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勿忘草  作者: アイス
14/21

二人のこれから

よろしければご覧ください。

 ホテルの部屋に戻ってからも、俺たちは一言も交わさなかった。半ばあの場の雰囲気で告白なんてことをしなかったらよかったと本気で後悔し始めていた。まだ明日も旅行はあるのにも関わらず、このまま今のままでは楽しめるものも楽しめないと思った。ただ同時にあの場で結花への気持ちを伝えていなければ、このまま何も進展すること無く一年が終わっていたような気がするのも確かだった。


 そんなことを一人で考えていると沈黙に耐えかねたのか結花の方が先に声を出した。


 「今日、楽しかったね」


 「うん」


 会話が広がらず妙な空気になってしまい、自分の不甲斐なさを恨んでしまう。結花は今の気まずい雰囲気を脱しようと話しかけてくれたのにそれに上手く答えることができず、再び部屋の中には時計の音だけが響いている。それでもこの状況を何とかしようと今度は俺の方から話しかけた。


 「あーさっきのやつだけどさ。あんまり気にしなくていいから」


 「さっきのやつって?」


 結花は真剣な表情でこちらを見ていた。


 「ほら、俺がさっき結花さんに言ったやつ。付き合ってほしいって」


 たったこれだけの言葉なのに見る見る音が小さくなっていき顔がどんどん熱くなり赤くなっているのが自分で分かる。恥ずかしい。


 「うん、そのことなんだけどさあの時は簡単にしか説明できなかったし、今からしよって思ってる話も全部話すわけじゃないんだけど、それでもよかったら聞いてくれない?」


 「うん、聞かせて」


 そう言うと彼女は一呼吸おいてから、一音一音丁寧に話し始めた。


 「私ね、いつからあのマンションにいたか知ってる?あの時は引っ越してきたみたいなことを亮介君には言ったような気がするけど、実はその時よりも少し前からあそこに住んでるの」


 そんなこと言っていたか?思い出せない。だが結花の突然の告白が本当であるならば、これまでのことで腑に落ちたこともある。例えばあの街に引っ越してきて俺は右も左も分からなかったのに、結花は街のショッピングモールやスーパーなどしばらく住んでいないと分からないことでも知っていた。それは結花が以前から住んでいる何よりの証拠だろう。


 「それにね、休職してるって言ったと思うけどほんとはそうじゃなくてただ働けないんだよ。あの時は君の期待を裏切らないように休職って言葉を使ってかっこつけたんだけど、実は別の理由があって私は二度と働けなかったんだよ。あっでも今は働けるよ」


 「それならいいじゃないか。それにお金のことを気にしてるのかもしれないけど、それについては初日に話し合ったじゃないか。俺は全然気にしない」


 「ありがと、亮介君ならそう言うと思った。でも、気にするとか気にしないとかの話じゃないんだ。これは私の問題であの時亮介君からの告白を一旦保留にした理由の一つなんだ。でもこれ以上はまだ心の準備ができてないから言えない。それについて伝える覚悟ができた時に改めて今回の告白の答えも言うからそれでもいい?」


 「ああ」


 次から次に跳びて出てくる言葉に思わずたじろいでしまった。


 「あー、今言えることは全部言えてよかった」


 後ろに手をつき胸をそる形で伸びをした。


 「それだけ?」


 「ん?そうだよ。でもこれは私にとってかなり重要なことなの。聞いてくれてありがと」


 結花は俺の目を真っすぐ見つめてそう言った。正直もっとしっかりとした話をしてくれると思っていたから期待外れと言えばその通りだった。それでもそのことに納得するしかなかったのは結花の目から感謝の気持ちと話せてよかったという安心感が伝わってきたからであり、次に結花が自分のことを話す時は、今回話さなかったことについて包み隠さず全て話してくれるという意思がそこに確かに存在したからに他ならない。


 「ありがと」


 結花は再度感謝の言葉を述べた。先ほどまでとは何か違う別の感情がそこにはあるような気がしたが、それについて追及することは無粋であり、この場の雰囲気にはふさわしくないのでやめておいた。


 「それじゃあ、そろそろ寝よっか」


 結花がベットに潜り込み電気を少し暗くした。


 「あっ亮介君寝るときに眩しかったら電気消しておいてね。それじゃあお休み」


 結花はそう言い優しく微笑みかけると、こちらに背中を向けて窓の外を見るような姿勢で寝始めた。

きっと明日は今日の朝のような関係に戻っているだろう。そう思うのは彼女の最後の微笑みが今日の話はこれでおしまいだと語っているように感じたからだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。次回は旅行編の最後になります。よろしければご覧ください。

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