叱責
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亮介は自分の受け持つ子どもと共に、その子どもの家に向かって歩いていた。まだ空は明るく六月にしては過ごしやすい晴れ晴れとした日だった。
「大丈夫か」
視線を落とすと子どもは頷くようにしていた。この子は今日、突然耳が痛いと言い出したため、そのことを保護者に連絡すると、放課後は学童に行かずに帰らせてほしいとのことだった。だが、そのことを本人に伝えていたのにも関わらず、その子は学童に行っていたらしく病院に連れていくために早く仕事を切り上げて帰って来た父親から息子がいないと電話があったらしい。学校が終わった後のため責任の所在は学童の方にあるが、受け持っている子どもということで一人で帰らすのもどうかと思い亮介は付き添って家まで連れていくことにした。そこで何か言われるとは覚悟していたが現実は想像を超えてきた。
「お前、誰やねん!警察に通報するぞ!出て行け!外で待ってろ!」
家の前まで子どもを連れてきた亮介を待っていたのは、感謝の言葉ではなくお叱りの言葉だった。もはや脅迫のように「警察に通報する」とこれ見よがしに父親は自分の持つ携帯を見せてきた。亮介は初めての経験であったため、どうすることもなく謝るしかなかった。
「おい、聞いてんのか!お前誰やねん」
「担任の坂上亮介です」
「俺はお前なんか知らん!ていうかどういうことやねん。お前人の家の敷地に入ってくるなや!犯罪やぞ!通報したるわ!」
「すみません、すみません」
亮介は何故今自分が怒鳴られているのか分からなかった。自分はまだ仕事がそれなりにあり、子どもたちが帰った後の数時間は貴重であった。だが一人で帰らすのもなんだと思い、同行したにも関わらずその結果がこれかと辟易する。
「それならお前。学校は放課後は子どものことについては無関係ってことか!」
「いえ、そういうことではないですが」
父親の怒りは収まるところを知らない様子であったため、ここまでの事情を説明したがそんなこと俺には関係ないという様子だった。亮介にしても子どもたちを帰らした後のことなんて知るわけもない。亮介は伝えることは伝えていたわけであって、まさか家に帰っていないなんて思いもつかない。そもそもここに来るまでにその子は家に帰ることを覚えていたらしく、なおさら何故家に帰らなかったのか意味が分からなかった。
亮介は父親の発言の中で「無関係なのか」という聞き方はかなり狡い言い方だと思っていた。確かに正確に言うと関係ないと言える。だがここでもし、その通りですなんて答えた場合どうなるかなんて想像もしたくなかった。そのためただひたすらに謝るしかない状況に亮介は疲弊していた。
「ええわ、お前んとこの教頭に電話するから説明しとけ」
30分程度怒鳴られていた亮介の身心の疲労はピークに達していた。
『学校の先生なんかになるんじゃなかった』
亮介はふと頭に思い浮かんだ言葉を慌てて消した。だが一度考え出した思いはどれだけ忘れようと心掛けていても頭のどこかに漂うことになる。
職員室に帰り、事情を説明し終わると教頭が労いの言葉を亮介にかけその後受話器を手に取り父親の方に電話をした。周りの人達も心配してくれたが大丈夫だと伝える他無かった。とりあえず、職員室から出て亮介は自分の教室で一人になったが考えれば考えるほど怒りが湧いてくる。だがそれをぶつけるような相手もいないし、もしいたとしてもそれは迷惑になるに違い無いと思い亮介は今回の不満は呑み込むことにした。
その日は早く家に帰るように促され普段よりも早い時間に亮介は家に着くことができた。結花はいつもより早く帰宅してきた亮介に「今日は早いね」と笑顔を向けてくれた。亮介はそれに対して作り笑いで自分の今の気持ちを隠すように微笑んで言った。
「ただいま、今日も疲れたけど楽しかったよ」
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