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衝撃
衝動だった。考えた時間など皆無。動くまま手足を振るった。
まずは二人を引きはがした。女の方は何やら口にしているようだが、耳障りな声は聴く事が出来なかった。彼らの顔を見る事も無く、まずは女だ。
腹に一撃見舞う。拳を受けた女は腹を抱え込むようにして背を丸め後退りした。次は、黎だ。念の籠った、耐え抜いて来た想いの全てをのせた打撃をその胸に受ければいい。目一杯の力を込めて、拳を向けた。固い感触が関節に伝わる。
どんな顔をしているのか、気になって目線を上げた。そこにあった表情は、考えていたものと違っていた。
「燐」
怒りに塗れていると思っていた。向けられた感情の処理に時間が掛かると思っていた。だが、彼の顔はそんなものを一つも感じていないように見えた。
穏やか、とはまた違う。微笑みでもない。笑顔なのは確かだ。口角は緩やかに上を向いている。赤く宝石のような輝きを放つ瞳には、歪な情が映っていた。
どう、して? そんな顔をしているの? なぜ嬉しそうなの?
このまま近くにいてはいけないと、握った拳を解き、一歩下がろうとした。それなのに彼は。




