何がどーしてこーなった?
「へ?なに言ってんの?」
意味がわからなくなって、聞き返した。
「だ〜か〜ら〜、キミは、チュウゴク、アミガサ、ハゴロモ、じゃ、ない、だろ!」
ボクがわかってないと思ったのか、わざわざゆっくり区切って話してくれたけど、ボクが言いたいのはそういうことじゃない。
「違う違う!なんか勘違いしてるみたいだけど、ボクもチュウゴクなんとかなんだってば。」
「だから違うって言ってんじゃん!」
「キミはチュウゴクなんとかなんだよね?」
「チュウゴクなんとかじゃなくて、チュウゴクアミガサハゴロモな。」
「ボクも、そのチュウゴクなんとかなんだよ。」
「だから、それが違うんだってば!」
「へ?」
「まさか、気づいてなかったのか?キミはアミガサハゴロモじゃん。」
「・・・へ?同じっしょ?」
「・・・なに言っちゃってんの?物分かりの悪いやっちゃな〜。」
「ええぇぇぇ!?違うの!?なんで!?」
なんでなんでなんで!?えー!?わかんないよ。
キュッピは、ボクにもちゃんとフワフワが付いてるって言ってたし、オロンは、真っ白フワフワよって言ってた。
アイツらに訊かなくちゃわかんない。
あ〜っ!なんでここに愉快な仲間達がいないんだ!
「キュッピー!オローン!!どこにいるんだよぉ!!」
思いっきり叫んだ。
「呼んだっピ?」
「呼ばれて飛び出ちゃったわよ〜ん!オロロン」
2匹はすごい勢いで飛んできて、すぐそばにスチャッととまった。すんげぇ便利だな。でも助かった!
「うわぁぁん!コイツが、ボクはチュウゴクなんとかじゃないって言うんだよぉっ。」
すがりつくように擦り寄っていくと、2匹とも首を傾げた。オロンなんて、曲がり過ぎて枝に頭がつきそうだ。
「りくはチュウゴクアミガサハゴロモじゃないっピ。」
「そーよー。アミガサハゴロモよー。オロロン」
なぬ!?ここへきてまさかの展開だ。
「だ、だって、ボクにもフワフワがついてるって言ったじゃん」
「ついてるっピよ」
「それに、2人が初めてコイツに会った時、チュウゴクなんとかだって言ってたじゃん!」
「言ったけど、あっちはチュウゴクアミガサハゴロモの幼虫だからだっピよ。」
「だったらボクも・・・」
「違うわよ〜。似てるけど、りくはアミガサハゴロモなの〜。オロロン」
「そうだっピ!りくがチュウゴクアミガサハゴロモなんて言ってないっピ。」
「ええぇぇぇっ!そんなんサギだぁ」
「ボクらの天敵に例えるなんて、失礼だっピ!!」
「嫌ぁぁ!サギなのぉ!?鳥が来たのねぇぇ!オローン!」
オロンは身体を捻ると、目を引っ込めながらものすごい勢いで縮んでしまった。
「だだ、大丈夫、鳥なんか来てないから!サギって言うのは鳥じゃないよ、騙されたって意味で言ったんだよ」
慌ててなだめると、疑るように片目ずつニョッキリ出してきて、なんとか復活した。
幽霊だから、鳥に襲われたって平気なのに。まったく!
「幼虫も成虫も、見た目が似てるけど全然違うんだっピ。りくは、アイツと形が似てるけど、橙色の身体に目立つ白い線が縦横に入ってるっピ。」
「成虫になるとね〜、色も全然違うのぉ〜オロロン」
「そうだっピ!チュウゴクがつく方は、茶色いんだっピ。アミガサハゴロモは、もっと平べったくて抹茶みたいな粉が付いてるんだっピよ!」
「そんなの知らないよぉ!」
「アミガサハゴロモが食べるのは、カシ類の葉っぱの汁とかなんだっピ。」
「菓子類?お菓子ってこと?」
「なに言ってるっピ!カシの木の仲間のことだっピ!」
と言ってバチコーン!と頭を勢いよくはたかれた。
「そ〜よ〜。お菓子に葉っぱなんかないわよぉ〜。オロロン」
ちぇっ。オロンにグイングインしながら言われると、なんだかすごくバカにされてる気がする。
「マニアックだから、りくみたいなヤツは知らないか、見ても気づいてないっピ」
「どーせ虫の種類なんて知りませんよ!だいたい、アリンコは「自分がなってみろ」って言ったんだよ?なのになんで種類が違うわけ?アリンコが間違っちゃったってこと?」
わぁわぁ騒いでいると、嫌なヤツが寄ってきた。
「うっさいなぁ。また見えない友達だかと喋ってんのかよ」
はぁ〜、こうなったらアリンコの間違いを認めるしかない。
「コイツらに、ボクはチュウゴクなんとかじゃなくて、アミガサハゴロモだって言われた。」
「だから言ったじゃん。」
そう言って、嫌なヤツは笑った。
「でもさ、アミガサハゴロモってとこは同じなのに、ボクとキミだと、そんなに違うわけ?見た目がほんのちょっと違うってだけじゃないの?」
ボクが質問すると、答えを見せてやると言って枝の先の方に登っていった。
「じつは、ここには前にも来たことがあるんだ。」
ずっと上の方まであがったところでピタリと止まると、下を見るよう言われた。
そこから見える何本か下の枝先には、大きな裂け目があった。
裂け目の周りには、フワフワの残骸だろうと思われるものが、ところどころにくっついている。
「あの裂け目の場所に、卵があったんだ。人間がこそげ取っていった。その傷口が、あの裂け目だ。卵も白いフワフワで守られてるから、卵を取った後のカスだけ残ってんだよ。」
「えっ・・・・・。」
「あっちの枝。途中で切れてんじゃん」
チュウゴクなんとかが脚差す反対側の斜め上を見ると、スッパリ切られた跡がある。
「あそこにも卵があった。切った枝ごとどっかに持って行かれた。反対側の枝もやっぱり切られたんだけど、そっちは埋められた。」
「・・・・・・・・」
言葉が出てこなかった。絶句ってこういう事をいうのかも知んない。
幹に傷が残るほど卵を擦り取ったところを想像すると、なんだかすごく怖くなった。
「仲間もよく捕まってるよ。幼虫は跳んで逃げてはいるけど、限界があるじゃん。」
「・・・・・でも、それはアミガサハゴロモも一緒じゃないの?」
やっと絞り出した、消えそうな声で尋ねると、
「いいや。わっちらは、外国から来た虫なんだってさ。外来って言ったのはそういうこと。だから、駆除しなくちゃいけないんだって。この前、成虫が言ってた。その成虫も人間にはたき落とされて、もういなくなっちゃったけどね。」
あまりの衝撃に、どうやっても言葉が出てこなかった。
「・・・・あ・・あの・・・」
「気にしなくていーよ。同情されると、自分が可哀想みたいじゃん。別に強がりなんかじゃなくて、わっちは、別の虫に生まれたかったなんて思ってないよ。そしたら、わっちはわっちじゃなくなっちゃうじゃん。飛べない虫になりたくないし、土を食べる虫になりたくない。他の虫を捕まえて食べるなんて、真っ平ごめんだね。わっちは、今のわっちで幸せなんだ。」
なんだか鼻の奥がツンとした。テレビとかマンガでよく「鼻の奥」って表現するけど、ほんとなんだな。
ダメダメ!チュウゴクなんとかは幸せだって言ってるんだから、泣いたりしたら失礼だ。でもきっと、生まれたのが先祖代々の国だったら、駆除されることなんてないのに。そう考えると胸がギュウッと苦しくなった。
その時!
枝木全体が、すごい勢いでグラグラと揺れ出した。
「え!?なに!?」
「とりあえず、振り落とされないようにしないとダメじゃん!」
そこへ、白い巨大なシーツみたいな物が広がってきた。
「ひえっ!」
シーツみたいなので覆われそうになってるからだろう、スローモーションみたいにどんどん暗くなってくる。どんどん、どんどん・・・
暗くなるほどに、隙間から見える外の光がハッキリしてきた。
「あそこ!あそこの隙間だ!あそこめがけて、さっきみたいに爆ぜるように跳んでー・・・」
「うわぁっ!」
思わずベッドの上で跳ね起きた。




