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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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第80話 属性組み合わせ実験

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

転生王子はスライムを育てたい第80話をお届けします。


フィルミナとテラが炎と大地の融合実験に挑戦。何度も失敗を繰り返しながら、諦めずに挑み続ける二人――失敗の先にあったものとは。


お楽しみください!

 朝日が研究室の窓から差し込んでいる。昨日の小爆発の痕跡は、まだ完全には片付いていなかった。


 フィルミナは、実験台の焦げ跡を指先でそっとなぞる。黒く変色した木材が、昨日の失敗を静かに物語っていた。


(昨日、レオン様とルミナ様が失敗されたのは、魔力の制御が難しかったから。私とテラで炎と大地を組み合わせるなら、もっと慎重にならないと……でも、レオン様は「失敗から学べる」っておっしゃってた。だから、今日は私たちが新しい発見をする番なんだ)


 扉が開く音がした。


 テラが静かに入ってくる。茶色の髪が、朝日を受けて柔らかく輝いていた。


「フィルミナ」


 短い呼びかけ。それだけで、テラの準備ができていることが分かる。


 フィルミナは微笑んで頷いた。


「うん、テラ。今日は私たちの番だよ」


 実験台の上には、レオンが用意した魔法陣が広げられている。六芒星の形をした複雑な図形。その中で、炎と大地の位置が、特に明るく光っていた。


 レオンが羊皮紙を手に、二人に近づいてくる。


「昨日の失敗から学んだことを活かして、今日は炎と大地の組み合わせ実験をするよ。フィルミナとテラ、二人の属性がどう反応するか確認したいんだ」


 フィルミナは真剣な表情で頷く。


「はい、レオン様。私、頑張ります」


 テラが、いつもの短い言葉で応じた。


「...任せて」


 レオンは、魔法陣の前で実験の手順を説明し始めた。


「まず、フィルミナが炎の魔力を流す。次に、テラが大地の魔力を流す。二つの属性が交わる瞬間に、どんな反応が起きるかを観察するんだ」


 フィルミナが手を挙げる。


「あの、昨日みたいに爆発しませんか?」


 レオンは優しく笑った。


「大丈夫。今日は出力を昨日の半分に抑える。それに、二属性だけなら、制御しやすいはずだよ」


 テラが、魔法陣の位置を確認しながら尋ねる。


「...順番、大事?」


「うん、とても大事。炎が先、大地が後。その順番を守ってね」


(レオン様の声は、いつもより少し緊張しているみたい。昨日の失敗が、まだ心に残っているんだ。でも、だからこそ慎重に実験を進めようとしている。私たちも、レオン様の期待に応えないと)


 フィルミナとテラは、魔法陣の指定された位置に立った。


 二人の間に、朝日が細く差し込む。光の筋が、これから始まる実験を祝福するかのように、二人を照らしていた。


---


「それじゃあ、始めよう」


 レオンの合図で、フィルミナが深く息を吸った。


 体の奥から、炎の魔力が湧き上がってくる。温かい力が、手のひらに集まっていくのを感じた。


「炎よ、目覚めなさい」


 小さな赤い光が、フィルミナの手から生まれる。それは、ゆらゆらと揺れながら、魔法陣の中央へと向かっていった。


(制御できてる。出力は抑えめに、レオン様の指示通り。でも、この温かさは止められない。炎は、私の一部だから)


 次に、テラが魔力を流し始めた。


「...大地よ」


 茶色の光が、テラの足元から広がっていく。まるで、大地そのものが呼吸を始めたかのように、穏やかで力強い流れだった。


 二つの光が、魔法陣の中央で交わる。


 最初は、穏やかだった。


 赤と茶色の光が、まるで踊るように絡み合っていく。美しい光景に、フィルミナは思わず息を呑んだ。


 しかし——


 パチッ!


 小さな火花が散った。


「え?」


 フィルミナが驚いて魔力の流れを弱めようとした瞬間。


 ゴォッ!


 炎が突然膨張した。


 魔法陣の中央から、赤い火柱が立ち上る。熱波が、研究室全体を包み込んだ。


「きゃっ!」


 フィルミナが慌てて魔力の供給を止める。


 でも、遅かった。


 実験台の木材が、じわじわと焦げ始める。煙が立ち上り、焦げた匂いが研究室に広がった。


「テラ、魔力を止めて!」


 レオンの声が響く。


 テラが素早く魔力の供給を停止した。炎がゆっくりと消えていく。


 研究室に、静寂が戻った。


 実験台の端が、黒く焦げている。煙が、まだ薄く立ち上っていた。


(だめだった...炎が強すぎた。制御できなかった。レオン様の期待に応えられなかった...)


 フィルミナの目に、涙が浮かぶ。


「ごめんなさい、レオン様...」


 レオンが優しく首を振った。


「大丈夫だよ、フィルミナ。これも大切なデータだ。炎と大地の相性が、予想より複雑だということが分かった」


 テラが、静かにフィルミナの肩に手を置く。


「...大丈夫。次、頑張る」


 短い言葉。でも、その温かさが、フィルミナの心を少しだけ落ち着かせた。


---


 レオンが羊皮紙に記録を取りながら、次の実験の準備を始めた。


「今度は、魔力のタイミングを調整してみよう。フィルミナが炎を流してから、3秒待ってテラが大地を流すんだ」


「はい...」


 フィルミナの声は、まだ少し震えている。


(失敗しちゃった。でも、レオン様は怒っていない。むしろ、次の方法を教えてくれている。私、もう一度頑張らなきゃ)


 二人は再び、魔法陣の位置に立った。


「炎よ、目覚めなさい」


 フィルミナが、今度はさらに出力を抑えて魔力を流す。小さな赤い光が、ゆっくりと魔法陣の中央へ向かった。


 レオンが数を数え始める。


「一、二、三——テラ、今だ」


「...大地よ」


 テラの魔力が、慎重に流れ込む。


 赤と茶色の光が、ゆっくりと混ざり合っていく。


 今度は、うまくいくかもしれない——


 そう思った瞬間。


 ピシッ!


 魔法陣の表面に、亀裂が走った。


「え!?」


 地面が震える。研究室の床に、小さな割れ目が生まれていく。


 同時に、二つの魔力が激しく反発し合った。


 バチバチバチッ!


 火花が飛び散る。赤と茶色の光が、まるで喧嘩をしているかのように、激しくぶつかり合った。


「魔力を止めて!」


 レオンの叫び声。


 フィルミナとテラが、同時に魔力の供給を停止する。


 光が消え、静寂が戻る。


 床には、細かい亀裂が残っていた。魔法陣も、一部が歪んでいる。


 フィルミナは、床に座り込んでしまった。


(また失敗...タイミングを合わせたのに、うまくいかなかった。炎と大地は、相性が悪いのかな...? でも、レオン様は「できる」って信じてくれている。私も、諦めたくない)


 テラが、フィルミナの隣にしゃがみ込んだ。


「...フィルミナ、泣かない」


「泣いてないよ...ただ、悔しくて」


 テラの大きな手が、フィルミナの頭を優しく撫でる。


「...一緒に、頑張る」


 その言葉に、フィルミナは小さく頷いた。


---


 レオンが、新しい羊皮紙を取り出した。


「二回の失敗から、大切なことが分かったよ。炎と大地は、単純に混ぜるだけじゃダメなんだ。二つの属性の『バランス』が重要なんだよ」


 フィルミナが顔を上げる。


「バランス...ですか?」


「そう。炎が強すぎても、大地が強すぎてもダメ。二つが、ちょうど良い強さで混ざり合う必要がある」


 レオンは、魔法陣を修正し始めた。ペンを走らせる音が、静かな研究室に響く。


「次は、出力のバランスを調整してみよう。フィルミナは通常の二割、テラは通常の三割。この比率なら、うまくいくはずだ」


 テラが、静かに頷いた。


「...分かった」


 フィルミナも、立ち上がる。涙を拭って、もう一度魔法陣の前に立った。


(レオン様は、諦めていない。それなら、私も諦めない。炎と大地が調和する瞬間を、絶対に見つけるんだ)


「準備はいい?」


 レオンの問いに、二人が頷く。


「それじゃあ、始めよう」


 フィルミナが、深く息を吸う。体の奥から、炎の魔力を引き出す。でも、今度は慎重に、ゆっくりと。


「炎よ、優しく目覚めなさい」


 小さな赤い光が、フィルミナの手から生まれる。それは、まるで蝋燭の炎のように、静かで穏やかだった。


 テラも、同時に魔力を流し始める。


「...大地よ、支えなさい」


 茶色の光が、大地から湧き上がる。それは、フィルミナの炎を包み込むように、優しく広がっていった。


 二つの光が、魔法陣の中央で出会う。


 赤と茶色が、ゆっくりと混ざり合っていく。


 今度は、うまくいっている——


 フィルミナの心に、希望が芽生えた。


 しかし。


 その瞬間。


 ドォンッ!


 重い音が響いた。


 魔法陣の中央から、巨大な魔力の波動が放たれる。


 床が、激しく振動した。


 そして——


 ドロドロドロ...


 石の床が、溶け始めた。


「え...?」


 フィルミナが信じられない光景を目にする。


 研究室の床が、まるで溶岩のように、赤く輝きながら溶けていく。炎と大地の魔力が融合した結果、石が液体に変わっていたのだ。


「ひぃっ!」


 フィルミナが悲鳴を上げる。


「地よ、鎮まれ!」


 テラが慌てて大地魔法を発動した。茶色の光が床を包み込み、溶けた石を冷やしていく。


 でも、すでに床の中央には、大きな穴が開いていた。溶岩のように赤く光る石が、ゆっくりと冷えて固まっていく。


 焦げた石の匂いが、研究室全体に広がった。


 フィルミナは、その場に崩れ落ちる。


(床を...溶かしちゃった。研究室を...壊しちゃった...!)


「ごめんなさい、ごめんなさい...!」


 フィルミナの声が、泣き声に変わる。涙が、頬を伝って落ちた。


「私、レオン様の研究室を...壊しちゃいました...」


 テラが、フィルミナの隣に座り込んだ。


「...私も、悪い。止められなかった」


 レオンが、二人に近づいてくる。


 フィルミナは、怒られると思った。でも——


「これは...すごいデータだ」


 レオンの声は、驚きに満ちていた。


「フィルミナ、テラ、二人の魔力が完全に融合したんだ。炎と大地が混ざって、石を溶岩に変えた。これは、理論上は不可能とされていた現象だよ」


 フィルミナが、涙で濡れた顔を上げる。


「で、でも...床を壊しちゃって...」


 レオンは、優しく笑った。


「床は直せるよ。でも、この発見は二度と得られないかもしれない。フィルミナとテラ、二人だからこそ起きた奇跡なんだ」


(レオン様は...怒っていない。むしろ、喜んでいる。私たちの失敗を、『発見』と呼んでくれている)


 フィルミナの心に、温かいものが広がっていく。


 テラが、静かに立ち上がった。


「...床、直す。大地魔法で」


「ありがとう、テラ。でも、今は記録を取らせてくれないか。この現象を、詳しく調べたいんだ」


 レオンは、溶けた床の跡を、熱心に観察し始めた。


 フィルミナは、その姿を見て思った。


(レオン様は、本当に研究が好きなんだ。失敗も、成功も、すべてが大切な発見。私も、レオン様のようになりたい。失敗を恐れずに、前に進めるように)


 溶岩のように赤かった床が、ゆっくりと冷えて黒い石に変わっていく。


 研究室に、焦げた匂いと共に、新しい発見の喜びが満ちていた。


---


 レオンは、冷えて固まった床の跡を、丁寧にノートに記録していた。


 カリカリという鉛筆の音が、静かな研究室に響く。


 フィルミナとテラは、壊れた実験台の周りを片付けている。焦げた木材を集めて、隅に積み上げた。


「フィルミナ」


 レオンが声をかける。


「この現象について、どう思う?」


 フィルミナは、手を止めて考えた。


(炎と大地が混ざって、石を溶かした。でも、それは私たちが望んだ結果じゃなかった。制御できなかったから、床を壊しちゃった...)


「あの...うまく言えないんですけど、炎と大地って、相性が悪いんじゃないかって思います」


 レオンが首を傾げる。


「相性が悪い?なぜそう思うの?」


「だって、何度やっても失敗して...最後には、研究室を壊しちゃいました」


 フィルミナの声が、小さくなる。


 テラが、フィルミナの代わりに答えた。


「...でも、融合した。完全に」


「そうなんだ」


 レオンは、ノートを二人に見せた。


「三回の失敗は、すべて『制御の失敗』だった。でも、魔力そのものは、ちゃんと融合していたんだよ」


 ノートには、三回の実験結果が詳しく記録されている。


一回目:温度制御失敗。炎が強すぎた。

二回目:タイミングずれ。魔力の反発が起きた。

三回目:出力バランス崩壊。石の溶岩化。


「つまり、炎と大地の相性は悪くない。むしろ、とても良い。だからこそ、こんなに強力な反応が起きたんだ」


 フィルミナが、目を丸くする。


「そう...なんですか?」


「うん。問題は、僕たちの制御方法が未熟だっただけ。炎と大地の力を、もっと繊細に調整できれば、きっと素晴らしい結果が得られるはずだよ」


(レオン様は、失敗の中に成功の種を見つけてくれる。私は失敗ばかり見ていたけど、レオン様は可能性を見ていたんだ)


 フィルミナの心が、少しずつ軽くなっていく。


 レオンが、新しい羊皮紙を広げた。


「次は、こういう方法を試してみよう」


 魔法陣の新しい設計図が、そこに描かれている。今までより複雑で、繊細な図形だった。


「炎と大地の魔力を、段階的に混ぜていくんだ。最初はごく少量から始めて、徐々に増やしていく。そうすれば、暴走を防げるはずだ」


 テラが、じっと設計図を見つめる。


「...できる、かも」


「うん、できると思うよ。フィルミナとテラなら」


 レオンの言葉に、フィルミナは深く頷いた。


(レオン様が信じてくれている。私も、テラも、諦めない。次こそ、成功させるんだ)


---


 新しい魔法陣が、実験台に広げられた。


 フィルミナとテラは、再び位置につく。もう何度目になるだろう。でも、二人の表情には、諦めの色はなかった。


「今度こそ、うまくいく」


 フィルミナが、自分に言い聞かせるように呟く。


 テラが、小さく頷いた。


「...一緒に、頑張る」


 レオンが、最後の確認をする。


「いい?今度は、僕が合図を出すから、それに合わせて魔力を流してね。ゆっくり、少しずつ」


「はい」


 二人の返事が、重なった。


「それじゃあ、始めよう」


 レオンの合図で、フィルミナが魔力を流し始める。


「炎よ、囁くように目覚めなさい」


 今までで一番小さな赤い光が、フィルミナの手から生まれた。それは、まるで蛍の光のように、か細く儚い。


「テラ、今だ」


「...大地よ、優しく支えなさい」


 テラの魔力が、そっと流れ込む。茶色の光が、炎を包み込むように広がった。


 二つの光が、魔法陣の中央で出会う。


 今度は、静かだった。


 赤と茶色が、まるで呼吸を合わせるように、ゆっくりと混ざり合っていく。


 フィルミナは、自分の心臓の鼓動を感じた。ドクン、ドクンという音が、耳に響く。


(テラと、息が合ってる。魔力が、穏やかに混ざり合ってる。これが、調和...?)


「もう少し、魔力を増やして」


 レオンの声が、優しく導く。


 フィルミナとテラが、同時に魔力の出力を上げた。


 赤い光と茶色の光が、少しずつ強くなっていく。


 魔法陣の中央で、二つの色が完全に混ざり合った。


 そして——


 ふわぁ...


 暖かい光が、研究室全体に広がった。


 それは、赤でも茶色でもない。オレンジ色の、優しい光だった。


「成功した...!」


 レオンの声が、喜びに震える。


 フィルミナとテラは、お互いの顔を見合わせた。


 二人とも、涙で顔がぐしゃぐしゃだった。でも、笑っていた。


(できた。私たちにも、できた。炎と大地が、調和した...!)


 オレンジ色の光が、ゆっくりと消えていく。後には、温かさだけが残った。


 研究室の空気が、まるで春の日差しのように、柔らかく感じられる。


 テラが、フィルミナの手を握った。


「...やった」


「うん、やったね、テラ」


 二人は、そのまま座り込んでしまった。


 疲れと喜びで、もう立つ力が残っていなかった。


 レオンが、二人に近づいてくる。


「素晴らしかったよ、フィルミナ、テラ。二人の息がぴったり合っていた。これが、本当の『調和』なんだ」


 フィルミナは、レオンの言葉を噛みしめた。


(何度も失敗した。床を壊して、研究室をめちゃくちゃにした。でも、諦めなかったから、この瞬間にたどり着けた。レオン様が信じてくれたから、私たちも頑張れた)


「レオン様、ありがとうございます」


「ううん、頑張ったのは二人だよ。僕は、見ていただけだから」


 レオンは、優しく笑った。


 その笑顔を見て、フィルミナの心は、温かい光で満たされていった。


---


 その日の午後。


 研究室の扉が、勢いよく開いた。


 レオンが顔を上げると、そこには——


「第三王子レオン殿下。ヴァレリア王国軍事使節団、参上いたしました」


 立派な軍服を着た男性が、直立不動の姿勢で立っていた。


「え...?」


 レオンが、目を丸くする。


 使節団長が、真剣な表情で続けた。


「本日午前中、研究室にて大規模な魔力反応が観測されました。新型兵器の開発状況を、視察させていただきたく参りました」


「新型...兵器...?」


 レオンの頭の中が、混乱する。


(兵器?僕たちは、炎と大地の融合実験をしていただけなのに...)


「はい。床を溶岩化させる魔法。これは、城壁破壊に極めて有効な戦術兵器と思われます」


 使節団長の後ろで、技術顧問が熱心に頷いている。


「研究室の破壊跡を拝見しました。石の床が溶岩に変わるとは...兵器の威力は、間違いなく本物です」


 レオンは、慌てて手を振った。


「あ、いえ、あれは実験の失敗で...」


「失敗、ですか」


 使節団長の目が、鋭く光る。


「ということは、完成すれば、さらに強力になる...!」


(違う、そうじゃないんだけど...)


 レオンが説明しようとした瞬間。


 また扉が開いた。


「レオン様!セレスティア聖王国の大司教様がお見えです!」


 白い法衣を纏った大司教が、厳かに入ってくる。


「レオン様。神の炎と大地の祝福が、この研究室に降りたと聞きました」


「え、祝福...?」


「はい。炎と大地が調和する奇跡。これは、聖典に記された『二つの元素の融合』そのものです」


 大司教が、感動した表情で両手を広げる。


「神の御業が、ここに顕現されました。我々は、レオン様への支援を、さらに強化いたします」


 レオンの頭は、もう完全に混乱していた。


(神の御業って...ただの実験なんだけど...)


 そして、さらに。


「アルブレヒト王国商業ギルドです!」


「エメラルディア魔法学院の研究者です!」


 次々と、各国の使節団が押しかけてくる。


「床を溶岩に変える技術は、鉱山業に革命をもたらします!」


「論文を拝見したい。炎と大地の融合理論を、ぜひ学ばせてください!」


 レオンは、もう何も言えなくなっていた。


 フィルミナとテラは、研究室の隅で、ただ呆然としている。


(私たちが失敗して壊した床が...兵器?神の奇跡?鉱山技術?みんな、何を言っているの...?)


「あの...皆さん」


 レオンが、ようやく声を絞り出す。


「これは、ただの実験で...見学は大歓迎ですけど...」


「おお、極秘情報であるにも関わらず、公開してくださるとは!」


 使節団長が、感動した表情で頷く。


「これは、余裕の証...レオン殿下の研究は、既に完成段階にあるのですね」


(違う、全然違う...!)


 レオンの心の叫びは、誰にも届かなかった。


 研究室は、各国使節団の熱気で、すっかり満たされてしまった。


 フィルミナとテラは、お互いの顔を見合わせる。


「...フィルミナ」


「うん、テラ...私たち、何かすごいことしちゃったのかな...?」


「...分からない」


 二人の小さな呟きは、使節団の喧騒にかき消されていった。


 レオンは、ただ困惑した表情で、次々と押し寄せる質問に答え続けるしかなかった。


「え、皆さん、なぜそんなに興味が...?」


 レオンの純粋な疑問は、使節団たちには「謙遜」としか受け取られなかった。


 研究室の片隅で、溶けた床の跡が、静かに光っていた。


---


 夕暮れ時。


 ようやく使節団たちが帰り、研究室に静けさが戻った。


 レオンは、窓際で夕日を眺めている。オレンジ色の光が、研究室を優しく染めていた。


 フィルミナとテラは、今日一日の記録を整理していた。


「レオン様」


 フィルミナが、遠慮がちに声をかける。


「今日の実験は...成功、だったんですか?」


 レオンが振り向いた。その顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。


「もちろんだよ。フィルミナとテラ、二人の協力があったからこそ、炎と大地の融合に成功した」


「でも、床を壊しちゃって...」


「それも、大切な発見だったんだ」


 レオンは、記録ノートを開いた。


「炎と大地が完全に融合すると、石を溶岩に変えることができる。これは、理論上は不可能とされていた現象だよ。フィルミナとテラだからこそ、できたんだ」


 テラが、静かに尋ねた。


「...この発見、何に使える?」


 レオンは、少し考えてから答えた。


「正直、まだ分からない。でも、新しい発見は、いつも新しい可能性を開いてくれる。今日の実験から、僕たちはまた一歩前進したんだよ」


 フィルミナは、窓の外を見た。


 夕日が、アルケイオス大陸の空を美しく染めている。オレンジ色の空が、今日の実験で生まれた光と同じ色だった。


(失敗も、成功も、すべてが大切な一歩。レオン様は、そう教えてくれた。私も、もっと強くなりたい。レオン様と一緒に、新しいことに挑戦し続けたい)


「レオン様」


 フィルミナが、決意を込めて言った。


「私、もっと炎の制御を練習します。次は、もっと上手にできるようになりたいです」


 テラも、小さく頷く。


「...私も。大地の力、もっと学ぶ」


 レオンは、二人の言葉に優しく微笑んだ。


「ありがとう、フィルミナ、テラ。二人の成長が、僕の一番の喜びだよ」


 研究室に、温かい静寂が流れる。


 実験台の上には、今日の記録が丁寧にまとめられていた。三回の失敗と、一回の成功。その全てが、大切な宝物だった。


 窓の外では、夕日がゆっくりと沈んでいく。


 明日も、新しい実験が待っている。


 フィルミナとテラは、お互いに微笑み合った。


 今日の失敗も、成功も、二人で乗り越えた証だった。


 レオンは、窓際で夕日を見つめながら思った。


(炎と大地の融合。これは、六体共鳴への重要な一歩だ。フィルミナとテラが示してくれた可能性を、これからもっと探求していこう)


 研究室の床に残った、溶岩の跡。


 それは失敗ではなく、明日への足がかりだった。

第80話、お読みいただきありがとうございました。


フィルミナとテラの属性融合実験。三度の失敗を経て、ついに成功した二人の調和。失敗から学び、諦めずに挑戦し続けることの大切さが描かれました。


そして床を溶岩化させる「失敗」が、各国から戦術兵器や神の奇跡として注目される展開に。レオンはいつも通り、純粋に研究を楽しんでいます。


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