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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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第44話 心の融解と五色の奇跡

 戦いの翌朝、氷原に静けさが戻っていた。白銀の世界に朝日が差し込み、無数の氷の結晶がシャラシャラと音を立てて輝く。風が優しく吹き抜け、昨夜の激戦の跡を雪が覆い隠していく。


 クリスタは氷の宮殿の前に立ち、遠くの地平線を見つめていた。300年間、ずっとここで一人だった。孤独に凍えながら、誰かが来ることを待ち続けた——そして、ついに彼らが来てくれた。


「300年の孤独が…終わる」


 震える声で呟くと、目から涙が溢れて頬を伝う。凍てつく風に晒されても凍らず、何百年ぶりかの温かい涙だった。


 レオンが近づいてきて、優しく微笑む。


「クリスタ、準備できた?」


 フィルミナたちも集まってきた。プリマが抱きついてくる。


「お姉ちゃん、一緒に帰ろう!」


 テラとマリーナも笑顔で手を振る。リヴィエルが優しく頷いた。この温かさ——家族のような、仲間のような——クリスタの凍っていた心が、ゆっくりと融けていく。


「うん…帰ろう」


 初めて、心から笑えた。固く閉ざしていた心の扉が開き、温かい光が差し込んでくる。氷原に別れを告げる時が来た。長い長い冬が、ようやく終わりを迎える。


---


 出発の準備が整った頃、レオンが興奮した様子でノートを広げた。


「みんな!記憶を結晶化する最終実験をしたい!」


 目を輝かせて宣言する。科学者の顔だ。


「昨夜のクリスタの力を分析して、理論が完成したんだ」


 フィルミナたちが驚く。リヴィエルも目を丸くした。


「記憶を…結晶化?」


「そう!前世の知識——記憶媒体の保存理論と、クリスタの氷の結晶化能力を組み合わせれば、記憶を永久保存できる!」


 レオンが説明しながらペンを走らせてノートに図を描いていく。カリカリカリという音が静寂に響いた。


「まず記憶を魔力パターンとして抽出し、それを氷の結晶構造に転写して固定化する」


 段階的に説明すると、フィルミナたちが興味津々な表情で見つめる。クリスタも驚いていた。


「私の力が…そんな風に使えるの?」


「もちろん!君の氷は完璧な保存媒体だ。医療や教育に革命を起こせる!」


 レオンの純粋な科学者魂が溢れ出す。遠くで見ていた各国の護衛たちは、また別の解釈をしていた。


 ガルヴァン帝国の隊長が部下に囁く。


「記憶操作技術だ…歴史を書き換えられる」


 メルキオール教国の神官が震える。


「記憶を固定…永遠の洗脳が可能に」


 チェン・ロン商業同盟の商人が算盤を弾く。パチパチパチという音が響いた。


「特許取れば…世界経済を支配できる」


 しかし、レオンは気づいていない。ただ科学実験に夢中だ。


「じゃあ、クリスタ、協力してくれる?」


「もちろん」


 クリスタが頷くと、白銀の魔力が溢れ出す。ゴゴゴゴゴと大地が震え、美しい光が広がった。


---


 実験が始まった。レオンがクリスタの手を取り、魔力を同調させる。


「まず、記憶の魔力パターンを抽出する」


 プリマが共鳴能力で記憶を読み取り、ゴォオオオンと美しい音色が響く。クリスタの記憶——300年前の光景、追放された日、孤独な日々——全てが魔力として可視化されていく。虹色の光が空に舞い上がり、シュゥゥゥゥと流れる音がした。


「次に、氷の結晶に転写する」


 クリスタが集中すると白銀の氷が空中に現れ、ピシッ、ピシッ、ピシシシシッと結晶が形成される音が響く。記憶のパターンが氷に刻まれ、美しい幾何学模様が浮かび上がって光を反射して輝いた。


「最後に、記憶を固定化する」


 レオンとクリスタが同時に魔力を注ぐとゴォオオオンと共鳴音が響き渡り、手のひらサイズの美しい結晶がゆっくりと降りてくる。シャラシャラと風鈴のような音を立てて、クリスタの手に収まった。


「成功だ!」


 レオンが歓声を上げると、結晶の中にクリスタの記憶が封じ込められているのが見えた。触れると、その光景が蘇る——まるで自分がその場にいるかのように。


 その時、遠くで見ていたガルヴァンが歩み寄ってきた。真剣な表情だ。


「レオン殿下…私にも、できるでしょうか」


 声が震えている。レオンが驚いて振り返った。


「もちろん!誰でもできるよ」


「亡き娘の記憶を…残したいのです」


 ガルヴァンの目から涙が溢れ、震える手で結晶を指差す。大柄な体が小刻みに震えていた。


「娘は五歳で病に倒れました。最後に笑った顔を…忘れたくない」


 リヴィエルが驚く。フィルミナたちも息を呑んだ。このコメディリリーフのような男が、こんなにも深い悲しみを抱えていたとは。


「わかった。一緒にやろう」


 レオンが優しく頷くと、ガルヴァンの記憶を結晶化した。小さな女の子が笑う光景——「パパ、大好き!」という声——全てが氷の結晶に封じ込められる。ガルヴァンが結晶を受け取ると、声を上げて泣いた。


「ありがとうございます…ありがとう…」


 涙が止まらない。武骨な顔が、今は父親の顔だった。


---


 メルキオールも近づいてきた。神官の表情が複雑だ。


「私も…お願いできますか」


「師の教えを残したい。神への疑念を抱く私ですが…師だけは本物でした」


 涙ぐむメルキオールに、レオンが頷く。師の優しい笑顔、温かい教え——全てが結晶に刻まれた。メルキオールも涙を流し、震える手で結晶を抱きしめる。


「師よ…あなたの教えは永遠に」


---


 チェン・ロンも静かに近づいた。いつもの商人の顔ではない。


「実は…亡き妻の記憶を」


「商売より何より…彼女の声をもう一度」


 涙が頬を伝う。レオンが微笑んで頷くと、妻の優しい笑顔が結晶に封じ込められた。チェン・ロンが結晶を見つめ、静かに涙を流す。


「ありがとう…本当に」


---


 三人が涙を流す姿を見て、クリスタの目にも涙が溢れた。自分の力が、こんなにも人を救えるなんて。300年間、「失敗作」と呼ばれ続けた力が、誰かの宝物になる。


「私の力が…誰かを幸せにできる」


 震える声で呟くと、レオンが優しく微笑んだ。


「もちろんだよ。君の力は素晴らしい」


 フィルミナたちが抱きついてくる。温かい——本当に温かい。


---


 その時、プリマが突然輝き始めた。


「みんな…何か来る!」


 ゴゴゴゴゴと大地が震え、五体が共鳴を始める。フィルミナ、プリマ、テラ、マリーナ、そしてクリスタ——五体が円を描くように並ぶと、それぞれの色が輝き出した。


 虹色——プリマの光が最初に空に昇る。青——フィルミナの水が波紋を描く。海色——マリーナの波が地を覆う。赤茶——テラの大地が震える。白銀——クリスタの氷が舞い上がる。


 五色の光が氷原全体を包み込んだ。ゴォオオオオオンと低く美しい共鳴音が響き渡り、光が波紋のように広がっていく。結晶が共鳴してキィイイイイと高く透き通った音を奏で、まるでオーケストラのようだった。


「これは…!」


 レオンが驚く。五体の記憶が統合されていく——300年前の真実、大転換の瞬間、スライムと人類の共生時代——全てが明らかになっていく。


「私たちは…一つだった」


 クリスタが涙を流しながら呟く。


「そして、レオン様が全てを繋いだ」


 五色の光が美しく輝き、氷原全体が幻想的な光景に包まれる。結晶が舞い上がり、シャラシャラシャラと音を立てて空を舞う。まるで雪の妖精たちが踊っているようだった。


 リヴィエルが感動して見つめる。


「綺麗…」


 フィルミナたちも手を繋ぎ、共鳴を深めていく。五体の絆が完全に確立された瞬間だった。


 レオンが満足そうに頷く。


「これで五体が揃った。新しいステージの始まりだ」


 無自覚の救世主が、また一歩、世界を変えていく。


---


 夜が更け、星空が広がる。六人が焚き火を囲んで座っていた。


 クリスタが静かに呟く。


「初めて…家族ができた気がする」


 涙が溢れる。でも、それは悲しい涙ではない。嬉しい涙だ。300年間の孤独が、ようやく終わった。


 レオンが笑顔で立ち上がる。


「さあ、帰ろう。帝都へ」


 六人が微笑む。星空の下、新しい絆が生まれた夜だった。焚き火の光が優しく揺れ、温かい雰囲気が漂う。


 遠くで各国が大騒ぎしているとは知らず、レオンたちは平和な時間を過ごしていた。


 新しい旅の始まり——そして、新しい誤解の始まりでもあった。

第44話、いかがでしたでしょうか?


記憶の結晶化実験、クライマックスです!

ガルヴァン、メルキオール、チェン・ロン——それぞれの涙に胸が熱くなりました。

そして五色の光の美しさ!


各国の反応は...もちろん!

「時間操作だ!」「世界が崩壊する!」


レオン「記憶保存に成功しただけなんだけど...」


次回、第45話「記憶技術と帰還の誓い」にて。


帝都への帰還の旅が始まります。

記憶技術の公開と、各国の反応にご期待ください!


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

評価・ブックマークもとても励みになります!


引き続き「転生王子はスライムを育てたい」をお楽しみください!


Xアカウント: https://x.com/yoimachi_akari

note: https://note.com/yoimachi_akari

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