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Case.4 ──危機──

──娘が怪我をしたため夫の病院へと連れて行ったエマだったが、そんな最中病院が中東系のテロ組織に占拠されてしまう。防弾具無し、支援無し、武器は9mmのピストルのみ。重装備のテロリスト相手に彼女が頼ったのはとある旧友だった。

一秒の誤差もなくその時間に起きることが彼女が毎朝一番最初に行うルーティンだ。

起床するとランニングウェアに着替え、二十分程度外を走って体を温め、程よくかいた汗をシャワーで流し終わると、その音で目覚めたのか夫も起床する。

彼女の夫、アレハンドロ・エストラーダ・ロペス<愛称:アレックス>はカリフォルニア大学のアニマルシティ校の医学部を卒業している医療従事者で、大学病院のメディカルセンターに勤めている。

真面目で勤勉な男であり、患者からの評判も良く品行方正で誰からも好かれるような人物。ブレック・ファストはいつも彼が作り始める。

エマは料理ができないわけではなく、休日になれば母から子供の頃に教わった素晴らしく美味しいカルネアサーダやアメリカ式のバーベキューを作って近所にも振舞うが、スワットという肉体的にも精神的にも厳しい仕事に従事している彼女を労って毎朝率先してアレックスが作るのだ。

同棲を始めたころはそれこそ黒焦げのスクランブルエッグを作る程度にひどいものだったが、毎朝毎朝作っていくうちにいつしかホテルにも負けないクオリティの物を作れるように上達していた。

毎朝食べるのはエマの父が農地で育てた豚で作ったベーコンやソーセージ、それにスーパーで買ってきた卵を合わせて作ったベーコンエッグとトマトとレタスで作ったサラダである。

エマはオートミールやパンケーキのような手軽だが体に悪い料理は朝食としてはあまり好まず、いつもこういった高カロリーで良質なタンパク質を採ることで朝に呼び出されてもガス欠にならないように努めているのだ。

彼女の父が作るベーコンはとびっきり味が良く、ヒマラヤ山脈の岩塩を使用した塩味と燻製の香りが鼻腔をくすぐる絶品で脂身は深く濃厚で味わい深い。

いつもアレックスはエマを労うためにこのベーコンを食べ応えのあって量も取れるとびっきりの厚切りにしている。

週末のバーベキューのカリカリに焼き上げたベーコンも格別だが、夫の気持ちが籠ったこの厚切りもまた彼女が愛してやまないのである。

そうして朝食が終わってひと段落すると彼はタイラーから貰ったブラック・ライフル・コーヒーのMAC-Vミディアム・ローストを淹れてくれる。このコーヒーを飲みながらいつも朝のニュースを見るのだ。

コーヒーの入ったマグカップはエマの娘が小学校の授業で作ったもので、形こそ歪であれど「ママとパパ大好き」と書かれてある。この文言だけでどんなイギリス製の紋様があしらわれた高級マグカップよりも価値があるというものだ。

アニマルシティのニュースはいつも物騒だ。やれ人が殺されただのやれ車が盗まれただのやれ建物が爆破されただのそんな話ばかりである。

だがエマはそれぞれのニュースを確認しながら、瞬時に犯人がどのような心境にあったかを考えるのだ。

実行犯の気持ちを考え、あらゆるケースの犯行を考察することでいざ現場に立った時に捜査に役立つと信じているからだ。

「ママ、パパ、おはよう…」

「おはよう私の天使さん。」

そうこうしていると眠そうな目をこすりながら娘のリタが目覚める。いつも七時に目覚め、アレックスの作った食事を口に運ぶのだ。

リタはまるで天使のような顔立ちだがエマに似て正義感が強く育っており、昨日はいじめられていた男の子を助けるために体を張り、いじめっ子に突き飛ばされて軽い怪我を負っていた。

「へっちゃらだよ!」と自信満々に豪語してはいたが、傷口が膿んだり万が一があってはいけないため今日は出勤中に病院に連れていく予定だ。

いつもは夫一人で連れていくが近頃は物騒な事件の件数がより増えており、私はそういう意味で護衛としてついていくのだ。

娘の朝食と準備が終わった午前七時半、身支度を終えると車に乗り始める。

自家用車はトヨタ・カムリのXV八型ハイブリッドセダンで一年前に新車でエマとアレックスの貯金で一括購入した物だ。とにかく快適で乗りやすく操作性も上々で壊れない。流石トヨタ製といったところだ。

運転もいつも率先してアレックスがする。「たまには私もこの車を運転したい。」と思うこともあるが、何故だかいつも助手席に座ってしまうのだ。

彼の運転は過剰なぐらい安全確認をしっかりと行い、まったくと言っていいほど飛ばさない。

法定速度も順守するし道も率先して譲る。そのせいかよく後ろからクラクションを鳴らされるが、はっきり言ってシバサンのファスト・アンド・フューリアスでも見ているのかと錯覚する運転と比べれば何百倍もマシだ。

そうして数十分車を転がしているとカリフォルニア大学アニマルシティ校<略称:UCAC>サンタモニカ・メディカルセンターに到着する。

最新の医療技術が整っただけのことはあり、常に清潔で医療のプロが勢ぞろいしているこの街で最も信頼できる病院の一つだ。エマは夫がこの病院で働いていることを誇りに思っているし、顔パスで通れてしまうのもうれしいポイントだ。

五階の整形外科へと娘と夫を送り届けると、娘の額と夫にキスをし、CLAWの仲間に何かスポーツドリンクでも買っていこうと自販機に向かった次の瞬間だった。

受付からおそらく七・六二ミリ弾であろう銃音が聞こえてきた。

「きゃああああああああ!」

次の瞬間には悲鳴が聞こえ、何やら重武装の連中が辺りにぞろぞろと現れ始め、慣れた手つきで建物を封鎖し始めた。

私は自販機に身を隠すとブラック・ポイント・タクティカル製のIWBホルスターからシュアファイア・X300フラッシュライトがアンダーレールに装着されたグロック19を引き抜いてスライドを引いて9mmパラベラム弾を薬室に送り込むと物陰からじっくりと下の階を観察する。

犯人たちは十名ほどでかなり重武装で顔から手足に至るまで防弾具を着込んでおり、銃器は3Dプリンターで製造したと思しきロアレシーバーの付いたAR-一五やAKを持ち込んでいた。

そして下には撃たれて死亡したと思しき警官の遺体が転がっていた。

警官を皆殺しにして抵抗できない状況を作り出そうとしているのだ。

銃声を聞きつけた外の警察官は一斉にUターンして病院前に集まり始めるが、そこでテロリストのリーダーと思しき人物が脈略もなく近くにいた老人を撃ち殺すと拡声器を使って演説を始める。

「我々はマズバハ!我々の願いは一つ…刑務所にいる我らが指導者ヤシル・アリ・フラーニの解放だ。小汚いアメリカの警官ども!お前らが次にサイレンを鳴らす度、一人ずつ殺していく。お前らが少しでも近づいてくればまた一人殺す。引き金は軽いぞ…それが嫌だったら下がるんだ…」

その演説を聞いたパトカーはバックしながら少しづつ後退していく。

するとその光景を見ていたエマの隣にある部屋から何かを着込むような重々しい音が聞こえてくる。マズバハはあらゆる階に仲間を忍び込ませていたようだ。

エマは扉を静かに開け中の様子を伺うと、そこには包帯を巻いている中東系の顔立ちをした男が防弾ベストを着込んでいる最中だった。

素早く突入すると男は慌てた様子で腰の銃を抜こうとしたため、フラッシュライトを点滅させて視覚を潰して隙を作ると、蹴り飛ばして銃を落とさせ、ボクシングで習ったジャブで顔面を素早く殴りつけて脳震盪を起こさせ、ベッドの手摺りに頭を叩きつけてテロリストの一人を昏倒させた。

彼女は素早く昏倒したテロリストの手首に手錠を付けて拘束すると、ベッドの布団を破いて口に巻き付けて目覚めても助けを呼べないようにすると彼の着ているベストをべりべりと脱がせた。

そのアーマーに触れた瞬間、彼女はあることに気づいた。

「ドラゴンスキンアーマー…?」

ドラゴンスキンアーマーはレベル三クラスのボディアーマーの一つであり、四四マグナムや三五七マグナムはおろか軍用のライフル弾まで通さない最も強力なアーマーの一つで、高価で非常に重量が重く、アメリカ国外への輸出は禁止されている物であり、テロリストであるならば手に入れるのすら困難な代物である。

一つ確信できることはエマの持っている九ミリでは全くと言っていいほど歯が立たないということだ。

エマは普段来ているファースト・スピアのプレートキャリアとは比べ物にならないほど重たいベストを拝借して着込むと、手持ちのアイフォン一七からタイラーに電話をかけた。

「あれ、珍しくずいぶん遅いじゃないですか巡査部長。みんなトレーニングを待って──」

「いいか、私のいる病院がテロリストに占拠された。警官と患者併せて今三人が撃ち殺されてる。連中はパトカーが近づけばもっと殺すと言ってる。住所は七五七ダウンタウンプラザだ。それに連中は軍用の防弾ベストを着てて下手なライフルでも歯が立たない。狙撃に腕の立つシバかアンジーは今いるか?」

するとタイラーは大焦りで二人を呼び出し、通話越しに眠そうな二人の声が聞こえてくる。

「シバサン、アンジー!すぐに答えろ、五〇口径を撃った経験はあるか?」

「え、僕確かに射撃は得意だけど五〇口径なんてほとんど撃ったことないよ趣味じゃないし…」

「五〇口径なら何度も趣味で撃ってるぞぉ。」

「わかった。なら、アンジーだ。他のメンバーは私服の状態で現地に集合しろ。パトカーは絶対使うな。ガレージのチャレンジャーとブルーのコルベットに乗ってこい。大口径の弾薬じゃないと連中には通用しないから、とにかく借りるなり買うなりしてもってこい。一秒でも早く!それから、お前たちだけじゃ足りないから六〇チームも呼ぶ。現地で合流しろ。」

そう言ってエマは通話を切ると自身の元同僚で最も狙撃の腕の立つアテに電話をかけた。

「おお、エミーじゃないか?スワットをクビになったって聞いてたけど今何してるんだ?」

オライオン・モニカ巡査部長。エマとは十年来の同期で現在は六〇チームのリーダーを務めている。体格が非常に小柄で身長は四フィート九インチしかなく、金髪で青い目をした南アフリカ系で黒人と白人のハーフであり、浅黒い肌をしている。幼いころから父親に狩猟を叩き込まれ、最初は小さな二二口径ライフルを使用していたが、気が付けばそれは.三〇八口径となり天性の才能を発揮し、射撃にのめり込み、いつしか彼女の射撃技術は無比の物となった。彼女は仕事中は支給品のレミントンM七〇〇、狩猟や競技射撃ではベトナム戦争帰りの祖父からもらったプレ六四モデルのウィンチェスターM七〇ライフルを使用している。

そんな祖父に〝教育〟されていたこともあってか筋金入りの四五口径信者でキンバー社製のピストル、特にキンバー・ウォーリアを愛好している。

彼女のスワット内での射撃競技大会にて一マイル以上先の的を撃ち抜いた最高狙撃記録を抜けるのは、伝説のスナイパーであるカルロス・ハスコックかクリス・カイルぐらいと言われている。

「オライオン、私のいる病院がテロリストに占拠された。人数は十五人程度。全員防弾マスクにドラゴンスキンアーマーで武装してる。下手なライフルじゃ抜けないから大口径のライフルを用意してくれ。パトカーは使うな。連中はサイレンが聞こえたら市民を一人ずつ殺していくと言ってる。」

「…了解わかった。大口径だな。」

「それから、私のチームもこっちに向かってる。現地で合流したら連携を取って連中を始末してくれ。」

「チーム?スワットをクビになったんじゃ…」

エマは電話を切るとテロリストがカバンに収納していたロアレシーバーが3Dプリンター製のAKライフルを拾い上げ、弾薬のチェックをするとその部屋を後にしたのだった。




CLAWは覆面パトカーであるダッジ・チャレンジャーとシボレー・コルベットのトランクに各自の装備を放り込み、他のメンバーはエマのいる病院に最も近くて品ぞろえの良いチェーンのガンショップへと赴いていた。

一方そのころ、アンジーとブルーは馴染みの顔に会いに行っていた。アニマル市警の武器保管係であるカルラ・スターリング・ロメロだ。シグ・ザウエルの銃器と四五口径の銃器に強い愛着を持ち、CLAW隊内のルフィナと付き合っている同性愛者でもある。二人はカルラとは〝前任者〟と共に仕事をしていたため非常に深い関係を持ち、面倒くさい書類仕事を省いてCLAWに必要な銃器を供給してくれている無くてはならない協力者だ。

だが見慣れない浅黒い肌をした女がカルラと何やら話しているようだった。

「バレット?冗談じゃない。今回の件じゃ〝精度〟が重要なんだ。お前持ってるだろうが彼女からポルシェの次に誕生日に貰ったドデカい奴が。」

「はぁ…なんでそんなことまで知ってるんだか…私物なのになあ…」

するとカルラは不満そうにしながら武器庫の奥にある巨大なペリカン・ケースを重そうに抱えながら彼女の前に出し、蓋を開けるとその大きな姿を現した。

「シャイタック・インタベーション長距離射撃用ライフル。四〇八シャイアンタクティカル弾を使用する。デカいから精度は一・二マイル先の標的でも余裕だし、大口径にしちゃ反動も軽い。それに特殊空挺部隊がこいつを使って、一・五マイル先の敵を撃ち抜いたっつーお墨付きだ。おまけに弾道コンピューター付き。ただ弾は一ケース百七十ドルもしやがって馬鹿みたいに高い。ゼロインだけでいくら飛んだかな…コイツは私の虎の子なんだぞ。というかそもそもアニマル市警で認可が下りてないし、誤魔化すのがどんだけ大変だと思うよ?大事に使ってくれよ全く…」

「じゃあ認可されてない武器を何故わざわざアニマル市警の武器庫に持ち込んでるんだ?何に使うために?」

「…そういう詰め方されると、どうしようもなくなっちまうな…まったく…」

浅黒い肌の女はカルラを言い負かすと奪うように自身の体躯より大きいライフルを持ち上げて抱え、ボルトを動かし、その音を聞いてニンマリとしている。

アンジーとブルーはそんな彼女を他所にカルラに話しかけると、バレット五〇口径対物ライフルを求めた。

「おい、待てよ。五〇口径ってことはお前らがもしかしてエミーの部下なのか?どっからどうみてもごろつきみたいな顔だちをしているが…私は六〇チームのリーダー、オライオン・カレン巡査部長だ。」

六〇チームという言葉を聞いて二人は一瞬〝彼女〟の存在が脳裏を過り、一瞬眉をひそめるが礼儀正しく握手を返した。

「こんななりだけど射撃は得意だ。よくビールを飲みながら射撃場でバレットを撃ってるからね。カレン、とっととバレットを用意してくれよ。はやく撃ちたくてウズウズしてるんだ。ブルー用のスポッタースコープもだ。」

カレンは少しだるそうにしながら狭い武器庫ロッカーからバレット・ライフルとヴォルテックス・レーザーHDスポッティング・スコープを取り出すと、二人に手渡す。

「おお、これだよこれ。この馬鹿みたいに重たい感触がたまんないんだ。」

「よし、現地で合流しよう。アンジーとそれにブルーだったか。犯人は容赦なく人質を撃つとエミーは言っていた。だから、突入と狙撃を完全に同時に行わないといけない。部下は既に現地の近くの喫茶店で待機させてある。無線でリアルタイムで連絡を取って連携をとるぞ。」

そういうとカレンは署を後にし、オープン状態のホンダ・S六六〇の助手席にペリカンケースを投げ込み、颯爽と車を発進させたのだった。

一方そのころタイラーたちはガンショップに赴いていた。

「大口径のライフル…?あんたら警察官なのにそんなもの何に使うっていうんだい?」

ひげ面の店主はきょとんとした顔で不思議そうにしている。

「いいからとにかく大口径だ。AR-一五プラットフォームの!弾薬も!」

「こんなものいるとは思えないけど…えーとこれとこれと…」

すると店主は壁に掛けられていた五〇ベオウルフ弾や四五八ソーコム弾。四五〇ブッシュマスター弾を使用するライフルを複数丁と大量の弾薬を取り出していた。

「シバサン、全部装填してからチャレンジャーのトランクに入れておいてくれ。」

「ええ、お客さんお代は?」

「ルフィナ、ブラックカードで払っとけ!払い戻しは本署に申請しろ!」

大焦りのタイラーに一通の電話がかかってくる。

「タイラー?私だ。アンジーだ。さっきエマが呼んだ60チームのリーダーに会った。そのガンショップの近くにある個人経営の喫茶店で全員待機しているそうだ。武器の用意ができたらそこに向かってくれ。」

「わかった、おーい!準備できたか?シバサン、喫茶店に向かって飛ばせ!早く!うぉっ──」




CLAWと六〇チームのメンバーは個人経営の喫茶店〝アンクル・ボブズ・エスプレッソ〟まで来ていた。

「おお、お前たちがエマ巡査部長の部下なんだな?俺は六一Dのライガー。そっちがタイゴンであっちがレオポン。あの眼鏡がスポッターのレオンだ。しかしお前ら本当にスワットなのか?タイラー以外アニマル市警署内じゃ見かけない連中ばっかりだが。」

「私たちは〝別動隊〟になったんから署内にはあまり出向かないんだ。それに許可はもう出てるから今は気にしなくていい。だってバッジはここについてるんだから。今から余計な時間を使って本部に問い合わせるか?時間の無駄だと思うけど。」

「そういうもんか…」

「おーい、みんな。トランクからライフルを出して六〇チームにも分けるんだ。」

タイラーはそういうとダッジ・チャレンジャーのトランクから大量の大口径ライフルを取り出させ、六〇チームに投げ渡した。

「五〇ベオウルフに四五八ソーコムに四五〇ブッシュマスター?マジで言ってんのか。こんなもんを警察の作戦で使うなんて聞いたこともないぜ。」

「巡査部長が言うにはドラゴンスキンっていうとてつもなく硬いアーマーを着込んでいるらしい。装弾数が十発しかないから普段のM四の感覚で使わないように注意しろ。」

ライガーは五〇ベオウルフが装填されたライフルを手に取るとチャージングハンドルを引いてボルト・フォアード・アシストノブを叩き、精度に問題がないかのチェックをしていた。

「中距離以降は精度が微妙そうだな。こんなものを狙撃手に使わせるなんて…」

そうしているとオライオン・ブルー・アンジーも喫茶店に到着する。

「よし、お嬢ちゃんたち。全員揃ってるな?エミーの部下はお前たちだな…私はオライオン・カレンだ。今回の作戦は同時に行うことが一番重要だ。逐一無線に耳を傾けろ。今回の作戦は私とレオン、アンジーとブルーがそれぞれ組んで周りの建物の上階から狙撃する。お前たちは気づかれないように裏口から建物に入り込み、ちょうどいい射撃ポイントを探せ。全員ポイントについたら三カウントで一気に連中を仕留めるって寸法だ。ミスは許されないぞ。もう三人死んでるんだからな。わかったら全員状況開始だ!」

アンジー・ブルー・カレンは最寄りの比較的高い階層のビルの受付で警察の要請でビルを狙撃の為に使用するために貸し切り、ちょうど良いアングルを探ると楽な姿勢で狙いやすい位置にコアドリルで穴を空ける。

ライフルの薬室に大口径弾薬を装填すると、ボルトを動かして物凄い音で薬室へと送り込み、スポッターは手元にあるスコープを覗いて中の様子を伺い始める。見える範囲でのカウントを終わらせると無線を入れて他のメンバーと情報を共有する。

六〇チームはクライ・AVSプレートキャリアやファーストスピア・ストランドホッグについたマガジンポーチに入った五・五六ミリ弾が装填された弾倉をCLAWから受け取った大口径弾が装填されたマグプル製の弾倉に入れ替え、着用し始める。受け取ったライフルにマガジンを装填してプレスチェックを行うと、裏口に全員張り付き始める。

「そういえばお前らはコールサインは何Dって呼べばいいんだ?俺たちは六〇だが、お前たちの番号がわからない。」

「えー…あー…じゃあ今回は一〇〇Dってことにしよう。私が一〇一Dでコイツらがそれぞれ二、三って感じだ。シバサンが一〇二Dでルフィナが一〇三D。」

「ワンハンドレッドアンドワンデイビッド?聞き取りづらいし言いづらいし覚えにくいしなんだそりゃ…」

「ほら、だんだん面倒になってきたろ?じゃあ細かいことは気にしなくていい。」

「そういうもんかねぇ…」

タイラーはボアスコープ・カメラを取り出すとケーブルカメラを床越しに通して向こう側の様子を確認し、敵影が隠れていないかを探った。

「数名の民間人がうずくまってるな…念のためここはテーザーを持ってる奴を先行させよう。」

六〇チームの面々は腰に差しているブラック・ホーク製のホルスターからX二六テーザーガンを引き抜くとタイラーはゆっくりとドアを開け、速やかに前進していった。

「おまわりさん…たすけて…」

そんな声が聞こえるのを手で塞いで静止し、どんどんと前進していく。

ロビーが見えそうになったころ、一人のテロリストが歩いているのを見かけ、足音が聞こえないようにゆっくりと歩くと、首にテーザーを撃ち込み、声が聞こえないように口を塞ぎながら、デスクの下に隠して手錠をかける。

そうして徐々に徐々に近づいていき、広いエントランスの見える空間まで移動すると、それぞれが狙いやすいポイントを模索し始める。

そしてそれぞれの狙う担当を決めると、オライオンたちに無線でメッセージを送る。

「こちら六〇チーム及び一〇〇チーム、位置についた。」




エマはアレックスとリタの安全を確認すべくゆっくりと五階へ戻っていた。銃こそ構えてはいるが下手に撃てば人質が死ぬかもしれないため、全てを針の糸を通すかのように慎重にクリアリングを行っていた。

「お前らぁ!下手に動いたならハチの巣だからなァ。」

「パパ、怖いよ…」

「しーっ…リタ、静かにするんだ…」

小さな声だが二人の声が聞いて取れ、少し安堵するが依然として危険な状況に変わりはない。

そんな状況下でエマの電話に通知が入る。内容は準備完了という合図だった。

「風速八ノット。いつも通りのアニマルシティだ。この距離なら誤差を気にする必要もない。」

オライオンとアンジーはしっかりと目標を見定める。

アンジーはエマの言う通り左手でバレットを構えるとその安定感に驚いていた。

普段はサイレンがうるさく飛び交うアニマルシティだが、この時ばかりは驚くほど静かで落ち着いた状態で目標を見定めることができた。

鳥の囀りさえ聞き取れるような状況で落ち着いてエマの返信を待つ。

エマは診察室のドアの前に張り付くと静かにAKのプレスチェックを行うとスマートフォンに「作戦開始」の文章を打つ。

「ゴーサインが出た。撃て、撃て、撃て──」

オライオンとアンジーが引き金を絞り、大口径の轟音を鳴り響かせると瞬間、テロリストの顔面は粉々にはじけ飛び、血のひとかたまりを地面にぶちまけ、あっと言う間に動かなくなる。

「ヘッドショット。崩れる。ダウン。」

防弾マスクこそ被っているが、テロリスト連中は何が起こったのかわからないように固まり、マスクごと顔面がひしゃげていく。

瞬間、CLAWと六〇チームは攻撃を開始し、アーマーに何発も何発も大口径の弾薬を撃ち込んで沈黙させる。

そして周りの一般人たちは混乱し始め、一気に逃げ始め混乱が高まっていく。

エマもその轟音に乗じて診察室のドアを開けると、フルオートのAKの弾を一気に撃ち込み、空になったAKを投げつけるとグロック一九を抜いて近接戦闘を開始した。

相手はエマが想定していたよりも遥かに体躯が大きく、掃射で相手のライフルを破壊することには成功したが、ほとんどはドラゴンスキンアーマーで防がれていたようだった。

エマは至近距離で相手を押し倒そうとして力負けし、腹にグロックを何発も撃ち込むが、どれも意味はなくただ熱い薬莢が自身の体に叩きつけられるばかりだった。

テロリストはエマの首を圧迫すると窒息させようと全力で締め始め、息ができずに意識が遠のきそうになり、グロックを地面に落とす。

だが、そんな中で声が聞こえてくる。

「ママ、ママ、頑張って!そんな奴に負けちゃダメ!」

その言葉が聞こえた瞬間、相手の防弾マスクを剥がすと視界が見えなくなり油断した敵の眼球を指で突いて怯ませると足を引っかけてジュウドーの要領で相手を地面に叩きつけ、瞬間にグロックを拾い上げる。

すると吹っ飛んだ拍子にテロリストはアレックスの首根っこを掴むと、ベルトの後ろからナイフを取り出し、彼の首に突きつけた。

「パパ!」

「エマ、俺のことはいいから、早くコイツを倒すんだ…!」

「ほう、お前コイツと知り合いなのか…」

そういいながらテロリストは後ろへ徐々に後退していき、吹き抜けまで到達した。

「おい、あれはエミーの夫だ!大口径で撃ったら二次被害が起きる可能性がある!撃つんじゃない…」

「へへへ、この男の命が惜しかったなら、指導者の解放をするように進言するんだ…お前ら近づいたらこの男の首を切り裂いて鮮血の雨を降らせてやるからな…」

そういいながらテロリストはアレックスの首にナイフを徐々に近づけていき、接触まであと数ミリといった状態だった。

CLAWと六〇チームもテロリストとアレックスを目視で確認できる距離に来るが、精度のイマイチな大口径弾薬での射撃は狙うに狙えず、硬直状態と化していた。

「さぁ銃を捨てろ…捨てるんだ!捨てて手を上げるんだ。」

大声と共に全員銃を床に置き始め、徐々に後ろに後退していく。

エマは銃を下げると、小さく屈んでグロックを地面に置きそのまま手を挙げようとした。

「へへへ…それいいんだよそれで──」

瞬間、エマはグロックを蹴り上げると空中でキャッチし、男のナイフを持っている手を正確に撃ち抜いて指を吹っ飛ばすと、ホールドオープンしたグロックをテロリストの顔面に投げつけた。

テロリストは一気に後退すると吹き抜けから落ちるが、間一髪のところでアレックスに左手でなんとかしがみついていた。

「こうなったら…ひひひ…コイツと一緒に落ちてやる…」

アレックスはただでさえ体躯が大きく、重いアーマーベストを着込んだ男にしがみつかれ、大きく姿勢を崩していた。

「…この射角なら二次被害を気にしなくていいな。」

そうオライオンはつぶやくと、テロリストの腕目掛けて引き金を絞り、腕を爆裂させ空中に鮮血の花が咲いた。そしてそれに呼応するようにアンジーもテロリストの胴体に五〇口径弾を二発撃ち込むと、蜘蛛の巣のように広がってエントランスのど真ん中にぶちまけられた。

一般客の悲鳴が聞こえる中でオライオンはマガジンを外し、薬室から弾を抜くと小さく「…目標沈黙。状況終了。コード四、レスキュー・アンビュランスチームを要請。」と無線を送り、辺りからサイレンの音が鳴り響き始め、一斉に警官が集まり始め事態の収束に動き始めた。

アレックスは半泣きになってエマに強く抱き着くと、ディープキスをして生還を喜んだ。そんな様子をCLAWと六〇チームは微笑ましく眺めていた。

「ええと、君に最初に惚れたのもこんな事件だったね?あの時も似たような感じで僕は頭に銃を突きつけられてたっけ。えーと…僕はこれで何回君に助けられたっけ。」

「ふふっ、四回目。」

そんな話をしていると泣きながら娘のリタも近寄ってくる。

「ママ、ママー!」

エマは近寄ってくるリタを持ち上げてぎゅうっと抱きしめると、少し目がうるっとしていた。リタのつむじの匂いを嗅ぎ、いつもの甘い香りに強く安堵し、様子を見たアレックスは二人を上から抱きしめていた。

タイラーたちはエマたちに近寄ると救急車へと送り始めた。

そしてそんな中、シバは苦虫を嚙み潰したかのような表情でテロリストの持っていた3Dプリンター製のロアフレームが付いた銃器を見つめていた。

「…ゴーストガン…!」

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