テーマパークへの道すがら
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新幹線を待っているホームでは老若男女、家族連れからカップルまで様々な人達がそこにはいた。
「まだ、朝なのに凄い人がいるね亮介君」
周りをキョロキョロ見渡しながら周りにいる人を眺め彼女が言った。
「確かにすごい人の量だね」
ゴールデンウィーク二日目だが、自分たちと同じように新体制で動き始めた四月の慣れない疲れや不安をリフレッシュしようとしているのだろう。祖父母に会いに行く人たち、旅行に行く人達、それぞれがそれぞれの目的地にたいして何かしらの期待をしている顔だった。
「あっ、ここだ。ここから乗ればよさそう」
携帯から顔をあげると彼女の方を振り返った。
「楽しみだね」
「うん、とりあえずついたら何か食べる?」
聞いた後に別のことを言ったらよかったと思う。彼女がこの頃昼を食べないとか言っていたのを忘れていた。
「いいね!ラーメンとかどう?豚骨有名でしょ?」
「えっ、いいの?」
「いいのってどうして?」
「だって、普段あまりというか、ほとんど食べないじゃん」
これまで思っていたことを率直に伝えると彼女は少し困惑したような顔をした。
「あーそうだった。でも旅行だし、多少はね」
「そうだったてそんな設定みたいな。でも西宮さんが良いならいいけど」
「それじゃあ決まり!まずはラーメンだね!」
こうして昼食に食べるものが決まった。思い返してみると彼女と何か一緒に食べることは今回が初めてかもしれなかった。一緒に生活しているのにそうした記憶が無いのは奇妙な話だと思うが、別に常に行動を共にしていることでもなく、考えてみると彼女と顔を合わせるのは一日のうちの3時間程度だと気付いた。
しばらくするとホームに電車が到着するといった内容のアナウンスが響き、そこにいた人たちのほとんどが、ホームの先にある暗いトンネルの中に注目した。駅にいる子供たちは小さな手に握られた遊んでいた新幹線の玩具から興味を外し、本物が来るのを今か今かと楽しみしている様子だった。
「あっ、来た」
誰かがそう言った気がする。その言葉を聞いてトンネルの奥の方に目を向けると暗闇の中に黄色の光が輝きだし、その直後本体の車両がホームに向かって走ってきた。
新幹線は寸分の狂いもなく定位置に置かれ扉が開いた。
「それじゃあ、行こっか亮介君」
少し前にいた彼女はこちらに顔を向けて中に入って行った。他の扉でも続々と人が吸い込まれていき、ホームはがらんとなり、またすぐにアナウンスが響き渡り扉が閉まった。
列車内は既に多くの人が旅行鞄を携えて座っており、車内の雰囲気はゴールデンウィークに浮かれた人々の楽し気な様子で包まれていた。ほとんど席が埋まっていたということもあり、予約した席を見つけるためには空席を探せばよいだけだったので思っていたよりも簡単だった。
「いよいよだね。四月初めての生活で色々と疲れたでしょ、私の時もそうだったからリフレッシュしてね」
「うん、西宮さんも毎日の食事とか大変だったでしょ、ほんとにありがと」
「いやいや、そんなことないよ。それに亮介君何を出しても美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるって感じ」
「美味しいからね。それにしんどいこともあったけど毎日家に帰ったときにお帰りって言ってくれる人がいるのはやっぱりいいね」
「なにそれ、でも分かるかも。私もお帰りって言ってただいまって返してくれる相手がいるのはいいと思う。これまではお帰りって言っても伝わらなかったし」
「そうなんだ。でもいいよね話せる相手がいるって」
「それはそう、誰にも話せないとしんどくなるしね」と自嘲気味に彼女は言い、出発までの時間をこれまでの生活を労うような話をして二人で過ごした。
新幹線が動きだすと窓の外の景色が途端に変わり始めた。緑や黄色や赤といった様々な色の線が混じりあい一瞬にして現代アートの一シーンに早変わりした。
「なんか、旅行って感じがしてきたね」
手に取ったラムネを口に放り投げようとしているときに先ほどまで窓の外の風景を楽しんでいた彼女がこちらに話しかけてきた。
「うん、分かる」
「でしょ、あっそれ私にもちょうだい」
伸びてきた小さな掌に袋の中からいくつか取り出して渡すと、手はすぐに口元まで移動していき手のひらの中身は口の中に転がり落ちていった。
「久しぶりに食べたけど、おいしいね。これ」
「久しぶりってどれくらい?」
「うーん、わかんないけどここ数年は食べてないかな。前は良く食べてたんだけどね。コーヒーとかもよく。でも飲んでたし。でも今は食べなくてもいいし、飲み物は水でいいかなって感じ」
「そうなんだ」
「それよりさ、着いたらまずレンタカー借りてラーメン食べにいくよね。こことかどう?」
携帯の画面には濃厚豚骨ラーメンと書いてあり、見ているだけで口の中に唾液が溢れてくるようで、手に持っていたお菓子をカバンの中にしまい込んだ。
「あれ、食べないの?」
不思議そうな顔をして聞いてくる彼女に答えた。
「今の写真みたらラーメン食べたくなってきて、どうせ食べるならお腹すかして食べたほうがおいしいだろって思って。お菓子は何時でも食べれるし」
「なるほど」
納得いったようで満足したように頷いた。
「確かにお腹減らしていった方がいいよね。私もそうしよ」
その後は到着までの間、これまでの思い出や経験を話しながら時間をつぶした。彼女はとても聞き上手であり話したい内容が次々に出てくる。まだ旅行は始まったばかりなのに今この瞬間彼女から家に戻ろうという提案があっても了承できるほど満ち足りていた。
まずは日本語で、そのあと英語そして中国語と次の駅の名前が車内に響いていく。それを聞きその目的地で降りる人達は頭上に置いた荷物に手を伸ばし、下車する準備をしていった。次々に降りていく人達を横目にしながらしばらくして、二人が下りる小倉駅に到着するとのアナウンスが聞こえてきた。
「やっとついたね」
小さな窓の外を眺めながら、次第にスピードが落ち鮮明に景色が見えるようになきて、地元とは違う見たこともないような店の名前や大きなビルなどが見えてくる。
「よし、降りる準備しよっか」
「うん」
窓側に座っていた彼女が手を上に伸ばしカバンを取ろうとしたが、少し身長が足りず万歳をする形になってしまっていた。
「ふっ」
「あっ、今笑ったでしょ。私これでも届くから」
喉の奥で言葉ではない音を出して彼女は手を伸ばしたが、このままだと背中やふくらはぎをつってしまうのではないかと思うような張った姿勢をしていた。
「いいよ、俺取るから。ちょっとどいて」
目の前で奮闘している彼女を椅子に座らせて手を伸ばし、二人の荷物を足元におろした。
「ありがと」
「どういたしまして」
彼女は自分で取れなかったことが少し不服そうな顔をしていたが、先ほどまで雲で隠れていた太陽が姿を見せ始め、陽光が小さな窓から射し込んできた。
「それじゃあ降りよっか、やっと着いたね」
彼女の言葉に頷きながら車体が減速しているのを肌で感じ始め、キャリーケースに手を伸ばし扉の前まで歩いて行った。
小倉駅のホームに降りるとホームは多くの人で埋め尽くされ、改札に向かう人や再会に感動する人などそれぞれの人達でごった返しになっていたが、気温も暖かく旅行の一歩目としては文句の無いものになった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。旅行編次回から本格的にスタートになります。ただただ二人が気楽に旅行するだけになると思いますが、よろしければお読みください。今回もありがと等ございました!




