愚か
愛を囁き合い、互いの熱を感じている夜長。
「燐……燐……」
私を求める黎。蕩けている瞳には私しか映っていない。
「愛してんで」
耳元で囁く声に心地良さを感じる。このまま溶けてしまいたい。そうして一つになれれば、もっと愛に溺れる事が出来る。
それでは、夢でおぼれていた時と何ら変わりないじゃあないか。
奥底で考えてはいけない言葉が浮かんでいた。
意識を彼へと戻して、彼へと接吻をした。
「私も」
沈丁花の香りはもう体に染みついてる。前までは一時だけだったのに、今は彼だけの香りではない。息を整えるとあまりの幸福で詰まってしまいそうだった。
幸せ。幸せのはず。今の私は、満たされている。充たされて、いる?
一度湧いて出た疑問は。不安は、確実に現実を突きつけてきていた。
腕の中に居る私に起き抜けの彼は悪戯に下唇に触れ、拭い取った紅を己の唇に乗せる。
今までであれば、焦れていた時ならば、動かされていたはずの感情。霞がかっているような、靄が覆っているような。積み上げてきた、つくって来た私がどうにも崩れる音がする。これは……これは。
「何か、違う気がする」
必死に考えまいとしていたのに、簡単に気付いてしまう。あぁ、愚かだ。一度分かってしまったら、もう戻れないというのに。この生活ももうお仕舞だろうか。
「なんか言うたか?」
聞き返す彼に、もう諦めて伝えてしまおうと思った。彼は、黎はどう思うだろうか。なんて言うだろうか。疲れた、やっと終わりかなんて、言われてしまうのだろうか。
それでも、まぁ構わない。心は嘘のように軽かった。




