第57話 研究室の日常風景
【研究ノート・共同研究体制観察】
みんなが自然に役割分担している。フィルミナのサポート、マリーナの実験補助、テラの記録...まるで一つの有機体のように機能する研究室。これが「チーム」というものか。一人では絶対に辿り着けなかった境地だ。
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朝日が研究室の窓から差し込む。
レオンが扉を開けると、すでにフィルミナが資料を整理していた。
「おはようございます、レオン様。お茶をどうぞ。今日の資料もこちらに整理しました」
優雅な動作で淹れたお茶の湯気が、朝の光に揺れる。
「ありがとう、フィルミナ。いつも完璧だね」
レオンが笑顔で受け取ると、フィルミナが嬉しそうに微笑んだ。
マリーナが元気よく駆け寄ってくる。
「おはよう、レオン!実験道具、全部準備できたよ!今日は何を実験する?」
テーブルに並べられた器具が、朝日に反射してきらめく。マリーナの瞳も同じように輝いていた。
「今日はスライムの成長記録だね。マリーナのおかげで準備が早い」
マリーナがワクワクした表情で頷く。
「レオンと一緒なら何でも楽しい!」
テラが静かに古代文字のノートを開く。
「...記録、準備完了」
几帳面に並んだ古代文字が、テラの静かな性格を表していた。
クリスタが結晶化したサンプルを持ってくる。
「この前の結果、結晶化して保存しておいたわ。長期観察に使えると思うけど」
透明な結晶に閉じ込められた魔素が、淡く光っている。
「素晴らしい!そうか、結晶化すれば劣化を防げるんだ」
レオンの喜びに、クリスタが静かに微笑んだ。
エオリアが風魔法で窓を開ける。
「換気も大事だよね!」
爽やかな朝の風が研究室を吹き抜け、心地よい空気が満ちる。
リヴィエルが部屋の隅で剣を磨きながら、全体を見守っている。
「今日も一日、しっかり守る」
いつもの場所で、いつものように。でもその視線は優しかった。
レオンがみんなを見渡し、心からの笑顔を浮かべる。
「みんながいてくれるから、研究が本当に楽しい。ありがとう」
その言葉に、みんなが嬉しそうに笑った。
指示なしで動く七人。まるで長年の仲間のような息の合った動き。
朝の研究室に、温かい空気が流れていた。
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それぞれが役割を果たす。
でもそれは、単なる作業ではなかった。
フィルミナが資料を整理しながら、心の中で呟く。
(レオン様の研究を成功させたい。それが私の全て)
レオンの役に立つこと。それが何よりの喜びだった。
丁寧に資料を並べ、必要なものをすぐに取り出せるよう準備する。完璧なサポート。それがフィルミナの愛の形だった。
マリーナが実験道具を点検しながら、笑顔になる。
(一緒に何かを作る、発見する...このワクワク感が好き)
実験が成功した時のレオンの笑顔。新しい発見に目を輝かせる姿。それを見られるだけで幸せだった。
マリーナは実験が成功するたびに、レオンと一緒に喜んだ。失敗しても笑い合える。その時間が、何より大切だった。
テラが記録用のノートを開き、静かに魔力を集中させる。
(...レオンの側にいるだけで、満たされる)
言葉は少ない。でも、レオンの研究を見守り、記録し続ける。それがテラの役割であり、幸せだった。
テラは言葉少なに、でも確実にレオンの側にいた。必要な時に必要なものを差し出す。それだけで、満たされていた。
クリスタが結晶化サンプルを確認しながら、考える。
(自分の知識が役立つ...こんな喜びは300年間なかった)
長い孤独の中で蓄えた知識。それがレオンの研究に活きている。理解され、評価され、必要とされる。
クリスタは自分の知識が活きるたびに、胸が温かくなった。300年の孤独は、この瞬間のためにあったのかもしれない。
エオリアが風を感じながら、微笑む。
(この場所が、私の居場所。500年待った価値があった)
ここにいていい。みんなと一緒にいられる。それが何より嬉しかった。
自然に協力し、笑顔で過ごす。それがエオリアの愛の形だった。
五人の想い。形は違えど、根っこは同じ。
レオンへの愛。
でも、当の本人は全く気づいていない。
「みんな、今日も本当にありがとう」
レオンが自然な笑顔で言う。
その無邪気さに、五人は微笑んだ。
(レオンは...本当に気づかないのね)
(でも、それがいいのかも)
(今は、この幸せな時間を大切にしよう)
研究室に、静かな充実感が満ちていた。
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昼過ぎ、研究室のドアがノックされた。
「レオン殿下、よろしいでしょうか」
ガルヴァンの声。
レオンが首を傾げながら答える。
「どうぞ」
ガルヴァンが入ってきた。その後ろに、見慣れない服装の男たちが三人。
「各国の使節の方々が、殿下の研究体制を視察したいとのことで」
レオンが困惑する。
「え?研究体制の視察?」
使節たちが真剣な表情で研究室を見回す。
白髪の老使節が、長年の経験を踏まえた目で感心したように頷く。
「噂には聞いていたが...これが帝国の新しい統治モデルか」
若い書記官が、震える手で熱心にメモを取る。
「完璧な役割分担。指示なしで動く組織...」
恰幅のいい使節が、興奮で顔を紅潮させながら言う。
「これは我が国でも導入すべきだ」
レオンが首を傾げる。
(統治モデル?ただみんなで研究してるだけなんだけど...)
ガルヴァンがホワイトボードを取り出し、真剣に説明を始める。
「これが帝国の新しい統治モデルです。完璧な役割分担と指示なしで動く組織。それぞれが自発的に動き、全体として調和する...」
図を描きながら熱弁するガルヴァン。使節たちが感動してメモを取る。
フィルミナが笑顔でお茶を淹れながら、内心で呟く。
(これが私たちの日常ですから...でも、統治モデルではないんだけどな)
マリーナが天然に本音を言ってしまう。
「レオンと一緒だから楽しいだけだよ?」
使節たちが驚愕する。
「深い...この言葉の裏に深い戦略が...」
「トップへの忠誠心を自然に引き出す手法...恐るべし」
レオンが困った表情になる。
「あの...ただ研究を楽しんでるだけで...」
ガルヴァンが即座に説明を追加する。
「殿下の謙遜です。この謙虚さこそが、組織の自発性を引き出す要因なのです」
白髪の老使節が涙ぐみながらメモを取る。
「素晴らしい...我が国の王にも学んでいただきたい」
若い書記官が真剣に頷く。
「帰国したら即座に報告書を作成します」
恰幅のいい使節が興奮して言う。
「この視察は歴史的な意義がある」
みんなが苦笑する。
テラが古代文字でメモを取りながら「...面白い。記録する価値がある」と呟いた。クリスタは腕を組み、「300年前にも似たような誤解があったわ。人は変わらないものね」と苦笑した。
エオリアが笑いながら言う。
「まあ、みんなが喜んでるならいいんじゃない?」
リヴィエルがため息をつく。
「殿下の日常が、また外交カードになってる...」
レオンが諦めた表情で微笑む。
(説明しても無駄かな...)
(まあ、害はないし、このままでいいか)
使節たちは一時間ほど熱心に観察し、大量のメモを取って帰っていった。
その報告書は各国の首脳部を震撼させ、「帝国の新統治理論」として警戒されることになる。
しかし、当のレオンたちは何も知らず、いつも通り研究を続けているだけだった。
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夕方。
使節たちが帰った後、七人でお茶の時間。
テーブルを囲んで、和やかな空気が流れる。
レオンが苦笑しながら言う。
「今日も大変だったね。使節の人たち、すごく真剣だったけど...」
マリーナが笑顔で答える。
「でも、楽しかったよ!みんなで一緒だと、何でも楽しい!」
テラが静かに、でも心から呟く。
「...毎日が、幸せ」
フィルミナが優しく微笑む。
「そうね。こんな日常が、ずっと続けばいいのに」
オレンジ色の夕日が窓から差し込み、七人を照らす。
温かい光。温かい空気。
レオンがみんなを見渡し、自然に、でも心を込めて言う。
「みんな、ありがとう。本当に...家族みたいだ」
一瞬、時が止まったように静寂が訪れる。
みんなが驚き、そして——
じんわりと、笑顔が広がる。
クリスタが涙ぐみそうになりながら微笑む。
「家族...そうね、家族」
マリーナが嬉しそうに頷く。
「家族!うん、家族だね!」
テラが静かに、でも嬉しそうに呟く。
「...家族」
フィルミナが優しく微笑む。
「はい。家族です、レオン様」
エオリアが涙を浮かべながら笑う。
「家族...そう言ってもらえて、嬉しい」
リヴィエルも小さく笑った。
「家族か。悪くない」
夕日が七人を照らす。
言葉にしなくても分かる。この温かさ。この一体感。
これが家族。
レオンの無邪気な一言が、みんなの心に深く刻まれた。
オレンジ色の光に包まれた研究室。
七人の笑顔が、夕日の中で輝いていた。
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夜。
研究室は静寂に包まれていた。
フィルミナが一人、窓辺に立っている。
月明かりが彼女の横顔を照らす。
(家族...か)
心の中で、静かに呟く。
(レオン様に、そう言っていただけるだけで...幸せ)
でも、心の奥に小さな想いもある。
(でも、いつかは...この想いも、伝えられるといいな)
恋と家族。その境界は曖昧で、複雑。
でも今は、それでいい。
「ふふ...今は、この幸せな時間を大切にしよう」
フィルミナが声に出して微笑む。
窓の外には、満天の星空。
静かな夜に、優しい光が降り注いでいた。
新しい日常。
家族としての絆。
それは、これからもずっと続いていく——
第57話、お読みいただきありがとうございました。
研究室の日常風景、お楽しみいただけましたか?「家族」という言葉が、みんなの心に響いた回でした。
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