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外来種は辛いよ

こっちに帰ってきてるのに、心臓がドキドキいってるのがわかる。

「さてさて、目が覚めたか。」

「うわあっ!?」

鼻の上に現れたアリンコを、とっさに手で振り払おうとしてガブリとやられた。

「イッテーッ!」

「まったく、失礼なヤツめ。」

「痛ったいなぁ。噛まなくたっていいじゃん。」

噛まれた鼻を触って傷口を確かめている時、大事なことを思い出した。

「ねぇ!そんなことより、アイツ、あの嫌なヤツ、チュウゴクなんとかは無事だった!?ボクが大丈夫だったんだから、アイツも助かってるよね!?」

「・・・大丈夫だ。無事に逃げ仰たわ。今回は、な。」

「はぁ〜、よかったぁ。」

ほうっと胸を撫で下ろした。

「アイツ、最初は嫌なヤツだと思ったけど、結構話せるヤツだったんだ。本当によかったよ、助かって。」

「つくづく、人間とは勝手だのぅ。」

アリンコは大袈裟にため息をついた。

「なんだよそれ。アリンコこそ、間違えるなんてひどいじゃん!違う虫になってたよ。」

「いいや、間違えてなぞおらぬ。」

「えぇ?間違ってないんなら、何でわざわざ違う虫にしたんだよ。」

「在来種と外来種は違うのだということを、わからしめるためだ。在来種は、その地の自然の中で生きてきた生物たちだ。外来種は、元々は外国の地で生きていたにも関わらず、人間によってその地にもたらされた生物たちだ。オマエはこの地の人間であるからのぅ。故に、在来種であるアミガサハゴロモとしたのだ。」

「ふ〜ん。本当は、この国の虫にしかできないんじゃないの?」

「バ、バカを言うでない!違う国の虫にすることもできるわ!!」

プッ!ジト目で見たら、面白いくらい慌ててら。

「コホン!そんなことより」

プププッ。咳払いなんかしてカッコつけちゃって。

「お前は外来種についてどう思った?」

「・・・なんで外来種だからなんて理由で、駆除されるんだろって思った。」

アイツは、そんな理不尽な現実も受け入れたうえで、自分に誇りを持ってるすごいヤツだった。

納得できなかったのはボクだ・・在来種との待遇が、あんまり違うことにショックを受けてたのは、ボクの方だ。

「ここまで増えては、駆除されるのもやむを得ないことなのだと、我は思う。駆除という言葉は好かぬがな。」

「え!?なんで?仲間が殺されちゃうんだよ!?」

「オマエはすぐ情に流される。まだまだ若いのぅ。」

「情に流されてなんかないってば。まだ若いって、どういう意味だよ。」

「お母上に聞いてみるが良い。あのお母上のことだ、恐らく返答は違うであろうよ。それはさておき、その地の生態系を崩すことは、その地に生息する他の種を駆逐することだ。人間が気づいておらずとも、必ずと言っていいほど、何かが生きることが難しくなっておるか、その地において絶滅しておる。」

「でも!チュウゴクなんとかは・・」

「チュウゴクアミガサハゴロモは大陸からやってきた外来でな。奴らは何でも喰らうので、この国におけるほぼ全ての作物を食害しておるのだ。」

「だったら、困るのは人間だけじゃん。」

「おやおや。人間のオマエが、人間が困っても良いというのか?」

「そういうわけじゃ・・・。」

「少なくとも」

アリンコは少し声を大きくした。

「少なくとも、いずれはチュウゴクアミガサハゴロモを駆除する為に、薬剤が散布されることになるであろう。そうなれば、無関係の虫たちも、ただでは済むまい。よしんばチュウゴクアミガサハゴロモを放置したとして、無制限に増えたそれらを喰らう鳥が出てくる。エサが豊富になることで、鳥の繁殖も盛んになるであろう。結果、鳥が増え過ぎ、他の虫たちも際限なく喰われるだろうし、鳥自身も増えすぎて逆にエサがなくなり、自滅することになるやもしれぬ。自然のバランスは、かくももろいのだ。」

アリンコの言う意味はちゃんと理解できる。

だけど、アイツは?

飛びたいって言ってたアイツの声を思い出した。

「お前はチュウゴクアミガサハゴロモを知ったことで、情が湧いている。その結果、駆除されて欲しくないと願っている。違うかのぅ?」

何も言えなくなって、またしても鼻の奥がツンとした。

「本来、自然の摂理に人間が介入してはならぬ。だがのぅ、人間のせいで起こった事象は、人間が収めねばなるまいて。」

「アイツら・・チュウゴク・・アミガサハゴロモは、死んだ当たり前・・だっていうのかよ・・」

「そこまでは言わぬ。死んで当たり前の生き物などおらんからな。ただ、例え死のうとも、決して無駄ではないし、無駄にしてはならんのだ。だからこそ、人間は他所の生き物を、絶対に自然界へと持ち込まないようにせねばならんのよ」

気づくと涙が溢れていた。

涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたボクに、オロンとキュッピがティッシュを1枚運んできてくれた。


「おばよゔ・・」

「あらら、また嫌な夢見たの?最近、多いわねぇ。」

適当に返事をしながらテーブルにつくと、カフェオレを用意してくれているママに、

「ねぇ、外来種を駆除するのってどう思う?」

と尋ねてみた。

何それ?と少し嫌な顔をしながら、ボクの前にカフェオレ入りのマグカップを置くと、自分のコーヒーカップを持って向かい側に座った。

「駆除って言葉は好きじゃないなぁ」

あ。アリンコと同じこと言ってる。

「でも、仕方がないことだと思うよ。」

「なんで?外来種ってだけで?」

「そうよ。可哀想だけど、生態系を崩すからね。あーっ!こーいうのって、考えるとめちゃくちゃ悔しくて悲しくなる。」

そう言ってママは頭をガシガシ掻くと、コーヒーをすすった。

「例えばミシシッピアカミミガメ、ミドリガメのことね。あれだって駆除されてるのよ。理由は生態系を崩すから。ほんっとに可哀想よね。だって原因は100%人間なんだもの。逃げた個体もいるんだろうけど、そもそも輸入してる時点で、人間の責任なのよ。」

「生態系って、戻んないの?」

「崩した原因を取り除かないと、戻らないわよ。戻ったとしても何かが壊れた状態。何が壊れたかってことには、人間は気づかないんじゃないかな。」

またしても、アリンコと同じような答え。

「在来種と外来種が共存することってできないのかなぁ?食べるわけでもなく、ただ駆除されるなんて可哀想過ぎるよ。アイツらが悪いわけじゃないのに。」

意外にも、なかなか返事をしてくれない。

ママは少しの間黙ってコーヒーをすすって、ボクはママの返事をおとなしく待った。

「りくは、外来種を守りたいってこと?」

「うーん・・そういうわけじゃないけど・・」

「外来種の立場で考えるとそうなるわよね。じゃあ、在来種の立場で考えてみて。」

「え?」

「りくはさ、『アニマルニッポン』好きでしょ。」

「うん。」

突然、全然関係ない『アニマルニッポン』が出てきた。毎週水曜日の夜に視てるテレビ番組だ。

「トムソンガゼルを特集してる日の場合、子どものガゼルがチーターから逃げきると安心するでしょ。でも、チーターを特集してる日の場合、飢えたチーターがガゼルを捕まえると安心するでしょ。」

「あ・・・!」

「フクロウとネズミでもそうよ。一方では掴まれと思い、一方では逃げろと思う。でもそれは人間の勝手な感情によるもので、自然というか、野生の中ではどんな生き物も、ただただ懸命に生きてるのよ。それが動物でも虫でも、魚でも、植物でもね。みんな生きることが目的なの。生きるための目的、なんて言ってるのは人間だけよ。だから、公平な目で見ないとダメなんじゃないかな。と、ママは思う。」

確かに、在来種・・アミガサハゴロモだけじゃなくて、影響を受けてる全ての在来種・・と話してみたら、また考えが違ったかもしんない。

「ほんとはね、外来種を捕まえたらオスとメスにキッチリ分けとけばいいじゃん、な〜んて、できもしないことを考えたりするのよね。もう!あんまりこういうこと考えたくないのよ。考えると、命を絶たれる生き物が可哀想になっちゃうから。」

あちゃー!ママがズーンと暗くなってしまった。

朝からごめんね、ママ。


ママは、重苦しい雰囲気を背負って仕事へ行った。さながら人間低気圧だ。

ボクも若干の低気圧を背負って学校に着くと、キャーキャーワーワー騒がしい。

教室の外には、女子'Sと一部男子がいる。

「おはよー。なに?なんかあったの?」

「きょ、教室にっ!!」

渡辺が両手を胸の前で組んで、困った顔をしている。

「えぇ?」

ドアについたガラスから見ると、中で男子がバタバタと右往左往していた。

「何やってんの?」

ドアに手をかけると女子たちが「開けちゃダメ!」と騒いだけど、何のことやらわからないボクは、声と同時にガラリとドアを開けていた。

「おおっ!りくちょうどいいところへ!」

ソエジンが走り寄ってきた。

「あの虫だよ!!ボクのブルーベリーにたかってる虫!いっぱいいるんだ!」

「えぇ!?」

確かに、たくさんのチュウゴクなんとかが、飛んだり跳ねたり、床にもたくさん落ちている。

「昨日、絵の具を乾かすってことで、教室の窓を開けっ放しにして帰ったらしいんだ。」

「でも誰かいたんだろ?虫が入ってきたら気づくじゃん」

「それがさぁ、みんながみんな、誰かいるだろうって思って帰っちゃったんだってさ。岡崎が朝練で体育館行く時に、トミゴンが副校長に怒られてるの見たんだって。絶対、窓開けて帰ったからじゃね?」

「うえぇ。絶対、朝学活でカミナリ落ちんじゃん!」

「りくも捕まえてくれよ!虫得意だろ?」

「得意も何も・・・」

その時、胸のポケットから声がした。

「捕まえてくるがよい。痛みを知るのも、我らを知るために必要なことよ。」

「アリンコ・・・。この中に、アイツいるかなぁ。」

「さあな。だが、彼奴は同情されることを嫌っておったろう?」

「そうだね。」

また鼻の奥がツンとした。

「よし!先生がくるまでに、チュウゴクアミガサハゴロモを残さず捕まえよう!」

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