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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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93/112

第93話 異変の報告

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

転生王子はスライムを育てたい第93話をお届けします。


経済騒動から一夜明け、新たな異変が王国各地から報告されます。テラとマリーナを伴ったレオンの森の調査。大地の記憶と水流の感知が示す、地下深くからの禍々しい気配。予言者の警告が現実となりつつある中、レオンたちは何を見つけるのか。第93話、異変の調査編です。


お楽しみください!

 レオンの研究室には、まだ昨日の疲労が残っていた。


 窓辺に立つレオンの背中は、どこか重そうだ。チェン・ロンの熱弁、投資家たちの乱入、あの騒動から一夜明けた今も、心の疲れは簡単には消えてくれない。


「レオン様、少し休まれてはいかがですか?」


 フィルミナが優しく声をかけてくる。心配そうな瞳が、レオンを見つめていた。


「大丈夫だよ、フィルミナ」


 レオンは小さく微笑んだ。疲れてはいるけど、研究は続ける。それだけは、決めたことだ。善意の誤解に振り回されても、自分の道は変わらない。そう心に決めて、レオンは椅子に座った。


「でも、昨日はお疲れになったかと...」


「うん、疲れたよ。メルキオールさんも、ガルヴァンさんも、チェン・ロンさんも...みんな善意なんだよね」


 レオンが窓の外を見つめる。王都の街並みが、朝日を浴びて輝いている。


「それが、一番困る。悪意なら拒絶できるけど、善意は...断りづらいから」


 レオンの言葉に、フィルミナは静かに頷いた。彼女もまた、この数日の騒動を見てきた。宗教、軍事、経済。それぞれの立場からの善意が、レオンを疲弊させていく様を。


 その時だった。


 研究室の扉が、勢いよく開いた。


「レオン様、これは...!」


 シグレが駆け込んできた。その手には、何枚かの羊皮紙が握られている。


「シグレ?どうしたんですか?」


「王国各地から、異変の報告が届いています。かなり広範囲で...」


 シグレの表情が、いつになく深刻だ。レオンは、背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「異変...?」


「はい。北の火山地帯、東の平原、西の湖、南の山岳...全方位からです」


 シグレが羊皮紙を机に広げる。そこには、各地からの報告が記されていた。


 レオンの心に、昨日の違和感が蘇ってきた。あの時、みんなが同時に感じた禍々しい気配。闇の兆候。それが、もう現実になろうとしているのか...?


「レオン様...」


 背後から、静かな声が聞こえた。


 振り返ると、テラが立っていた。緑のスライム、大地の守護者。その茶色の瞳は、いつもの穏やかさではなく、深い憂いを湛えている。


「テラ...どうしたの?」


「...私も、感じています」


 テラの短い言葉が、研究室に重く響いた。


「大地が...震えています。昨日から、ずっと」


 テラの声には、確信があった。彼女の大地の記憶が、何かを察知している。


「私も!」


 マリーナが、明るい声で入ってきた。しかし、その表情は珍しく真剣だ。


「水の流れが、いつもと違うの!なんだか、怯えているみたい...」


 マリーナの青い瞳が、心配そうにレオンを見つめる。水流の感知能力を持つ彼女も、異変を察知していた。


 レオンの心に、予言者の言葉が蘇ってきた。『闇の封印が、揺らぎ始めている』。あれは、単なる警告ではなかったのか。本当に、何かが起きようとしているのか...?


「シグレ、詳しく教えてください」


 レオンが、真剣な表情でシグレを見た。


「はい。まず、北の火山地帯では...」


---


 王都近郊の森は、いつもと違う空気に包まれていた。


 レオンは、テラ、マリーナ、シグレと共に、異変の調査に来ていた。フィルミナは屋敷の管理、クリスタは図書室での文献調査、エオリアは社交イベント、ルミナは光属性研究...それぞれが、自分の役割を果たしている。今回の調査は、大地と水の専門性が必要だ。だから、テラとマリーナに同行を頼んだ。


「ここが、報告のあった場所です」


 シグレが、森の中の小さな空き地を指差した。普段なら、鳥のさえずりと風の音だけが聞こえる静かな場所。しかし、今は不気味なほどの静寂が支配していた。


「...静かすぎる」


 レオンが呟いた。鳥の声も、虫の音も聞こえない。まるで、森全体が息を潜めているような。


「レオン、見て」


 マリーナが、小川を指差した。いつもは澄んで流れている小川が、今日は微かに濁っている。そして、流れが乱れているように見えた。


「テラ、大地の記憶を調べてもらえる?」


「...はい」


 テラが地面に膝をつき、手を置いた。目を閉じ、大地と対話を始める。その姿は、まるで祈りを捧げているようだった。


 しばらくの沈黙が流れる。


 やがて、テラの表情が変わった。眉をひそめ、息を呑む。その反応に、レオンは胸騒ぎを感じた。


「テラ...?」


「...大地が、震えています」


 テラの声が、微かに震えている。彼女がこれほど動揺するのは、珍しい。


「震えている...?」


「はい。恐れているような...何か禍々しいものが、深い場所で蠢いているような...そんな感覚です」


 テラが、ゆっくりと立ち上がった。その茶色の瞳には、深い憂いが宿っている。


「大地の記憶が、『危険だ』と叫んでいるような...こんなに激しく大地が反応するのは、私も初めてです。300年間、大地と共に生きてきましたが...これほどの恐怖を、大地から感じたことはありません」


 テラの言葉が、森に重く響いた。レオンの背筋に、冷たいものが走る。


「マリーナ、君も...」


「うん、調べてみる」


 マリーナが小川に近づき、手を水面に浸した。目を閉じ、水流と対話する。その表情が、徐々に曇っていく。


「...怖い」


 マリーナが小さく呟いた。


「いつもは優しく流れる水が、今は乱れているの!まるで、何かに怯えているみたい」


 マリーナの声が、震えている。いつも明るく元気な彼女が、これほど不安そうな表情を見せるのは珍しかった。


「水の精霊たちが、『早く逃げて』って言っているような...水全体が、恐怖に満たされているの。私、こんなの初めて...!水がこんなに怯えているなんて、何か巨大な力が近づいているとしか思えない...」


 マリーナの青い瞳が、涙で潤んでいる。


 レオンは、二人の言葉を聞いて、胸が締め付けられる思いだった。テラの大地の記憶、マリーナの水流の感知。二人の専門性が、同じ結論を示している。何か禍々しいものが、近づいている。


「これは...」


 レオンが、周囲を見渡した。


 その瞬間、森全体が変化した。


 木々の葉が、風もないのに震え始める。鳥たちが一斉に飛び立ち、空へと逃げていく。小動物たちが、慌てて茂みから駆け出し、森の外へと逃げていく。


「みんな、逃げている...」


 シグレが呟いた。


「ええ。動物たちも、感じているんです」


 テラが静かに言った。


「大地の震え、水の乱れ。それを、動物たちは本能で察知しています。だから、逃げているんです」


 レオンの心に、深い不安が広がっていく。これは、自然の異変というレベルじゃない。何か巨大な力が、地下深くで動き始めているような...。


「レオン、これ...」


 マリーナが、小川の水を手ですくった。その水は、いつもより冷たく、そして微かに黒ずんでいた。


「水が...濁ってる」


「湧き水も調べてみましょう」


 シグレが、森の奥へと向かった。レオンたちも、後に続く。


 森の奥には、小さな湧き水があった。普段なら、清らかで冷たい水が湧き出る場所。しかし、今日は明らかに様子が違った。


「水位が...下がってる」


 レオンが、湧き水を見つめた。いつもなら溢れるほどの水が、今日は半分以下になっている。


「そして、濁りも強い」


 マリーナが水に触れ、顔をしかめた。


「この湧き水、いつもは優しいのに...今は、恐怖に震えている」


 マリーナの言葉に、レオンは黙って頷いた。


「テラ、ここでも調べてもらえる?」


「...はい」


 テラが、再び地面に手を置いた。目を閉じ、大地と対話する。


 しばらくして、テラが目を開けた。その表情は、さらに深刻になっている。


「...ここは、森の中央。震えは、入り口よりも強い」


「強い...?」


「はい。大地が、明確に拒絶しているような感覚です。何かが、地下深くにいる。それが、徐々に上がってきているような...」


 テラの言葉が、森に重く響いた。


 レオンの心に、予言者の警告が蘇ってきた。『七つの闇』の一つが、目覚めようとしているのか...?もしそうなら、これは研究どころの騒ぎじゃない。レオンの背筋に、冷たい汗が流れる。これは本当に、危険なことになりつつある。でも、僕にできることは...?研究者として、科学的に分析する。そして、対策を考える。それしかない。そう、自分に言い聞かせながら、レオンは深呼吸をした。


「森の奥も、調べてみましょう」


 レオンの提案に、全員が頷いた。


---


 森の奥へ進むにつれて、異変はさらに明確になっていった。


 植物の葉が、緑から黒ずんだ色に変色している。幹には、亀裂が入り始めている。土の色も、通常の茶色ではなく、微かに灰色がかっている。


「植物が...弱っている」


 テラが、木の幹に手を触れた。


「大地からの栄養が、うまく届いていない。何かが、地下の流れを阻害しているような...」


「水脈も、同じです」


 マリーナが、地面に手を置いた。


「地下水が、乱れています。普段なら、静かに流れているのに...今は、まるで逃げようとしているみたい」


 二人の報告が、レオンの不安をさらに深めていく。


「ここが、森の最も奥です」


 シグレが、古い木の根元を指差した。


 そこには、小さな岩場があった。岩の間から、微かに黒い煙のようなものが立ち上っている。


「これは...」


 レオンが、岩場に近づいた。


 その瞬間、空気が重くなった。圧迫感が、レオンの全身を包み込む。息が苦しい。心臓が早鐘を打つ。


「レオン様、危険です!」


 テラが、レオンを引き戻した。


「この岩の下に...何かがいます」


 テラの声が、緊張に満ちている。


「大地が、最も強く拒絶している場所です。ここから、禍々しい力が湧き出ているような...」


「私も感じる...」


 マリーナが、震える声で言った。


「水脈が、ここで最も乱れている。まるで、巨大な存在が地下で目覚めようとしているみたい...」


 レオンは、岩場を見つめた。予言者の警告。『闇の封印が、揺らぎ始めている』。その言葉が、現実になろうとしている。この地下深くに、何かがいる。そして、それが目覚めようとしている。


「一旦、戻りましょう」


 シグレが、冷静に提案した。


「これ以上は危険です。王都に戻って、情報を整理しましょう」


「...そうですね」


 レオンが頷いた。ここで無理をしても、何も分からない。まずは、他の地域からの報告も確認する必要がある。


 四人は、森を後にした。


---


 王都への帰路、馬車の中でレオンは考え込んでいた。


 テラとマリーナの報告。大地の震え、水流の乱れ。そして、森の奥の岩場から感じた禍々しい気配。全てが、何か巨大な脅威が近づいていることを示している。


「レオン、大丈夫?」


 マリーナが、心配そうに声をかけてきた。


「ああ、大丈夫...考えているんだ」


 レオンが、窓の外を見つめる。王都の街並みが、近づいてきていた。


 レオンの心の中で、様々な思いが交錯していた。先日、僕はメルキオールさんたちの誤解に疲れていた。『神の奇跡』や『新兵器』じゃなく、ただの研究なのに...でも、今はそんなことを言っている場合じゃない。本当の脅威が、地下深くで目覚めつつある。僕の研究が、本当に世界を救えるのか...?そもそも、これは研究で解決できる問題なのか...?予言者が警告していた『闇の封印』。それが、本当に解かれようとしているのなら...。レオンの心は、不安と疑問で満たされていた。


「レオン様」


 テラが、静かに声をかけてきた。


「大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫。ただ、考えていた」


 レオンが、テラを見た。彼女の茶色の瞳には、優しさと心配が込められている。


「テラの大地の記憶、マリーナの水流の感知...二人がいてくれて、本当に助かったよ」


「...私たちは、レオン様を支えます」


 テラの短い言葉が、温かくレオンを包み込む。


「そうだよ、レオン!」


 マリーナが、明るく笑った。


「私たち、一緒だから!心配しないで!」


 二人の言葉が、レオンの心を少し軽くしてくれた。そうだ、僕は一人じゃない。テラの大地の記憶、マリーナの水流の感知...僕一人では気づけなかったことを、二人が教えてくれた。みんなと一緒なら、きっと乗り越えられる。そう、レオンは自分に言い聞かせた。


「ありがとう、二人とも」


 レオンが、小さく微笑んだ。


 馬車は、やがて王都に到着した。


---


 研究室に戻ると、シグレが他の報告をまとめていた。


「レオン、これを見てください」


 シグレが、地図を広げた。そこには、王国各地からの異変報告が記されている。


「北の火山地帯では、地熱活動が活発化。東の平原では、動物の大移動。西の湖では、水位の低下と濁り。南の山岳では、岩石の崩落が増加...」


 シグレの指が、地図上を動いていく。


「全方位から...?」


 レオンが、驚いて地図を見つめた。


「はい。そして、面白いことに...」


 テラが、地図を見つめて言った。


「王都を中心に、同心円状に広がっているような...」


「本当だ...」


 マリーナが、地図を覗き込んだ。


「でも、一番強いのは...」


「北の火山地帯です」


 シグレが、地図の北部を指差した。


「ここからの報告が、最も深刻です。地熱活動の急激な上昇、火山性ガスの増加...」


 レオンの心に、予言者の言葉が蘇ってきた。北の火山地帯...予言者が警告していた場所...。もしかして、『闇の封印』がある場所なのか...?


「シグレ、他のみんなにも報告しましょう」


 レオンが、真剣な表情で言った。


「それと...予言者に、連絡を取れますか?」


「予言者に...?」


「ええ。彼が警告していた『闇の封印』。それが、本当に解かれようとしているのなら...彼は何かを知っているはずです」


 シグレは、しばらく考えてから頷いた。


「分かりました。連絡を取ってみます」


「お願いします」


 レオンは、窓の外を見つめた。夕暮れの光が、王都を照らしている。しかし、その光は、どこか弱々しく感じられた。


 レオンの心の中で、様々な思いが交錯していた。予言者は何を知っているんだろう...『七つの闇』の一つが、本当に目覚めようとしているのか...?もしそうなら、僕たちに何ができる...?研究だけでは、足りないかもしれない。でも、諦めるわけにはいかない。テラ、マリーナ、そして他のみんな...この仲間たちと一緒なら、きっと道は開ける。そう信じて、レオンは決意を新たにした。


 古代の文書を調べる。予言者に相談する。そして、北の火山地帯への調査も考えなければならない。やるべきことは、山ほどある。でも、一つずつ、確実に進めていこう。研究者として、そして仲間たちのリーダーとして。


「レオン様、お疲れではありませんか?」


 テラが、優しく声をかけてきた。


「少し疲れたけど、大丈夫。やることがあるから」


 レオンが、テラとマリーナを見た。


「二人とも、今日は本当にありがとう。君たちの専門性がなかったら、ここまで分からなかった」


「...私たちは、レオン様のために」


「私も!レオンのためなら、なんでもするよ!」


 二人の言葉が、レオンの心を温かく包み込む。


 研究室の窓から、夕暮れの空が見えた。赤く染まった空が、静かに暮れていく。


 しかし、その美しい夕暮れの裏で、何かが動き始めている。闇の兆候が、静かに、しかし確実に広がっていく。


 文献調査、予言者への相談、そして調査隊の編成——やるべきことは山積みだ。しかしレオンは、一人ではない。仲間たちと共に、この脅威に立ち向かう。研究者として、そしてリーダーとして。

第93話、お読みいただきありがとうございました。


経済騒動の疲労が残る中、王国各地から異変の報告が届きます。テラとマリーナの専門性を活かした森の調査。大地が震え、水が怯える。動物たちが逃げ出す異常事態。森の奥の岩場から立ち上る黒い煙。予言者の警告『闇の封印が揺らいでいる』が、いよいよ現実味を帯びてきました。王都を中心に同心円状に広がる異変、そして最も深刻な北の火山地帯。次回、予言者との再会が待っています。


次回もお楽しみに。


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