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勿忘草  作者: アイス
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出会いの日

テンプレのような恋愛ストーリーが書きたいと思ったので、そう言うのが好きな人はぜひご覧ください!

 「忘れないでほしいな」


 あの日、西宮結花がこの部屋から居なくなった日、彼女が最後に残した言葉だった。


 西宮結花と出会ったのは新生活を始めるための物件選びに勤しんでいた時のことだった。不動産業者といくつかの物件を巡り、確か三件目の時だった気がする。マンションの建物の中に入り目的の階へと到着すると、彼女は部屋の前の廊下から街の景色を眺めていた。


 「ん?新しい人?」


 その言葉は、まだ冬の寒さが残る1月の終わりにも関わらず、コートも着ていないスーツ姿の男にではなく、カジュアルな服装の俺に対して向けられているのはすぐに分かった。


 「部屋に着きました。少々お待ちください」


 スーツ姿の男はカバンの中から鍵を取り出し鍵穴へ差し込み、鍵を開けた。


 「それではどうぞ・・・?どうされました」


 そう聞かれて慌てて答えた。


 「あっ、ありがとうございます」


 まだまだお世辞にも暖かいとは言えない今日この頃の季節。それにも関わらず薄手の白いワンピースを一枚だけ羽織っただけのような服装の彼女から目が離せないでいた。髪は見た目は黒色だが陽光の射し加減が雲によって変わると紺青のような色にも見える。昼間の空色ではなく夏の晴れた日の夜空のような色は、まるで夜の世界の住人が何かの拍子に自分の国から置いて行かれたかのような雰囲気があった。


 「それで、どうしますか?」


 家の中に入り、間取りや日当たりなどを確認していると後ろから声がかかり振り返ると、男が時計に目をやりながら聞いてきており、早く終わらせたいという気持ちが伝わってきた。確かにこの男にとっては自分が住む部屋でもないのだから、早く契約さえしてくれればいいのだろうけれども、俺にとってはこれから少なくとも数年間は住む予定の部屋だ。手は抜けない。だがこのあたりの地域で、家賃7万ほどの物件だとそれほど大きな違いが無いのも事実だ。適当にネットの検索窓に打ち込んで犬や猫に選ばしても部屋の質自体はそれほど変わらないようにも思える。では一体何が気になるのかというと住んでいる住民の様子だ。一件目の物件ではゴミ捨て場が汚れていた。こういうところには住まない方がいいと確かネットで見た。2件目はゴミ捨て場の様子は特に問題なかったが、近くに公園があり夕方は子どもの声が響き、土日であれば日中それが聞こえるとのことだった。ただ別に教員という仕事をしていることもあり、子どもたちの声には慣れているとは思う。しかし、休日までその声が聞こえるとなると少し考えるところがある。休みの日は静かにゆっくり暮らしたいと思う。


 「そうですね。あと何件か回って決めてもいいですか?」


 それを聞いて男は少しがっかりしたような様子だが、さすがプロというべきかすぐに笑顔を作って「もちろんですとも」と言ってくれた。その後、一日をかけいくつかの物件を見て回り、夕方ごろに、また後日どの部屋にするか連絡を入れると伝え男と別れた。


 結局、家に着いてから色々考えたが、最後には三件目のあの家のことが忘れられずあの部屋を借りることを決め、次の日に三件目の家を借りたいという旨のメールを送り、すぐにハンコや必要資料をもって契約しに行った。諸々の手続きが滞り無く終わり何とか3月31日には入居することができることになり、それから新生活に必要な家具や雑貨などを買いに街にくりだした。これまで全て実家の親がやってくれていたことを、これからは自分で全てまかなっていかないといけないと思うと少し面倒に感じるところもあるがそんな気持ちを払拭するかのように、街には新生活応援セールの文字があらゆる店で見ることができ先ほどまで感じていた鬱屈な気分は気が付けばどこか風の彼方に消えていた。むしろ自分ならどうにかなるだろうという根拠なき自信が内から湧き上がってくるのを感じながら、軽やかにデパートの階段を上って行った。それに、もし運が良ければあの時の彼女とも親密な仲になれるかもしれないと考えると色々な意味で益々興奮してくる。


 そして、ようやく3月31日になった。不動産業者から鍵を預かりあの部屋の扉を開けて中に入り、初めの一歩を踏みしめようとした。だが玄関を踏みしめようと上がった右足は空中で止まってしまった。


 「あっ、ここにするんだ。私、西宮結花これからよろしくね」


 彼女はそこにいるのが当たり前のように部屋の中に立っていた。目の前の光景が信じられず身動きが取れずその場に固まっていると、背中側から強い風が部屋の中に吹き込まれ、押されるようにして中に入った後、扉が叩きつけるられたような音を出して閉まった。


 「よ・・ろしく・・・」

読んでいただき、ありがとうございました。気持ちが沈んでいるときは暗い話が書きたくなって、気持ちが明るいときはド定番な物を書きたくなります。ですので不定期更新になるとは思いますが、よろしければこれからもお読みしていただけると幸いです。

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