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勿忘草  作者: アイス
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旅行の前日の思い出「1」

よろしければお読みください。少しでも楽しんでいただけると幸いです!

 目が覚めると僅かながらに頭痛がするのを感じた。昨日の夜は調子にのって飲みすぎてしまったらしい。それでも普段なら一日トイレの便器に抱きついて胃の内容物を吐き出していた量を呑んだが、今吐き気を感じずにいられるのはきっと彼女が昨日ストッパーになってくれたからだと思うと感謝の念が溢れてきた。


 「おはよう」


 既に窓の外からは陽の光が差し込んできており、開いた窓から軽やかな風が部屋の中に飛び込んできた。


 「おはよう、いい天気だね。大丈夫」


 「ありがと、ちょっと頭痛はするけど大丈夫。今日は準備するんだよね」


 彼女は待ってましたとばかりに大きくうなずいた。その拍子に一つクシャミをしてお互いが挨拶している構図のようになってしまった。ティッシュを取り鼻をかんでいると今年も花粉症がやってきたのかと少しブルーな気持ちになってしまった。


 「大丈夫、花粉症?」


 「うん」


 大きな音を立てて鼻をかみ、それをゴミ箱にバスケット選手がシュートするように放り投げた。


 「もう、汚いからやめてよ」


 彼女は笑いながらそう言った。


 「ごめん、ごめん。あっそうだ。今日さ服とかの用意が終わったらショッピングセンターに行かない?」


 「いいけど、何か買いたいものがあるの?」


 「いやさ、子どもっぽくて少し恥ずかしいんだけどお菓子買いたいんだよ。移動中とかに食べる用の」


 「そうなんだ。私は普段からお菓子とかはあまり食べないけど、そうだね、旅行だしそう言うこともしていこうか」


 普段から栄養に気を使っているのか彼女が間食をしている姿を見たことが無い。いや、厳密に言えば彼女が何か食べている姿を見たことが無かった。見たことあるのは水を飲む姿ぐらいかもしれない。それも飲んでいたような飲んでいなかったような。いつも栄養バランスの考えられた食事を作ってくれているのはとても助かるが一体いつ彼女は食事をしているのだろうか。


 「ありがと、それじゃあ今日お昼は何食べる?」


 自分の疑問を解決するいい機会だと思った。まだ朝食も食べていないのに昼食の話をするのは少し変な気がしたが、前に朝食べずに昼に食べると言っていたのを覚えていて、これならば食べている姿を見ることができるのではないかと思い脈絡のない質問をしてしまった。だが帰って来た答えは期待していたものではなかった。


 「ごめん。一緒に食べるのは無理かな。実は先日病院に行ったんだけど」


 「どこか悪いのか?」


 病院という単語を聞いて体がどこか悪いのかと思い最後まで聞かずに被せるように言ってしまった。


 「いやいや、別にどこがすごく悪いとかってわけではないんだけどちょっとね。でそれで診てもらったら胃が荒れているらしくて、しばらくは胃に優しいものを食べてくれって言われてね。だから亮介君と一緒のものは食べられないんだ。亮介君ラーメンとか食べたいでしょ」


 「そりゃあ、そうだけど」


 「いいの、亮介君が気にしなくて。私はまた別で少しだけ食べるから、だから好きな物食べて、私たくさん食べる人見るの好きだから食べてくれた方が嬉しいな」


 彼女の申し訳なさそうな顔を見るとそれ以上そのことについて言及することはできなかったが、それでも、話を無理やり終わらせようとしている気がしてならなかった。


 「分かった。でもほんとにいいのか?」


 「うん、それよりもさお菓子とか早く買いに行くためにも早く朝ごはん食べちゃって」


 テーブルの上に次々に料理が置かれていく。今日は和食だった。白米にお味噌汁に焼き魚、それに黄色いたくあんの漬物が置かれていきまるで教科書の中の朝食のようだった。


 「どうしたの、食べないの?」


 「普段からさ、作ってもらっててあれなんだけどさ。これ大変じゃないの?」


 目の前に広がる光景を見てどれだけの手間がかかっているのか分からない自分が恥ずかしかった。


 「いいの、いいの。それに前に約束したじゃん。料理とかはするって。その代わりに家賃出してもらってるんだし」


 「それはそうだけど」


 「いいから食べて」


 淹れたての緑茶の匂いが鼻の中に優しく広がっていき一口まずは音を立てて啜り、胃の準備運動をしてから味噌汁に手を伸ばした。味噌の豊かな風味が口全体に漂いその中で人参や大根などの根菜類が口の中をゴロゴロと転がっている。次に焼き魚に箸を伸ばし中身を取り出すと一気に湯気が立ち昇った。それを大根おろしと一緒に口の中に入れ、間髪入れずに白ご飯を口の中に放り込むと思わず声がこぼれてしまう。


 「うま」


 小声だったがどうやら彼女には聞こえたらしく、嬉しそうに頬を緩ませた。


 「よかった、気に入ってくれて」


 気に入るも何も、用意してもらっているだけなのに文句をつけるのはお門違いも甚だしいし、この手間とそれに似合うだけの味を提供されては気に入らないなんて口が裂けても言えないし思いもせず、このような暖かい食事を摂れる幸せを噛みしめた。


 「そろそろ出られそう?」


 時計を見ると9時50分くらいになっており、家の近くのショッピングセンターが開くのは10時からなのでそろそろ家を出たいと思っていた。


 「うーん、あとちょっと待って」


 洗面所から声が聞こえてくる。


 「分かった、それじゃあ終わったら教えて」


 そう言ってソファに座ってテレビをつけた。適当にザッピングしていると各放送局からGW特集と題された番組がやっていてその中でインタビューに答える家族は人が多くて驚きましたと言いながらも、その混み具合すらも含めて楽しんでいるようだった。きっと昨日の初日に撮られたものだろう。どの番組でも人の多さが印象的だった。しばらくそうやって無気力にテレビを眺めていると声が聞こえてきた。


 「ごめん、お待たせ」


 顔だけ声が聞こえるほうに向けるとそこにはとても美しく可憐な女性が立っていた。白い肌を引き立たせるクリーム色のカーディガンがとてもよく似合っていて、今までに見たことが無い彼女の姿に目を合わすことが難しかった。


 「どう?可愛いでしょ?」


 「あっ、えっとその」


 「なに~もしかして照れてんの、かわい!」


 少し馬鹿にされたような気がしたが、逆に冷静になることができた。それに学生でもないのにそんな異性の一挙手一投足で乱されていては立つ瀬がないと思い反撃に出た。


 「うん、正直凄く似合ってると思うしかなり可愛いと思う」


 「あっ、えっ、うん。ありがと」


 勝った。少し俯きながら照れる姿を見てそう思った。でも何だろうかそんな姿がとても愛おしく思えてしょうがなかった。彼女との間に気まずい時間が流れ、テレビから聞こえてくる音がやけに大きく聞こえた。


 「それじゃあ行こうか」


 「うん」


 大の大人が二人してこの程度のことで恥ずかしがっているのが馬鹿らしく感じ始めた頃、ようやく家を出ることができた。時間は10時をとっくに過ぎていた。 

ここまで読んでいただきありがとうございます。ショッピングモールでのことは次回書かせていただきたいと思いますので気が向いたときにお読みください!

それではまた次回よろしくお願いします。

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