現実の課題
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亮介は腕時計に目を向けてため息をついた。時計の長針と短針は七時を少しこした七時三十分を示しており、朝の出勤から考えて約12時間に及ぶ労働がようやく一段落したことを噛みしめながら空を眺めると夜空に月がプカプカと浮いていて、亮介はその様子を羨ましく思った。
「はー帰るか」
校門を過ぎて駅までの道のりを歩くうちに汗が全身から滲み出てきて、不快に思いカバンの中からタオルを取り出して汗を拭いていく亮介だったが、6月後半の重苦しい湿った夜の空気は肌にべっとりと張り付いて体温をあげていく。
「あっつ」
結花が亮介のことを思い、家を出る前に用意してくれていた水筒の中に入った氷はどこにも無かったが、お茶自体はまだほんのりと冷たく、むしろ飲みやすい温度であったため亮介は一息で残りを飲み干した。
「ふー」
歩きながら亮介は再びため息を吐いた。この頃こうしてため息を吐くことが増えたことを亮介はあまり、気にはしていなかったが、今日は自分自身でも考えられないぐらい多いと感じていたが、ため息を吐かずにはいられなかった。心の内では叫んでしまいたい欲求があったがそれは押し殺すことにしていた。
何かと上手くいかない日というのは誰にでもある。それでも今日一日はさんざんな物であったと言わざるおえないほど多くのことが重なっていた。まず授業が上手くいってなかった。何人かの話を聞かない子どもたちに自分のリズムを狂わされ、思うように授業をすることができず苛立ちを覚え怒鳴ってしまっていた。そしてそのような日に限って喧嘩が起こり片方が手を出してしまい双方の保護者に放課後、連絡をすることになり身心ともに疲弊していた。そして追い打ちをかけるかのように先輩たちからの嫌味のような小言を言われ言い返すこともできず押し黙っていた。
「なんのために働いてんだ」
亮介はこの頃、子どものことが可愛いと思えなくなっていた。そしてただ何となくこの仕事が好きだからで続けて行けるのか甚だ疑問に感じていた。それでも転職をするような決断もできない自分にわずかながらの嫌気もさしていた。
「いっ!?」
亮介は歩いていても常に地面にばかり視線が落ちていた。そのため電信柱に腕をぶつけてしまった。
「ただいま」
家に帰り明るい場所で見てみると腕が赤くなっていた。
「どうしたの!?それ」
結花は亮介の半そでから伸びる腕が赤く腫れていることに気が付いて急いで冷蔵庫から氷を持ってきた。
「ちょっと、ぼーっとしてたら当たっちゃって」
亮介は結花を心配させまいと軽く腕を動かして大丈夫だと言った。
「ほんとに大丈夫?でもこれで冷やしておいてね。寝る前にシップかなんか貼ってあげるから」
結花はそう言って亮介に氷嚢を手渡して開いたままの扉を閉めた。
「もしかして何かあったの?」
「いや、特にはないよ。今日も楽しかったし」
「でも、亮介君この頃ちょっと痩せたんじゃない?」
「そんなこと無いと思うけどな。毎日朝昼晩栄養のいいもの食べてるし」
亮介はテーブルの上の料理を食べながらそう言った。だが、この頃昼食は食べないことが多くなっていた。それは子どものトラブル対応で食べる時間が無かったりすることも原因だったが、何よりも食欲がわかず全て残すことになっていた。
「そう、亮介君が大丈夫ならいいんだけど」
結花は不安な様子で自分が作った料理を食べる亮介を眺めていたが亮介はそのことに気が付かなかった。
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