第41話 凍結された真実
野営地に焚き火が灯り、炎が静かに揺れている。レオンはじっと火を見つめていた。
「僕は...彼女を人として理解したい」
声が夜の静寂に溶ける。リヴィエルの傷を見つめると、自分のせいだという想いが胸を締め付けた。また言葉が足りなかった——いや、言葉以前に見方が間違っていた。
「研究対象として見てしまった...僕の悪い癖だ」
拳を握りしめる。
「でも今度は違う。人として向き合いたい」
フィルミナが優しく頷いた。
「それが、レオン様らしさです」
テラが大地に手を置いていた。
「300年前の記憶...もっと詳しく見えます。この氷原全体に記憶が刻まれ、彼女の痛みがここに残っています」
土の感触が情報を伝えてくる。
プリマが共鳴を強めた。
「クリスタ様の心...今も揺れています。でも、完全に閉ざされているわけじゃない」
リヴィエルが立ち上がった。傷はもう癒えている。
「私が先に話します。同じ追放された身として」
決意の声。その瞳には強い意志があった——レオンを守りたい、クリスタを理解したい。二つの想いが胸にある。
「私なら...わかる気がします」
フィルミナがリヴィエルの肩に手を置き、プリマ、テラ、マリーナも頷く。みんなで向き合おう。
レオンは仲間たちを見た。温かい——こんなにも支えられている。
「ありがとう...みんな」
護衛隊長たちは緊張していた。ガルヴァン帝国の隊長が部下に指示を出す。
「記憶操作技術の実戦応用が始まる。北方防衛ラインを強化せよ」
戦略家として冷静に分析していた。
メルキオール教国の神官が深夜まで祈りを捧げている。
「神の啓示通り...試練の時だ」
聖騎士団に厳重警戒命令を出した。
チェン・ロン商業同盟の商人が綿密な計算をしていた。
「この技術で、経済構造が変わる」
商人ネットワークに情報収集を指示し、対応策を練る。
一方、レオンたちは純粋に考えていた——「クリスタと仲直りしたい」。ただ、それだけだった。
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朝日が氷の宮殿を照らし、一行は再び訪れた。冷たい空気が肺に染み、静寂が支配する中、氷が朝日を受けて輝く。美しく、でも緊張感が漂っていた。
扉が開き、クリスタが氷の槍を構えて現れる。
「また来たのか」
警戒の声。でも前回より、少し迷いが見える。
リヴィエルが一歩前に出て、武器を地面に置いた。
「私も...追放された身です」
静かな声に、クリスタの目が揺れた。
「追放...?」
リヴィエルは過去を語り始めた。
「貴族の家で、道具として育てられました。有能な護衛としてのみ評価され、人として見られることはなかった。感情を持つことも許されず、孤独だった。誰も自分を見てくれなかった」
レオンを見る。その目には想いが溢れていた。
「でも...レオン様は言葉が下手なだけです。人を傷つけるつもりはありません」
クリスタの氷の槍が揺らいだ。
「あなたも...追放?」
リヴィエルの目を見る——嘘じゃない、本物だ。わずかに心が開く。
「でも彼は...研究対象としか」
まだ疑いがある。
レオンが前に出て、深く頭を下げた。
「前回は本当に申し訳なかった。君の記憶を...見せてほしい」
声が真摯だ。
「人として理解するために。研究対象としてじゃない——君の痛みを知りたい」
顔を上げる。
クリスタが葛藤していた。
「記憶を...見る?」
リヴィエルを見る。この人は本気だった。もしかして、彼も——
長い沈黙の後、氷の宮殿に風が吹いた。
「...わかった」
クリスタの声。
「でも、期待しないで。どうせまた、失望するだけだから」
護衛隊長たちは警戒を強めていた。
「交渉開始だ」
真剣に配置につく。ガルヴァン側は心理戦の第二段階だと分析し、メルキオール側は神の試練を見守り、チェン・ロン側は技術情報入手のチャンスだと捉えていた。それぞれの思惑で展開を見守る。
一方、レオンたちは人として向き合おうとしていた——全く違う意味で真剣だった。
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レオンは魔法陣を設置し、前世の細胞培養知識を応用して氷の結晶配列を計算する。
「氷は完璧な記憶媒体だ。結晶構造が情報を保持する」
科学的説明が続く。前世では冷凍保存技術があった。
「段階的に、プロセスを進める」
第一段階の準備。
クリスタが緊張していた。
「本当に...見えるの? 私の...醜い過去が」
声が震え、手が震えている。
フィルミナが優しく抱きしめ、プリマが共鳴を安定させ、テラが記憶を読み取る準備をする。
「みんなで守るよ〜」
マリーナの明るい声。
レオンの手から光が放たれた。
「第一段階...魔力注入」
氷の結晶が反応し、美しい光が広がった。
「第二段階...結晶共鳴」
プリマたちの力と共鳴し、光の波紋が広がる。幻想的だ。
「第三段階...記憶映像浮上」
空間に映像が浮かび上がった——300年前の世界。
レオンは科学者の目で観察していたが、次第に映像の内容に表情が変わる。
氷が共鳴音を奏で、冷たい魔力が流れる。美しく、でも悲しい記憶だった。
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記憶映像が展開した。若きクリスタの姿——白銀の髪が風になびき、美しく希望に満ちていた。笑顔があった。
当時の「救世主」たちが登場した。冷たい目で見ている。
「この個体は有用だ。実験に使える。保存能力が高い」
道具を見るような目。
「失敗したら...まあ、処分すればいい」
クリスタの表情が凍る。
「私は...人じゃないの? 私にも、心があるのに...」
涙を流しても気づかれない。
追放の瞬間。極北に置き去りにされた。
「失敗作だ。用済みだ。二度と戻ってくるな」
冷たい言葉とともに、一人きりになった。300年の孤独が始まった。
レオンは愕然としていた。
「これは...僕と同じだ」
拳を握りしめる。研究対象として見られる痛み、道具扱いされる悲しみ。彼女は——
「人だ。研究対象じゃない——傷ついた一人の人だ」
レオンの声。
「僕は...また同じことをしようとしていた」
科学者の目から人の目へ。変わる瞬間——成長の瞬間。
クリスタが涙を流していた。
「見たでしょう...私の醜い過去を。だから私は...失敗作なの」
レオンが静かに言った。
「違う。君の痛みを見た。君は失敗作なんかじゃない」
護衛隊長たちは緊張し、真剣にメモを取って各国本国に即座に報告していた。ガルヴァンは軍事諜報への応用を考え、メルキオールは神の領域に踏み込んだと震え、チェン・ロンは特許を取れば莫大な利益だと計算していた。全員が国家の命運をかけて真剣だった。
一方、レオンはクリスタの痛みを理解した——全く違う受け止め方だが、両者とも真剣だった。
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記憶は続いていた。大転換の瞬間——四体のスライムが現れた。虹色の光を放つプリマの前身、青く澄んだフィルミナの前身、海色のマリーナの前身、赤茶色のテラの前身。
スライムたちが語りかけた。
「私たちは救世主を探している。世界を変える者を、人とスライムが共に生きる未来を」
クリスタへの言葉。
「あなたは保存の力。記憶を守り、未来に伝える者。でも今は...休んで」
クリスタの苦悩が映し出された。
「でも私は失敗した...救世主を見つけられなかった。だから追放された」
自責の声。
レオンが言った。
「失敗じゃない。過去は変えられないが、未来は作れる。君は今、ここにいる。それだけで十分だ」
声が温かい。
クリスタが初めて安堵した。
「本当に...?」
まだ半信半疑だが、心に小さな光が灯った。
フィルミナたちがクリスタを抱きしめた。
「お姉ちゃん、帰ってきて」
涙声。五体の絆——ようやく再会できた。
護衛隊長たちは震えていた。
「世界再構築計画判明!」
緊急報告を送る。各国首脳が震撼し、ガルヴァンは世界の覇権が変わると分析し、メルキオールは終末の預言が現実になると祈り、チェン・ロンは世界経済の支配が始まると計算した。国家総動員体制で真剣に対応を協議していた。
一方、レオンたちはクリスタを励ましていた——温かい時間。全く違う意味で真剣だった。
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野営地に戻り、レオンは満足そうだった。
「少しは理解できた気がする」
研究ノートに記録する——科学的な発見と、人としての気づき。
クリスタは複雑な表情だった。
「もしかして...私が間違えて...彼は本当に...」
心が揺れる。まだ完全には信じられないが、心が動き始めていた。
各国の報告シーンでは、ガルヴァンが全軍に警戒命令を出し、メルキオールが祈りを捧げ、チェン・ロンが商人ネットワークを総動員していた。
「国家存亡の危機だ」
「神よ、導きを」
「世界が変わる...準備を」
温度差が明確だった。レオンは平和に研究ノートを書き、各国は国家総動員体制。対比が際立っていた。
夜空に星が輝く。クリスタの心に変化が始まっていた。次の物語が動き出す。
第41話、いかがでしたでしょうか?
記憶映像で明かされた300年前の真実。
レオンの成長の瞬間が描かれましたね。
そして、五体のスライムの絆も明らかに。
各国の反応は...もう恒例ですね!
「世界再構築計画判明!」
「国家存亡の危機だ!」
レオン「ただの記憶抽出実験なんだけど...」
次回、第42話「心の傷と恋の芽生え」にて。
リヴィエルの恋心が本格的に描かれます。
クリスタとの友情、そしてレオンの鈍感さは——
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引き続き「転生王子はスライムを育てたい」をお楽しみください!
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