天空の園
よろしければご覧ください。
「それでは使い方を説明するので、同じようにしてください」
目の前にいる係員に倣って同じようにハーネスの扱い方を覚えていく。
「あっ、それだと危ないですね。片方は必ず付けて置いてください」
係員は片手に持ったフックを強調して教えてくれた。
「よかったね。ここで間違えて。もし上り始めてから同じことしてたら下にピューだよ」
笑いながらこちらを見る彼女の両手にはフックが両方とも握られており、係員は見逃さなかった。
「彼女さんも気をつけてくださいね」
それを聞いて慌てた様子で急いで片方を練習用のロープにひっかけていた。
「お互いに気をつけましょうね」
彼女の方を笑顔で見返すと少し悔しそうにしていた。
「それじゃあ、練習も終わりです。お気をつけて楽しんでください」
係員は手を振り見送ってくれた。
「よし、それじゃあ行きますか」
「そうだね」
教えられた通りフックをかけ安全が確保できた後、ゆっくりと不安定な足場を上っていった。
「結構、高いね」
「確かに、高いかも。確か3メートルだっけまずは」
「うん、そうだったと思う」
下を見ると足が竦みそうになるが、足元を見ないわけにはいかず嫌でも下を見ることになってしまう。
「高いな」
何とかスタート位置に到着することができた。既に支えはほとんどなく自分のハーネスの紐がそれを担っていた。
「すっごいね。まだ3メートルなのにこの高さなんだ」
彼女は少し怖がってはいるが、目の前の絶景に感動しているようだった。
「めっちゃ綺麗だね」
横には美しい池があり、その上にはロープが張ってあって人々が次々に滑ってくる。
「あれ、次やらない?」
「いいね。しよ!」
「よし、それじゃあまずはここをクリアするか」
そう言ってようやく一歩踏み出してみたが、ただの木の板を支えなくわたるのはとてつもなく怖かった。
「やばい、やばい」
「だね、うん。これは怖いね」
二人してハーネスの紐にしがみつくようにして少しずつ進んで行き、今度は障害物があり一層進むのが難しくなっていた。
一歩進むごとに精神が削られている気がする。汗が止まらない。それでも何とか3メートルのゴール地点まで進むことができた。そして次の6メートルに進むかここで終わるかの瀬戸際に立っている。
「どうする?」
「どうするって?行こうよ!」
彼女はどうやら行く気満々のようだが、正直ここでリタイアしたいというのが本心だ。でもさすがに、ここでかっこ悪いところを見せることはできないと思い、進む道を選んだ。
「それじゃあ今度は私が先に行くね」
狭い足場で少しずつ動いて前後を入れ替えた。後ろから人が来ており長居はできないため次に進んで行った。後ろでは四人家族がここで終わるかという風な会話をしており、羨ましかった。
6メートルに到着した。さっきまでとは比べ物にならないぐらい高く、風も強くなった気がする。
「すごいね、でもまだ上があるのは楽しみだね」
「うん」
口数が減っており今、頭の中を占領しているのは早く地面に足を乗せたいということだけだった。
「それじゃあ、行こっか」
彼女が高揚した様子で先に進んで行く。口では怖いと言いながらもどこか楽しさを感じる。彼女の強さの一部があればと思うが引き返すことも既にできないため覚悟を決めて進んで行った。
「よし、次は9メートルだね」
ここまで色々あったが、次第に慣れてきている自分がいることに気が付いた。先ほど一度バランスを、崩して空中に投げ出されたがハーネスのおかげで何事も無く、落ちても大丈夫なことを身をもって経験したからかもしれない。それに足場が無くターザンのように向こう側まで行かなければならない場所もあり、もう怖いものは無い。
「うん、今度は俺が前に行くね」
「分かった。それじゃあ交代しよ」
二人でくるくると場所を変えて進んで行く。正直下を見ると怖いが、顔をあげて周りを見ると嫌でも、気分があがる。さっきまで恐怖の対象でしかなかった風も今はとても心地よく感じる。空を飛ぶって言うのはこういうことなのかもしれないと一人で鳥の気分を味わっていた。
そうして再び木の板を避けて進んだり、一本のロープを足場に進んだりと着々と最終地点まで進んで行き、何とかゴールまで来ることができた。
「楽しかった」
張りつめた筋肉をほどくように息を吐きながら彼女の方を見た。
「そうだね!後はここを降りるだけだし。あっ見て誰か手を振ってるよ」
彼女はそう言って下を見て手を振り返した。その視線の先には小さな人達がおり、彼女の雰囲気も相まって手の届かないステージ上のアイドルのような雰囲気を感じ取った。
「いやー楽しかったね」
体を動かし汗を額に僅かに浮かべながら彼女は満面の笑みでこちらに首を回した。
「そうだね」
「ん?大丈夫」
「早く地面に足をつけたい」
「あはは、確かにね」
前を向きなおし進んで行った彼女の背中を見ながら、足を踏み外さないように一歩また一歩と進んで行く。そのたびに求めていた地面が近づいてきて、高さが下がるにつれ反比例して安心感が宿ってくる。
「ふーついた」
前にいた彼女は振り返って僕のことを見つめてくる。
「やっとついた」
その安心感からか一気に汗が噴き出してきた。
「はいこれ」
彼女はハーネスを外しながらポケットに入っていたハンカチを手渡してくれた。
「あっ、ごめん。ありがと」
ありがたくそれをもらって汗を拭いた。その後しばらくベンチに座りながら次にどこに行くかについて話し合った。
「俺さ、次はあれ行きたいかも。さっき上の方で見えたあのスライダーみたいなやつ」
「いいね、私もそれ行きたかった。ここから近いみたいだしこの後行こっか」
そうして次の目的地が決まった。どうやら自転車はここに置いて上まで歩いていくらしい。体重制限などもあるらしく一応測ったが問題なかった。彼女が測るときは「見ないで」と告げられたので少し離れたところで待っていた。
「よし、それじゃあ行きますか」
「うん」
二人で並んで上まで歩いた。その道中でも左側からものすごい速さで滑ってくる人達がおり、その顔はとても爽快なものだったので、どうやら先ほどとは違って気楽に楽しめそうだと安心することができた。彼女の視線も既に受付の方に向いており、二人で足早に進んで行った。
ここまで読んでいただきありがとうございます!来年もまた気まぐれで更新していこうと思うのでよろしければお読みください!




