表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/68

第29話 北方氷原の戦い

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

転生王子はスライムを育てたい第29話をお届けします。


北方氷原での激戦!野生スライムと北方軍の挟撃、そして……

ついに第三の覚醒個体が姿を現します!


お楽しみください!

 白銀の世界が、目の前に広がっていた。


 吐く息が瞬時に白く凍り、睫毛に霜が降りる。気温はマイナス二十度を下回っているだろう。北方国境を越えた探索隊は、まさに極寒の地に足を踏み入れていた。


「きゃ〜! 雪だ〜! 見て見て、結晶が六角形!」


 マリーナが雪の上を飛び跳ねながら、両手で雪を掬い上げた。青い髪が陽光を反射してきらきらと輝いている。


「水の固体状態って面白い〜! 分子が規則正しく配列して、樹枝状結晶を形成するの!」


 そう言いながら、勝手に雪だるまを作り始めた。その無邪気な姿に、緊張していた帝国兵たちから小さな笑い声が漏れる。


「あの娘、本当に覚醒個体なのか?」


 ヴァレリアの重装騎兵が呟いた。分厚い毛皮のマントに身を包み、重い足取りで雪原を進んでいる。


 一方、セレスティアの聖騎士団は聖歌を歌いながら進軍していた。その歌声が、凍てつく空気に響き渡る。東方連合の部隊は効率的な隊列を組み、無駄なく前進していた。


 レオンは研究ノートを片手に、周囲の環境を観察していた。


「興味深い……この地域の魔素濃度は通常の三倍。氷属性に偏重している」


 ぷるん、とプリマが震えた。いつもより活発に見えるが、どこか不安そうだ。


「レオン様、何か来ます」


 フィルミナが身を固くした。その瞬間——


 ドォォォン!


 雪原が爆発するように吹き上がった。


---


 赤く発光する巨大な塊が、雪煙の中から現れた。


 野生のスライム——だが、通常の三倍はある巨体。しかも一体ではない。十、二十、いや、五十体以上が統制された動きで探索隊を包囲していく。


「なんだこれは……」


 ガイウス隊長が剣を抜いた。


 ズルッ、ズルッ。


 不気味な音を立てながら、赤いスライムたちが迫ってくる。その動きは明らかに何かに操られているようだった。


「剣が効かない!」


 帝国兵の叫びが響いた。斬撃がスライムの体を通り抜け、すぐに再生してしまう。


 ジュゥゥゥ!


 酸性の液体が噴射され、兵士の鎧を溶かし始めた。


「数が多すぎる!」


 パリィン!


 スライムたちが氷を溶かし、次々と落とし穴を作っていく。重装備のヴァレリア騎兵が足を取られ、雪の中に沈んでいった。


 レオンは戦闘の最中でも、研究ノートにメモを取っていた。


「これは……共鳴している? 個体間で情報を共有している。何かが統制を——」


 ザシュッ!


 赤い触手が彼の頬を掠めた。血が一筋、雪に落ちる。


---


「あれ〜? みんな苦戦してる?」


 マリーナが雪だるま作りを中断して振り返った。その瞬間、天然の表情が一変した。


 瞳が鋭く、真剣な光を宿す。


「水よ、流れを作って」


 ゴォォォォ!


 彼女の周囲の雪が一瞬で溶け、巨大な水流となって渦を巻き始めた。青い髪が激しく舞い上がり、まるで海神のような威容を放つ。


 ザバァァァ!


 水の壁が立ち上がり、酸性液体を弾き返した。同時に別の水流が鞭のようにしなり、スライムの群れを分断していく。


「凍れ!」


 パキィィィン!


 水流が瞬時に凍結し、無数の氷槍となって赤いスライムを串刺しにした。


 ドドドドド!


 氷槍の連射が、機関銃のような速度で放たれる。赤いスライムたちが次々と砕け散っていく。


「水は形を変える。液体から固体、そして気体へ。それが循環の力!」


 マリーナが両手を広げると、彼女を中心に直径五十メートルの渦が発生した。敵を巻き込み、味方を守る防御と攻撃の完璧な融合。


 戦闘が一段落すると、彼女はすぐに元の表情に戻った。


「あ! 今の技かっこよかった? ねぇねぇ、見てた?」


 そして倒したスライムの残骸に駆け寄り、実験を始めた。


「赤い発光の原因は何かな〜? 魔素の異常活性? それとも外部からの干渉?」


---


「帝国の侵略者め!」


 突然、怒声が響き渡った。


 雪原の向こうから、北方諸侯の軍勢が現れた。先頭に立つのは、髭面の屈強な男——アイゼン男爵だ。


「我らの土地でスライムを操り、何を企んでいる!」


「待って! 話を聞いて!」


 レオンが叫んだが、その声は剣戟の音にかき消された。


 ガシャン!


 北方軍の槍が、帝国兵の盾とぶつかり合う。まだ赤いスライムが暴れているというのに、人間同士の戦いまで始まってしまった。


「チャンスだ、北方と組もう」


 ヴァレリアのガルヴァン将軍が、部下に指示を出した。


「神の試練か……」


 セレスティアのメルキオール大司教が十字を切る。


「利益にならない戦いは回避」


 東方連合のチェン・ロン会頭は、素早く部隊を後退させた。


 三つ巴——いや、スライムも含めれば四つ巴の混戦状態。


 ドガァァァン!


 魔法と剣技が入り乱れ、雪原が戦場と化していく。


---


「もう、みんな何やってるの〜!」


 マリーナが頬を膨らませた。


 状況は悪化の一途を辿っていた。野生スライムと北方軍の挟撃を受け、帝国隊は防戦一方。フィルミナも連戦の疲労で、顔色が青白くなっている。


「みんな、ちょっと離れて〜!」


 マリーナが大きく叫んだ。その青い髪が、まばゆく発光し始めた。


 ゴゴゴゴゴ……


 地響きのような振動が広がる。周囲の雪が一斉に溶け始め、大量の水へと変化していく。


「大技いくよ〜! えーっと、名前は……アクアサイクロン!」


 ゴォォォォォォォ!


 半径百メートルに及ぶ巨大な水の竜巻が出現した。


 その威力は圧倒的だった。赤いスライムも、北方軍も、全てが巻き上げられていく。氷原に直径五十メートルの巨大な穴が開き、地面が露出した。


 だが、不思議なことに誰も死んでいない。水流が絶妙に制御され、敵を無力化するだけに留めている。


 ドサッ。


「あれ……使いすぎちゃった……」


 マリーナが倒れた。青い髪が雪の上に広がる。


「研究対象の安全が最優先だ!」


 レオンは追撃を命じることなく、マリーナに駆け寄った。フィルミナも慌てて回復魔法を唱え始める。


---


「これが……帝国の新兵器か……」


 吹き飛ばされたアイゼン男爵が、恐怖の表情で呟いた。北方軍は一時撤退を始める。


 しかし、その時——


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 今度は、もっと深い場所から地響きが響いてきた。


 氷原に亀裂が走る。パキパキと音を立てながら、大地が割れていく。


「レオン様……来ます」


 フィルミナが震え声で言った。


「とても大きな……でも優しい……第三の覚醒個体です」


 バリバリバリ!


 巨大な地割れが発生した。その奥から、茶色の光が溢れ出してくる。土の匂いが、凍てつく空気に混じり始めた。


 全軍が戦闘を中止し、その光景に釘付けになった。


「なんだあれは……」


 ヴァレリア、セレスティア、東方連合、北方諸侯——全ての勢力が、共通の驚異(?)に注目している。


 そして——


「……やっと……会えた……」


 小さく、でもはっきりとした声が聞こえた。


 少女の声だった。


 地下から、何かが這い上がってくる。土と岩に覆われた、小さな人影が。


「三体が揃った……終末の始まりだ!」


 ガルヴァン将軍が叫んだ。


「預言の成就か……」


 メルキオール大司教が震えた。


「古代兵器の起動条件が揃った」


 チェン・ロン会頭が計算を始める。


(いや、ただの少女だけど……土まみれで……)


 レオンの心の声は誰にも届かない。


 第三の覚醒個体——テラ。


 三体が揃う時、世界は新たな局面を迎える。


 レオンは研究ノートを握りしめた。その手が、興奮で震えていた。

第29話、いかがでしたでしょうか?


マリーナの本気モード発動!そして地下から現れた第三の覚醒個体・テラ。

三体が揃った今、物語はさらなる展開へと向かいます。


次回、テラの過去と大地の記憶が明かされます。

三体の共鳴が生み出す奇跡とは?


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

評価・ブックマークもとても励みになります!


次回もお楽しみに!


Xアカウント: https://x.com/yoimachi_akari

note: https://note.com/yoimachi_akari

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ