旅行の前日の思い出「2」
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玄関から外に出ると春の日差しが眩しく、空は雲一つないゴールデンウィーク初日の天気としては文句のつけようがないほど清々しいものだった。眼下に見える道路では車が目的地へ向けて四方八方に進んでいる。
「それじゃあ、行くか」
「うん、行こっか」
扉に鍵を閉め、二人で共有のエレベーターがある場所まで歩き、エレベーターが到着するのを待って下に下っていった。
「今日、陽ざし凄いね」
快晴の空から降り注ぐ陽ざしから目を守るように手で影を作り、彼女は見上げた。
「確かに、歩いて行くと暑いかもね」
「えー汗かいたら嫌だな」
取り留めのない話を二人でしながら、少しずつ目的地のショッピングモールへ歩いて行った。一人で行くときと違い、話しながらだと普段よりも早く到着した気がする。中に入ると既に多くの人がおり、周りを見渡すと、さあ稼ぎ時だと言わんばかりに各店舗の店員の数も多く普段の休日よりも賑わっていた。
「すげー人いるな」
「そうだね」
人の多さに多少戸惑いつつも、なんとか食品売り場まで歩いてたどり着くことができた。目的は明日の新幹線の中で食べるお菓子だ。
お菓子コーナーに行くと子どもたちが足元を走り抜けていき、思わずぶつかりそうになったが普段の習慣からか目線が下に行くことが多いため何とか避けることができた。
「子ども、すっごい多いね」
走り抜けていった子どもたちに目線を向けながら彼女は声をかけてくれた。
「あっ、それでどれにするの、これとか?」
細い白い指が指す方には色とりどりのグミがあり、噛み応え抜群や本物そっくりなどの文字がパッケージに書かれていた。
「あっ、うん、これにしようかな」
青色のラムネ味のグミを手に取りカゴの中に放り込んだ。
「あと、これも」
そう言って今度は小さな瓶に入ったいくつかある種類のラムネを全てカゴの中に入れていった。
「いや、ラムネばっかりじゃん」
カゴの中を覗きながら彼女が可笑しそうに言った。
「いいでしょ」
そう言うと、彼女は顔をあげた
「うん、サイコー」
レジまで行くと友人レジには年配者が並んでおりカゴの中いっぱいにおよそ、その年代の人が食べないであろうお菓子やジュースが詰め込まれており、孫が久しぶりに家に来るための準備に追われているが分かった。だがそれでも顔は幸せそうだった。愛する者のために行動できることの喜びが張り付いているように老夫婦たちが様々な場所で口を動かしていた。
「めっちゃ混んでるね。向こう行かない?」
「うん、いいんだけど。でも別に後少しじゃない?」
「そうなんだけど、ちょっと買い忘れてたものがあってさ。一緒についてきてほしいの」
「そうなんだ」
「ごめんね」
彼女は片目をつむり両手を胸の前で合わせた。二人で列から離れるとすぐに自分たちがさっきまでいた空間には後ろの人が並んでいた。
「これこれ、どっちがいい?」
彼女はインスタントコーヒーの粉を指さしながら聞いてきた。
「買い忘れたってこれ?」
「うん、亮介君いつも朝コーヒー飲むじゃない?なのに昨日粉が無くなったの忘れてたの」
「そんなの、いつものやつでいいよ」
「そうなんだけど、いつもは私が適当に買ってるけど、もし何かこっちがいいみたいなのがあるんだったら、知っておきたいなって思って」
「あーなるほど。ありがと。でも、特にこだわりとかは無いかな。余程薄いとか香が変とかじゃなかったらどれどもいいよ。だからいつも飲んでるのでいいかな」
「そうなんだ。じゃあこれか」
指で棚を上からなぞりながら彼女は目的の物を探しだした。
「他には何かある、買い忘れてない物」
「多分、大丈夫かな。もしあっても私また今度買いに来るよ」
「よし、それじゃあレジ行こ」
カートを押して今度はセルフレジの方に来た。ここも混んではいるがレジの台数もかなり多くすぐに自分たちの番がまわってきて買うことができた。
気が付けば時間はお昼ごろになっており、何か食べたい気分だった。
「亮介君、何か食べなくて大丈夫?」
「いや、そろそろ何か食べたいかも。でも西宮さんは食べられないんだよね」
「うん、ごめんね」
「いいよ、別に謝らなくても。西宮さんのせいじゃないし。でもそれだとフードコートとかの方が良いよね」
「うん。別にフードコートじゃなくてもいいんだけど、何も頼まずに水だけって言うのはちょっと申し訳ないかな」
「だよね。だったらフードコート行こっか」
荷物をもってエスカレーターで三階に上がりフードコートの入り口付近まで来て、再び人の多さに驚かされた。それと同時に座るところがあるのか心配だったが何とか奇跡的に二人分の席を確保することができた。
「私、ここで待ってるから買いに行ってきなよ」
「ありがと。それじゃあ行ってくる」
「うん」
ラーメンに牛丼にスパゲッティに他にも色々とあり、どれにしようか歩き回っていたが結局一番最初に目を付けていたラーメンにすることにして、注文したあと呼び出し用の札を渡され一度席に戻った。
「何にしたの?」
「ラーメン」
「そうなんだ。あっ、私お水とってくるね」
彼女はそう言って席を離れ、戻って来たときには二つの水が手に握られていた。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
冷たい水が喉を潤していった。それにしても人が多いなと思う。そのせいか普段よりも疲れている気がする。
「あっ、鳴ってるよ。できたんじゃない?」
モール内を歩く人達をぼんやり眺めていたが、彼女のその声で手元に置かれていた板に意識が引っ張られるように戻った。
「ほんとだ、それじゃあ取ってくる」
「いってらしゃい」
その後ラーメンを取り席に戻り、腹が空いていたのでものの数分で全て食べ終えてしまった。
「それじゃあ、一通り買うものも買うことができたし次はどうする?」
口の中に残った味を消すために紙コップに残った残りの水を飲み干した。
「そうだな、あっそうだ。ゲームセンターとかどう?」
「ゲームセンター?行きたいの?」
「うん、久しぶりに行ってみたくなったの」
「そうなんだ、それじゃあ行こっか。ちょっと待ってってこれ返してくる」
そう言って容器を店に返しに行き、席に戻ると彼女が先ほど買った荷物を両手で持っていた。
「いいよ、俺持つから」
手から荷物を奪うと彼女は嬉しそうにお礼を言ってくれた。
「ありがと、さすが男の子って感じがする」
「馬鹿にしてる?」
「ううん。本気でいいなって思ってる」
「そう、ならいいや」
二人でゲームセンターまで横に並んで歩いて行った。なんだか少しずつ彼女との距離が近づいているような気がして嬉しかった。
エレベーターを上がっていくとメダルの音が聞こえてきた。
「すっご、めっちゃ人いる」
ゲームセンター内には老若男女問わず多くの人がおり、テーマパークにでも来たのかという気分になった。
「はいってみよっか」
「うん」
ぐるぐると店内を歩き回り一つのユーフォ―キャッチャーの前に来たときだった。
「わっ、これかわいい」
彼女が年甲斐もなく目を輝かせてみている視線の先にはフクロウの可愛らしいぬいぐるみが四体ほど鎮座しており、あまりぬいぐるみに興味の無くても惹きつけるものがあった。
「取る?」
「えっ、いいの?」
その様子は幼い少女のような気がした。そもそも今住んでいる家にはあまり物が置いておらず生活必需品とテレビやあまり性能のよくないパソコンぐらいしかなかった。それを考えると少しぐらい生活に彩りを出すためにも小物を置いてもいいかもしれないと思っていたところだ。ただ、ぬいぐるみが生活に彩りを出してるれるかは、甚だ疑問だが少なくとも彼女は喜ぶだろう。
「いいよ。せっかく来たんだし」
投入口に百円を三枚流し混むと景気良い音がその台から鳴り、準備ができたことを教えてくれた。
「よし、まずどうする?」
「とりあえず右に移動させてそのあとどれくらいだろ、見てくれない?」
「おーけー、任せて」
役割分担をした後、一回目の挑戦に臨んだ。だが、結果は言うまでもなく取れない。
「あー惜しい!今度私にさせて!」
「いいよ、かわろ」
二人の場所を入れ替えて再チャレンジした。今度は先ほどの反省を活かし少し手前でストップを言うようにした。どうやらこの機械、ボタンを離してからタイムラグがあるらしく離した後も少し前に進んでしまうらしく、さっきは彼女の声が聞こえた瞬間に手をボタンから離したつもりだったが、奥に進んでしまい、ぬいぐるみの頭をアームが軽くつかむだけで落としてしまった。
「はいって言うからその時にお願い」
「分かった」
ガラス越しに見える彼女の姿は真剣そのもので、その様子を見て少し可笑しくなってしまった。
「はい」
「どう?」
アームは狙い通りの場所で止まってくれた。あとは上手くつかんでくれるだけだが降りてくるアームを二人で凝視した。
「来た来た来た・・・」
見る見る上空まで運ばれていくぬいぐるみを視線で追って行った。だが、大抵この後アームの掴む力が弱くなるのが定番だ。
「落ちるな、落ちるな」
手を胸の前で組み祈るような姿勢で彼女は上を眺めていた。
「おっ、行けた?行けた?」
予想に反してアームはぬいぐるみを落とさず、どんどん排出口に近づいてくる。
「やったんじゃない、これ?」
「多分、いけたと思う・・・」
二人で最後まで見守っていたが、ついにその時が来た排出口の上まできてアームが力を緩めた。ぬいぐるみは重力に逆らい空中に留まることは無く、そのまま素直に落ちてきた。
「やったー!!」
二人で向き合って喜びのハイタッチをした後、台の下からぬいぐるみを彼女が優しく取り出した。
「とれてよかった。でもこういうのって大体アームの力が弱いとかって聞くよね」
「俺もそう思ってたけど、もしかしたら前の人が天井までしてくれてたのかも。なんにせよ取れてよかった」
「そうだね」
抱きしめるようにぬいぐるみを抱え込むと、そのあとも少しだけ中を見て回ったが目ぼしいものは特に見当たらず、用も済んだし家に帰ることにした。
「人、多かったね。向こうもそんな感じなのかな」
「多分そうじゃない?」
夕陽が地面を朱く照らす中、明日のことについて二人で考えていた。
「明日は、八時に家を出るけど、亮介君大丈夫?」
「大丈夫、残ってる準備は後今日かったこのお菓子を入れるだけだから」
目線を買い物袋におくった。
「それなら、あとは明日を待つだけだね。楽しみだなー、私が働いてた頃は旅行とか忙しくて行けなかったからさ、正直すごく楽しみなんだよね」
働いていた頃、それを聞いて、俺は西宮結花のことについて何も知らないことに気が付いた。彼女は俺の好みを知っていてくれていて毎日の食事などを準備してくれる。それなのに俺は彼女のことをほとんど何も知らなかった。
「そうですね。俺も楽しみです」
この旅行で少しでも彼女のことが知れたらいいなと思いながら目を閉じた。以前敬語は控えてほしいと言われたが心中を察してか彼女は何も言わず、その寄り添いがまた心地良いものだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次からは旅行パートになりますので是非空いている時間にでもご覧ください!今回もありがとうございました!




