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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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第20話 地下への潜入

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

転生王子はスライムを育てたい第20話をお届けします。


地下遺跡への潜入、そして原初の母体との遭遇。

フィルミナの正体に迫る、緊迫の展開!


お楽しみください!

 朝靄が立ち込める研究室で、レオンは地図を広げていた。古い羊皮紙の匂いと、インクの香りが鼻をくすぐる。帝都の地下構造を示す図面は、三百年前のものだった。


「ここが最も可能性が高い」


 シグレが指差した場所は、帝都の旧市街地下だった。


「古い記録によれば、この辺りに研究施設があったはずです」


 エルヴィーラも頷いた。冷たい朝の空気が、緊張感を一層高めている。


「生命解放団の動きから推測すると、彼らもこの場所を目指している可能性があります」


 レオンは決意を固めた。フィルミナの苦しむ姿が脳裏をよぎる。昨夜から、彼女の状態は悪化する一方だった。


「今夜、潜入する」


 その言葉に、リヴィエルが反応した。


「お待ちください。護衛なしでは」


「リヴィエル、君も来てくれるかい?」


 レオンの純粋な問いかけに、彼女は一瞬言葉を失った。


(坊ちゃまは、私を信頼してくださっている)


「もちろんです」


 彼女の声には、職務を超えた決意が宿っていた。


---


 昼過ぎ、フィルミナの容態が急変した。


「熱い……体が、溶けそう」


 彼女の半透明な体から、異常な熱が放射されている。触れていないレオンの肌にも、その熱気が伝わってきた。プリマも同様に苦しんでいる。二体の間で、激しい共鳴が起きていた。


 突然、フィルミナの瞳が紫色に変わった。


「来て……地下に……母が……待って……」


 それは彼女の声ではなかった。より深く、より古い存在の声だった。


 レオンはフィルミナの手を握った。熱さに耐えながら、優しく語りかける。


「大丈夫、必ず助ける」


 彼の手の平が赤く腫れ上がっても、レオンは手を離さなかった。


(前世では、誰も助けられなかった。でも今度は)


 研究者としての好奇心と、保護者としての責任が、彼の中で一つになっていた。


---


 夕暮れ時、宰相ヴァレンタスは密かに部隊を配置していた。


「第三王子の動きを見逃すな」


 彼の表情は険しかった。


「地下で何が起きようと、帝国の安定が最優先だ」


 部下が頷いた。


「生命解放団の動きも活発化しています」


「両方を監視しろ。そして必要なら」


 ヴァレンタスは言葉を切った。しかし、その意図は明確だった。


 一方、第一王子ユリオスも独自に動いていた。


「レオンが危険に向かっている」


 彼は親衛隊長に命じた。


「密かに援護しろ。弟に気づかれないように」


(レオンは帝国の希望だ。失うわけにはいかない)


---


 深夜、レオン一行は旧市街の廃墟に立っていた。


 崩れかけた石造りの建物の間から、冷たい風が吹き抜ける。月明かりが、瓦礫の影を不気味に映し出していた。


「ここです」


 シグレが示した場所は、一見すると単なる古井戸だった。しかし、よく見ると、井戸の縁に古代文字が刻まれている。


「『生命の源へ』……そう書かれています」


 エルヴィーラが解読した。


 レオンが井戸を覗き込むと、底は見えなかった。しかし、かすかに甘い香りが立ち上ってくる。スライムの匂いだった。


「フィルミナ、大丈夫?」


 レオンの問いかけに、フィルミナは弱々しく頷いた。彼女の体は、井戸に近づくにつれて激しく震えていた。


「呼ばれて……いる……」


 プリマも同じように反応していた。


 一行は井戸に降りた。古い石段が螺旋状に続いている。壁は湿っていて、触れると冷たい水滴が手に付いた。下に行くほど、スライムの甘い香りが強くなっていく。


---


 地下深く降りると、そこには想像を超える光景が広がっていた。


 巨大な地下空間。天井は見えないほど高く、青白い光を放つ苔が壁一面を覆っている。その光が、幻想的な雰囲気を作り出していた。


 そして、無数の野生スライムが蠢いていた。


「これは……」


 シグレが息を呑んだ。


 スライムたちは、ある一点に向かって移動していた。まるで、見えない力に引き寄せられているかのように。


「向こうに何かある」


 エルヴィーラが指差した方向に、古い建造物が見えた。


 近づくにつれて、その全貌が明らかになった。三百年前の研究施設だった。石造りの建物は部分的に崩壊していたが、中央の塔だけは無傷で残っていた。


 入口には、警告文が刻まれていた。


「『生命の真理に触れし者、その代償を知るべし』」


 レオンは躊躇なく中に入った。


(真実を知らなければ、フィルミナを助けられない)


---


 施設内部は、予想以上に保存状態が良かった。


 壁には、実験の記録と思われる壁画が描かれている。人間とスライムの融合実験。しかし、それは単なる融合ではなかった。


「新しい生命体系の創造……」


 シグレが壁画を解読した。


「彼らは、人間でもスライムでもない、第三の存在を作ろうとしていた」


 フィルミナが突然立ち止まった。


「ここ……知ってる」


 彼女の瞳に、記憶の断片がよみがえる。


「白い部屋……たくさんの人……痛い実験……」


 レオンは優しく彼女を支えた。


「思い出さなくていい。今の君が大切なんだ」


 しかし、フィルミナは首を振った。


「知りたい。私が何者なのか」


 その時、奥から低い振動音が聞こえてきた。まるで、巨大な心臓の鼓動のように。


---


 最深部にたどり着いた時、一行は言葉を失った。


 巨大な培養槽があった。高さ十メートルはあろうかという円筒形の容器。その中には、青い液体が満たされている。


 そして、その中心に「それ」はいた。


 人間の女性のような上半身と、巨大なスライムの下半身を持つ存在。半透明の体は、内部の臓器のようなものが透けて見える。閉じられた瞼の下で、眼球が動いていた。


「原初の母体……」


 エルヴィーラが震え声で言った。


 フィルミナとプリマが激しく反応した。二体の体が共鳴し、培養槽の存在と呼応し始める。


 すると、母体の瞼がゆっくりと開いた。


 深い紫色の瞳が、フィルミナを見つめた。


「我が……娘……」


 その声は、直接頭の中に響いてきた。古く、悲しみに満ちた声だった。


「やっと……会えた……」


 フィルミナの体が、培養槽に向かって引き寄せられる。


「お母……さん?」


---


 その瞬間、複数の勢力が同時に到着した。


 まず、生命解放団の黒いローブの集団。


「ついに、母体の覚醒の時が来た!」


 リーダーが叫んだ。


「新たな世界の始まりだ!」


 次に、ヴァレンタスの兵士たち。


「第三王子、これ以上は危険です」


 隊長が武器を構えた。


「速やかに撤退を」


 そして、ユリオスの援軍。


「レオン様をお守りしろ!」


 三つの勢力が、培養槽を中心に対峙した。


 緊張が極限まで高まる中、母体が再び口を開いた。


「愚かな……人間ども……」


 その声と共に、培養槽の液体が激しく泡立ち始めた。


「お前たちが……私を……作った……」


 レオンは、フィルミナを抱きしめながら叫んだ。


「みんな、武器を下ろして! 話し合いで解決できるはずだ!」


 しかし、その純粋な訴えは、各勢力によって異なる解釈をされた。


(第三王子は、母体を手に入れようとしている)


(いや、破壊しようとしているのかもしれない)


(それとも、新たな実験を始めるつもりか)


 母体の瞳が、レオンに向けられた。


「お前は……違う……」


 その言葉の意味を理解する前に、培養槽に亀裂が走った。


 青い液体が溢れ出し、地下空間全体が振動し始めた。


「みんな、逃げるんだ!」


 レオンが叫んだ瞬間、天井から瓦礫が降り注いできた。


 崩壊が始まっていた。

第20話、いかがでしたでしょうか?


ついに原初の母体と対面したフィルミナ。

しかし、三つの勢力が邂逅し、地下施設は崩壊の危機に!


次回、フィルミナの覚醒が始まる!

崩壊する地下からの脱出と、新たな力の発現!


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

評価・ブックマークもとても励みになります!


次回もお楽しみに!


Xアカウント: https://x.com/yoimachi_akari

note: https://note.com/yoimachi_akari

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