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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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第35話 内なる敵・前編

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

転生王子はスライムを育てたい第35話をお届けします。


ついに始まりの地での決戦!ヴァレンタスの古代兵器が起動し、

四体の覚醒個体が危機に陥ります。レオンの選択は?


お楽しみください!

 巨大な円形の谷が、大陸の中心に口を開けていた。


 直径は五キロメートル。深さは測り知れない。朝日が谷底を照らし始めても、その全貌は霧に包まれている。だが、その中央に、ありえない光景があった。


 神殿が、浮いている。


 古代の建造物が重力を無視して宙に静止し、四方から伸びる光の橋だけが、そこへの道を示していた。石造りの外壁には複雑な紋様が刻まれ、千年の時を経てもなお、かすかに魔力の輝きを放っている。


「すべての始まりの地...」


 プリマが震えた。レオンの肩の上で、その小さな体が共鳴するように脈打つ。透明な体の内部で、虹色の光が明滅を始めた。


「どうした、プリマ?」


「分からない...でも、ここを知ってる気がする」


 谷の周囲には、すでに各国の軍勢が集結していた。東にセレスティア聖騎士団の白い天幕、西にヴァレリア重装騎兵の鉄の砦、南に東方連合の色とりどりの商業旗、そして北には分裂状態の帝国軍。誰も先に動けない。最初に動いた者が悪者になる——そんな緊張が、朝の空気を重くしていた。


「レオン様!」


 白いスライムの群れの中から、フィルミナが飛び出してきた。その後ろから、マリーナとテラも続く。


「無事でしたか...よかった」


 フィルミナの声が震えている。彼女の周りに集まった白いスライムたちも、いつもと様子が違った。怯えるように身を寄せ合い、小刻みに震えている。


「みんな、あの神殿を怖がってるの」


「すごい軍隊〜! まるでお祭りみたい〜」


 マリーナがくるくると回りながら言う。でも、その表情はいつもの能天気なものではなかった。海色の瞳に、不安の影が宿っている。


「でも...なんだか息苦しいの。海から離れすぎちゃったのかな〜?」


 テラが地面に手を当てた。土が、彼女に何かを伝えているらしい。


「...大地が警告しています」


 顔を上げる。その赤茶色の瞳に、深い憂慮が浮かんでいた。


「...ここで血を流せば...三百年前の悲劇が繰り返される」


 ガイウス隊長が周囲を警戒しながら進言した。


「殿下、このままでは一触即発です。誰かが仕掛ければ、大乱戦になるでしょう」


 レオンは頷いた。そして、決意を込めて言う。


「各国代表に提案します。同時に神殿に入りましょう。誰も独占しない——それが条件です」


---


 提案は、渋々ながら受け入れられた。


 光の橋を渡る一行。レオンと三体の覚醒個体、そして各国の代表たち。橋の下には底なしの闇が広がり、一歩踏み外せば永遠に落ち続けることになる。


 神殿の内部は、想像以上に広大だった。


 巨大な円形の広間。その床一面に、複雑怪奇な魔法陣が描かれている。幾何学模様と古代文字が絡み合い、見つめていると目眩がしそうだ。そして中央には、四つの台座が十字に配置されていた。


 三つには、すでに何かが埋め込まれている。宝玉のような物体が、かすかな光を放っていた。だが最後の台座——中央の台座だけが、空だった。


「これは...」


 プリマが突然、レオンの肩から浮き上がった。


「私が...最後の鍵?」


 その瞬間、プリマの中で何かが弾けた。記憶——いや、もっと根源的な何かが溢れ出す。原初のスライム。すべての始まり。千年前、この場所で生まれた最初の一体。


「思い出した...私は、ここで生まれたんだ」


 フィルミナが東の台座に近づくと、青い宝玉が激しく輝いた。


「共鳴...他者と心を通わせる力」


 マリーナが西の台座に触れると、緑の宝玉が波打つように光る。


「循環〜...形を変えて、流れを作る力〜」


 テラが南の台座に手を置くと、赤い宝玉が脈動を始めた。


「...蓄積。記憶を保存し、継承する力」


 そして中央の台座に、プリマがゆっくりと降り立った。


「統合...すべてを一つにする力」


 四体が配置についた瞬間、神殿全体が振動を始めた。壁面の古代文字が次々と光り、意味を成す言葉として浮かび上がる。


『全ての意志が一つになりし時、扉は開かれん』


「つまり...」


 チェン・ロンが魔道計算機を操作しながら言った。


「全員の同意が必要ということですか。確率的に、ほぼ不可能ですね」


「馬鹿げている!」


 ガルヴァンが吼えた。重い鎧が音を立てる。


「敵と手を組めというのか! それも、化物どもと!」


「神の試練...でしょうか」


 メルキオールが十字を切る。


「しかし、異端の者たちと共に...これは信仰への背信では...」


 レオンが前に出た。


「お願いです。争いではなく、協力を選んでください」


 真摯な瞳で、一人一人を見つめる。


「スライムは敵じゃない。彼女たちは、ただ生きているだけです。新しい時代を、一緒に作りましょう」


 しかし、反応は冷たかった。


「綺麗事だ」


「理想論に過ぎない」


「信用できるものか」


 説得は難航した。誰もが疑心暗鬼に陥り、お互いを警戒している。千年の歴史が生んだ溝は、簡単には埋まらない。


---


 その時だった。


 轟音。


 神殿の壁が、内側から砕け散った。


 石の破片が弾丸のように飛び散る中、黒い鎧を纏った軍勢が雪崩れ込んできた。帝国の紋章——だが、それは宰相府の私兵だった。


「制圧しろ!」


 号令と共に、一人の男が姿を現した。


 ヴァレンタス・フォン・グライゼン。


 黒い鎧に身を包み、その手には禍々しい気配を放つ杖を握っている。杖の先端には、どす黒く脈動する結晶体が埋め込まれていた。


「待たせたな、レオン王子」


 冷たい笑みが、兜の下から覗く。


「その杖は...」


 テラが震え声で言った。


「...滅びの杖。三百年前に封印された、古代兵器...」


「ご明察」


 ヴァレンタスが杖を掲げた。瞬間、白いスライムたちが悲鳴を上げた。いや、声は出ない。ただ、その苦痛が精神に直接響いてくる。激痛に身をよじり、形が歪んでいく。


「これがスライムを強制支配する力。そして——」


 杖の力が増幅される。白いスライムの一体が、突如として巨大化を始めた。制御を失い、暴走する。触手のような偽足が手当たり次第に暴れ回る。


「これが本当の姿だ!」


 ヴァレンタスが高らかに宣言した。


「見よ! スライムの危険性を! 制御不能な怪物に過ぎない! 私が正しかった!」


 各国代表たちが動揺する。暴走したスライムの姿は、確かに恐ろしかった。


「やはり危険だ...」


「宰相の言う通りかもしれない...」


 ヴァレンタスが一歩前に出た。その顔に、深い悲しみと怒りが交錯する。


「十年前、私は全てを失った」


 声が震えている。怒りではない——悲しみだ。


「妻と、まだ五歳だった娘を。スライムの暴走で、一瞬にして奪われた。あの日から私は誓った。もう誰にも、同じ思いをさせないと」


 杖を構え直す。


「覚醒個体を処分する。抵抗すれば、全員殺す。選べ、レオン王子」


 フィルミナが苦しげに呻いた。


「頭が...割れそう...」


 マリーナも膝をついている。


「痛い...痛いよ〜...」


 テラは必死に抵抗していたが、限界が近い。


「...この力は...強すぎる...」


 四体の共鳴が乱れ、神殿の魔法陣が不安定に明滅し始めた。


---


 時間が、止まったような気がした。


 レオンの意識が、内側へと沈んでいく。そこは静寂に包まれた精神世界。プリマが、光の存在として目の前に浮かんでいた。


「あなたの本当の願いは?」


 問いが、心の奥底に響く。


 研究がしたい——それは本当だ。


 平和を望む——それも嘘じゃない。


 でも、もっと深いところに、何かがある。


 世界を変えたい。古い価値観を壊したい。新しい時代を作りたい。認められたい。理解されたい。そして——


「ああ、そうか」


 レオンは苦笑した。


「僕は無意識に、世界に挑戦していたんだ」


 プリマが優しく微笑む。


「勘違いは偶然じゃない。あなたが望んだから、世界があなたを誤解する」


「どういうこと?」


「変革者は理解されない。誤解が変化を生む。それも一つの道」


 レオンは目を閉じた。そして、決意と共に目を開ける。


「誤解されてもいい。でも諦めない。理解を、いつか必ず」


 その瞬間、レオンの中で何かが目覚めた。


 瞳が、金色に輝く。


 真実の瞳——相手の本心を見通す力。


---


 現実世界に意識が戻る。


 時間が動き出した。


 各国軍が交戦を開始していた。ヴァレンタスの私兵と、各国の軍勢が入り乱れる。魔法と剣技が激突し、爆発音が神殿を揺るがす。


「レオン!」


 入り口から、ユリオスが駆け込んできた。皇帝派の精鋭を率いている。


「援護する!」


 兄弟が、初めて共に戦う。背中を預け合い、敵を迎え撃つ。


 通信魔道具が光った。リヴィエルの声が響く。


『レオン様、枢密院議長を確保しました。でも...』


 声に緊張が走る。


『新たな問題が。第三勢力が動いています。正体は不明ですが、古代兵器を狙っているようです』


 戦場は混沌と化していた。


 レオン派——四体の覚醒個体と護衛隊。


 宰相派——古代兵器を持つヴァレンタスの私兵。


 各国軍——それぞれの思惑で動く四カ国。


 そして謎の第三勢力。


 四つ巴の戦いが、始まった。


「レオン様を守る!」


 フィルミナが立ち上がった。古代兵器の影響に苦しみながらも、白いスライムたちを鼓舞する。共鳴波を放ち、仲間たちの暴走を抑えようとする。


「みんな落ち着いて〜」


 マリーナが水の障壁を展開した。流動的な防御で、味方を守る。でも、その力も限界が近い。


「...大地よ、力を」


 テラが地面に両手をついた。地震が起き、敵の陣形を崩す。しかし、神殿も揺れ、被害が拡大していく。


 ヴァレンタスが杖を高く掲げた。


「終わりだ! 滅びの咆哮を解放する!」


 古代兵器が、最大出力で起動を始めた。黒い光が渦を巻き、破壊的なエネルギーが集束していく。


「やめろ! 取り返しがつかない!」


 レオンの叫びも、戦場の喧騒に呑まれて消えた。


 発動まで、あと十秒。


 十...


 九...


 八...


 各勢力が、最後の動きを見せる。


 七...


 六...


 五...


 運命の瞬間が、迫っている。


 四...


 三...


 二...


 一...


 そして———


 世界が、変わる。

第35話、いかがでしたでしょうか?


レオンの真実の瞳が覚醒!そして古代兵器の脅威が迫ります。

四つ巴の戦いの中、運命の瞬間が訪れようとしています。


次回、最終決戦!内なる敵との戦いに決着が!

人とスライムの未来はどうなるのか?


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

評価・ブックマークもとても励みになります!


次回もお楽しみに!


Xアカウント: https://x.com/yoimachi_akari

note: https://note.com/yoimachi_akari

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