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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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第75話 宮廷音楽会と古代音叉

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

転生王子はスライムを育てたい第75話をお届けします。


音楽会への招待。そして地下で発見された古代音叉――六つの属性を統べる鍵が、ついに手に入りました。


お楽しみください!

 予言者との出会いから三日。情報を整理しながら、次の行動を考えていた。


「古代遺跡を探すには、まず手がかりが必要だ」


 研究ノートを見直す。光る植物、音楽のような風、そして予言者の言葉——全てが繋がっている気がするけど、まだ明確な糸口が掴めない。パズルのピースは揃いつつあるのに、完成図が見えない。もどかしい。


 その時、執事のセバスチャンが訪ねてきた。


「坊ちゃま、王宮から招待状が届いております」


「招待状?」


 受け取ると、金の縁取りがされた上質な紙だった。王家の紋章が刻印されている。丁寧な筆跡で、招待文が綴られている。


『第三王子レオン殿下へ

本日午後、王宮音楽堂にて特別演奏会を開催いたします。

ご臨席賜りますようお願い申し上げます。

王宮芸術局長 マエストロ・アンドレ』


「音楽会...か」


 最近、あまり芸術的な催しには顔を出していなかった。研究に没頭しすぎていたかもしれない。たまには違う刺激も必要だ。音楽——それは数学的な美しさと感情的な深みが融合した、不思議な芸術だ。周波数、リズム、ハーモニー——全てが物理法則に従いながら、心を揺さぶる。科学と芸術の交差点。興味深い。


「エオリア、一緒に行かないか?」


 音の魔法を使うエオリアなら、きっと楽しめるはずだ。彼女の感性が、また新しい発見をもたらすかもしれない。


「本当ですか!?わぁ、嬉しいです!音楽会!」


 エオリアが目を輝かせる。風が彼女の周りで喜びのように舞う。無意識に魔法を発動させている——感情と魔法の繋がりを、彼女は自然に体現している。


---


 午後、王宮音楽堂に到着した。


 壮麗な建物だ。高い天井、美しいステンドグラス、そして精巧な音響設計。壁の曲線、柱の配置——全てが音を最適に反響させるための計算された構造だ。古代の建築家たちは、音響学の天才だったのかもしれない。


「すごい...ここ、音が綺麗に響きそう」


 エオリアが周囲を見回す。彼女の耳が、微かな空気の振動まで捉えているようだ。風の魔法使いとして、音の伝播を敏感に感じ取っている。


「天井の形状が、音を拡散させる設計になってるんだ。残響時間も計算されてる」


「レオン様、詳しいですね」


「音も波動の一種だからね。物理学の応用だよ」


 席に着くと、すぐに演奏会が始まった。


 弦楽器の柔らかな音色が響く。バイオリン、ビオラ、チェロ——それぞれが異なる周波数帯を担当し、美しいハーモニーを奏でる。音楽は数学だ。周波数比、リズムパターン、和音の構造——全てが数式で表現できる。でも、数式だけでは説明できない何かがある。心を揺さぶる力——それは計算を超えた、人間の感性が生み出す奇跡だ。


 エオリアが目を閉じて聴いている。彼女の周りで、風が音に合わせて微かに揺れている。音と風——二つの波動が共鳴しているようだ。エオリアは音楽を聴いているだけじゃない。音楽と一体になっている。


「...綺麗」


 小さく呟く。その声には、深い感動が込められている。


 曲が進むにつれて、エオリアの反応が変わってきた。


 微かに眉を寄せる。首を傾げる。何かが気になっているようだ。


「どうした?」


 小声で聞く。


「レオン様...なんだか、変な音が聞こえます」


「変な音?」


 僕には普通の演奏に聞こえる。むしろ、素晴らしい演奏だ。音程も正確、リズムも安定している。


「演奏の音じゃなくて...建物から聞こえる音です」


 エオリアが床を指す。その指が微かに震えている。


「建物から...?」


 耳を澄ますが、僕には何も聞こえない。でも、エオリアの音に対する感度は、僕より遥かに高い。彼女が何かを感じ取っているなら、それは本物だろう。風の魔法使いとして、音の伝播を常に感じている——その能力は、人間の聴覚を遥かに超えている。


「共鳴してる音...すごく深いところから」


 エオリアが不思議そうに言う。目を閉じて、集中している。彼女の魔力が、音を探るように広がっていく——それが見えるような気がする。


「深いところ...地下か?」


「たぶん...でも、すごく綺麗な音なんです。まるで、全ての音が重なり合ってるような」


 演奏会が終わると、すぐに立ち上がった。


「ちょっと調べてみよう」


---


 会場を出て、音楽堂の管理人を探した。


「すみません、この建物の地下について教えていただけますか?」


 管理人は驚いた顔をする。白髪の老人で、この音楽堂に長年勤めているようだ。


「地下...ですか?確かに地下はありますが、もう何十年も使われていません」


「何があるんですか?」


「古い資料室です。昔の楽譜や、音楽に関する文献が保管されていますが...誰も行きませんよ」


 管理人が鍵を取り出す。錆びた古い鍵だ。長い間使われていなかったことが一目でわかる。


「案内していただけますか?」


「構いませんが...埃だらけですよ」


---


 地下への階段を降りる。石造りの狭い通路で、ひんやりとした空気が流れている。松明の灯りが壁に揺れる影を作る。まるで時間が止まったような、静寂の空間だ。


「ここです」


 管理人が重い木の扉を開ける。きしむ音が響く。


 中は確かに埃だらけだった。古い本棚が並び、黄ばんだ紙の束が積まれている。カビと古紙の匂いが鼻をつく。


「何十年も誰も来てませんからね...」


 管理人が苦笑いする。


 でも、エオリアが反応する。


「レオン様、あそこ!」


 部屋の奥を指差す。彼女の目が真剣だ。何かを見つけた——確信に満ちた表情だ。


 奥に進むと、古い木箱があった。表面には複雑な文様が刻まれている。見たことのない文字——いや、古代文字だ。予言者が言っていた「古き記憶」に関係しているかもしれない。埃を払うと、文様が月明かりのように浮かび上がる。魔力を帯びている——微かだけど、確かに魔素の気配がある。


「この箱...魔力を帯びてる」


 慎重に開ける。中には、銀色に輝く音叉があった。


 美しい。まるで星の光を固めたような、透明感のある輝き。表面には六つの紋章が刻まれている——炎、水、土、氷、風、光。六属性の象徴だ。


「これは...」


 手に取ると、ずっしりとした重みがある。ただの金属じゃない。魔導金属——古代の技術で作られた、特別な合金だ。


 エオリアが息を呑む。


「すごい...この音叉から、音が聞こえます」


「音?まだ鳴らしてないけど」


「でも、聞こえるんです。すごく美しい音が...」


 試しに音叉を軽く叩いてみた。


 瞬間、部屋中に澄んだ音色が響き渡った。


 それは、単なる音じゃなかった。まるで複数の音が完璧に重なり合って、一つのハーモニーを作り出しているような——倍音が美しく響き合う、神秘的な音色だ。


 音叉が、七色の光を放ち始める。虹のような、でもそれ以上に鮮やかな光だ。部屋全体が光に包まれる。埃っぽかった地下室が、突然、聖堂のように神聖な空間に変わった。


「なんだこれ...」


 驚きで言葉を失う。科学者として、これは説明がつかない。いや、説明はできるかもしれない——でも、その美しさは理論を超えている。


 エオリアが涙を流している。でも、悲しんでいるわけじゃない。感動で震えている。


「美しい...こんなに美しい音、初めて聞きました」


 音叉の音が消えると、部屋は再び静寂に包まれた。でも、空気が変わった気がする。まるで、何かが目覚めたような——古い記憶が呼び覚まされたような感覚だ。


「管理人さん、この音叉について何か知っていますか?」


 振り返ると、管理人が驚いた顔をしている。目を見開いて、音叉を見つめている。


「こんなもの、初めて見ました...いや、待てよ」


 管理人が古い書類を探し始める。埃まみれの棚から、黄ばんだ羊皮紙を取り出す。


「確か、古い記録に...ありました」


 羊皮紙には、古代文字で何かが書かれている。文字は薄れているが、かろうじて読める。


『六色の音叉。全ての属性を統べる者。

古代魔法の鍵。封印されし力の解放。

六つの心が一つになる時、真の音色が響く』


「これ...予言者の言葉と同じだ」


 心臓が高鳴る。「六つの心」「統べる者」「封印されし力」——全てが繋がっている。偶然じゃない。この音叉は、僕たちが探していた鍵だ。


「レオン様、これは...」


 エオリアが音叉を見つめる。彼女の目には、畏敬の念が浮かんでいる。


「おそらく、六体共鳴のための触媒だ。この音叉が、六つの属性を調和させる基準音を作り出す」


 管理人が首を傾げる。


「六体共鳴...?」


「ああ、それは...新しい魔法理論なんだ」


 詳しく説明するのは避けた。まだ研究中の内容だし、何より、この発見を他人に知られるのは早すぎる。


「この音叉、借りてもいいですか?」


「構いませんが...王宮の所有物なので、正式な手続きが必要です」


「わかりました。すぐに手続きします」


---


 屋敷に戻ると、すぐに研究室に向かった。


「フィルミナ、マリーナ、テラ、クリスタ、ルミナ、エオリア。集まってくれ」


 六人が揃うと、音叉を見せた。


「これが、古代音叉だ」


 六人が驚いて音叉を見つめる。


「綺麗...」


 ルミナが呟く。光の魔法使いとして、音叉の輝きに反応しているようだ。


「この音叉には、六つの属性の紋章が刻まれている。炎、水、土、氷、風、光——君たちを象徴している」


 フィルミナが真剣な表情で聞く。


「レオン様、これは何のためのものですか?」


「おそらく、六体共鳴のための基準音を作り出す装置だ。この音叉が鳴らす音に合わせて、君たちの魔力を共鳴させることができるかもしれない」


 試しに音叉を鳴らしてみた。


 澄んだ音色が響く。そして、音叉から七色の光が放たれる。


 瞬間、六人の体が微かに光り始めた。それぞれの属性の色——赤、青、茶、白、緑、金。六色の光が、音叉の光と呼応している。


「すごい...体が温かい」


 フィルミナが驚く。


「私も...なんだか力が湧いてくる」


 マリーナが笑顔になる。


「共鳴してる...」


 テラが呟く。


「音叉の周波数が、君たちの魔力と共鳴してるんだ」


 興奮が抑えられない。これだ。これが、六体共鳴への鍵だ。予言者の言葉、古代遺跡、そしてこの音叉——全てが繋がった。パズルのピースが、ついに一つの絵を形作り始めた。


「でも、まだ完全じゃない。六体共鳴を成功させるには、もっと条件が必要だ」


 ノートを開いて、仮説を書き出す。


**六体共鳴の条件(改訂版)**


1. 六人の心が一つになること

2. 古代遺跡での実施(場所的条件)

3. 古代音叉による基準音の提供

4. 正確なタイミングと魔力制御


「次は、古代遺跡を探さないと」


 フィルミナが頷く。


「私たち、頑張ります」


「うん。でも、焦らなくていい。一つずつ、確実に進めよう」


 六人が笑顔で頷く。その笑顔が、僕の不安を消してくれる。一人じゃない。仲間がいる。だから、どんな困難も乗り越えられる——そう確信できる。


---


 その夜、各国の諜報員たちは混乱していた。


 ガルヴァン(神聖騎士団)が震える手で報告書を書く。


「王宮音楽堂の地下から、古代の武器が発見された!」


「音を武器に変える魔導具!七色の光は属性攻撃の証拠!」


「第三王子、音響兵器の開発に着手!」


「全軍に通達!音波防御の訓練を開始せよ!」


---


 メルキオール(聖教国神官)が興奮して祈りを捧げる。


「神の声を聞く聖具が発見された!」


「七色の光は神の啓示!王子は神の代理人!」


「全信徒に通達!音叉の奇跡を讃えよ!」


---


 チェン・ロン(東方連合商会)が算盤を弾く。


「古代の美術品!希少価値は計り知れない!」


「音楽会への招待は、文化財のマーケティング!」


「王子は文化ビジネスも展開する気だ!」


「全商隊に通達!音楽関連商品の開発を急げ!」


---


 学術国の学者たちが論文を書き始める。


「古代音響学の最重要資料!」


「六属性共鳴理論の実物証拠!」


「これは学術史上最大の発見だ!」


「新しい賞の設立を提案する!」


---


 一方、レオンは——


「ただ音楽会に行っただけなんだけど...」


 古代音叉を見つめながら、首を傾げていた。


「でも、確かにこれは重要な発見だ」


 フィルミナたちが興味津々で音叉を見ている。


「次は遺跡探しだね!」


 マリーナが元気に言う。


 世界が騒ごうとも、レオンたちは知らない。


 各国が音響兵器の防衛策を練り、宗教団体が巡礼計画を立て、商人たちが新商品を開発しようとも——。


 その温度差が、また一つ広がった。


 そして、古代遺跡への道が、少しずつ見えてきた。

第75話、お読みいただきありがとうございました。


古代音叉の発見。六体共鳴への鍵がついに手に入りました。予言者の言葉、市場での情報、そして今回の発見――全てが繋がり始めています。


次回は古代遺跡の探索へ!テラの大地感知が活躍します。


感想やご意見、お待ちしております。

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