表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/72

なんとかバルトゲット

今朝は少し早く家を出た。

いつもは自転車通学だけど、昨日の帰りにパンクしちゃったから、学校まで歩いて行くしかない。


「ついてないな〜。」

タイヤのゴムが摩耗してパンクしただけだから、ついてないも何もない。なるべくしてなっただけなのに、文句が出る。お年頃なのかもしれない。

ブツクサ言いながら、通学路から少し外れた自転車屋さんまでガラゴロガラゴロ自転車を引いて行った。いつもだったら、こんなふうに引いていても軽く進めるのに、パンクしてるだけで車体が一気に重くなる。タイヤってすごいんだな。

「よし、もう着くぞ。」

角を曲がった瞬間、シャッターが降りているのがわかった。本日定休日。

「えーっ!せっかくここまで来たのにぃ!」

またしてもブツクサ言いながら、家まで引いて帰った。


というわけで、今に至る。

今日は営業している。はずだ。家に帰ったら(また)自転車屋さんに持って行かなければ。ママは仕事だから、ボクが自分で行くしかない。

「あ〜あ。面倒臭いな。」

「りーくー!」

誰かに名前を呼ばれた。ボクは「陸久」と書いて「りくひさ」というんだけど、みんな「りく」と呼ぶ。

振り向くと同じクラスの山本温希ハルキがいた。

「おお〜スプリング・ハズ・カム!』

「オレのハルは、そのハル(春)じゃねーっての。」

アハハと笑いながら歩き出す。何を言っても面白いのも、お年頃のせいかもしれない。

「今日はチャリじゃないの?」

「パンクしちゃってさ〜。」

ちょうど小学生の通学時間帯だったようで、2人の小学生(低学年くらいだろうか)が、道端にしゃがみ込んで何か言ってるのが聞こえた。

「あれー?ここに緑のちっちゃい虫がいっぱいいるよ。アリもいる。」

「あ!ほんとだー。お水のツブツブがくっついてるのもいるね。」

「なんだろうねー。」もう行こうか、と言って立ち上がると、じゃれ合いながら行ってしまった。

「水がくっついてる虫って何だろうな。」

ハルキはそう言って覗き込んだ。

「本当だ。水飲んでんのかな?」

「違うよ。蜜だ。」

ボクがそう言うと、ハルキは少し驚いて

「え!そーなの?」

「あれはアブラムシで、お尻から蜜を出してるんだ。」

ああそうだ。先週、ボクはアリになった夢を見た。そこで、アブラムシの蜜を飲んだんだ。味も思い出せる。夢なのに、なんでなんだろう。

「ケツからミツ!なんかダジャレみたいだな。」

ハルキはそう言ってクククと笑った。お年頃だからね。

「でもよく知ってるな。虫好きだったっけ?」

ハルキが意外そうな顔をした。

「甘くて美味しいんだよ。」

ボクはそう言うと、ポカン顔のハルキを置いてスタスタと歩き出した。


教室に入ると、たぶん紫陽花が飾ってあった。たぶん、と言ったのは、見たことない色をしてるからだ。

紫陽花は土の成分で色が変わる。酸性かアルカリ性か。リトマス試験紙みたいだ。それが不思議で、子どもの頃から大好きだった。飾ってある花は、ド派手な色をしていて、なんだのこの色!?と衝撃をうけた。

「あの花、誰か持ってきたの?」

隣の女子は「知らなーい。」と言ったけど、前の女子が「館林君だよ。」と教えてくれた。

紫陽花かどうか確かめたくて、館林に訊きにいった。

「タッチー。あの花って紫陽花?」

「知らん。なんとかバルトって言ってた。ウチにいっぱい咲いてて、オカンに持ってけって言われた。」

これがいっぱい咲いてるのか。

「今日ウチでゲームしない?この花見たいんだろ?」

羨ましいと思ったのが顔に出てたのかもしれない。

「行く行く!」二つ返事で答えた。


館林家の庭には、なんとかバルトがいっぱい咲いていた。確かにキレイだけど、あまりの派手さに驚いた。

写メ撮っていい?と訊いてスマホでパチリ。

ママに見せたらビックリするだろうな!

「こいつ、これ見たそうだったから連れてきた〜。」

タッチーがなんとかバルトを指差しながら言うと、タッチーママは嬉しそうに『シュロスバッカーバルト』というドイツ生まれの紫陽花なんだと教えてくれた。

ドイツ生まれと聞いて納得した。確かに日本人が品種改良する方向性とは違って、ビビるほどの派手さがある。

外国生まれの紫陽花か。インターナショナルだなぁ。


2時間くらいゲームをしてタッチーの家を出た。

帰りに、タッチーママが挿し木で増やしたというなんとかバルト(覚えられなかった)の小さな鉢植えをもらった。小さくてまだ固そうなツボミも付いている。ミニチュアのブロッコリーみたいだ。

タッチーママは勘違いをしている。ボクは、紫陽花を見るのが好きなだけであって、育てるのは面倒臭いから好きじゃない。でも、いらないなんて言えなかった。

よし!ママになんとかバルトの写真を見せるのはやめとこう。咲いてからのお楽しみってことにして、育ててもらおーっと!

他力本願なことを考えながら、自転車屋さんに向かう。

カゴに入れたらひっくり返っちゃうかなぁ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ