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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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第56話 エオリアの新生活

【研究ノート・エオリア観察記録】


エオリアの自由奔放な行動は、500年の抑圧からの解放の証だ。朝の屋上での日光浴、市場での笑顔、子どもたちとの交流——全てが「生きている」喜びの表現に見える。科学者として観察対象だが、友人として...彼女の幸せが嬉しい。


---


 エオリアとの生活が始まって数日。


 レオンが研究室の窓から外を見上げると、屋上に人影があった。


「あれは...」


 青緑色の長い髪が朝日に輝き、風になびいている。エオリアが屋上の縁に腰を下ろし、両手を広げて朝の風を全身で感じていた。


「気持ちいい...」


 エオリアが目を閉じ、幸せそうに微笑む。


 500年間、風すら自由に感じられなかった。檻の中で、ただ時が過ぎるのを待つだけだった。


 でも今は違う。


 風が髪を撫で、朝日が肌を温める。空が近くて、世界が広い。


(これが...自由)


(500年待った甲斐があった)


 エオリアの心が、温かい光で満たされる。


 レオンが窓を開けて呼びかけた。


「おーい、エオリア!朝ごはんだよ!」


 エオリアがくるりと振り向き、満面の笑みで手を振る。


「あはは、今行く!」


 ふわりと浮き上がり、風に乗って屋上から降りてくる。優雅な動きに、レオンが見惚れた。


 フィルミナが食堂で朝食の準備をしながら、微笑む。


「もう...相変わらず自由ね、エオリア」


 マリーナが嬉しそうに頷く。


「でも、エオリアの笑顔って見てるだけで幸せになるよね」


 テラが小さな声で「...エオリアの笑顔、好き」と呟いた。クリスタは結晶を取り出し、「この幸せな瞬間を保存しておくわ」と微笑んだ。


 エオリアが風に乗って窓から入ってくる。


「おはよう、みんな!」


 その笑顔に、みんなが自然と笑顔になった。


 リヴィエルが深くため息をつく。


「護衛として心臓に悪い...もう少し地上を歩いてくれると助かるんだけど」


 エオリアが悪戯っぽく笑う。


「でも、風に乗る方が早いもの」


 レオンが笑いながら言う。


「エオリアが楽しそうで何より。自由に過ごしてね」


 エオリアが頷き、幸せそうに微笑んだ。


---


 昼過ぎ。


 エオリアがマリーナと一緒に市場に行くことになった。


「500年ぶりの買い物!」


 エオリアが目を輝かせる。


 マリーナが楽しそうに手を繋ぐ。


「一緒に選ぼうね!」


 市場に着くと、屋台が並び、賑やかな声が響いていた。色とりどりの布、美味しそうな食べ物、見たことのない道具たち。


 エオリアが店から店へ駆け回る。


「これも、あれも、全部欲しい!500年分の買い物を今!」


 マリーナが笑いながら手を引く。


「エオリア、落ち着いて!ちゃんと選ぼう?」


 屋台のおばさんがエオリアに気づく。


「あ!風の女神様!」


 瞬く間に噂が広がり、民衆が集まってくる。


「本当だ!エオリア様が市場に!」


「風の女神様、ようこそ!」


 屋台のおばさんが興奮気味に布を差し出す。


「これどうぞ!サービスです!」


 果物屋のおじさんも果物を山盛りに差し出した。


「こちらも!新鮮なリンゴです!」


 エオリアが困惑する。


「えっ、いいの?ありがとう!でもちゃんとお金払いたいんだけど...」


「いえいえ、女神様に差し上げるのは光栄です!」


 民衆の善意に、エオリアが戸惑いながらも嬉しそうに微笑む。


(みんな、優しい)


(普通に接してくれる)


(これが...人との繋がり)


 マリーナがエオリアの腕を取り、笑顔で言う。


「みんな、エオリアのこと好きなんだね」


 エオリアが頷き、温かい気持ちになった。


 その様子を、柱の陰から見ている人影があった。


 ガルヴァン。


 彼は真剣な表情でメモを取っている。


(これは...新たな外交カード)


(民心掌握の完璧なデモンストレーション)


(レオン殿下の戦略は恐るべし)


 ガルヴァンの報告書には「風の女神による民間交流作戦」と記載されていく。


 しかし、当のエオリアはただ楽しそうに買い物をしているだけだった。


---


 市場の広場で、子どもたちがエオリアに駆け寄ってきた。


「風の女神様!」


「風の魔法見せて!」


 5人ほどの子どもたちが目を輝かせている。


 エオリアが笑顔で膝をつく。


「いいわよ!みんな、準備はいい?」


 子どもたちが一斉に頷く。


 エオリアが優しく手を広げると、淡い青緑色の風魔法陣が輝いた。


 ふわり——


 子どもたちが優しく空中に浮き上がる。


「わー!」


「飛んでる!」


「すごーい!」


 子どもたちが大喜びで手足を動かす。エオリアが風を操り、子どもたちを空中でゆっくりと回転させた。


「もっと高く!」


「くるくる回して!」


 エオリアが笑顔で応える。


「はい、気をつけてね」


 子どもたちが空中で笑い、手を振る。その純粋な笑顔に、エオリアの心が温かくなった。


(みんなと一緒って、こんなに楽しいんだ)


(500年間、知らなかった)


(この幸せを...ずっと待っていた)


 エオリアの目に、涙が浮かぶ。


 でも、それは悲しみの涙ではなく、幸せの涙だった。


 周囲の民衆が感動して見守る。


「これぞ風の女神の慈愛!」


「子どもたちを愛する優しさ!」


 母親たちが涙ぐみながら見ている。


「ありがとうございます、女神様...」


 エオリアが子どもたちをそっと地面に降ろす。子どもたちが笑顔でエオリアに抱きつく。


「ありがとう!」


「また遊んでね!」


 エオリアが子どもたちの頭を優しく撫でる。


「うん、また一緒に遊ぼうね」


 その言葉に、子どもたちが大喜びした。


 マリーナがエオリアの隣に来る。


「エオリア、優しいね」


 エオリアが微笑む。


「みんなの笑顔を見ると、私も幸せになる」


 民衆の歓声が広場に響く。


 エオリアは少し困惑しながらも、子どもたちの笑顔を見て幸せを感じていた。


(ただ遊んでるだけなのに...でも、これでいいのかな)


(みんなが笑顔なら、それが一番大切)


 ガルヴァンは柱の陰でさらにメモを取る。


(次世代育成戦略...)


(子どもから民心掌握...恐るべき長期戦略)


 報告書に新たな一文が追加されていく。


---


 夕方、レオンの研究室。


 エオリアが興奮気味に飛び込んでくる。


「レオン!今日はすごく楽しかった!」


 レオンが微笑む。


「それは良かった。何をしてきたの?」


 エオリアが目を輝かせて報告する。


「子どもたちと遊んで、市場で買い物して...!みんな優しくて、たくさん笑って...」


 その笑顔に、レオンが温かい気持ちになる。


「自由に過ごせるのが一番だよ。エオリアが楽しそうで嬉しい」


 エオリアが真剣な表情でレオンを見つめる。


「レオンと出会えて、本当に幸せ。ありがとう」


 レオンが自然な笑顔で答える。


「僕も、みんなと一緒で楽しいよ。これからもずっと一緒だね」


 その無邪気な言葉に、エオリアの心が温かくなった。


(レオンは...本当に優しい)


(特別なことをしている自覚もなく、ただ友人として...)


(この人と出会えて、運命だと思う)


 フィルミナがお茶を淹れながら、小声でマリーナに言う。


「レオン様...相変わらず無自覚ね」


 マリーナが微笑む。


「でも、そういうところが好き」


 クリスタが腕を組みながら「300年見てきたけど、これほど天然な王子は初めてよ」と苦笑した。テラは静かにレオンを見つめ、「...でも、だから好き」と小さく呟いた。


 リヴィエルが苦笑しながら腕を組んだ。


「まあ、それが殿下だからな」


 研究室に温かい空気が流れる。


 その頃、別室でガルヴァンが報告書を仕上げていた。


『風の女神を完全に取り込んだ帝国——各国への警告』


 報告書は各国の情報機関に送られ、警戒レベルが最高に引き上げられた。


 しかし、当のレオンは何も知らず、みんなと楽しく研究をしているだけだった。


---


 夕暮れ時。


 七人が屋上に集まっていた。


 オレンジ色の夕日が空を染め、長い影が伸びていく。


 エオリアが不安そうに、でも期待を込めてレオンに尋ねた。


「レオン...これからも、一緒にいていい?」


 レオンが笑顔で答える。


「当然だよ。もう仲間だから。いや、家族かな」


 エオリアが目を見開く。


「家族...」


 涙が頬を伝う。


 でも、それは幸せの涙だった。


「ありがとう...レオン。みんな」


 フィルミナが優しくエオリアの肩を抱く。


「ずっと一緒よ、エオリア」


 マリーナが手を繋ぐ。


「家族だもんね!」


 テラがそっとエオリアの手を握り、「...私も、嬉しい」と囁いた。クリスタは結晶を空にかざし、「この夕日と、この気持ち、永遠に残しておくわ」と微笑んだ。リヴィエルが小さく笑った。


 七人が並んで夕日を見る。


 オレンジ色の光が七人を照らし、温かい空気が流れていた。


 エオリアが心の中で呟く。


(500年待った甲斐があった)


(もう一人じゃない)


(私には...家族がいる)


 レオンが空を見上げる。


(みんなが笑顔でいてくれる)


(それが一番大切だ)


(前世では得られなかった、この温かさ)


 七人の影が長く伸び、重なり合っていた。


 新しい日常が、今、始まっていた。

第56話、お読みいただきありがとうございました。


エオリアの新生活、いかがでしたか?500年の孤独を経て、ようやく手に入れた自由と仲間。これからの日々が楽しみです。


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