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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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第91話 経済戦略(前編)

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

転生王子はスライムを育てたい第91話をお届けします。


宗教、軍事と続いた誤解の連鎖。今度は東方連合会頭チェン・ロンが経済的視点でレオンの研究を解釈する。商人としての誇りと夢を持つチェン・ロンの善意が、レオンの説明をさらに通じなくさせ、そして投資家たちの乱入による大混乱へ。レオンの諦めが深まる第91話です。


お楽しみください!

 メルキオール、ガルヴァンと続いた疲労が、レオンの心に重くのしかかっていた。


 研究室の窓辺に立ち、王都の街並みを眺めるレオンの背中には、深い諦めが漂っている。説明が通じない無力感。善意だからこそ、どうしようもないすれ違い。その全てが、積み重なって心を押し潰そうとしていた。


「レオン様、お疲れではありませんか?」


 フィルミナの優しい声が、静かな研究室に響いた。深紅の髪を優雅に揺らし、琥珀色の瞳でレオンを心配そうに見つめている。第一覚醒個体、フィルミナ。彼女は、レオンの最初の仲間であり、何よりも信頼できる存在だった。


「大丈夫だよ、フィルミナ」


 レオンは窓から離れ、椅子に深く座り込んだ。疲労が、どっと押し寄せてくる。メルキオールの宗教的解釈、ガルヴァンの軍事的解釈。そして、各国が動き始めている。自分の平和な研究が、こんなことになるなんて。


「でも、レオン様の表情が...」


 ルミナが、心配そうに近づいてきた。白銀の髪が、朝の光を受けて柔らかく輝いている。青と金のオッドアイが、レオンを見つめていた。第六覚醒個体、ルミナ。光属性の研究パートナーである彼女は、レオンの気持ちを敏感に感じ取っていた。


「ルミナも心配してくれてるんだね...ありがとう」


 レオンが、小さく微笑んだ。しかし、その笑顔には疲労の色が濃く滲んでいる。二人はそれを見逃さなかった。


「レオン様、少し休まれてはいかがでしょうか」


 フィルミナが、優しく提案した。


「もう慣れたよ。宗教、軍事...次は何が来るんだろうね」


 レオンの言葉には、諦めと疲労が混じっていた。もう何が来ても驚かない。好きに解釈してもらうだけだ。それしか、できることはない。研究への情熱は失わないけれど、この理解の隔たりを埋めることは、もう諦めている。そんな心境が、レオンの表情から読み取れた。


 その時だった。


 研究室の扉が、勢いよく開け放たれた。


「レオン様ああああああ!」


 息を切らした使者が、駆け込んできた。昨日、一昨日と同じ光景。レオンは、もはや驚きもしなかった。ただ、深く溜息をついただけだ。


「...やっぱり、来たか」


「チェ、チェン・ロン様が...! 東方連合の会頭が...訪問を...今すぐに...!」


 使者の言葉が、途切れ途切れに続く。レオンは、フィルミナとルミナを見た。二人とも、心配そうな表情を浮かべている。


「今度は...商人か」


 レオンが小さく呟いた。その声には、諦めと疲労が混じっていた。宗教、軍事、そして今度は経済。理解の隔たりが、さらに深まっていく。もう何が来ても驚かない。好きに解釈してもらうだけだ。でも、研究は続ける。それだけは、絶対に変わらない。そう、自分に言い聞かせながら、レオンは立ち上がった。


「行こう。もう、慣れたから」


 レオンの言葉には、完全な諦めが込められていた。フィルミナとルミナは、心配そうにレオンを見つめる。でも、二人とも何も言わなかった。ただ、レオンの隣に寄り添うだけだった。その静かな支えが、今のレオンには何よりも心強かった。


 三人は、王宮へと向かった。新しい騒動が、また始まろうとしている——。


---


 王宮の応接室は、いつになく華やかな雰囲気に包まれていた。


 東方連合の紋章が刻まれた豪華な絨毯、金の装飾が施された家具、そして部屋中に漂う高価な香木の香り。全てが、東方連合の富と権力を物語っていた。


 そして、部屋の中央には——


「レオン殿下、お会いできて光栄です!」


 チェン・ロンが、派手な笑顔で挨拶した。金糸で刺繍された豪華な東方連合の正装、宝石で飾られた指輪、そして背が低いながらも圧倒的な存在感。まさに商人という言葉が似合う男だった。東方連合の会頭、チェン・ロン。彼は、経済的な視点からレオンの研究を注視してきた人物だ。


「チェン・ロンさん、お久しぶりです」


 レオンは礼儀正しく挨拶した。その横には、フィルミナとルミナが控えている。二人とも、静かに警戒の色を浮かべていた。


「殿下、この度の偉業、実に見事であります!」


 チェン・ロンの第一声が、レオンの心に重くのしかかってきた。偉業。またその解釈か。レオンは内心で小さく溜息をついた。


「あの、チェン・ロンさん。あれは魔法実験の結果でして...」


 レオンが説明を試みた。しかし、その声は、チェン・ロンの熱意に掻き消されていく。


「新時代の到来です! この発見は、必ずや世界経済を変革します!」


 チェン・ロンが興奮気味に続ける。その瞳には、純粋な賞賛と商機への期待が輝いていた。悪意はない。むしろ、善意に満ちている。それが、余計にレオンを困惑させた。


「いえ、あれは六体共鳴という魔法現象で...」


「六体共鳴! 古代の技術を現代に蘇らせた! これを商業化すれば、世界中が豊かになります!」


 レオンの説明が、また遮られた。メルキオール、ガルヴァンと同じだ。説明が通じない。聞く気はあるのかもしれないが、理解しようとしていない。全てが、最初から決まった解釈に回収されていく。


「チェン・ロンさん、僕の研究は学術的興味から始めたもので...」


「学術的発見こそ、商業化の最大のチャンスです!」


 チェン・ロンの言葉が、応接室に響き渡る。レオンは、横にいるフィルミナを見た。フィルミナは静かに眉をひそめ、ルミナは困ったように首を傾げている。


「レオン様...」


 フィルミナが小さく囁いた。その声には、心配と理解が込められている。フィルミナも、状況を理解していた。チェン・ロンは悪意を持っているわけではない。むしろ、純粋に世界を豊かにしたいと願っている。その善意が、レオンの研究を「商業化のチャンス」と解釈させているのだ。


 レオンの心に、複雑な感情が渦巻いていく。チェン・ロンは悪意を持っているわけではない。むしろ、純粋に世界経済の発展を願っている。その善意が、レオンの研究を「新時代の到来」と解釈させているのだ。でも、それは違う。自分の研究は、スライムの可能性を証明するためのものだ。覚醒個体たちと共に、新しい発見を追求するためのものだ。商業化のためではない。純粋な研究のためなのだ。しかし、その説明は、チェン・ロンには届かない。メルキオール、ガルヴァンと同じように、全てが別の文脈に回収されていく。この無力感。この隔たり。レオンは、また味わっていた。


「チェン・ロンさん、お話の途中で恐縮ですが...」


 レオンが、もう一度説明を試みようとした。しかし——


「殿下、実は私にも、経験があるのです」


 突然、チェン・ロンの声のトーンが変わった。


 レオンは、驚いて顔を上げた。チェン・ロンの表情が、先ほどまでの派手な商人から、一人の真摯な投資家に変わっていた。その瞳には、深い誇りが宿っている。


「経験...ですか?」


「ええ。私も、若い頃に新技術に投資して成功したことがあります」


 チェン・ロンの言葉が、ゆっくりと続く。その声には、懐かしさと誇りが混じっていた。


「あれは、30年前のことです。ある若い発明家が、新しい染色技術を開発しました。誰もその価値を理解できなかった。『そんなもの、売れるわけがない』『無駄な投資だ』と、皆が笑いました」


 チェン・ロンの瞳が、遠くを見つめている。過去の記憶を辿っているのだろう。


「でも、私だけは...その技術の可能性を見抜きました。誰も信じない中、私だけが投資を決意した。周囲は反対しました。『失敗するぞ』『破産するぞ』と。でも、私は信じた。その技術が、世界を変えると」


 チェン・ロンの声が、熱を帯びてくる。


「そして、その判断は正しかった。その染色技術は、東方連合全体に広がり、今では世界中で使われています。私の『目利き』は、間違っていなかった。それが、私の商人としての誇りです」


 チェン・ロンが、レオンを見つめた。その瞳には、揺るぎない確信が宿っている。


「だからこそ、殿下の研究も、必ず世界を変える! 私の『目利き』が、そう告げているのです! この技術を商業化すれば、世界中が豊かになる。貧しい人々も救われる。戦争の原因である資源争いも解決する。それが、私の夢なのです!」


 チェン・ロンの言葉が、応接室に響き渡る。


 レオンの心に、深い理解と無力感が同時に押し寄せてきた。チェン・ロンの誇りは、本物だ。彼は単なる金儲けのために商業化を提案しているのではない。若い頃に新技術を見抜いた『目利き』の誇り。それが、レオンの研究を「新時代の到来」と解釈させているのだ。世界を豊かにしたい。貧しい人々を救いたい。その純粋な願いから、商業化を提案している。悪意はない。むしろ、善意に満ちている。その善意が、余計に通じない。レオンの説明は、チェン・ロンの誇りと夢には届かない。この切なさ。この無力感。レオンは、メルキオール、ガルヴァンの時よりも深く、その感情に包まれていた。


「チェン・ロンさん...」


 レオンが、やっとの思いで口を開いた。


「お気持ちは、理解しました。『目利き』の誇り、本当に素晴らしいと思います」


「殿下...!」


「でも、僕の研究は、本当に学術的なものです。商業化を前提としたものではなく、純粋な発見のための...」


「それこそが、殿下の謙虚さです!」


 チェン・ロンが、レオンの言葉を遮った。


「力を持ちながら、それを誇示しない。商業的価値があるにも関わらず、『学術的』と仰る。その姿勢こそ、真の賢者の証!」


 レオンの心が、深く沈んでいく。説明が、また別の意味に解釈された。「学術的」という言葉が、「謙虚さ」に変換されてしまった。何を言っても、通じない。チェン・ロンの善意が、全てを覆い隠してしまう。もう、どうすればいいのか分からない。この無力感。この切なさ。レオンの心は、完全に諦めの境地に達していた。


「...好きに、解釈してください」


 レオンが、小さく呟いた。その声には、深い諦めが込められていた。


「もう何でもいいです。宗教でも、軍事でも、経済でも...それぞれの視点で解釈されるのは構いません。ただ、僕は...研究を続けます。それだけは、絶対に変わりません」


 レオンの言葉が、応接室に静かに響いた。


 チェン・ロンは、一瞬驚いた表情を浮かべた。しかし、すぐに満面の笑みを浮かべる。


「殿下、その言葉こそ、商業化への前向きな姿勢と受け取らせていただきます!」


「...はい、そうですか」


 レオンは、もう何も言わなかった。心の中で、完全に諦めていた。もう、説明は無駄だ。好きに解釈してもらうしかない。でも、研究は続ける。スライムの可能性を証明する。覚醒個体たちと共に、新しい発見を追求する。それだけは、誰にも止められない。そう、自分に言い聞かせながら、レオンは深く息を吸った。


「それでは、投資の詳細ですが...」


 チェン・ロンが、話を続けようとした。その時——


 応接室の扉が、突然勢いよく開け放たれた。


「殿下ああああああ!」「投資を!」「私にも!」


 次々と、投資家たちが乱入してきた。


 レオンは、完全に固まった。何が起きているのか、理解できない。扉から、次々と人が入ってくる。豪華な服を着た商人たち、金の装飾を身に着けた貴族たち、それぞれが大声で叫びながら、応接室になだれ込んでくる。


「殿下! 私にも投資を!」


 投資家Aが、レオンに駆け寄ってきた。


「いや、私が先だ! 私の方が資金が豊富だ!」


 投資家Bが、Aを押しのけて前に出る。


「待て、この技術は我が国にこそ必要だ!」


 投資家Cが、二人を押しのけて叫ぶ。


 応接室が、完全な混乱に包まれた。


 レオンは、呆然とその光景を見つめていた。え、えっ?何が...?投資家?いや、待って、順番に話を聞きたいんだけど...でも誰から聞けばいいのか分からない...というか、そもそも投資って何を投資するの...?僕の研究に投資?それって一体どういうこと...?商業化?いや、待って、僕はただ研究してただけなのに...なんでこんなことになってるの...?頭が混乱する。状況が理解できない。ただ、目の前で投資家たちが口々に叫んでいる。その光景が、現実離れしすぎていて、まるで悪夢のようだった。


「皆様、落ち着いて! 順番に話を...!」


 チェン・ロンが、必死に投資家たちを整理しようとしている。しかし、誰も聞く耳を持たない。


「私が!」


「いや私が!」


「殿下、こちらの契約書を...!」


 投資家たちの声が、応接室中に響き渡る。レオンは、フィルミナとルミナを見た。二人とも、心配そうな表情を浮かべている。でも、どうすればいいのか分からない。この混乱を、どうやって収めればいいのか。レオンの頭は、完全に真っ白になっていた。


 その時、レオンは小さく後退した。


 混乱の中、こっそりと扉へ向かう。投資家たちは、チェン・ロンと言い争いに夢中で、レオンの動きに気づいていない。これは...逃げるしかない...!レオンの心が、そう決断した。研究は続けるけど、この混乱には付き合いきれない。もう、限界だ。そう思いながら、レオンは静かに扉へと近づいていく。


「殿下! こちらの契約書を...!」


 投資家Aが、レオンに気づいて声をかけてきた。レオンは、咄嗟に答える。


「あっ、えっと、トイレに...!」


 レオンは、そう言い訳をして、扉を開けた。廊下に出た瞬間、ホッと息をつく。助かった...でも、まだ安心できない。早く研究室に戻らないと...。


 その時だった。


「レオン様、お救いに参りました」


 廊下に、フィルミナとルミナが現れた。二人とも、研究室から様子を見ていたのだろう。フィルミナが毅然とした表情で、ルミナが優しく微笑んでいる。


「フィルミナ、ルミナ...!」


「急ぎましょう!」


 ルミナが、レオンの手を取った。フィルミナが、先導する。三人は、廊下を駆け出した。


 後ろから、投資家たちの声が聞こえる。


「待ってください、殿下!」


「契約を!」


「投資を!」


 しかし、三人は振り返らない。ただ、研究室へと走り続ける。


「研究室に戻れば...!」


 レオンが、息を切らしながら叫ぶ。


「こちらです!」


 フィルミナが、角を曲がる。


「光で道を照らしますわ!」


 ルミナが、手から柔らかい光を放つ。その光が、廊下を優しく照らし、三人の道を示してくれる。フィルミナのリーダーシップ、ルミナの魔法的サポート。二人の連携が、レオンを救ってくれている。この二人がいてくれて、本当に良かった。レオンの心が、感謝で満たされていく。


 やがて、三人は研究室の扉に辿り着いた。フィルミナが扉を開け、三人が飛び込む。扉を閉めた瞬間、外から投資家たちの声が聞こえてきた。


「殿下!」


「我々の話も...!」


「契約を...!」


 レオンは、扉に背中を預けて、大きく息をついた。助かった...本当に助かった...。二人がいてくれて良かった。フィルミナとルミナがいなかったら、あの混乱から抜け出せなかったかもしれない。レオンの心は、感謝と安堵で満たされていた。


「レオン様、大丈夫ですか?」


 フィルミナが、心配そうに尋ねる。


「うん、二人がいてくれて良かった...」


 レオンが、小さく微笑んだ。


 その時、外から投資家たちの会話が聞こえてきた。


「殿下は謙虚だ...!」


「我々の申し出を恐縮されて...!」


「ますます投資したい...!」


 レオンは、呆然とその声を聞いていた。謙虚...?いや、逃げただけなんだけど...。それが、また別の意味に解釈されている。もう、何が何だか分からない。レオンの心は、完全に混乱していた。このすれ違いは、もう限界を超えている。そう、レオンは感じていた。

第91話、お読みいただきありがとうございました。


メルキオールの宗教、ガルヴァンの軍事に続き、チェン・ロンの経済解釈。新技術を見抜いた誇りと世界を豊かにする夢を持つチェン・ロンの善意が、レオンの説明を届かなくさせます。そして突然の投資家乱入という大混乱。レオンの「好きに解釈してください」という諦めの言葉が、さらに誤解を深めていきます。


次回もお楽しみに。


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