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勿忘草  作者: アイス
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ゴールデンウィーク前日の夜の様子

よろしければお読みください。

 気が付けばゴールデンウィーク前日の日まで何とかくることができた。学校から帰る時間は次第に遅くなっていっている気がするが、家に帰れば「お帰り」と声をかけてくれる人がいて暖かい食事を用意しておいてくれる、そんな状況で何とかこの日までたどり着くことができた。


 「あと二日だね」


 カレンダーを見ながら赤丸の中にある九州旅行という文字を彼女は眺めていた。


 「ようやくって感じがするよ。旅行があると思ったら仕事も頑張れたし」


 「お疲れさま、はいこれ」


 冷蔵庫の中から、冷えたビールとコップをもって彼女は目の前椅子に腰を下ろした。


 「ありがと」


 プルタブを開ける爽快な音が響いた。


 「この日のために準備もできたし、着いたら何しようか。確か小倉駅にまず行くんだよね」


 携帯の画面に映し出される画面を見ながら互いに確認しあった。


 「うん、そう。それでそこでレンタカーを借りて長崎まで行くって感じ、車の方が色々融通利くから」


 「ごめんね、私免許もってないから運転全部任せることになるけど」


 申し訳なさそうな彼女の顔から視線を外し、マップで長崎までの高速での道なりを調べ最低限のイメトレをしていた。大学時代に免許を取ってからほとんど乗っておらずペーパードライバーと言われても納得せざるおえない程度しか普段乗らないが、彼女の手前少しかっこつけてみたくなったから今回車での移動を提案した。始めそのことを言ったとき、彼女は電車にしようと言ってくれたが最後には俺のしつこさに呆れたのか了承してくれた。


 「いいよ、車でって言ったのは俺だし、それに多分西宮さんが旅行のことを言ってくれなかったら、きっとゴールデンウィーク適当に寝て過ごすだけになりそうだったし、そうならなかっただけでも感謝しかないから気にしないで」


 「そういってくれると助かるな」


 微笑む彼女の顔を見ると安心してくる。正直、一緒に暮らし始めることになった時は緊張や不安もあったが、それでも毎日顔を合わして食事を作ってくれる彼女の献身的な姿に一人の女性として好意を抱くようになっていった。


 「あっそれでさ、今日はどうだったの?」


 「今日?」


 「いや、学校で何かあったのかなって聞いてるの」


 「ああ、いや、特に何も無かったよ」


 「そう、でも何も無いのが一番かもね」


 彼女は満足げに首を縦に振っていたが、俺は嘘をついている。大したことではないから言う必要もないと思い彼女には黙っていた。


 「明日からお休みだけど、今日はもう寝る?」


 時計を見ると既に11時を過ぎようとしていた。どうやらうたた寝していたらしい。目の前にあったグラスは既に元あった位置に置かれており、肩からは黒と白のシマウマ模様の薄い毛布がかかっていた。


 「いや、もうちょっとだけ飲む」


 さえきらない頭の靄の中で誰かに聞こえるように大きな声で言ったつもりだったが、実際は囁くようなかぼそい声で外を走る喧しい数台のバイクの音でかき消された。


 「わかった。ちょっと待ってって私も何か飲むから持ってくる」


 彼女はそう言って冷蔵庫の方に向かった。そして二人分のグラスを持ってきて椅子に座り静かに中に注いだ。透明のグラスが見る見るうちに満たされていった。


 「今日、なにかあったんだね」


 心の内を覗かれたような気がして慌てて彼女の顔を見た。


 「いいの、別に。亮介君が話したくないことだったら話さなくても」


 目を閉じながら母のように言った。


 「でもね、一つだけ。我慢できなくなる前に必ず私に話してほしいの。お願いだから」


 その言葉は重かった。でも決して今すぐ話してくれというような急かすような感じはせず、どこまでも俺の意思を尊重してくれる響きがそこにはあり、それだけで少し楽になった気がした。話せる相手がいるというのはこれほどまでに人の心を安心させるのだと感じた。


 「ありがと、でも大丈夫何とかするから。でもどうしても駄目なときは頼むから」


 それを聞いて彼女の目から不安の色が薄くなったのが分かったが完全に消えたわけではなかった。


 「うん。頼ってね」


 そういう彼女の表情には決意が宿っており、普段の朗らかな彼女の姿からは想像できないようなものだった。


 「それじゃあ、これ呑んで」


 手渡されたグラス一杯に満ちた透明の酒を一気に飲み干したが、全くアルコールを感じず戸惑っていると彼女がほらもう一杯と注いできたのは冷えた水だった。


 「これ、水じゃ」


 「うん、そうだよ。だって亮介君お酒そんなに強くないでしょ。それなのにこれ以上お酒飲んだら明日しんどくなるよ。明後日から旅行なのに明日一日布団の中で動けないのはしんどいでしょ?」


 そう言えばそうだった。明日は旅行前の準備をしようと決めていたのだった。


 「ああ、ありがと。これ飲んだら寝るわ」


 「そうしな」


 そう言って一息で喉を鳴らして水を飲み干した。流れ込む水がアルコールでコーティングされていた道のりを洗いあげていくように胃の中に落ちていくのを感じた。そして同時に尿意を感じたのでトイレまで行ってから部屋に戻った。


 「おやすみ」


 「おやすみ」


 部屋の扉を閉じるとキッチンで彼女が先ほど使ったグラスを洗う水の音が聞こえた。ベッドの中に潜りこむと毎日かけていたアラームを全て解除して、新たに8時のアラームを設定してから携帯を枕元に軽く放り投げた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。次回は用意のための用意を終え、ショッピングモールに行く二人の様子を書きたいと思いますので、よろしければご覧ください!

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