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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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第63話 古代文献の謎

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

転生王子はスライムを育てたい第63話をお届けします。


第7章開始。第6覚醒個体の手がかりを掴んだレオンたち。みんなで力を合わせて古代文献の暗号を解読します。


お楽しみください!

【研究ノート・第6覚醒個体調査】


シグレから受け取った古代文献を解読中。

この記号体系は現代魔法学と根本的に異なる。

前世の暗号理論が反応している...換字式暗号に似てる。

でも、みんなと協力すれば必ず解ける。

ワクワクが止まらない。科学者としての血が騒ぐ。


---


 祭りの余韻が静かに落ち着いた翌朝。


 研究室には柔らかな朝日が差し込んでいた。レオンの机には、シグレから託された古代文献が広げられている。羊皮紙の表面には、見慣れない記号が整然と並んでいた。


「レオン様、おはようございます」


 フィルミナが優雅な所作でお茶を差し出す。その動きは、いつの間にか完璧な淑女のものになっていた。


「ありがとう、フィルミナ」


 レオンはカップを受け取りながら、再び文献に視線を戻した。


「これは...」


 指先で記号をなぞる。前世で見た暗号の教科書を思い出す。換字式暗号、ヴィジュネル暗号、多段階置換...様々な知識が脳裏をよぎった。前世では一人で解読していた暗号も、今はこうして仲間と共に挑める。その事実が、レオンの胸に静かな喜びを満たしていく。孤独だった前世の研究室と、温かな仲間に囲まれた今との違い。それは単なる環境の変化ではなく、人生そのものの質の変化だった。レオンは深呼吸をして、改めて文献に向き合う。この挑戦を、仲間と共に楽しもう。


「シグレさんが言ってた。500年前の封印遺跡に関する記録らしい」


「第6覚醒個体の手がかり...」


 マリーナが興味津々で羊皮紙を覗き込む。


「この記号、何て書いてあるの?」


「それを今から解読するんだ」


 レオンは前世の記憶を辿る。シーザー暗号、単一換字式、多表式...暗号理論の基礎が次々と蘇ってくる。


(この配列...規則性がある。前世で学んだ暗号解読の知識が使えるかもしれない)


 テラが静かに隣に座った。


「...手伝う。私の大地の記憶、役立つかも」


「ありがとう、テラ」


 クリスタが窓際から歩み寄ってくる。


「300年前、私の時代にも似た記号体系がありました。お役に立てるかもしれません」


「私も!」


 エオリアが優雅に微笑む。


「500年の記憶...何か思い出せるかもしれませんわ」


 リヴィエルが剣を磨きながら頷いた。


「坊ちゃまが必要とするなら、私にもできることがあるはずだ」


 みんなが自然と円卓に集まる。それぞれの目に、協力の意志が宿っていた。


「みんな...ありがとう」


 レオンの胸が温かくなる。


(こんなに頼れる仲間がいる。前世では考えられなかった)


 全員での研究会が始まった。


---


「ねえ、みんな。この記号、どう思う?」


 レオンは羊皮紙を広げて尋ねる。


「規則性がありそう?」


「あ、この記号、何度も出てくる!」


 マリーナが指差す。


「本当だ」


 レオンは記号の数を数え始める。


「前世では、こうやって文字の出現頻度を調べたんだ。よく出る記号は、重要な意味を持つことが多い」


「レオン様、これは統計的手法ですか?」


 シグレが興味深そうに覗き込む。彼女は朝早くから研究室に顔を出していた。


「そう!みんなも一緒に数えてくれる?」


 全員で記号を数える。レオンが羊皮紙に頻度表を書き込んでいく。


「この記号が一番多いね」


 フィルミナが指摘する。


「うん。単純な暗号なら、これで解ける。でも...」


 レオンは眉をひそめた。


「シグレさん、魔素の流れを感じませんか?」


「ええ...記号の配置が、魔素の流れで変化しているようです」


「やっぱり」


 レオンは頷く。


「つまり、段階ごとに鍵が変わる複雑な暗号だ。一段階目を解いても、二段階目は別の鍵が必要になる」


「難しそう...」


 マリーナが不安そうな顔をする。


「大丈夫。みんなの能力があれば、きっと解ける」


 レオンは仲間たちを見回す。


「それぞれの記憶や力が、暗号を解く鍵になるはずだ。一緒に挑戦してみよう」


---


 テラが羊皮紙に手を触れた。


「...この記号、1000年前の記録と同じ」


 目を閉じ、大地の記憶を引き出す。


「文字の形が似ている...第1段階の鍵...『大地』」


「大地!」


 レオンが目を輝かせる。


「そうか、第1段階は五つの属性が鍵なんだ」


(属性が鍵...魔法理論と暗号理論の融合だ)


 クリスタが300年前の記憶を辿る。


「この部分は『光を求める者』という意味...私の時代にもあった表現ですわ」


「第2段階の鍵は...『光と闇』」


「光と闇...」


 レオンは頷く。


「二元論か。これは哲学的な鍵だ」


(属性から哲学へ...暗号の構造が見えてきた)


 エオリアが風を操る。記号の周囲に魔素が揺らぐ。


「記号の配置が魔素の流れに対応している...これは魔導陣の一種ね」


「第3段階の鍵は...『五つの調和』」


「五つの調和...」


 レオンの目が輝く。


「五つの属性が調和する状態を表しているのか」


(大地、光と闇、五つの調和...暗号の階層構造が明らかになってきた)


 マリーナが水を羊皮紙にかざす。すると、隠れていた文字が浮かび上がった。


「あ、見えた!隠れてた文字があったよ!」


「第4段階の鍵は...『水の記憶』だよ!」


「水の記憶...」


 レオンは驚きの声を上げる。


「過去の情報を保持している水の性質を利用した鍵か」


(水の記憶保持性...これも科学的な概念だ)


 フィルミナが白い炎を羊皮紙にかざす。古代のインクが可視化される。


「ここにも何か書いてあります」


「最終段階の鍵は...『炎の意志』ですわ」


「炎の意志...」


 レオンの胸が高鳴る。


「創造と破壊の力。暗号の核心部分だ」


(五つの鍵が揃った。大地→光と闇→五つの調和→水の記憶→炎の意志)


 リヴィエルが羊皮紙の端に刻まれた紋章を指差す。


「この記号、古代騎士団の紋章に似ている」


「これは...封印を解く順序を示している」


「封印の順序...」


 レオンは全ての情報を統合する。


「つまり、五つの鍵を正しい順序で適用しないと解けないのか」


---


 レオンは深呼吸をする。


「大地→光と闇→五つの調和→水の記憶→炎の意志...この順序で置換すれば...」


 ペンを走らせ、計算を進める。記号が文字に変換されていく過程で、レオンは不思議な高揚感に包まれた。これは単なる暗号解読ではない。前世の科学知識と現世の魔法理論が、まるで二つの川が合流するように一つになっていく。それぞれ異なる体系だったものが、融合することで新しい可能性を生み出す。この感覚こそが、レオンが追い求めてきた「真の科学魔法」だ。そして今、仲間たちと共にその扉を開こうとしている。


 記号が次々と文字に変換されていく。


 最後の記号を解読した瞬間、羊皮紙が淡く光った。


「解けた...!」


 全員が歓声を上げる。


 文字が浮かび上がる。古代文字が、現代語に翻訳されて表示された。


「これは...」


 レオンが声を震わせる。


「『光の封印』...第6覚醒個体は光属性と推測される」


 シグレが頷く。


「封印されている可能性が高いですね」


 クリスタの表情が曇る。


「私も300年間氷漬けでした。封印は...辛いものです」


「一人で待っているなんて...」


 フィルミナが涙ぐむ。


「可哀想...早く助けてあげたいです」


 レオンは文献をさらに読み進める。


「遺跡の座標が記載されている。帝都から北東、光の森の奥...」


 指で地図上の位置を確認する。


「ここだ。明日、みんなで行こう」


「「「「「「はい!」」」」」」


 仲間たちが力強く答えた。


(第6覚醒個体...きっと一人で寂しかったはずだ。一刻も早く会いに行こう)


 レオンの胸に、温かい決意が満ちていく。


---


 同じ頃、研究室の外では。


 ガルヴァンが双眼鏡で研究室を観察していた。炎龍騎士団長としての任務だ。


「第6戦力の情報を解読完了...これは一大事だ!」


 彼は急いで報告書を作成する。


『アルケイオス帝国、第6覚醒個体の座標を特定』


『明日、戦力獲得作戦を実行予定』


『七体体制が実現すれば、世界の軍事バランスが崩壊』


 報告書を各国に送信する。


 炎龍騎士団本部では、緊急会議が招集された。


「第6だと!?これは戦争の前触れか!」


「即座に迎撃部隊を編成せよ!世界情勢を揺るがす事態だ!」


 幹部たちが青ざめた顔で指示を飛ばす。


 聖教国でも、大司教メルキオールが天を仰ぐ。


「ついに...神の啓示が現実となる。第6の光が降臨する...」


 彼は祈祷室で跪き、聖典を開く。


「これは世界の転換点だ。女神よ、我らに導きを...!」


 司祭たちが一斉に祈りを捧げ始める。


 東方連合では、会頭チェン・ロンが冷静に分析する。


「第6戦力の獲得競争が始まる...我々も動かねば」


 彼は商人らしい計算高い目つきで地図を睨む。


「全商隊に指令を。帝国の動きを監視せよ。この情報、金になる」


 世界中が、レオンの「学術調査」を「戦力獲得作戦」と解釈していた。


 でも、当の本人は全く気づいていない。


---


 夜、みんなで明日の準備をする。


 リヴィエルが剣を手に取り、丁寧に刃を磨き始める。坊ちゃまを守る。それが自分の全て。明日も、どんな危険からも守り抜く。その決意を込めて、剣を磨く。


「坊ちゃま、装備は私が準備します」


 フィルミナが台所から大きな籠を持ってくる。明日は遠出。お弁当をたくさん作らなければ。新しい仲間のためにも。期待と責任感が、彼女の心を満たしていた。


「お弁当作ります!」


 マリーナが窓辺で星を眺めながら、明日への期待に胸を膨らませる。遺跡探索、新しい仲間。楽しいことがいっぱい待っている。


「遠足みたい!楽しみ!」


 テラが地図を広げ、静かに経路を確認する。大地の記憶が、道筋を教えてくれる。みんなを安全に導くために。


「...地図、確認」


 クリスタが防寒具を丁寧に畳む。300年前の経験から、準備の大切さを知っている。何があっても、レオン様を守りたい。


「私も防寒具を用意しましょう」


 エオリアが優雅に微笑みながら、風の流れを確認する。明日の天気は良好。みんなで楽しい冒険ができる。


「風で偵察もできますわ」


 レオンは準備に励む仲間たちを見回し、胸が温かくなる。みんな、自分のためにこんなに頑張ってくれている。


「みんな、ありがとう」


「明日は最高の冒険になるよ」


 全員が笑顔で頷いた。


 マリーナが目を輝かせながら、明日の予定を想像している。遺跡探索、新しい仲間との出会い、そして...また新しい発見があるかもしれない。前世では一人で研究に没頭していたレオンも、今はこうして仲間と共に冒険に出かける。その事実が、彼女にはとても嬉しかった。きっと明日は、忘れられない一日になる。そう信じて、マリーナは準備を続ける。


 窓の外、星空が輝いている。


 仲間たちのシルエットが、月明かりに照らされていた。


(こんなに頼れる仲間がいる。何も怖くない)


 明日への期待と、仲間への信頼。


 それが、レオンの胸を満たしていた。


---


 遠く離れた各国の首都では、緊急警戒態勢が敷かれていた。


 でも、帝都の研究室では。


 レオンと仲間たちが笑顔で、遠足の準備をしていた。


 この温度差が、いつか大きな誤解を生むことになる——。


 でも今は、誰もそれに気づいていない。


 静かな夜、みんなは明日への期待に胸を膨らませていた。

第63話、お読みいただきありがとうございました。


五つの鍵による段階的な暗号解読。前世の知識と仲間たちの力が融合する場面です。


次回は遺跡への冒険が始まります。


感想やご意見、お待ちしております。

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