ピラミッドの正体
わぁわぁ大騒ぎしているボクたちに、加藤さんは
「こりゃあカメムシの仲間だ」
と教えてくれた。
「なになに?カメムシ?これ蛾じゃないの?」
あんなに騒いだのはどこへやら、みんなワラワラと集まってきた。虫嫌いのヤツらは教室に逃げてったけどね。
「今年んなって、急に湧いて出てきてな。毒があるようでもねえし、うっちゃってるんだけどよ。」
「うっちゃってる?」
「放っといてる、ってことだな」
「ここが発生源なの?」
「そんなわけあるか。だったら毎年出とるだろ。それにコイツのエサは植物だ。ほれ、はたいてやったから持ってけ。」
「はあ〜い」
2枚のベニヤ板を運ぶのには、十分すぎる人数で廊下を歩きながら、ソエジンの話題はさっきの虫のことばっかりだった。
「誕生日にブルーベリーの苗買ってもらったんだよ。来年には実がなるサイズのやつ。」
「なにそれ!誕生日が植木かよ。」
隣では、ハルキがウヒャヒャと笑いながら「ピッピ〜、通りま〜す」と誘導している。
「い〜だろ!」言い返しながら、ソエジンも「ちょっと、危ないからそこどいてー」なんて周りに声をかけていて、思わずプハッと笑ってしまった。
「なんだよ、りくも笑うのかよ。」
「違う違う。運びながらこんなやりとりすんの、面白いな〜と思ってさ。で、ブルーベリーの苗がどうしたわけ?」
「さっきの虫がたかってるんだよ!最近葉っぱにも元気ないし、加藤さんがカメムシの仲間だって言ってたし、もしかしてあの虫が原因かもしれないよな!」
鼻息荒くビン底メガネをスチャッと持ち上げると、すぐ調べなくちゃ!と言った。
昼休みに教室に戻ると、女子達がベニヤ板に下絵を描いた模造紙を貼っていた。
「すごいじゃん!もう下絵できてたんだ。」
「すごいでしょ〜。ニーハオは似顔絵得意だし、タマちゃんはアニオタだからバッチリなの!」
実行委員の渡辺が嬉しそうに教えてくれた。
ニーハオは多田結愛。ツインテールを団子状にまとめているから、誰からともなく、ニーハオってあだ名がついたんだ。彼女は似顔絵がうまくて、タマちゃんこと宝田珠代は無類のアニメ好き。この2人が揃えば、そりゃあすぐできるよね。
「卵の殻が少し集まってるから、今日はそれを塗って乾かして、明日は今日塗った分を張るグループと卵の殻に絵の具を塗るグループの二手に分かれる予定だから。」
そっかぁ。もう卵の殻を持ってきたヤツがいるのか。
今日から忙しくなることを思うと、ブルーになった。
「た・・ただいまぁ・・」
「おかえりー!あらやだ、ずいぶん萎びちゃったわね。」
顔を出したママの第一声がそれだった。
ひ、ひどい・・。なんて言い草だぁ。ご飯も食べずにひたすら色を塗って乾かして、色を塗って乾かして、そんなことしてて、気づいたら6時過ぎてて慌てて解散したんだもん。おやつも食べてないし、お腹が減って目が回っちゃうよ。
「さ、早くお風呂入っちゃって!出てきたらすぐにご飯にするからね」
「えぇー・・。先に食べちゃダメ?」
「ダメダメ!お腹いっぱいになったら、眠くなっちゃうでしょ。」
「えー、いいじゃん。寝ないからさあ。」
「いいや、絶対寝るね。1つは、消化のために脳から胃腸に血が集まるから。もう1つは、ご飯を食べると血糖値があがるから。この2つが原因で眠くなるのよ。」
いろいろ言ってるけど、ご飯の用意がまだってことなんだろうな。はぁ〜、しょうがない。
「じゃあお風呂入ってくるから、ご飯早くね」
そう言ってお風呂場へ直行した。
お風呂に入ると、体を洗っているすぐ横の湯船で、早速オロンとキュッピが遊び出した。
「楽しんでるとこ悪いけど、おなか減ってるからすぐ出るよ」
髪を洗い流して勢いよく湯船に入ると、お湯が溢れて愉快な仲間達が「オロー?」「キュピ?」と流れ出そうになった。流れちゃっても、幽霊だから心配ないんだけどね。
お風呂から出ると、すでにご飯ができていた。
我が家の親子丼は、深めのフライパンで一気に作って、各自が料理用スコップ(平になったお玉みたいなやつ)ですくってご飯に乗せる方式だ。
パパが一人前ずつ分けて作ってた時、先に作った丼が冷めるし、かといって別々に「いただきます」するのは嫌だとママが言って、こういうシステムになったんだって。
こういう食べ方は邪道だって言う人がいるかもしれないけど、お家ご飯なんだから問題ないでしょ。だって、もしボクにたくさん兄弟がいたら、パパのご飯は最後の最後になっちゃうもん。
作り方は簡単。
フライパンに水を1.5cmくらい入れる。
そこに麺つゆを入れて、蕎麦つゆくらいの濃さになるようにする。ボクは甘めが好きだから、ここにミリンをぐるっとひと回し入れて火にかける。玉ねぎが入ると甘くなるから、ミリンは入れなくてもいいんだけどね。
ここに、タマネギのスライスをたくさん入れる。沸騰したところで、鶏肉を入れるんだけど、ママは切るのが嫌だと言って、買ってきた唐揚げ用のモモ肉をそのままぶち込む。だから、すごくボリューミーだ。
時々ひっくり返しながらぐつぐつ煮て、鶏肉に火が通った頃に、溶き卵を半量回し入れる。我が家は1人卵2個だ。卵にもだいたい火が通ったら、残りの溶き卵を回し入れて、蓋をすると同時に火を消す。余熱で火を通すことで、半熟になるんだ。これで、ママにもできる簡単親子丼の出来上がり!
お約束通り、卵が入ったカレースープが添えてある。
ママに気づかれないように、そっとため息をついた。
美味しいよ、そりゃ美味しいけど、カレーうどんで食べたかったんだよなぁ。でも、文化祭のため、つまりボクのためなんだもんね。我慢、我慢。
「ねえ、りく」
「な〜に〜」
まぐまぐ食べながら適当に返事をした。
「明日はコロッケの日だけど、ソースで食べないで今日みたく卵とじにしよう!」
と言われて思わずのけぞった。
「だーっ!眠いぃ」
満腹になって、目が開けていられないほど眠くなった。
さすがママ。さっき言ってた通りだ。
「リーくー、寝ちゃうのぉ?オローン?」
「まだ遊ぶっピ!寝ちゃダメだっピ!」
愉快な仲間達がお腹の上て跳ねている。
「うぅ〜ん、もう寝かせてくれよぉ。」
「なんだ、もう寝てしまうのか?」
アリンコまで現れた。はぁ〜、寝るどころじゃない。
「あ、そうだ。今日見たピラミッドみたいな虫いたじゃん。あれって何て虫なの?」
「ピラミッドは、あれほど茶色くはあるまいて。そもそも、形が違うであろう。ピラミッドは底が四角い四角錐だぞ。」
「そーなんだけどさ、なんか尖ってるっていうか、あんな形の虫なんて初めて見た。」
「あれはチュウゴクアミガサハゴロモというのだ。」
「チュウゴクアミガサハゴロモ?中国の虫なの?」
「中国原産の外来種だな。ここのところ大量発生しているようだの。」
「なに食べてんの?」
「なってみればよかろう。」
「え?」
「どうやら眠そうだ。お前たち、この世界では遊べなくとも、向こうで遊べるからの。楽しんで行って参れ。」
「オローン!」「キュピ!」
「ふえぇ・・?」
そのままボクは、泥のような眠りに落ちた。




