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転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~  作者: 宵町あかり


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第11話 公開実験

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

転生王子はスライムを育てたい第十一話をお届けします。


ついに第1章のクライマックス!レオンによる史上初のスライム研究公開実験が開催されます。

フィルミナの驚異的な能力披露と、それを目の当たりにした帝国中の人々の反応は?

研究者として純粋な気持ちで発表するレオンと、彼を取り巻く政治的思惑の対比にも注目です。


お楽しみください!

早朝の陽光が魔法学院の大講堂を照らしている。通常であれば静寂に包まれているはずの巨大なホールに、今日は数百の椅子が整然と並べられていた。


 レオン・アルケイオス第三王子による、史上初のスライム研究公開実験の日である。


 舞台となる演台には、ガラス製の水槽と様々な実験器具が配置されている。レオンは準備を進めながら、胸中で密かに溜息をついていた。


 (なぜこんな大事になったんだろう。ただ基礎研究の成果を発表するだけなのに)


 昨夜までの騒動を思い返す。皇帝陛下の実験継続許可を受けて、シグレが「これは学術界に公開すべきだ」と提案したのが始まりだった。気がつけば、貴族から一般市民まで数百人の聴衆を前にした大規模な発表会となってしまった。


 「レオン様、緊張されていますか?」


 後ろから声をかけられ振り返ると、フィルミナが心配そうな表情を浮かべていた。今日の彼女は特別製の淡い青色のドレスを身に纏っている。スライムから進化した彼女にとって、正装は初めての体験だった。


 「君の方こそ大丈夫?今日は多くの人に見られることになる」


 「はい。レオン様のお役に立てるなら、何でもいたします」


 フィルミナの澄んだ瞳に宿る真摯な想いに、レオンは胸が温かくなるのを感じた。彼女の存在が、今の自分にとってどれほど支えになっているか計り知れない。


---


 開始時刻が近づくにつれ、講堂内の喧騒が増していく。


 前列には帝国の重鎮たちが座っている。ヴァレンタス宰相の険しい表情、シグレ・マカレアの期待に満ちた眼差し、そしてユリオス第一王子の複雑な表情。


 中央部には学者や魔法研究者たちが陣取り、熱心に議論を交わしている。彼らの多くは懐疑的な視線をレオンに向けていた。


 「第三王子の研究が本物だとは思えんな」


 「所詮は王子の道楽だろう。スライムが何の役に立つというのだ」


 後列には好奇心旺盛な一般市民たちが座り、歴史の目撃者になることへの興奮を隠し切れずにいる。


 時計の針が正時を指した瞬間、講堂内が静寂に包まれた。


 レオンが演台に立ち上がる。


 「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。私、レオン・アルケイオスより、スライムの基礎的な生態と培養実験について発表させていただきます」


 (基礎研究の発表。それ以上でも以下でもない)


 レオンの心境とは裏腹に、聴衆の視線は期待と緊張に満ちていた。


---


 「まず、スライムという生物の基本的な構造について説明いたします」


 レオンは手慣れた様子で、準備していた図表を示しながら解説を始めた。前世の生物学知識を異世界の言葉で翻訳し、誰にでも理解できるように噛み砕いて説明する。


 「スライムの細胞構造は非常にシンプルです。しかし、そのシンプルさゆえに、環境適応能力が極めて高いのです」


 聴衆の中で、学者たちがメモを取り始める。レオンの説明は理路整然としており、これまで誰も言語化できなかった観察結果を見事に体系化していた。


 「そして、この適応能力こそが、スライムの真の可能性なのです。フィルミナ、お願いします」


 フィルミナが小さく頷き、演台に向かって歩いていく。彼女の優雅な動作に、講堂内からざわめきが漏れた。


 「こちらが、私の研究室で培養されたスライムです。フィルミナと名付けています」


 (あくまで研究対象の個体名。学術的な分類のため)


 レオンの意図とは関係なく、聴衆の間に驚嘆の声が響く。


 「人の形をしている...」


 「美しい...まるで妖精のようだ」


 フィルミナは少し頬を赤らめながらも、レオンの指示に従って基本的な能力を披露し始めた。


---


 「まず、形態変化能力をお見せします」


 フィルミナの身体が薄い青色の光に包まれ、液体状へと変化していく。次の瞬間、彼女は水槽の中で本来のスライムの姿に戻っていた。


 講堂内が静寂に包まれる。


 そして再び光が生まれ、フィルミナが人型の姿を取り戻した。今度はドレスではなく、実験用の簡素な服装に変わっている。


 「衣服も含めて形態を制御できるのです。これは魔素との相互作用によるものだと考えられます」


 (物質の状態変化。前世の物理学で説明できる現象だ)


 観客席では、口をあんぐりと開けた貴族たちの姿があった。魔法研究者たちは興奮のあまり立ち上がり、一般市民たちは息を呑んで見守っている。


 「次に、治癒能力をお見せします」


 レオンは小さなナイフで自分の手の平に浅い傷をつけた。血が滲み出る。


 「レオン様!」


 フィルミナが慌てて駆け寄り、そっと彼の手に触れる。淡い青色の光が傷口を包み込み、数秒後には完全に治癒していた。


 今度は講堂内から感嘆の声が上がった。


 「すごい...」


 「あんな傷が一瞬で...」


 レオンは冷静に解説を続ける。


 「スライムの細胞再生能力を応用したものです。傷ついた組織の修復を促進します」


 (細胞の再生促進。メカニズムさえ理解すれば応用は可能だ)


---


 実演は予定を上回る成果を見せていた。


 フィルミナは戦闘能力、物質の分解と合成、環境適応、さらには簡単な魔法まで披露した。それぞれの能力について、レオンは科学的な観点から理論的な説明を加えていく。


 聴衆の反応も、最初の懐疑から驚愕、そして畏敬へと変化していた。


 「最後に、最も重要な能力をお見せします」


 レオンがそう言うと、フィルミナは微笑みながら演台の中央に立った。


 「皆様」


 フィルミナが清らかな声で語りかける。


 「私は確かにスライムから生まれました。でも、今は一人の人として、レオン様への想いを抱いています」


 彼女の言葉に、講堂内が再び静寂に包まれた。


 「私たちスライムには、愛する心があります。学ぶ心があります。成長する心があります。レオン様が教えてくださったのです。命あるものは皆、尊いのだということを」


 フィルミナの言葉が終わった瞬間、講堂内は割れんばかりの拍手に包まれた。


 観客たちは立ち上がり、スタンディングオベーションを送っている。


---


 (なぜこんなに喜んでいるんだろう)


 レオンは困惑していた。自分としては、基礎的な研究成果を発表しただけのつもりだった。培養条件の調整、観察記録の蓄積、能力の体系化。すべて前世で学んだ科学的手法の応用に過ぎない。


 しかし、聴衆の反応は彼の想像を遥かに超えていた。


 「素晴らしい!」


 「新時代の扉を開いた!」


 「これは歴史に残る発見だ!」


 シグレが興奮した表情で駆け寄ってくる。


 「レオン!君がやったことの重要性がわかるか?生命創造の理論化だ!これまで不可能とされていた人工生命体の創造を、君は科学的手法で実現した!」


 (生命創造...?僕はただスライムの培養条件を調整しただけなのに)


 一方、ヴァレンタス宰相の表情は険しいままだった。彼はユリオス王子に近づき、何事かを囁いている。


 ユリオスの表情が曇った。


 (兄上には理解してもらえなかったか)


 レオンは少し寂しい気持ちになったが、すぐに前向きな考えに切り替えた。研究を続けていけば、いつか理解してもらえるはずだ。


---


 実験終了後、レオンとフィルミナは控室で一息ついていた。


 「お疲れ様でした、レオン様」


 フィルミナが優しく微笑みかける。


 「君もお疲れ様。完璧な実演だったよ」


 「ありがとうございます。でも...」


 フィルミナが少し不安そうな表情を見せる。


 「あの宰相様の表情が怖かったです。レオン様に何か悪いことが起きるのではないでしょうか」


 レオンは彼女の頭をそっと撫でた。


 「大丈夫。僕たちは何も悪いことはしていない。真実の追求に善悪はないんだ」


 (研究者として当然の信念。これまでもこれからも変わらない)


 しかし、フィルミナの不安は的中していた。


 隣室では、ヴァレンタス宰相が厳しい表情で部下に指示を出している。


 「あの研究は危険すぎる。帝国の根幹を揺るがしかねん。手を打つ必要がある」


---


 その夜、王宮の夕食は異例の盛り上がりを見せていた。


 「レオン!お前の実験は見事だった!」


 皇帝陛下が上機嫌で杯を掲げる。


 「ありがとうございます、父上」


 レオンは素直に喜んだ。研究成果を認めてもらえたことが何より嬉しかった。


 「学術界からも絶賛の声が届いている。魔法学院からは共同研究の申し出が殺到しているそうだな」


 「はい。多くの先生方が興味を示してくださっています」


 (やっと研究仲間が見つかる。これまでの孤独な研究から解放される)


 しかし、ユリオスだけは沈黙を守っていた。


 食事の後、ユリオスがレオンを呼び止める。


 「レオン、少し話がある」


 二人だけになると、ユリオスの表情が真剣になった。


 「今日の実験は確かに素晴らしかった。しかし、同時に非常に危険でもある」


 「危険?何がでしょうか」


 「お前が生み出したフィルミナという存在だ。あれは既存の秩序を根底から覆す可能性がある」


 レオンは首をかしげた。


 「秩序?僕には理解できません」


 「そこがお前の危うさだ」


 ユリオスの声に憂いが滲んだ。


 「お前は純粋すぎる。研究以外のことが見えていない。だが、政治は違う。お前の研究成果は必ず悪用される」


 (悪用...?科学的知識に善悪はないはずなのに)


 「でも、知識の発展は人類の進歩につながります」


 「その楽観主義が心配なのだ」


 ユリオスは深く溜息をついた。


 「ヴァレンタス宰相は既にお前を危険視している。今後、さらなる圧力がかかるだろう」


---


 その頃、フィルミナは自分の部屋で今日の出来事を振り返っていた。


 (多くの人に見られて緊張したけれど、レオン様のお役に立てて良かった)


 しかし、宰相の険しい視線が脳裏に焼き付いて離れない。


 (レオン様を守らなければ)


 彼女の中で、新しい感情が芽生えていた。愛する人を守りたいという、人間らしい強い意志。


 窓の外を見上げると、星空が広がっている。


 (明日からどうなるのだろう)


 レオンもフィルミナも、この公開実験が帝国全体を巻き込む大きな変革の引き金となることを、まだ知らずにいた。


 新時代の幕は、静かに、しかし確実に上がろうとしていた。


---


 翌朝、帝国各地から驚きの報告が届き始める。


 昨日の実験を見た商人たちが、スライムの商業利用について問い合わせを始めたのだ。治癒能力を使った医療事業、形態変化を活用した建設業、分解能力を応用した清掃業。


 (想像もしていなかった応用分野だ)


 レオンは届いた大量の手紙を前に、改めて自分の研究の影響力を実感していた。


 「レオン様、これらの問い合わせにはどうお答えしますか?」


 リヴィエルが効率的に手紙を分類しながら尋ねる。


 「まずは学術的な検証を進めたい。商業利用はその後の話だ」


 (基礎研究が第一。応用は十分な検証の後で)


 しかし、世間の期待は既にレオンの想像を超えて膨らんでいた。


 市民たちは口々に語り合っている。


 「第三王子様が新しい時代を作ってくださる」


 「あのスライムの娘さんは美しかった」


 「これで我が帝国も安泰だ」


 (なぜ帝国の安泰に結びつくんだろう)


 レオンには理解できない反応ばかりだった。しかし、その純粋さこそが、さらなる奇跡を生み出す原動力となることを、彼はまだ知らない。


 第一章の終わりと共に、真の物語が始まろうとしていた。

第十一話、いかがでしたでしょうか?


第1章のクライマックスとして、ついにスライム研究の成果が世に公開されました!

フィルミナの形態変化、治癒能力、そして何より「愛する心」の表現に、

聴衆はスタンディングオベーションで応えました。


しかし、レオンの純粋な研究発表が、世間では「新時代の革命」として受け取られ、

既に商業利用の問い合わせが殺到する事態に。

さらにヴァレンタス宰相の不穏な動きも...


次回第十二話「新たな始まり」で第1章完結、そして第2章開幕です!

帝国を巻き込む大きな物語の始まりを、ぜひお見逃しなく!


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

評価・ブックマークもとても励みになります!


次回もお楽しみに!


Xアカウント: https://x.com/yoimachi_akari

note: https://note.com/yoimachi_akari

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