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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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第28話 競争か協力か

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

転生王子はスライムを育てたい第28話をお届けします。


各国の思惑が交錯する中、レオンの選んだ道は……情報公開?

競争と協力の狭間で、探索隊が動き出します!


お楽しみください!

 朝の研究室に、小さな爆発音が響いた。


 パァン!


「きゃ〜! 成功〜!」


 煙の中から現れたマリーナが、すすで真っ黒になりながら満面の笑みを浮かべていた。ビーカーの破片が床に散らばり、虹色の液体が壁を伝って流れている。


「朝の実験は脳が活性化してるから効率的なの〜! ほら、ドーパミンとノルアドレナリンの分泌量が〜」


「……坊ちゃまの悪い癖が伝染しましたね」


 リヴィエルが無表情のまま掃除道具を手に取った。その手際の良さは、明らかに慣れきっている。


「あはは、実験の失敗は成功への第一歩だから」


 レオンが苦笑いを浮かべながら、研究ノートにマリーナの実験結果を記録していく。爆発の規模、飛散パターン、液体の粘性係数——すべてがデータだった。


「それより坊ちゃま、本日の作戦会議の件ですが」


 ガイウス隊長が部屋に入ってきた。その表情は、いつもより硬い。


「ああ、北方への探索隊の件ですね」


 レオンは地図を広げた。フィルミナとマリーナが感知した反応点が、赤い印で記されている。北方の氷原地帯に、特に強い反応がある。


「単独で行くには危険すぎます。しかし、各国に協力を要請すれば……」


「それは諸刃の剣ですぞ」


 ガイウスの言葉に、レオンは頷いた。昨日の誤解騒動を思い出す。世界征服宣言など、一言も言っていないのに。


「でも〜、みんなで宝探しするの楽しそう!」


 マリーナが地図を覗き込みながら、無邪気に言った。


「海の底にもあるよ! 深度3000メートルくらい? 水圧すごいけど、きっと素敵な遺跡があるはず〜!」


 その瞬間、レオンの頭に閃きが走った。


---


 どうせ誤解されるなら——


 レオンは窓の外を眺めながら考えた。各国のスパイたちは今も、この研究室を監視しているはずだ。彼らは自分の言葉を都合よく解釈し、本国に報告する。


 ならば、むしろ……


「情報を公開しましょう」


「は?」


 ガイウスが目を丸くした。


「遺跡の位置情報を、すべて各国と共有します。共同探索という名目で」


「正気ですか!? それでは各国が競って——」


「そう、競い合うでしょうね」


 レオンは地図を指でなぞった。研究ノートを開き、図を描きながら説明を始める。


「考えてみてください。もし一国が単独で遺跡を発見したら、その国は独占しようとするでしょう。そうなれば、私たちの研究は妨害されます」


 ペンで円を描き、その周りに四つの点を打つ。


「でも、全員が同じ情報を持っていれば? 各国は互いを監視し合います。誰かが抜け駆けしようとすれば、他の三国が牽制する。結果的に、誰も単独では動けなくなる」


 ガイウスが理解の色を示した。


「つまり、均衡状態を作り出すと」


「そうです。そして均衡状態では、協力せざるを得なくなる。少なくとも表面上は」


 レオンは微笑んだ。


「その間に、私たちは研究を進められます。データは共有されますから、むしろ効率的です」


 フィルミナが不安そうに見つめてきた。


「本当に、これでよろしいのでしょうか?」


「大丈夫。研究のためなら、少しくらいの混乱は……」


 レオンの目が、研究者特有の輝きを帯びた。純粋な探求心と、それを邪魔されたくない一心だけがそこにあった。


---


 リヴィエルは、紅茶を淹れながら坊ちゃまを見つめていた。


(坊ちゃまも、政治的になられた……)


 いや、違う。


(これも研究の一環なのでしょう。人間の集団行動パターンの観察、とでも言いそうです)


 彼女は、レオンがフィルミナと話す様子を横目で見た。フィルミナの不安を和らげようと、優しく微笑んでいる。そして、マリーナが割り込んでくると、今度は生き生きとした表情で科学談義を始める。


(私には、見せない顔ですね)


 胸の奥で、小さな痛みが走った。でも——


(いいえ、これでいいのです。私は坊ちゃまの従者。それ以上でも、それ以下でもない)


 リヴィエルは完璧な所作で紅茶をカップに注いだ。表情一つ変えずに。


---


 大会議場。


 各国の代表が集まっていた。緊張が空気を重くしている。


「共同探索の提案があります」


 レオンが立ち上がった。背後の壁に、大きく地図が投影される。無数の赤い点が、大陸各地に散らばっていた。


「これが、古代遺跡の位置です」


 ざわめきが広がった。


「我々の研究により、正確な位置を特定しました。しかし、単独での探索は危険です。野生のスライムも活発化していますし、遺跡自体にも未知の防衛機構があるかもしれません」


 レオンは淡々と説明を続けた。政治的な駆け引きには興味がない、という態度を装いながら。


「そこで、各国合同での探索隊を提案します。発見された遺物は、学術的価値に応じて共有する。いかがでしょうか?」


---


 ガルヴァン将軍が口を開いた。


「なるほど、情報共有とは寛大な提案ですな」


 表面上は賛同の言葉。だが内心では——


(罠か? いや、むしろこれは好機。他国の動きを監視しながら、先んじることができる)


 メルキオール大司教が十字を切った。


「神の遺産は、皆で守るべきもの。賛同いたします」


(異端の証拠を掴む機会。聖騎士団を動員せねば)


 チェン・ロン会頭が算盤を弾く音が、静かに響いた。


「実に合理的な提案ですな。東方連合も協力しましょう」


(各遺跡への最短ルート、投資対効果、利益配分……計算が忙しくなりそうだ)


---


 その時、会議場の扉が勢いよく開いた。


「あ〜! この地図、間違ってる〜!」


 マリーナが駆け込んできて、投影された地図を指差した。


「ここにも反応あるよ! ほら、海の底!」


 彼女は勝手に魔法陣を描き始めた。水のマナが集まり、立体的な海底地形図が浮かび上がる。


「深海3200メートル! 熱水噴出孔の近く! すごい反応! きっと何か面白いものがある〜!」


 会議場が静まり返った。


 海底遺跡——それは誰も予想していなかった情報だった。


「海底……ということは、マリーナ王国の領海内では?」


 誰かが呟いた。


「ううん、公海上だよ〜。でも深すぎて普通は無理。私なら行けるけど!」


 マリーナの無邪気な発言が、新たな火種となった。各国代表の目が、獲物を狙う肉食獣のように光る。


---


 会議が終わった後、各国は別々の部屋で密談を始めた。


 ヴァレリア陣営。


「精鋭部隊を先行させろ」


 ガルヴァンが部下に命じた。


「表向きは護衛だ。だが実際は、遺跡の制圧が目的だ」


 セレスティア陣営。


「聖騎士団を動員せよ」


 メルキオールが聖水を振りまきながら言った。


「邪悪な力は浄化せねばならない。神の名において」


 東方連合陣営。


「各遺跡への最短ルート計算完了」


 チェン・ロンが地図に線を引いていく。


「投資対効果を考えれば、この三箇所を優先すべきですな」


---


 その頃、レオンはフィルミナと研究室にいた。


「本当に、これでよかったのでしょうか?」


 フィルミナの不安そうな声に、レオンは微笑んだ。


「大丈夫。きっと面白い結果になりますよ」


 その瞳は、純粋な好奇心で輝いていた。政治も陰謀も関係ない。ただ、新しい発見への期待だけがそこにあった。


「それに、プリマも楽しみにしているみたいです」


 ぷるん、とプリマが震えた。確かに、いつもより活発に見える。


---


「何の相談してるの〜? 混ぜて混ぜて〜!」


 マリーナが各国の密談に次々と乱入していった。


 ヴァレリアの部屋。


「あ、ガルヴァンさんも北から行くの? いいね〜! 氷の結晶観察できる!」


 セレスティアの部屋。


「聖騎士団? かっこいい〜! 鎧の金属組成調べたい!」


 東方連合の部屋。


「わぁ、効率的なルート! でもこっちの海流使えばもっと早いよ?」


 彼女の無邪気な介入により、各国の機密情報が筒抜けになっていく。誰も天然娘を止められない。


---


 翌朝。


 帝都の城門前に、各国の部隊が集結していた。


 表向きは「共同探索隊」。しかし誰もが知っている——これは競争だと。


 ヴァレリアの重装騎兵、セレスティアの聖騎士団、東方連合の機動部隊。それぞれが独自の装備を整え、疑心暗鬼の視線を交わしている。


「これで研究に集中できる」


 レオンが小さく呟いた。


「政治なんて、もううんざりです。プリマと一緒に、純粋な探求を……」


 その言葉は、誰にも聞こえなかった。


---


「海底遺跡には、世界の始まりがあるよ!」


 出発直前、マリーナが突然叫んだ。


 彼女は純粋に地質学的な意味で言っていた。海底は地球の歴史を物語る場所。プレートテクトニクス、マントル対流、生命の起源——


 しかし、周囲の解釈は違った。


「世界の始まり……創世の秘密か!」


「それを手に入れれば、神に等しい力が!」


「絶対に他国には渡せない!」


 誤解が誤解を呼び、緊張が最高潮に達する。


---


 リヴィエルがレオンに近づいた。


「坊ちゃま、お気をつけて」


 いつもと変わらない、完璧な従者の顔。でも、その瞳の奥に、微かな心配の色が見えた。


「ありがとう、リヴィエル。留守を頼みます」


「はい」


 短い会話。でも、長年の信頼がそこにはあった。


---


 探索隊が動き出した。


 表向きは整然とした隊列。しかし内実は、互いを監視し合う緊張状態。


 北方への道は長い。氷原の向こうに、何が待っているのか。


「さあ、実験……じゃなくて、冒険の始まりだ!」


 レオンの声が、朝の空に響いた。


 マリーナが隣で飛び跳ねている。


「楽しみ〜! 新しい発見がいっぱいあるはず! ねぇねぇ、寒冷地での水の相転移について話そう?」


 フィルミナが不安そうに呟いた。


「なんだか、嫌な予感が……」


 プリマがぷるぷると震えた。まるで、これから起こる騒動を予期しているかのように。


---


 帝都の塔の上から、リヴィエルが出発する一行を見送っていた。


(坊ちゃまは、また危険な道を選ばれた)


 風が彼女の銀髪を揺らした。


(でも、あの輝く瞳を見ていると……私には止める資格などありません)


 彼女は静かに踵を返した。


(ただ、お帰りを待つことしか……)


 その背中は、いつもより少しだけ小さく見えた。


---


 一方、北方の氷原では——


 ゴゴゴゴゴ……


 地響きが、少しずつ大きくなっていた。


 氷の下で、何かが目覚めようとしている。


 第三の覚醒個体——テラ。


 三体が揃う時、世界は新たな局面を迎える。


 それが破滅なのか、それとも希望なのか。


 誰にも、まだ分からない。

第28話、いかがでしたでしょうか?


レオンの政治的(?)判断により、各国が競い合う状況が生まれました。

そして北方では、第三の覚醒個体が目覚めようとしています。


次回、ついに北方氷原での戦いが始まります!

野生スライムとの遭遇、そして……?


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

評価・ブックマークもとても励みになります!


次回もお楽しみに!


Xアカウント: https://x.com/yoimachi_akari

note: https://note.com/yoimachi_akari

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