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勿忘草  作者: アイス
13/22

晴れ時々曇り

よろしければご覧ください。少しペースアップします。

 湖上を滑空するかのように滑った後、お昼ご飯を食べていた。


 「これ、うまいな」


 そう言ってナイフで肉を切り分けて口に運んでいき食べた後、口の中の油を水で喉奥に流し込んだ


 「そうだね」


 同じものを注文した彼女の前にもステーキが置かれていたが、肉を頬張る俺を暖かい目で見ているだけで手を付けようとしておらず、その瞳は優しくあると同時にどこか寂しさも携えているものだった。何故そんな表情をしているのか理解できず見つめ返すと彼女は、話を変えるかのように元気に声をだした。


 「ん、もしかして何かついてる?」


 口周りを触って確認しているが、一口も食べていないのについているわけもなく違和感が残った。


 「いや、食べないのかなって思って」


 「食べるよ」


 あまりにも静かな声色で言われ、それ以上何も言い返すことができなかった。だがその後食事が終わり店を出て様々なアトラクションを楽しんでいると次第にお昼に感じた違和感は薄れていき、気が付けばそのことについて忘れていた。


 「いやー楽しかった。特に初めの天空の城だっけ。あれが楽しかったな」


 「ほんとに?結構怖がっていたように思いますけど」


 彼女は悪戯っぽく腕を指先で突いてきて、「お兄さん」と付け加えた。


 「本音を言えば怖くなかったって言うのは嘘になるけど、西宮さんと一緒だからかな楽しかったよ。うん楽しかった」


 「そう、ならよかった。あっほら、そろそろだよ」


 彼女は嬉しそうに目を閉じたあと、思い出したかのように今いる場所の目の前に建てられた大きな建物の壁面を指さした。


 「確か、プロジェクションマッピングだっけ。壁に映像を投影するみたいな」


 「そうそう!これ楽しみだったんだよね」


 彼女は黙って視線を壁面に向けた。周りにはカップルや家族連れなど開始時間になるにつれて続々と人が広場に集まってきて賑やかになってきている。既に昼間、空に燦々と輝いていた太陽は地平線の彼方に沈んでおり、月が今度は自分が主役だと言わんばかりに頭上で美しく輝いていた。


 「あっ、来たよ!」


 彼女がそう教えてくれた瞬間だった。目の前には突如として氷の城が現れ次々に花火が上がっていき、ただのレンガ造りの建物が次々に姿を変えていき、時にはドラゴンなどが現れそのたびに観客からは歓声が上がった。


 「すごかったね」


 「ああ」


 元の姿に戻った建物が暗闇の中いくつかの光の線に照らされているのを無心で見ており、なんだかこの一か月の疲れが全てどこかに消えていったようなそんな晴れ晴れとした気分だった。そして今そうして思えるのも彼女が横にいてくれたおかげに違いなかった。


 「西宮さん、よろしければ俺と付き合ってくれませんか?」


 「えっ」


 彼女は虚を突かれたような顔になった。周りの音が全て消え去り、俺たち二人だけがこの世界に取り残されたと勘違いしてしまうほど、お互いの意識はそれぞれ目の前の相手に注がれている。そして沈黙を破ったのは彼女だった。


 「えっ、いや、どうしたの?いきなり」


 「考えてたんです」


 「何を?」


 思い当たるふしが無いのか首を少々傾げながら聞いてきた。


 「今、俺がこうして楽しめてるのは西宮さんのおかげだってことをです」


 緊張しているのか言葉が上手く出てこない。そんな様子を見かねてなのか彼女の方から言葉を紡いでくれた。


 「亮介君が何を思っているかは知らないけど、私は亮介君が考えるほどいい大人じゃないよ?仕事だってしてないし。いわゆるニートだよ」


 「そんなことどうでもいい」


 「うん。亮介君がそんなこと気にしないのはここまで一緒に暮らしてきて知ってる。でもその告白についての答えはごめんなさい、今は付き合えません」


 最後の言葉を聞いて絶望で視界が歪んでいった。俺は愚かだ。自分たちは両想いなのだと勘違いしていたただの痛いヤツだった。


 「そんなに落ち込まないでよ」


 彼女は慌てた様子で下から覗き込んでくる。今しがた振られたばかりなのにそんな彼女の一挙手一投足を愛おしく思ってしまう俺は馬鹿なのだろう。


 「ちゃんと聞いて。今はって言ったでしょ」


 そこには身長は小さいながらも精神は確実に俺よりもしっかりしている、いつか言われた年上としての女性が立っていた。


 「亮介君、私のこと何も知らないでしょ。別に私は亮介君が嫌だから断ったわけじゃないの。お互いにもっとよく知ってからお付き合いしたいなと思うんだけど、それじゃあ駄目かな?」


 視界が急に明るくなっていった。さっきまで薄暗い洞窟の中に閉じ込められたような気分だったが、今度は急に希望が出てきて嬉しくなった。彼女は決して俺のことが嫌いだから断ったんじゃない、それどころかよく知ってから付き合いたいと言ってくれた。


 「どう?君は若いから思い立ったその日に行動できるかもだけど、私はこう見えて結構慎重派なんだよ。そういうのも知らなかったでしょ?できれば全部知ってからと言いたいけどそれは無理な話だからさせめて六割ぐらいはお互いのことを知ってからの方が良いと思うんだ」


 「そういうことなら」


 「うん、あと二か月ぐらいまってくれないかな」


 「二か月?」


 「うん、長すぎると思うかもだけどしっかり考えたいの」


 彼女の表情は真剣そのものだった。それを見て決してその場しのぎで言っていることではないのは分かり彼女なりの誠意がそこにはあるのだと感じた。


 「分かった。二か月ね。それまでに嫌われないようにしないと」


 冗談めかして言うと彼女はつぶやいた。


 「大丈夫、君自身の問題じゃなくてこれは私の問題だから。決意っていうのかな」


 「そうなんだ」


 言葉の真意は図りかねるがそれでも、彼女のその紳士な姿に改めて惚れ直した。


 「あっ、一つお願いがあるかも」


 「お願い?」


 「うん。待っててと言ったうえでお願いって厚かましいかもだけどいい?」


 「別にいいよ」


 「それじゃあさ、私のこといつまでも苗字じゃなくてそろそろ下の名前で呼んでほしいな」


 「下って言うと結花さん?」


 「うん、ほんとはさんも取ってほしいんだけど、私も君付けで呼んでるからそこは一旦いいかな。いつも気になってたんだよね。私だけ下の名前で亮介君のこと呼んでて、亮介君は西宮さんって。なんか距離があるなって思ってたんだよ」


 「そんなこと思っていたんだ、ごめん。それじゃあ今日から結花さんって呼ぶ」


 下の名前を呼ぶことが恥ずかしく言い淀んでしまったが、同時にこれから距離を縮めていける予感がしていた。


 「うん、お願い」


 そんな俺の様子を見て、結花さんは満足気にこちらを見ていた。


 「それじゃあ、そろそろホテルに戻って夜ごはん食べよっか。亮介君」


 時計は既に七時半を過ぎており昼に食べてから六時間ほど経過していた。自転車は既に返していたため帰りは出口まで歩きだったがホテルに着くまで俺たちは一言も言葉を交わさなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!そろそろ恋愛小説ぽくなってくれればと思います。もしよろしければ次回もご覧いただきたく思います。

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