットを待っている中、周りを見回すとFBI側のスワット隊員は爆発を察知した瞬間に全員退却していたようで、誰一人負傷はしていなかった。


ケン・ドーザー巡査部長 死亡

カイゼル・マディソン巡査部長 死亡

オーダ・アーキンソン巡査 軽傷

ジュン・ハヤセ巡査 死亡

チン・ドーケン巡査 重症


「…僕はなんてことをしてしまったんだ。」

事件の報告を見た瞬間、自分が強引に任務を完遂しようとしたことは明らかな判断ミスであったと悟った。

結局その貨物列車から密造銃を回収することはできず、瞬く間にその密造銃はアニマルシティ内全域の犯罪組織に普及していき、アニマル市警史上に残る最大レベルの大失敗した作戦となった。

リーダーが死亡し、その作戦の責任は代理で指揮を執っていたシバに押し付けられることとなり、彼女は三等巡査から二等巡査への降格と共にスワットをクビになった…はずだった。

「CLAWという組織を知っているか?」

「…噂だけなら聞いたことあるけど。デタラメな捜査をする悪徳集団だって聞きました。」

「ハハハ…間違っては…いないかもな。今回の作戦…あれは保身に走った上層部が人柱を欲しがった結果だ。本来この責任は詰めの甘い計画を立案したFBIが負うべきはずなんだ。なのに彼らは圧力をかけて責任を逃れ、お前に全部押し付けたんだ。そのうえ見たか昨日の新聞を。密造銃のみの字もない。」

「いや、今回の作戦は明らかに僕のミスだ。他人のせいにする気なんかないよ…」

「その心意気を私は気に入ってるんだ。わざわざ日本からやってきて物好きなヤツだとは思っていたが、クビにするには惜しい人材だ。現に武器商人たちの何人を制圧した?ボディカメラで活躍はチェックしてる。それに私がお前の永住権<グリーンカード>を用意したのは覚えてるだろ?どうだ、席は空いてる。CLAWで働いてみる気はないか?今更日本に帰っても死にたくなるぐらいつまらないぞ。」

なんだか乗せられているような感じがしたが、シバは迷う必要がなかった。




シバは風を切り裂くようなスピードでバイクを走らせると、北京タウンへとたどり着いていた。

北京タウン内には様々な商店が並んでいるが、その中でも朽ち果てた二束三文にもならないパソコンのパーツや加水分解したアメコミに出てくるヴィランのソフト・ビニール製フィギュアの右腕だけであったり、錆びたヴィンテージの弁当箱といったとてもではないが、これだけで生計を立てられるような状況にない中古品店があった。

一日中ホンシュアンシーを吸って新聞を読んでいる斜視の中国系の老人に合言葉を言うと奥にある部屋に通してくれる。

その店はアンジーの知り合いが経営している違法な銃器の改造や販売を請け負うブラックな武器商人の店だった。

シバは違法流通する銃器はあれば違法流通のプロに任せるべきだと考えたのだ。

壁にはM一九一一、ベレッタ九二F、M八七〇、M四カービンやAKライフルといった定番の製品から、ハイ・ポイントC九やPSA製品のような粗悪品、そしてナイツ・アーマメンツのSR-二五やダニエル・ディフェンスのM四V七といった高級品までありとあらゆる製品が立てかけられていて、辺り一面からグリースやオイルの臭いがたちこめている。

その中でマスクを付け、露出した肌の部分にべっとりとオイル汚れの付いた女がヂョングゥォを吸いながら一人銃を一日中いじくりまわしている。

「…あん?あんた、アンちゃんのとこにいたニッポンジンじゃねーの。こんなところに何しにきた。わざわざ一人で乗り込むってことは逮捕しに来たわけじゃないんだろ?」

女は狐仙の傘下に属しており、彼女たちに銃器を優先的に提供する代わりに庇護下に入るという形で実を護っていたのだ。

その女は気怠そうに立ち上がると吸っているタバコを山のように積もった灰皿にこすりつけて立ち上がった。

時折咳をして如何にも不衛生な感じが漂っていて、ムダ毛は伸ばしっぱなしで口からはドブのような臭いがしており、そろそろガンで死にそうなヤツだとシバは思った。

「単刀直入にいくけど、3Dプリンター製の銃、知ってる?」

そう言ってシバはその女にエマの事件で使用された銃器の写真を見せた。

「3Dプリンターなんてヤワくてダメだね。どんなに良い素材を使ったってすぐヤレちまう。そんな商品、ウチじゃ絶対扱わねーよ。ウチは闇市場の中でも高品質を謳ってるんだぞ。」

「出所が知りたいんだけど…」

「あぁっ!?知るかよ、そんなもん。知ってたとしてもタダで教えるわけねーだろバーカ。くたばれポリ公。死ねよ。」

シバはしぶしぶポケットから財布を取り出して百ドル札を取り出すと、彼女の前に投げ捨てた。

「は?たったの百ドル?舐めてんのか。ここ最近物騒だってのに私が殺されたらどーすんだよ。ウワサみたく皮なめしにされちゃうねェ──」

するとシバはムッとして、その女の手を掴んで関節技をかけると、灰皿に顔面を押し付けて灰の海におぼれさせ、片手でホルスターからグロックを抜いてリアサイトをベルトに引っかけてスライドを引くと、頭に銃を突き付けながら反応が薄くなりそうな段階で髪の毛を引っ張って放してやった。

「ゲホ、ゲホ、ゲェェーーーッホ…オ゛エ…ガァーーーッ…ペッ…ああッ…酷いことしやがるな!まったく最近の日本人は…トヨタの車売ってくれねえしよ…あの時のトヨタのディーラーは最悪だった。〝ここはニッサンです〟とか何とか言ってカローラすら売ってくんなかった。全員見分けつかねえツラしてるのにムカつくぜ…日本車は全部トヨタなんじゃねーのかよクソ…あー、灰飲んじゃったよ…まッじー。」

シバは手を見るとグリースの汚れや汗が手についていて、勢いで彼女に柔道の関節技をかけたのを少し後悔した。

「きったな…もうダルいから撃ち殺してもいい?ウザいんだけど。」

「わかった、わかった、わッかりまぁっしたぁ~3Dプリンターの銃がメキシコから流れてきてるのは多分知ってると思うけどさぁ、バイカーギャングが売ってるとこは見たことあるよぉ。ほら…あのーあれだ。そう、ハイウェイで活動してるデビル・エンジェルスってやつ。あいつらがサウスで売り買いしてるってのは見たことあるよぉ…もしかしたら繋がってるかもね。なんだっけ、ロスなんちゃらってやつが直接捌いてるのは見たことないなあ。」

そういうと女はヂョングゥォを一本取ってジッポ・ライターで火をつけて煙を吸い込むと、大きく咳き込んだ。

「ゲェ゛ーーーーホッ゛ゲホッ゛!…あ゛ぁッ…は゛ぁ……ふぅ、あ゛、あとそれから゛さ。そのグロック一九、最近洗ってないッグホッ゛グホッ……スライド引いた音で分か゛った。多分カーボン溜まりすぎだよソレ。」

「ハァ?それがどうしたって…」

「いいから貸せって。」

「えっ、ちょっと…」

その女はシバからグロックを取り上げてマガジンを落としてからスライドを一回引いて空中で九ミリパラベラム弾をキャッチすると、ワークベンチの上に置き、テイクダウンレバーを下げて簡単にスライドを抜き取り、リコイルスプリング・ガイドとバレルを外して、スライド後端のパネルを外してファイアリングピンを抜き取り、フレームからもピンを抜いてトリガーアッセンブリーを一式を取り出した。

「あーそこまで分解しちゃって…もう僕これ組みなおせるかわかんないよ。」

すると女はシバの手を掴んで大きさを確認した。シバは触らないでほしいなと思った。

「あたしはな、なんだっけ…えーとA…A…ACDC?とかそんなタイプだって言われたことがある。」

「ADHD?」

「ああ、確かそういう感じの名前だったはず…あたしはな、昔親父が盗んできた自慢のロレックスをやすっちい小さなドライバーとピンセットでバラバラにしたことがある。親父は顔を真っ赤にして怒ったが、私は夢中になってやったもんだ。もちろん最初は元に戻せなくなって泣いたもんだが…図書館に入り浸ったりVHSを見たりして…構造を把握して半年掛ったが元に戻したことがある。それ以来所謂〝構造フェチ〟になっちまってな。テレビとかパソコンとか携帯電話とか、色々身近なものでやって行き着いた先が銃器だった。火薬を使って弾を撃ち出すシンプルなもんだが…ちょっとした違いで射手に大きな差が出るのが面白く感じたんだ。だからそれ以来、毎日手先を動かして衝動を仕事に変えてる。元々は真っ当に工業の道に進むべきだったんだろうが、なんせ金がなかったもんでね。気が付いたらハイスクールなんていかずに路地裏でずっと銃を弄ってた。紹興酒で着香された香りがサイコーなヂョングゥォでリラックスしながらな。そうやって──気が付いたら狐仙に見いだされて今じゃ結構稼げてる。貯金はないけどな。話を戻すが…隠れてるとこの清掃ってのは、歯磨きと同じで気づかないもんだし、あんたの一指し指の大きさと純正のグロックトリガーは相性がイマイチだと思う。」

すると工具箱に入った無数のトリガーの中から、赤く光ったゼヴ・テクノロジーズ製のトリガーを取り出して純正の物と交換した。

「これ支給品なんだけど…」

「アンちゃんのとこなら別にいいじゃねーかよ。あんたら自由に好き勝手やってんだろうが。安心しろ、書類ならいくらでも偽造するテクを知ってる。それに、あんたの指の形ならここにステッピングがあるとずっといい…フレームのここも二ミリぐらい削った方がいいな。あんたの中指と微妙に相性が悪い。マイクロ単位の話だが。」

そう言って熱したはんだごてとリューターでグロックのグリップ形状に多少加工を加えると、ガンオイルでカーボンや汚れを丹念に吹きとって二分もしないうちに完全に組みなおした。

「ん。これでもっと使いやすくなったはずだ。」

「あぁ…えぇ…あ、ありがとう…」

「…おい、待てよ。お代は出せよ流石に。プロの仕事は高いんだぞ。三百ドルは出すべきだな。うん。あ、情報量は別だぞ。四百ドルは欲しいな。たったの四百ドルで命を張る。うーん、我ながらにバカだな。」

「ハァ?情報料は置いといてもお前が勝手にカスタムしてきたくせに金せびるのかよー?」

「何事も事後承諾。図太く賢く人を騙して生きるのが商売の基本だな。」

「こ、この売女…まあいいよ…もうメンドクサイ…二重の意味で…バカアンジーの友達なことだけあるよ…」

「まいどー!今度アンちゃんにハシシもってこいって言っといてくれー。最近ハイになってないんだよ~ブリブリにキマろうぜってね~」

シバは財布から七百ドル取ると粗雑にワークベンチに置いてグロックをホルスターに収納して中指を後ろに向けながらその場を出た。グリップを握った瞬間、今までより明らかに腕にフィットした感触で握りやすくなっていることに嬉しさと腹立たしさの両方が沸き上がってきた。

そうして古びた中古屋の店内へと戻ると、老人は新聞を被って寝ており、一人ロングコートとタートルネックを着ていてショートヘアの中性的な顔立ちをしているおそらく自分よりも若いであろう日系人と思しき人物がカメラを持ってシバに話しかけてきた。

「その老人は睡眠時無呼吸症候群を患っててね。定期的にこの時間帯に眠気に耐えれず寝てしまうんだ。だから覗き見るのなんて簡単だった。やぁ、あんた警官だろ?後ろで何やってたんだ?」

「何って…」

「嘘ついても、メリットないよ。」

するとカメラにはシバが先ほど行った関節技の一部始終と武器商人への支払いの一部始終が収められていた。

「隠し撮りしてたんだ…一体何が目的?僕を強請りたいの?さっき七百ドル払ったからもうお金なんかないよ。」

「いや…俺はアニマルシティ・タイムズで記者をやってる。ほら、新聞出してるところさ。俺はこの銃について調べてるんだ。」

ナギサが取り出した写真を見ると見覚えのある半透明の白いフレームが装着されたグロック・ピストルが映っていた。

「…ゴースト・ガン。」

「…やっぱり知ってるんだな?俺はこのゴースト・ガンの出所や行方を追ってるんだ。毎週調べた情報で記事を書いて情報提供を呼び掛けてる。」

「赤の他人の病気まで把握するレベルって、そこまでしてなんで探してるの?」

「…兄貴はアニマル市警で働いてた警官だった。いつも面倒を見てくれて町を守る警官の鏡のような存在だった。だが、ゴースト・ガンを使った犯罪で殺された。だけど、兄貴の事件は報道されてなくて詳細がわからない。死因だけ伝えられただけだった。そして「ゴースト・ガン」だけが手がかりとして残された。だから、その出所を探ってるんだ。見つけ出して真相を突き止める。」

「…なんとなくはわかったけど、一般人はこの話に深入りしないほうがいいよ。知らないほうが幸せなことだってあるんだから。」

「コレを見てもそう言えるかな?」

記者はバッグからスターム・ルガー製のマーク四ピストルを取り出した。

カスタムはされておらず、これまで撃ったのは射撃場ぐらいであろうと推測できるほど状態がピカピカで、腕の動きからズブのド素人であることを容易に見抜くことができた。

「握り方がなってない。目線もあってない。グリップを握るときに手は底に添えてる。銃を調べることはできるのに使い方をまるで知らない。それに、セーフティがかかりっぱなし。」

「えっ──」

シバは記者のルガーを取り上げるとマガジンを抜いて薬室から二二ロングライフル弾を抜き取った。

「銃を扱うのにセーフティをかけたか否かを一目でわからないのは論外…それに、二二口径じゃゴースト・ガンのグロックに勝てっこない。店主がおススメしたものを買ったでしょ?素人には基本的に反動が少ない二二口径を勧めるものだよ。これは警官として押収させてもらうね。」

シバは記者から奪ったルガーを腰に差すとその場を後にしようとした。

「ま、待ってくれよ。ずっとゴースト・ガンを探してきてやっと真相に近そうなアンタに出会ったんだ。このまま生殺しなんて御免だ。俺はナギサ・ハヤセっていうんだ。一緒に連れて行ってくれ。お願いだ。」

シバは記者の姓名を聞いた瞬間、聞いたことある人名であると気づいた。

ハヤセ…それはスワット時代の失敗で死亡した同僚の日系人であるジュン・ハヤセと同じ姓であったのだ。

明らかに動揺した表情にナギサは畳み掛ける。

「何か知ってるのか!もしかして兄貴を知って…」

「…いや、知らないねそんな奴。」

「あんたも日系人なんだろ?マイノリティである同じアニマル市警内の日系人は把握しててもおかしくないはずだ!それもスワットだぞ。」

「…僕は日本生まれで日本育ちでこの代からの移民だから日系人じゃないし、そんな奴知らないって…」

「絶対に嘘だ。あんたがどういったって俺は絶対についてく。」

「はぁ…もうこれ以上断っても聞いてくれなさそうだね。」

シバはそう言いながら店を出ると前に停めてあるCBR五〇〇Rに跨ってヘルメットを被ると、ナギサも堂々と後ろ側に跨った。

「アニマルシティだと、バイク乗るときはヘルメットの着用義務があるけど?」

「はいそうですねって、今から買いに行ったらあんたいなくなってるだろ。それにどうせ責任はあんたに行くし俺は関係ないね。」

「言っとくけど、僕の運転は並みの運転とは違う。万が一振り落とされて地面に激突して脳みそをまき散らしたって関知しないからね。」

「タンクにしがみついとく。真実にたどり着くまで一人じゃ死なない。」

そういうとナギサはシバの両脇の下からタンクをつかんで後部のタンデム・ステップに足を置いた。

「そういえば、あんたの名前を聞いてなかった。日本人は名乗られたら名乗り返すのが作法だろ?父がオキナワの米軍基地で働いてて、俺も二年ぐらい住んでたことがあるから、日本語は多少わかる。発音は拙いけどね。」

「<…柴嶺伊吹。それが僕の名前だ。>」

シバのネイティブの日本語発音に対してナギサは自信満々にカタコトの日本語で返事をした。

「<シバミネ…イブキ…イイ名前。ソウダ…ジャア、〝ブッキー〟ッテヨブコトニスル。>」

「あって数分なのに馴れ馴れしい奴…」

シバはそうぼやくとバイクを猛スピードで走らせ、デビル・エンジェルスの縄張りであるサウス・アニマルシティにある工業地帯へ向かった。




三十分かけてサウス・アニマルシティに到着すると、二人は近くにあった少しくたびれた看板が掲げられた個人経営のダイナーに足を運び、そこでデビル・エンジェルスのメンバーが集まるのを待っていた。

シバは一般的な安い豆を使った一ドルのアメリカン・コーヒーとハムとチーズとレタスとトマトを挟んでぺしゃんこに潰して焼いた薄焼きのアメリカ式・パニーニを美味そうに頬張っていた。

それに対してナギサはゲッソリした顔でウェイターに出された無料の水を飲む。

「さっきはずっと、叫んでてうるさかったね。」

「ブッキー、あんたの運転はめちゃくちゃだ…ずっと百八十キロキープでハイウェイを走るなんて異常だし、車の間をあみだで通るとこなんて本当にビビった。トレーラーが足先数ミリまで近づいてるのに一向にスピードを緩めない…それにハイウェイ・パトロールのランエボにまで追いかけられた…なのにそんな平静ってどういう神経してるんだよ…」

「僕はスリルが好きだからね。違反切符に始まり、他者への安全の責任、突然の故障、そして何より死のリスク。これが僕のアドレナリンを最大限に引き出してくれる。ただ、僕は絶対にミスすることはないって断言できる。自信も腕もあるからね。」

「イカれてる…」

「それより、まだ来なさそうだしさ。なんか食べないの?」

「イタリアンよりも日本食が食べたいな。一年前に久しぶりに自費で一回日本旅行に行ったことがあったけど、特にトーキョーのギンザで食べたスシは最高だったね。やっぱり血筋が日本にあるし、昔住んでたのもあって時々恋しくなるんだ。ブッキーは?移民なんだろ。ホームシックとかには?」

「…ぜんぜん。今はアメリカのほうが楽しいよ。確かにお母さんの作ってくれた魚のあら汁とか時折食べたくなるけどね。ここじゃマトモなものは手に入らないよ。特にウォルマートのタイなんて最悪だった。火を通したって生臭くって食べれたもんじゃなかった。」

「…確かにウォルマートで日本食を作ろうと材料をそろえても、馬鹿みたいに高いのに全く美味しいものは出来上がらなかったな…鮮度が悪いミョウガが八ドルもしてた。」

「ふふっ、ミョウガが八ドル…ふふふ…」

自分たちの祖国の話で盛り上がっていると、通りにハーレーのエンジン音がこだまし始めると、白人の集団が一斉に近くへバイクを停め始めた。

先頭を陣取っていたリーダーと思しき人物はゲルマン系の顔立ちをした身長6フィート程の白人で髪は丸刈り。耳と唇には無数のピアスが付いていて、チョッパーズのサングラスをかけており、ぼろぼろのジーンズを履いてデビル・エンジェルスと刺繍の入った皮ジャケットを羽織っている。顔の半分にはチームのロゴとハーケン・クロイツが刻まれており、腕と胸筋は発達しているが腹はだらしない如何にもな感じで、モンテクリストの太い葉巻を加えており、ハーレー・ダビットソン・ナイトスターに古風なウィンチェスターのレバー・アクション・ライフルを刺していた。

周りの連中も同じような格好をしていて、ロン毛やひげ面の白人ばかりが集まっている。

「アイツがデビル・エンジェルスのボスか…」

「かなり厳つい奴だけど大丈夫なの?」

「あんなのいくらでも相手にしてきたから慣れてる。」

シバは急いでコーヒーを飲み干してパニーニを口の中に押し込むと、テーブルの上にお代をチップを置いて外へ出た。

「へぇ、随分と厳ついバイク乗ってんじゃん。」

シバがそう声をかけると葉巻を吸ったリーダーと思しき男は振り返った。

「イエロー・モンキーのガキが何の用だってんだ。」

「お前らが3Dプリンター製のゴースト・ガンを捌いてるって話を聞いてさ。情報が欲しいんだよね~」

「ゴースト・ガンの情報が欲しいだ?さてはお前サツかブン屋だな?」

「両方だな」と、ナギサは心の中で呟いた。

するとシバはしょうがないな、という顔で腰にあるグロックに手をやろうとすると、周りの連中が一斉にテック九やマック一一、それに亜鉛合金でできたサタデー・ナイト・スペシャルをこちらに向けてきた。

「やめといたほうがいい…俺は確実に撃ち殺せるだろうが、その間にこいつらの銃弾があんたの体を穴だらけにする…どれだけ精度が悪い安モンだろうと、弾が出るって時点での脅威は…わかるよな?」

シバは銃を構えるのを諦めて手を上げると、デビル・エンジェルスのメンバーの一人がシバのグロックを腰から抜いてマガジンとチャンバーの弾を抜いた。

「俺たちにはな、流儀ってモンがある。仲間は売らねえ、ヤクもやんねぇ。ただスピードこそが真実…それにお前みたいなチビ、マトモにバイク免許持ってるのかすら怪しいぜ。どうしても知りたいなら──バイクで決めないとな。」

「わかった。バイクならある。」

「本当に持ってんのか?あたりに見当たらねえが。」

「ここら一帯は治安が悪いから裏路地に隠してあるんだ。」、そう言ってシバはめんどくさそうに裏路地へ向かって盗難防止用のチェーンを抜くと、手押しでバイクを押して歩いてきた。

デビル・エンジェルスのボスはそれを見た途端に口に咥えていた葉巻を落とすと、あたりからどよめきの声が聞こえ、早々とシバのバイクのもとに向かった。


「最新型のホンダ・CBR五〇〇Rじゃねえか…!それもピッカピカだ…ミシュランのタイヤに…アクラポヴィッチのマフラーまで…このブルーのライン、めちゃくちゃイカしてるぜ!ハッハァ!まじかよ、嬢ちゃんこんなカッケーバイク乗ってんのか…!?」


さっきまで威圧的で如何にも反社会的な雰囲気を醸し出していたピットブルのような男は一転して目を輝かせ、まるでトイザらスの玩具コーナーに来た五歳児のようなハイテンションな反応で大はしゃぎしており、あたりからも口笛や拍手の音が聞こえ始めた。

「いや、いや、スマン。俺はクロスボーン。あだ名みたいな名前だが本名だ。さっきは悪かったあんな態度とって。よくいるんだよ俺たちに話しかけてしょっ引こうってサツがさ。こっちもつい警戒しちまうんだよ。威圧しないと舐められてお縄だからよ。銃を返してやれ。」

「まあサツなのはあってるんだけどね…」

「まあ、そうだな。うん。だがサツであっても〝バイク好きに悪い奴はいねぇ。〟それがデビル・エンジェルスの標語だ。うーん、にしてもカッコいいバイクだ。」

「あー、見惚れてるのはうれしいし、僕も一緒にバイク談義したいけどさ、肝心のゴースト・ガンについて教えてくんないと…」

「よし、わかった。じゃあこうだ。俺のハーレーと嬢ちゃんのバイクでストリート・レースと行こう。こんな良いマシンに乗ってる嬢ちゃんのテクが見てえんだ。こっちも本気でやるから、そっちも本気でな。終わったらお前らの欲しい情報を話してやる。おい、タンジェリン、お前の乗ってるX五〇〇を貸せ。同じ排気量じゃなきゃフェアじゃねえ。」

そういうと彼の部下の一人が自身の乗っているバイクをクロスボーンへと渡した。

「ルールは簡単。道なりに沿ってここら一帯を一周するレースだ。地図はここにある。この辺は工業地帯だから道は開けてるし人通りは少ない。構造は単純だから一周もすれば覚えられる。たまにトレーラーが通るが事故ったことは一度もねえよ。カーブが急だからそこが注意ポイントだ。よかったら一周してくるか?」

「必要ない。覚えたし。」

「ハッハァ!物覚えがいいな。そうこなくっちゃ!じゃあ、そこのお前カウントしろ。三カウントだ。早く。」

「え、俺…?」

「いいから早くしろよ!」

ナギサはなんだこいつと思いながら二人がバイクに跨ってエンジンを吹かす中で横に立つと、手を掲げて指で三カウントを始めた。

「三…二…一…」


「「「 GO! 」」」


周りのデビル・エンジェルスのメンバーが歓声を上げる中、二人は一気にギアを上げて猛スピードで加速していき、圧倒言う間に最高域に達する。

工場地帯のつまらない外観をしたレンガやコンクリートでできた建物もあっという間に過ぎ去っていき、どんどんと道は開けて地平線を木々が覆っている。

あたりをうろついてこちらに目をやる人影も走ってる最中はマッチ棒のように見えた。

シバはこのバイクを乗るときに浴びる風が何よりも好きだった。

アクセル全開で前傾姿勢を取って道をひたすらに走り続け、いつしか自分の体そのものがバイクと一体化していくような感覚になった。

クロスボーンのX五〇〇はシバのCBRに一歩遅れを取っており、見事な走りとカスタムであると心の中で称賛するしかなかったが、急カーブのコーナーのインでの体重移動には自信があった。

何千何百と繰り返してきた動きに澱みは一切なく、ニーグリップでタンクをがっしりとホールドしながら、上手くバランスを保ちつつ荷重をかけて綺麗に放物線を描き、カーブを曲がっていく。

シバは初めてのカーブでスピードを維持しながらアウトから曲がり、少し遅れを取ってしまった。

たがシバは全身の感覚を研ぎ澄ませて今の感覚を覚えておき、次のコーナーに備えて相手の出方をチェックしていた。

「やってやったぞ。」とクロスボーンは心の中で思ったが、依然としてシバは後ろに張り付き続ける。

周りの安全を高速で確認しつつ、クロスボーンの体の微細な動きを見て自分ならどう動くかを考えた。

周りに路駐してある車やゆっくりとしたスピードで納品先を探しているトレーラーをギリギリの距離であみだくじのように通り抜け、依然といて減速の意思を見せようとしないシバにクロスボーンは畏敬の念を抱いていた。

「ぶつかったら死ぬなんてこと考えちゃいない、ハナからぶつからないんだ。」と。

何度もストリート・レースで危ない橋を渡ってきたクロスボーンにとって、自分よりも肝っ玉のある人間がいるとは思わなかったし、ましてやそれが日本人で自分より年下の小柄な若い女性だとは思ってもみなかったのだ。

次のカーブだった。そのカーブは多くのバイカーたちに大怪我を負わせた死のカーブとして地元では有名だった。

クロスボーンの知り合いも膝を複雑骨折したり、靭帯を損傷したり、下手をやって体に麻痺が残ったものもいた。

ブレーキでスピードをやや落として曲がりやすい速度まで減速しようとした次の瞬間だった。

横をシバが追い越していくのが見え、風を感じた。

何一つ迷わず真っすぐな目をしながら減速せずにカーブへとつっこんだ。

思わずクロスボーンは目をつぶりそうになった。絶対に事故って死ぬという確信があった。だが、シバは違った。

ただゆっくりと体を自然に任せて傾け、ありえない角度でバランスを保つと、そのまま走りぬけていった。

その光景に唖然とするしかなく、ハッとしたころにはかなりの距離が開いていて「しまった」と思った。

挽回するチャンスはもうないと思い、ただひたすらにシバの後ろを追いかけ続けた。

その時だった。大きな死角のある十字路からプレハブ小屋を運んでいる超巨大なトレーラーが目の前に出てきたのだ。

クロスボーンは青ざめ、慌ててバイクのブレーキを握ると減速してそのままその場で立ち止まった。

シバはその状態でも止まらないままで、ついには事故って死ぬと思った。

トレーラーに轢かれて綺麗なCBRごと潰されると思った。

だが、シバは一味違った。一気に減速してバイクを傾けると、そのままトレーラーの荷台下に突っ込んでいき、コンマ1秒の差で潜り抜けて姿勢を立て直すと、わざと後ろ側を向いてクロスボーンに向けてシャカ・サインをすると、その場を後にした。

完敗したクロスボーンは何故だか笑いが止まらなくなると、そのまま元居たダイナーのもとへと向かったのだった。




「で、こっちが勝ったし望みも叶えたんだから教えてくれるよね?」

シバはそういうとクロスボーンは答え始めた。

「わかった…男に二言はねえ。元々デビル・エンジェルスってのは同じ州の別の街から始まった。最初は公道レースとハーレーを愛する奴らが単に集まっただけだったが…そもそも非合法の行為だ。段々組織が大きくなってくると統制を失っていさかいが起き始める。そうして気が付けばこのモーター・サイクル・クラブはただの走り屋集団でなく、実質的なギャングと化していった。これに危機感を覚えた当時のリーダーは各街に集団を分割し、信頼できる人物に任せて段々と統率を取らせるようになった。だから俺はデビル・エンジェルスの総括的なリーダーではなくて、このアニマルシティ支部の統領<ヘッド>ってことになる…話を戻すが、ここ最近はロス・クルティードの流入で街の治安は料理ベタなママの作ったスパゲッティみたいにグッチャグチャになってる。そうすると、裏でクスリを売ったり武器を売るやつや下剋上を狙うやつが出てくる。なるべくそういうやつは一発噛まして黙らせるのが流儀だが…無数に表れ始めるとキリがねえ。あんたらが追ってるゴースト・ガンを扱ってるって奴は…おそらく最近消息を絶ったジミーだろう。ジミー・モレロ。いい奴だったが、ロス・クルティードの売るヤクに手を出し始めてからおかしくなり始めた。アイツに間違いない。」

「住所は?」

「サウス・アニマルシティ六番通りにあるボロ屋だ。目立つからすぐわかるはず。」

シバはそれを聞くとナギサを後ろに乗せてバイクに跨った。

「あとそれから…」

「何?」

「気をつけろ。この案件はかなり闇が深いかもしれない。それに…あんたとはまた走りたいからな。幸運を祈る<ゴッド・スピード>。ニッポンのウンティーニ。」




シバはクロスボーンの言う通り、サウス・アニマルシティ六番通りに向かっていた。

ここは治安の悪いサウスの中でもトップクラスに悪い部類に入り、周りではやせ細ったジャンキーがひたすら唸っていたり、体を変な方向に向けてその場で動かなくなっているフェンタニル中毒者もいた。

マトモに清掃も行われておらず、あたり一面からは酷い臭気が漂っており、常にカラスの鳴き声が聞こえてくる。ここに武器なしで押し込まれようものなら1時間で死ぬだろうと予想できた。

バイクのスピードを落として周りを見ているとクロスボーンが言っていたボロ屋の一軒家が見えてくると、そこに停めてバイクを降りた。

「な、なにこの臭い…」

「ああ…ウォルマートのタイみたいな臭いがする…おそらく誰か死んでる。」

腰からグロックを抜き、取り上げたスターム・ルガーのボルトを引いてからナギサに返却した。

「ここは相当ヤバいから持って。中にもし敵がいたなら…自分の身は自分で守れるだけ守って。」

シバはそういうとグロックをウィーバー・スタンスで構えながら扉を開け、電気がついていないことを確認するとグロックのアンダー・レールに装着されているシュアファイア製のX〇〇ライトを点灯させ、あたりをスキャンしながら進んでいく。

中にはハエが沸いているようで鼻につく臭いは段々と酷くなっていき、死体がある可能性は九十九パーセントから百パーセントになった。

「ひっ…!ブ、ブッキー…!ひ、ひ、ひ、人が…!」

ナギサがそう小さく漏らすとシバがライトを照射し、おそらく死後一週間は経っているであろう腐乱死体を見つけた。

初めて人間の死体を目の当たりにしたナギサは大きく混乱し、胃から何か込み上げてきたのか足早に部屋の外に出た。

シバは多くの死体を見てきたが、腐乱死体を見たのはかなり久しぶりで少し気分が悪くなったが、遺体に近づいて衣服を確認し、それがバイカーギャングの一員であるとわかると周りを探し始めた。

すると、遺体は一つだけではなく他にも四人程の遺体があるのがわかった。

そして、それを観察してみると、全員ピストルを持っているという奇妙な共通点があった。

だが、自殺したにしては部屋が荒れており、薬莢は一つとして落ちていなかったのだ。そして何よりも奇妙なのは全員が額を撃ち抜かれて一発で仕留められている上に、後頭部が破裂しておりおおよそ九ミリの弾丸の威力とは思えないのだ。

しかも目的のはずのゴースト・ガンと思しき物は何一つ見当たらなかったのだ。そして脳裏にある一つの考えが過った。


「誰かがプロを雇って口封じをした上で証拠を持ち去った…」


シバは自分が思っていた以上にこの事件は複雑怪奇になっていると確信を持つと、気分を悪くしたナギサを介抱しながらこの家を後にしたのだった。

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