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水溜

 曇りで止まっていた空はいつの間にか、咽び泣いていた。少し前の私の様に。

 濡れ始めた硝子にそっと手を添える。路に水溜を作り始めている雨を眺めていると、濡れる事もいとわず飛んでいる虫が目に入った。どこまで行くだろうか。遠くまでゆければいいな。その時、ついに濡れてしまったのだろう。虫は水溜に身を落とした。人から見れば浅い。だが、あの小さな躰にとってはもう這い出る事さえ出来ないような深い、深い場所なのだろう。きっと溺れ死んだのだ、動かなくなった姿が何とも哀れであった。

 男が夢から目覚める頃には街並みを彩る行燈に灯りがついていて、色町本来の艶やかな景色が雨の中広がっていた。

 満足そうな顔をしている男は、要らないといったはずの金子をいくつか置いて、店を出て行った。

 あれだけの短い時間の価値にしては、少し多い。まぁ、また浸りに来るだろうあれは。

 残されたお代を手に取って、店の奥へ。見えないように隠されている金庫を開く。数え切れないほど詰まれている金の傍に新たな塔を建てる。これだけ貯めても、何に使うわけでもない。生活費は女の一人暮らしだ、そこまでかからない。もういっその事、彼の傷を男娼でも買って癒してしまおうか。十八、もう子が居てもおかしくない歳なのに色恋に現を抜かして、ただ働いているだけ。金で買って悪い事等何もないではないか。この町では当たり前なのだから、恥じる事も後ろめたい事でもない。彼もきっと遊んでいるに違いないのだから。

だから、私も……私だって! 煮え滾る熱く穢れた感情はこの身を蝕む。広がるだけ広がって、結局理性が熱とも言えるこれを収めていくのだ。彼はきっと一番私を愛しているからきっと戻ってきて、また側に居てくれると。叶うはずもない幻想を胸に抱く。

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