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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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第90話 軍事的脅威

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

転生王子はスライムを育てたい第90話をお届けします。


メルキオール大司教の宗教的熱狂の翌日、今度はガルヴァン騎士団長が軍事的解釈を持ち込む。各国の動向報告、ガルヴァンの娘への想い、そして新たな来訪者の予告。誤解の連鎖が深まり続ける第90話です。


お楽しみください!

 メルキオール大司教の宗教的熱狂から一夜明けた朝。


 レオンは研究室の窓辺に立ち、王都の街並みを眺めていた。昨日の大聖堂での出来事が、まだ頭の中でぐるぐると回っている。説明が全く通じなかった無力感。善意だからこそ、どうしようもないすれ違い。


「レオン様、お茶をお持ちしました」


 クリスタの優雅な声が、静かな研究室に響いた。白銀の髪を揺らし、氷のような青い瞳でレオンを見つめている。第四覚醒個体、クリスタ。300年の封印から解放された彼女は、今やレオンの最も信頼する仲間の一人だった。


「ありがとう、クリスタ」


 レオンは窓から離れ、クリスタが用意してくれた席に着いた。温かい紅茶の香りが、疲れた心を少しだけ癒してくれる。


「昨日は、大変でしたわね」


 クリスタが、優雅に紅茶を淹れながら呟いた。その言葉には、労りと理解が込められている。


「うん...説明が全く通じなくて」


 レオンは正直に答えた。隠す必要もない。クリスタは、レオンの苦悩を誰よりも理解してくれる存在だ。300年前、彼女もまた「救世主」と呼ばれ、周囲の期待に押し潰されそうになった経験を持つ。だからこそ、今のレオンの気持ちが分かるのだ。


「誤解は、時に研究者の宿命ですわ」


 クリスタが静かに微笑んだ。


「300年前、私もそうでした。私の研究は『神の御業』と解釈され、説明は全て『謙虚さ』と受け止められた。何を言っても、理解してもらえませんでしたわ」


「クリスタも...」


「ええ。だからこそ、レオン様の今の心情が痛いほど分かります」


 クリスタの言葉が、温かくレオンを包み込む。そうだ。自分だけじゃない。クリスタも、同じような経験をしてきた。それを乗り越えて、今ここにいる。


「でも、研究は続けるよ」


 レオンが、決意を込めて言った。


「誤解されても、批判されても、僕は研究を続ける。それが、僕の道だから」


「その通りですわ」


 クリスタが優しく頷いた。


「レオン様の研究への情熱は、誰にも止められません。そして、私たちは常にレオン様の味方です」


 その時、研究室の扉が軽やかに開いた。


「おはようございます、レオン様」


 エオリアが、風のように優雅に入ってきた。銀色の髪が、見えない風に揺れている。青緑色の瞳が、穏やかにレオンを見つめていた。


「エオリア、おはよう」


「昨日は大変だったと伺いました。お疲れではありませんか?」


 エオリアの言葉には、労りと心配が込められている。第五覚醒個体、エオリア。500年の追放から解放された彼女は、自由を愛する風の化身だ。そして、その優雅さの中に、深い洞察力を秘めている。


「大丈夫だよ。クリスタが励ましてくれたから」


「それは良かったですわ」


 エオリアが微笑みながら、二人の輪に加わった。三人で紅茶を飲む。穏やかな時間。昨日の騒動が、少しだけ遠のいていく。


「今日は、静かに研究できるといいんだけど...」


 レオンが小さく呟いた。その言葉には、微かな諦めが混じっている。昨日の出来事が、まだ影を落としていた。メルキオールの宗教的解釈。あれは終わりではなく、始まりに過ぎないのではないか。そんな嫌な予感が、心の奥で静かに広がっていた。


「レオン様」


 クリスタが、静かに口を開いた。


「嫌な予感がするのですか?」


「...うん」


 レオンは正直に答えた。クリスタの洞察力は鋭い。隠してもすぐに見抜かれる。


「昨日のメルキオールは、きっと各地に連絡を取っているはずだ。『神の奇跡』を広めると言っていた。そうなると...」


「他の国々も、動き出す可能性がありますわね」


 クリスタが、冷静に分析した。300年の経験から来る知恵が、その言葉には宿っている。


「ええ、風も少し...騒がしいような気がしますわ」


 エオリアが、不思議そうに首を傾げた。


「風が?」


「空気の流れが、いつもと違うのです。まるで、何かが動き始めているような...」


 エオリアの言葉に、レオンの胸に不安が広がった。風を操るエオリアが感じる異変。それは、単なる気のせいではないかもしれない。


 その時だった。


 研究室の扉が、勢いよく開け放たれた。


「レオン様ああああああ!」


 息を切らした使者が、駆け込んできた。昨日と同じ光景。レオンは、深く溜息をついた。


「...やっぱり」


「ガ、ガルヴァン様が...!」


「ガルヴァン?」


 レオンの心に、新たな嫌な予感が走った。ガルヴァン。ヴァレリア王国の炎龍騎士団長。軍事的な視点でレオンの研究を見ている、あの武骨な軍人だ。


「緊急会議を...! 王宮への訪問を...今すぐに...!」


 使者の言葉が、途切れ途切れに続く。レオンは、クリスタとエオリアを見た。二人とも、心配そうな表情を浮かべている。


「今度は...軍人か」


 レオンが小さく呟いた。その声には、諦めと疲労が混じっていた。昨日のメルキオールに続いて、今度はガルヴァン。宗教的解釈に続いて、軍事的解釈が来る。その予想は、嫌なほど的中していた。


「レオン様、私たちも同行いたしますわ」


 クリスタが、毅然とした声で言った。


「はい、お二人とも支えますわ」


 エオリアも、優雅に微笑みながら頷いた。


「ありがとう、二人とも」


 レオンは深呼吸をした。平和な研究の時間が、また終わる。そんな予感が、胸の奥で静かに広がっていった。


---


 王宮の会議室は、いつになく緊張した空気に包まれていた。


 広い長机の上には、各国から届いた報告書が山積みになっている。赤い封蝋、金の紋章、様々な国の証が、その重要性を物語っていた。


 そして、机の向こうには——


「レオン殿下、お越しいただき感謝する!」


 ガルヴァンが、武骨な声で挨拶した。炎のような赤い髪、鋭い眼光、筋骨隆々とした体格。まさに軍人という言葉が似合う男だった。ヴァレリア王国の炎龍騎士団長、ガルヴァン。彼は、軍事的な視点からレオンの研究を注視してきた人物だ。


「ガルヴァンさん、お久しぶりです」


 レオンは礼儀正しく挨拶した。その横には、クリスタとエオリアが控えている。二人とも、静かに警戒の色を浮かべていた。


「殿下、この度の新兵器開発、実に見事であります!」


 ガルヴァンの第一声が、レオンの心に重くのしかかってきた。新兵器。またその解釈か。レオンは内心で小さく溜息をついた。


「あの、ガルヴァンさん。あれは魔法実験の結果でして、兵器ではありません...」


 レオンが説明を試みた。しかし、その声は、ガルヴァンの熱意に掻き消されていく。


「謙遜は不要です! 三つの光柱が天を貫く様、まさに新時代の兵器でしょう!」


 ガルヴァンが興奮気味に続ける。その瞳には、純粋な賞賛と期待が輝いていた。悪意はない。むしろ、善意に満ちている。それが、余計にレオンを困惑させた。


「いえ、あれは六体共鳴という魔法現象で...」


「六体共鳴! 古代の力を現代に蘇らせた! これが兵器でなくて何でしょうか!」


 レオンの説明が、また遮られた。昨日のメルキオールと同じだ。説明が通じない。聞く気はあるのかもしれないが、理解しようとしていない。全てが、最初から決まった解釈に回収されていく。


「ガルヴァンさん、僕の研究は平和的な目的で...」


「戦場で役立つことは明白です! 敵を威嚇し、味方を鼓舞する。この力があれば、ヴァレリア王国の防衛力は飛躍的に向上します!」


 ガルヴァンの言葉が、会議室に響き渡る。レオンは、横にいるクリスタを見た。クリスタは静かに眉をひそめ、エオリアは困ったように首を傾げている。


「レオン様...」


 クリスタが小さく囁いた。その声には、心配と理解が込められている。クリスタも、同じような経験をしてきた。だからこそ、今のレオンの気持ちが痛いほど分かるのだ。


 レオンの心に、複雑な感情が渦巻いていく。ガルヴァンは悪意を持っているわけではない。むしろ、純粋に国を守りたいと願っている。その善意が、レオンの研究を「兵器」と解釈させているのだ。


 でも、それは違う。自分の研究は、スライムの可能性を証明するためのものだ。覚醒個体たちと共に、新しい発見を追求するためのものだ。戦争のためではない。平和のための研究なのだ。


 しかし、その説明は、ガルヴァンには届かない。昨日のメルキオールと同じように、全てが別の文脈に回収されていく。この無力感。この隔たり。レオンは、また味わっていた。


「ガルヴァンさん、お話の途中で恐縮ですが...」


 レオンが、もう一度説明を試みようとした。しかし——


「殿下、まだ話は終わっておりません」


 ガルヴァンが、真剣な表情で机の上の報告書を指し示した。


「実は、メルキオール大司教が昨日の『神の奇跡』を各地に報告した後、各国が動き始めております」


「...各国が?」


 レオンの背筋に、冷たいものが走った。


「ええ。この報告書をご覧ください」


 ガルヴァンが、一枚の羊皮紙を差し出した。レオンがそれを手に取ると、そこには各国の動向が記されていた。


『セレスティア聖教国:大司教メルキオールの報告を受け、各地の教会で『神の奇跡』として宣伝開始。信徒の間で大きな反響』


『東方連合:商業会頭チェン・ロンが緊急会議を召集。新技術の商業化について議論』


『北方王国連合:軍事顧問団が緊急招集。新兵器の可能性について調査開始』


 レオンの手が、微かに震えた。各国が動いている。自分の研究が、国際的な注目を集めている。それは、想像以上の規模だった。


「これは...」


「殿下、事態は非常に深刻です」


 ガルヴァンが、真剣な表情で続けた。


「各国が殿下の研究に注目している。それは良いことのようにも見えますが...」


「...戦争の原因になりかねない、ということですか」


 レオンの言葉が、会議室に重く響いた。


「その通りです」


 ガルヴァンが深く頷いた。


「もし各国が殿下の力を『兵器』と認識し、それを手に入れようと動き出せば...」


 ガルヴァンの言葉が、途切れた。その先は、言わなくても分かる。国際的な緊張。戦争の危機。自分の平和な研究が、そんなことの原因になるなんて。


 レオンの心に、深い無力感が広がっていく。研究を続けたい。スライムの可能性を証明したい。覚醒個体たちと共に、新しい発見を追求したい。その純粋な願いが、世界を揺るがす問題に発展している。


「かなり深刻な状況ですわね」


 クリスタが、冷静に呟いた。300年の経験から来る判断が、その言葉には込められている。クリスタは、すぐに状況の深刻さを理解していた。


「ええ、風も...少し冷たくなってきましたわ」


 エオリアが、不安そうに窓の外を見た。風を操る彼女が感じる異変。それは、単なる気のせいではないだろう。


 レオンは、深く息を吸った。どう対応すればいいのだろう。説明しても通じない。誤解は広がるばかり。でも、研究を止めるわけにはいかない。それは、自分の生き方を否定することになる。


「ガルヴァンさん、僕の研究は本当に平和的なもので...」


 レオンが、もう一度説明を試みた。しかし——


「殿下、私には...娘がおりました」


 突然、ガルヴァンの声のトーンが変わった。


 レオンは、驚いて顔を上げた。ガルヴァンの表情が、先ほどまでの武骨な軍人から、一人の父親に変わっていた。その瞳には、深い悲しみが宿っている。


「娘が...?」


「ええ。10年前、国境の戦闘で...」


 ガルヴァンの言葉が、途切れた。その沈黙が、全てを物語っていた。


 レオンの胸に、複雑な感情が押し寄せてくる。ガルヴァンは、娘を戦争で亡くしたのだ。そして、その悲しみを背負って、今も国を守ろうとしている。


「娘は最後に...『お父様、国を守って』と...」


 ガルヴァンの声が、微かに震えた。


「それから私は誓ったのです。二度と、このような悲劇を...! だからこそ、殿下の力を...国を守る力として...!」


 ガルヴァンの言葉が、会議室に響き渡る。


 レオンの心に、深い理解と無力感が同時に押し寄せてきた。ガルヴァンの痛みは、計り知れない。娘さんを失った悲しみ。国を守れなかった後悔。その両方を背負って、彼は生きている。だからこそ、レオンの研究を「国を守る力」と解釈してしまうのだ。自分が愛する国を、大切な人々を、二度と失いたくないという純粋な願いから。


 でも、それは誤解だ。レオンの研究は、兵器ではない。平和な研究なのだ。その説明が、ガルヴァンの痛みを理解すればするほど、言えなくなっていく。彼の善意を否定することは、彼の娘への誓いを否定することになる。そんな残酷なことは、できない。


 レオンの心の中で、言葉が空回りしていく。何を言えばいいのだろう。どう説明すれば、理解してもらえるのだろう。ガルヴァンの痛みを理解しているからこそ、説明が通じない。善意だからこそ、心の距離が埋まらない。この切なさ。この無力感。レオンは、昨日のメルキオールの時よりも深く、その感情に包まれていた。


「ガルヴァンさん...」


 レオンが、やっとの思いで口を開いた。


「お気持ちは、理解しました。娘さんのこと、本当に...お辛かったでしょう」


「殿下...」


「でも、僕の研究は、本当に平和的なものです。戦争のためではなく、新しい発見のための...」


「それこそが、殿下の謙虚さです!」


 ガルヴァンが、レオンの言葉を遮った。


「力を持ちながら、それを誇示しない。むしろ『平和的』と仰る。その姿勢こそ、真の力の証!」


 レオンの心が、深く沈んでいく。説明が、また別の意味に解釈された。「平和的」という言葉が、「謙虚さ」に変換されてしまった。何を言っても、通じない。ガルヴァンの善意が、全てを覆い隠してしまう。


「ガルヴァンさん、それは...」


「殿下、ご安心ください。ヴァレリア王国は、殿下の力を悪用させません。私が命に代えても、殿下をお守りします!」


 ガルヴァンが、力強く宣言した。その瞳には、揺るぎない決意が宿っている。彼は本気だ。レオンを守り、国を守る。その使命感に、一点の曇りもない。


 レオンは、もう何も言えなかった。説明は無駄だ。ガルヴァンは、完全に「新兵器」と「国防」の視点で固まっている。そして、それは娘を亡くした悲しみと、二度と同じ悲劇を繰り返したくないという純粋な願いから来ている。その善意を、レオンは否定できない。


「レオン様...」


 クリスタが、小さな声で囁いた。その声には、労りと心配が込められている。クリスタも、状況を理解していた。ガルヴァンの善意と、レオンの無力感。その両方を。


「殿下、今後の対応について、詳細を詰めさせていただきたく...」


 ガルヴァンが、会議の続きを始めようとした。しかし——


「あの、ガルヴァンさん」


 レオンが、静かに手を上げた。


「少し、時間をいただけますか?」


「時間...?」


「はい。今の状況を、よく考えたいので」


 レオンの声には、疲労と諦めが混じっていた。ガルヴァンは、一瞬戸惑った表情を浮かべたが、やがて頷いた。


「分かりました。殿下のお時間を、大切にいたします」


「ありがとうございます」


 レオンは立ち上がった。クリスタとエオリアも、それに続く。三人は、会議室を後にした。


---


 廊下を歩きながら、レオンは深く溜息をついた。


「また...説明が通じなかった」


「レオン様、お疲れですわね」


 クリスタが、優しくレオンの肩に手を置いた。


「ガルヴァンさんは、娘さんを亡くした悲しみを背負っているのです。その痛みが、レオン様の研究を『国を守る力』と解釈させている」


「うん...だから、余計に...」


 レオンの言葉が、途切れた。善意だからこそ、通じない。理解すればするほど、説明できなくなる。この矛盾が、レオンを苦しめていた。


「でも、レオン様」


 エオリアが、風のように軽やかな声で言った。


「ガルヴァンさんも、メルキオールさんも、悪意はないのです。むしろ、善意に満ちている。それは、素晴らしいことですわ」


「...そうだね」


「誤解されても、研究は続けるのでしょう?」


「もちろん」


 レオンが、力強く答えた。


「誤解されても、批判されても、僕は研究を続ける。それが、僕の道だから」


「その通りですわ」


 クリスタが微笑んだ。


「私たちは、常にレオン様の味方です」


 三人は、研究室へと向かった。廊下の窓から差し込む陽光が、彼らを優しく照らしている。


---


 研究室に戻ると、レオンは椅子に深く座り込んだ。


 クリスタとエオリアが、心配そうに寄り添ってくる。


「レオン様、大丈夫ですか?」


「...うん、大丈夫。ただ、疲れたよ」


 レオンは正直に答えた。精神的な疲労が、どっと押し寄せてくる。メルキオールに続いて、ガルヴァン。宗教的解釈に続いて、軍事的解釈。そして、各国が動き始めている。自分の研究が、国際問題に発展している。


「これからも、こんなことが続くのかな...」


 レオンが、小さく呟いた。


「おそらく、ですわ」


 クリスタが、冷静に答えた。


「各国が動き始めている以上、次は別の視点からの解釈が来るでしょう。経済的な視点、政治的な視点...様々な解釈が」


「そう...だよね」


 レオンは、窓の外を見た。夕暮れの空が、オレンジ色に染まり始めている。


 その時、クリスタが不思議そうに窓に近づいた。


「...少し、気配が...」


「クリスタ?」


「いえ、何でもありませんわ。ただ...空気が少し、冷たいような...」


 クリスタの言葉に、レオンも窓の外を見た。確かに、何か違和感がある。昨日も感じた、あの微かな違和感。それが、今日はもう少しはっきりしているような気がする。


「風も、少し乱れているような...」


 エオリアが、不安そうに呟いた。


「いつもと違う、この感じ...まるで、何かが近づいているような...」


 二人の言葉に、レオンの胸に不安が広がった。クリスタが感じる冷たい気配。エオリアが感じる風の乱れ。それは、単なる気のせいではないかもしれない。


「この違和感...何かが起きる前触れなのか...?」


 レオンが、小さく呟いた。その時——


 研究室の扉が、またしても勢いよく開かれた。


「レオン様!」


 息を切らした使者が、駆け込んでくる。レオンは、もはや驚きもしなかった。


「...今度は誰?」


「チェ、チェン・ロン様が...! 東方連合の会頭が...訪問を...!」


「...今度は商人か」


 レオンが、小さく呟いた。その声には、諦めと疲労が混じっていた。宗教、軍事、そして今度は経済。すれ違いが、さらに深まっていく。


「レオン様...」


 クリスタとエオリアが、心配そうにレオンを見つめる。


「大丈夫だよ」


 レオンが、無理に笑顔を作った。


「もう慣れた。好きに解釈してもらうだけだ。でも、研究は続ける。それだけは、絶対に変わらない」


 窓の外では、夕暮れの光が王都を照らしていた。しかし、その光は、どこか冷たく感じられた。


 宗教、軍事、そして今度は経済。誤解は連鎖し、レオンを追い詰めていく。しかし研究を止めるわけにはいかない——それが、レオンの決意だった。

第90話、お読みいただきありがとうございました。


メルキオールの宗教的解釈に続き、ガルヴァンの軍事的解釈。娘を亡くした父の痛みを背負うガルヴァンの善意が、レオンの説明をさらに届かなくさせます。そして各国が動き始め、次は商人チェン・ロンの訪問が。レオンの平和な研究は、国際問題へと発展していきます。


次回もお楽しみに。


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