表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/68

第55話 新たな調和と次の旅

 名誉回復から数日後。


 帝都の朝は賑やかだった。市場には人々の声が響き、商人たちが元気よく呼び込みをしている。


 レオンは研究室の窓から外を眺めていた。すると——空に人影が見えた。


「あれは…エオリア?」


 青緑色の髪が風になびき、エオリアが空中を浮遊している。屋根の上に腰を下ろし、気持ちよさそうに日光浮をしていた。


「気持ちいい〜」


 エオリアが満面の笑みで空を見上げる。


 屋根の下では侍女たちが慌てふためき、必死に手を振っていた。


「エオリア様、危険です!降りてきてください!」


「落ちたらどうするんですか!」


 その声にエオリアがクスクスと笑い、悪戯っぽい表情で応える。


「風があれば落ちないよ。ほら」


 ふわりと浮き上がり、風に乗って回転する。優雅な動きに、侍女たちが悲鳴を上げた。


 フィルミナは屋根の上のエオリアを温かい目で見上げながら、微笑みを浮かべる。


「エオリア、元気なのはいいことだね」


 その隣でリヴィエルが深いため息をつき、疲れ切った表情で肩を落とした。


「護衛が追いつけない…私の心臓が持たない」


 本気で心配している様子に、クリスタが共感するように頷いて付け加える。


「私も最初はこうだったよ。自由を取り戻すって、こういうことだよね」


 マリーナが明るく手を振る。


「エオリア、楽しそう!私も一緒に飛ぼう!」


 風に乗って空へ舞い上がる。二人が空中でくるくると回った。


 その光景を見つめながら、レオンが微笑む。


(エオリア、本当に楽しそうだな。500年ぶりの自由を満喫してる。あの笑顔を見ると、嬉しくなる。自由って…人にとって、こんなにも大切なものなんだ。前世の研究室では味わえなかった、この世界の温かさ。エオリアの笑顔が、それを教えてくれる)


 昼過ぎ。


 エオリアが突然、研究室に飛び込んできた。


「レオン!市場に行きたい!」


 目をキラキラさせている。


 レオンが首を傾げる。


「市場?いいけど...どうしたの?」


「500年ぶりの買い物!」


 エオリアは待ちきれない様子だった。


 フィルミナが提案する。


「じゃあ、みんなで行きましょう」


 リヴィエルが護衛モードに入る。


「待て。護衛配置を確認しないと...」


 でも、エオリアはもう待てなかった。


「風に乗っていこう!」


 ふわりと浮き上がり、窓から飛び出す。


 空を見上げた民衆たちが、驚きの声を上げた。


「エオリア様が空を!」


「風の精霊だ!」


 エオリアは風に乗って市場上空を旋回し、人々に手を振りながらゆっくりと降りていく。その優雅な姿に、市場中が歓声に包まれた。商人たちが駆け寄り、民衆が口々に名を呼ぶ。


「エオリア様、ようこそ!」


「何でもご覧ください!」


 エオリアは目を輝かせて店を見て回る。


「この布、綺麗!」


「このお菓子、美味しそう!」


 一つ一つに感動し、商人たちも嬉しそうに説明する。


 レオンたちが追いついた時には、エオリアは既に大量の荷物を抱えていた。


(自由って、一人じゃなくても持てるんだ)


(みんなと一緒でも、私は私でいられる)


(これが...調和なのかな)


(幸せ)


 エオリアの心が、温かい想いで満たされていた。


 ガルヴァンが報告書を書く。


『殿下、新時代の幕開けです。風の守護者が民衆と触れ合い、新たな調和の時代が始まりました』


 レオンは困惑する。


「ただの買い物だよ...」


 でも、民衆の笑顔を見て、それもいいかと思った。


---


 夕方、レオンの研究室。


 六人が集まって研究と雑談を楽しんでいる。机には六体共鳴のデータが広げられ、温かい雰囲気が漂っていた。


 レオンはノートに何かを書き込みながら、興味深そうに呟く。


「この共鳴パターン、面白いな」


 その隣でフィルミナが優雅な仕草でお茶を淹れ、温かな香りが研究室に広がる。


「レオン様、お茶をどうぞ」


 マリーナは自慢げな笑顔でクッキーを並べながら言う。


「私が焼いたクッキーもあるよ!」


 テラが静かに古代文字で記録を残す。その横でクリスタが魔法陣を描きながら提案した。


「この記録、結晶化保存がいいかも」


 エオリアが戸惑った顔をする。


「私は...何をすればいい?」


 レオンが優しく微笑む。


「エオリアは、風で換気してくれるだけでいいよ」


「それだけで、研究室が快適になる」


「君がいてくれるだけで嬉しいから」


 エオリアが頬を赤くする。


「...ありがとう」


 柔らかな風が研究室を流れる。窓から入る夕日と相まって、心地よい空間が生まれた。


 六人が自然に会話を交わす。レオンが少し心配そうに言葉を続けた。


「でも、無理はしないようにね」


 それにフィルミナが優しく応える。


「みんなとの時間も大切ですから」


 マリーナが元気よく頷き、笑顔で付け加える。


「うん!一緒が一番楽しい!」


 その温かい雰囲気にクリスタが幸せそうに微笑んだ。


「家族みたいだね」


 リヴィエルは少し照れた様子で頷く。


「...そうだな」


 テラが静かに頷く。


 エオリアは温かい光の中で、幸せを噛みしめていた。


(これが家族...みんなと一緒にいる時間が、一番幸せ)


(もう一人じゃない。私には居場所がある)


(500年待った甲斐があった)


 レオンは六人の笑顔を見て、深い満足を感じる。


(みんなが笑顔でいてくれる。それが一番大切だ)


(前世では叶わなかった、温かい仲間との時間)


(この世界に来て、本当に良かった)


 窓の外で夕日が沈んでいく。


 レオンが研究ノートを閉じる。


「六体共鳴、まだまだ研究のしがいがあるな」


「でも、今日はここまで。みんなとの時間を楽しもう」


 六人が笑顔で頷いた。


---


 夜。


 フィルミナの部屋に、柔らかな魔法の灯りが揺れている。


 真ん中にはお菓子とお茶が並び、ふかふかのクッションが円座で配置されていた。


 四人がパジャマ姿で集まっている——フィルミナは白基調の上品なパジャマで長い髪を下ろし、リヴィエルはシンプルなパジャマに少し可愛い柄、クリスタは青系のパジャマで髪を結び、エオリアは風のような軽やかな青緑色のパジャマを着ていた。


 クリスタが嬉しそうに言う。


「女子会だよ!」


 エオリアが首を傾げる。


「女子会...?」


 フィルミナが優しく説明する。


「みんなで集まって、恋バナをするの」


 リヴィエルがニヤニヤする。


「さあ、恋バナしよう」


 エオリアが困惑する。


「恋バナって...何を話すの?」


 四人が円座で向かい合う。それぞれの表情が魔法の灯りに照らされ、温かい雰囲気が部屋を包んでいた。


 フィルミナが提案する。


「レオン様の好きなところを、言い合いましょう」


 四人の顔が一斉に赤くなる。


 フィルミナは恥ずかしそうに手を胸に当てながら、でも幸せそうな笑顔で語り始めた。


「私は...優しいところ!いつも私たちを大切にしてくれる。レオン様と一緒にいると、安心する。ずっと側にいたい...」


 その言葉を口にする度に、フィルミナの頬がさらに赤くなっていく。


(レオン様と一緒にいると、心が温かくなる。姉として、女性として、この想いは確かなもの。守られるだけじゃない。私も守りたい。レオン様の優しさに応えたい。ずっと、ずっと側にいたい。この想いを、いつか伝えられる日が来るかな)


 フィルミナの心に、確かな恋心があった。


 次にリヴィエルが腕を組みながら、照れを隠すように強気な目で言う。


「...信じてくれるところ。私を、ただの護衛じゃなく、仲間として。信じてくれる...それが一番嬉しい。認められたって、感じる」


 普段の強気な態度とは裏腹に、その頬は真っ赤だった。


(信じてくれる...それが何より嬉しい。殿下は私を対等に扱ってくれる。護衛として、仲間として、一人の人間として。認められたい、その想いが叶った。だから私は殿下を守り続ける。そして、いつかこの想いも...)


 普段は強気なリヴィエルの、素直な想いだった。


 クリスタは膝を抱えながら、はにかんだ笑顔で語る。


「信じてくれるところ!300年の孤独を理解してくれた。レオン様がいるから、笑える。300年の孤独が、報われた」


 その目には、幸せそうな涙が光っていた。


(レオン様がいるから笑える。300年間、誰にも理解されなかった孤独。それを受け止めてくれた。温かさをくれた。笑顔を取り戻してくれた。この想いは恋なのかな。でも確かなのは、レオン様と一緒にいたいってこと。ずっと、ずっと)


 クリスタの心が、温かい光で満たされる。


 最後にエオリアが目を輝かせながら、笑顔で言う。


「純粋で、自由をくれるところ。500年ぶりに、本当の意味で自由を感じた。レオンは、私を縛らない。一緒にいても、私は私でいられる。レオンと出会えて...運命だと思う」


 その言葉には、深い感謝と想いが込められていた。


(レオンと出会えて運命だと思う。500年間、誰も私を理解してくれなかった。自由を奪われ、孤独に生きた。でもレオンは違った。私を信じてくれた。自由をくれた。温もりをくれた。この想いは、500年待った価値があった。もう離れたくない)


 エオリアの心に、深い想いが刻まれていた。


 四人が顔を見合わせる。


 フィルミナは優しく微笑みながら、みんなの手を取った。


「ライバルだけど、友達」


 四人が手を繋ぐ。その温もりが、互いの想いを繋いでいく。


 リヴィエルが柔らかな笑顔で言う。


「みんなで一緒がいい」


 クリスタが真剣な表情で頷く。


「レオン様を独り占めしない」


 エオリアが温かく微笑む。


「友情も大切」


 四人が笑い合う。


 その時——ドアが勢いよく開いた。


「私も混ぜて!」


 マリーナが飛び込んでくる。


「マリーナも、レオン様大好き!」


 五人で女子会が続く。


 部屋に笑い声が響き、温かい友情と恋心が交差していた。


---


 その頃——ドアの外。


 ガルヴァンが盗み聞きをしていた。


(殿下の恋愛事情は国家機密...情報収集は軍人の基本だ)


 必死に耳を澄ます。


 リヴィエルが気配を察知する。


「...誰かいる」


 四人が一斉にドアを開ける。


 ガルヴァンが固まる。


「!!」


「じ、情報収集は軍人の...」


 言い訳が口から出かかる。


 フィルミナは普段の優しさとは違う、真剣な表情で睨んでいた。


「ガルヴァン様、盗み聞きはダメです」


 普段は優しいフィルミナの珍しい怒り顔に、ガルヴァンの背筋が凍る。リヴィエルは冷たい目を向けながら、腕を組んで言い放った。


「護衛失格ですよ」


 本気で怒っている。その迫力にガルヴァンが一歩後ずさる。クリスタは笑顔のまま、でも手のひらに氷の魔法を渦巻かせながら提案した。


「氷漬けにしますか?」


 その怖い笑顔に、ガルヴァンの顔が青ざめる。エオリアも優雅に風を操りながら、涼やかな声で言う。


「風で吹き飛ばす?」


 部屋に風が渦巻き始める。容赦ない。マリーナは明るい笑顔のまま、水球を浮かべながら付け加えた。


「水責めもあるよ」


 笑顔で怖いことを言う。


 ガルヴァンが全速力で逃げ出す。


「す、すまん!」


 五人が追いかける。


「待てー!」


 廊下で大騒動が始まった。侍女たちが呆然と見ている。


「エオリア様たちが...」


「ガルヴァン様が逃げてる...」


 レオンが研究室から出てくる。


「どうしたの?騒がしいね」


 ガルヴァンが駆け寄る。


「殿下、お助けを...」


 レオンが呆れ顔をする。


「ガルヴァン、また盗み聞き?」


「もう、やめてくださいね」


 優しく叱る。


 ガルヴァンがしょんぼりする。


「はい...」


(殿下の恋愛事情は国家機密なのに...)


 レオンが首を傾げる。


「そんな大げさな...」


 無自覚。


(ガルヴァンは相変わらずだけど...それも含めて仲間だ。みんながいる、この日常。前世では得られなかった、かけがえのない宝物。騒々しいけど、温かい。これが家族なんだ)


 五人が笑い合う。


(こんな騒動も、楽しい。これが日常。みんなと一緒の、温かい時間。もう二度と、一人には戻りたくない)


 みんなで笑い、温かい夜が更けていった。


 相変わらずの日常——それが、一番の幸せだった。


---


 数日後、レオンの研究室。


 レオンが調査報告書をまとめていた。


 ノートに「第6覚醒個体の可能性?」と軽く記載する。


 シグレが入ってくる。


「殿下、第7の調査は?」


 レオンが考える。


「今はまだ。六人の絆を深めることが先」


「無理に探す必要はない」


「自然に出会えるなら、その時に」


 シグレが頷く。


「賢明な判断です」


「急ぐ必要はありませんね」


 窓の外では、六人が庭を散歩している。


 笑い声が聞こえ、楽しそうな様子だった。


 エオリアが風で花びらを舞わせ、みんなが笑顔になる。


 レオンが微笑む。


「みんな、幸せそうだな」


「これが...本当の調和」


「前世では見られなかった光景」


「この世界に来て、良かった」


 ガルヴァンからの報告が届く。


『殿下、世界統一へ順調に進行中』


 レオンのノートには『六体共鳴の追加実験計画』と書かれている。


 温度差は相変わらず——でも、それも含めて平和だった。


 六人が手を振る。


「レオン様、散歩行こう!」


 レオンが笑顔で駆け出す。


「今行く!」


 七人が並んで歩く。


 温かい夕日が七人を照らし、長い影が伸びていく。


 レオンが空を見上げる。


(みんなが笑顔でいてくれる。それが一番大切だ)


(そして世界は、まだまだ広い)


(いつか、また新しい出会いがあるかもしれない)


(その時は、その時で——今は、この幸せを大切にしよう)


 新しい調和が、今、始まった。


 世界は、まだまだ広かった。

第55話、お読みいただきありがとうございました。


第5章「風の守護者と失われた調和」、全9話が完結となりました。エオリアの無実証明から名誉回復、そして新たな日常へ。六人の絆が深まり、次の旅への示唆も描かれました。


次章では新たな出会いと展開が待っています。引き続きお付き合いいただければ幸いです。


感想やご意見、お待ちしております。

評価・ブックマークも励みになります。


Xアカウント: https://x.com/yoimachi_akari

note: https://note.com/yoimachi_akari

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ