第38話 極北への旅立ち
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
転生王子はスライムを育てたい第38話をお届けします。
第4章「凍結された記憶」が、ここから始まります。
新たな仲間、クリスタとの出会い。
リヴィエルの恋心。
各国の思惑が交錯する中——
そして、レオンの新しい研究が、世界を、また大きく変えていく。
極北への旅立ち、お楽しみください!
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朝の光が、研究室の窓から差し込んでいた。
統合システム起動から一ヶ月。帝都には、人とスライムが共に歩む風景が当たり前のものとなっていた。
レオンは、研究ノートに向かっていた。ペンを走らせる手が止まらない。
「記憶を保存する方法...前世の知識を応用すれば...」
細胞培養の技術を魔法に置き換える。データ記録の概念を結晶化する。そうすれば——
「レオン様」
プリマが、肩の上で震えた。
「北の方から...何かを感じます」
小さな体が、虹色に明滅する。
フィルミナとテラも反応した。
「確かに...強い共鳴」
「...呼んでいる気がする」
レオンは、窓の外を見た。遠く北方に、白い山々が連なっている。
「調査が必要だな」
そう呟いた瞬間、レオンの心は決まっていた。
---
会議室は、いつもの顔ぶれが揃っていた。
ガルヴァン、メルキオール、チェン・ロン。各国の代表たちが、レオンの説明を待っている。
「極北で調査を行います」
レオンが、地図を広げた。
「プリマたちの共鳴が強まっています。恐らく、記憶保存の研究に関する手がかりがあるかと」
純粋な好奇心と、科学者としての探究心。それだけだった。
だが——
「北方の資源確保は重要な戦略課題です」
ガルヴァンが、即座に立ち上がった。
「殿下、我が軍も同行させていただきます。北方の地理情報は軍事的にも価値が高い」
地図を見つめる目は、戦略家そのものだ。氷の大地を抑えれば、大陸北部の覇権を握れる。
「防寒装備の精鋭部隊を派遣します。この機会を逃すわけにはいきません」
メルキオールが、十字を切った。
「神の啓示によれば、極北には重要な真理が眠っています」
真剣な表情で、占いの結果を広げる。
「この星の配置は『試練と啓示』を示しています。レオン様こそ、その真理に到達すべき御方」
深い信念が、その言葉に宿っている。救世主レオンが向かうなら、それは神の導きに違いない。
「聖騎士団の派遣を申請いたします」
チェン・ロンが、そろばんを弾いた。
「北方交易路の確保は、経済的に極めて重要です」
頭の中は、綿密な計算でいっぱいだ。
「氷の大地を経由すれば、東西の物流が劇的に改善される。殿下の先見性に感服いたします」
商人の目で見れば、これは千載一遇の商機だ。レオン殿下は、また新しい経済圏を開拓しようとしている。
「商隊護衛の達人を同行させます。必ずや成功させましょう」
レオンは、深いため息をついた。
「ただの調査旅行なんだけどな」
だが、その言葉は誰にも届かない。
すでに三国の代表は、次々と部下に指示を飛ばし始めていた。
---
準備が整った翌日。
出発の朝、リヴィエルが研究室に現れた。
「レオン様、私も同行させてください」
凛とした声。だが、その目は少し揺れている。
レオンは、書類から顔を上げた。
「リヴィエル? 君も?」
「はい。レオン様の身の回りの世話を」
表向きの理由。でも——
心の中では、違う言葉が渦巻いていた。
『本当は...ずっと一緒にいたい』
胸が高鳴る。手が、わずかに震えた。
こんな気持ちは、初めてだ。
幼い頃、リヴィエルは貴族の「道具」として育てられた。
「有能な護衛」として。「優秀な兵士」として。
人として見られることは、なかった。
でも、レオン様は違った。
初めて「人」として扱ってくれた。
初めて「ありがとう」と言ってくれた。
初めて——笑顔を向けてくれた。
この気持ちは...恋?
リヴィエルの頬が、熱くなる。
「レオン様...」
小さな声で、名前を呼んだ。
心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
フィルミナが、静かにリヴィエルを見つめていた。
「...リヴィエル、頑張ってね」
その言葉に、リヴィエルは思わず赤面した。
「な、何を言ってるの! これは護衛の任務で...」
フィルミナは、優しく微笑む。
「うん、任務だよね」
二人の間に、言葉にならない理解が流れた。
女性同士の、静かな友情と、小さなライバル心。
レオンは、全く気づいていない。
「そうか。じゃあ、頼むよ」
あっさりと承諾する。
「でも、寒いから、防寒具はしっかりね」
その優しい言葉に、リヴィエルの胸がまた高鳴った。
『レオン様...』
心の中で、何度も名前を呼ぶ。
この想いを、いつか伝えられるだろうか。
いや、今は——
ただ、側にいたい。
それだけで、いい。
各国からも、護衛が派遣された。
ガルヴァンは、精鋭部隊を。メルキオールは、聖騎士を。チェン・ロンは、商隊警護の達人を。
それぞれの思惑を抱えて。
だが、誰も気づいていない。
レオンにとって、これは「ただの調査旅行」だということに。
---
帝都の門は、見送りの人々で賑わっていた。
「レオン様、頑張ってください!」
「スライムたちも、無事で!」
民衆の声援が、温かい。
馬車が、ゆっくりと動き出した。
リヴィエルは、レオンの隣に座っていた。いつもより、少し距離が近い。
馬車の中、レオンは研究ノートを広げていた。
「記憶保存実験の仮説:氷の結晶に微弱な魔力を定着させれば...」
ペンが走る。科学者の顔だ。
「データの永続保存が可能になる。前世の知識では、冷凍保存という手法が...」
レオンが、ふと顔を上げた。
「リヴィエル、寒くない?」
気遣いの言葉。
リヴィエルの心が、また揺れた。
「大丈夫です...レオン様がいるから」
小さな声で、答える。
内心では、心臓が早鐘を打っていた。
『こんな近くに...』
レオンの温もりが、すぐ隣にある。
顔が、熱い。
プリマが、馬車の窓から外を見ていた。
「共鳴が、どんどん強まってます」
虹色の体が、激しく明滅する。
「近づいている...何かが」
フィルミナとテラも、同じことを感じていた。
「...レオン様、気をつけて」
「あら〜、なんだかドキドキする〜」
マリーナは、相変わらず天然だ。
馬車は、北へ。
白銀の世界へ。
窓の外、雪景色が広がり始めた。
木々は雪に覆われ、大地は白一色に染まっている。
風の音が、遠くから聞こえてくる。
冷たい空気の匂い。
氷の結晶が、陽光にきらめく。
レオンは、その光景に目を奪われた。
「美しいな...」
科学者の目で見ても、芸術だ。
自然が作り出す、完璧な造形。
「この環境なら、確かに記憶の長期保存に適している」
呟きながら、ノートに記録する。
リヴィエルは、そんなレオンを見つめていた。
研究に夢中になる横顔。
純粋に、何かを追い求める姿。
それが、たまらなく愛おしい。
『レオン様...』
心の中で、また名前を呼ぶ。
この旅が、ずっと続けばいいのに。
そう思ってしまう自分が、いた。
---
夕暮れ時。
北方の空が、不思議な色に染まった。
オーロラが、ゆっくりと揺れている。
緑、紫、青——幻想的な光のカーテン。
レオンは、馬車の外に出て空を見上げた。
「不思議な感覚...誰かが呼んでいる気がする」
プリマが、肩の上で震えた。
「はい...強い存在が、そこに」
フィルミナが、静かに呟く。
「クリスタ...ね」
その名前を聞いて、レオンは首を傾げた。
「クリスタ? 誰だ?」
「...会えば、わかります」
テラの言葉が、意味深だ。
氷原の彼方。
オーロラの下に、謎の光が瞬いた。
一瞬だけ、白銀の影が見えた気がした。
レオンは、その方向を見つめる。
「何かが、待っている」
科学者の直感が、そう告げていた。
リヴィエルが、レオンの隣に立った。
「レオン様、何があっても私が守ります」
その言葉には、二つの意味があった。
護衛としての誓い。
そして——
心からの想い。
レオンは、微笑んだ。
「ありがとう、リヴィエル」
その笑顔が、リヴィエルの心を満たす。
一行は、北へ。
未知との出会いへ。
新たな物語が、今、始まろうとしていた。
極北の地で——
運命が、動き出す。
第38話、いかがでしたでしょうか?
第4章の幕開け!極北へと向かうレオンたち。
リヴィエルの恋心が本格的に描かれ始めました。
フィルミナとの静かなライバル関係も見どころです。
そして、各国の反応は相変わらず...
「北方の資源独占」「終末の予兆」「氷の交易路」
レオン「ただの調査旅行なんだけどな」
次回、第39話「凍てつく大地」にて。
氷の世界で、何が待ち受けているのか。
レオンとスライムたち、そしてリヴィエルの冒険は続きます。
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