何このピラミッド
「して、モザイクとは何なのだ?」
部屋に戻ると、肩の上にアリンコが現れた。
さっきから、訊きたくてしょうがなかったらしい。
「ん〜、モザイクっていうのはね、」
話しながらベッドに座ると、キュッピとオロンがすぐ膝の上によじ登ってきた。
「小さい物を貼り付けて、絵みたいにするんだよ。小学生の時、画用紙に手で千切った折り紙を貼って、絵みたいにしたことがあるんだ。それは貼り絵っていうんだけど、同じ感じで、折り紙じゃなくて小さいタイルとか、貝殻とか、砂とか・・あ!砂だと砂絵になっちゃうな。とにかく、色のついた粒とかカケラを貼りつけて絵にするんだよ。」
「そのカケラというのを、卵の殻にするというわけか。」
「そーなんだよ、そーなんだけどさ、ほんとは卵の殻を使うのなんて嫌なんだよね。」
「そうはいっても、決まったのであろう?」
「でもすごい大変なんだよ。卵の殻1個分の大きさなんてたかがしれてるじゃん。つまり大量の殻が必要になるわけ。おまけに、貼り付ける前に色を塗らなくちゃいけないから、粉々に割れてちゃダメなんだって。」
「ほう。カケラにして貼るのに、始めから割れていてはダメなのか。それはなにゆえ?」
「外側にだけ色を塗ってから細かく割って、それを貼りつけるからだよ。貼ってから塗ればいいじゃんって言ったら、そんなのモザイクじゃないって言われちゃった。一欠片ずつ色が違うのがモザイクの良さなんだってさ」
「一欠片ずつ違うといっても、同じ色で塗るのであろう?」
「うーん、同じ色ではあるんだけど、筆使いとか色の薄め方で、色ムラができるからさ。それがいいらしいよ。」
めんどくさっ!と言ってベットに倒れ込んだその時、
トントン
「りーくー」
ママがボクの名前を呼びながらドアをノックした。
「なにー?」
ガチャリと音がして、開けるよ〜と言いながらママが入ってきた。
いやもう開けてますやん。思わずツッコミそうになる。
「明日は親子丼にするから、冷凍うどん出しとかなくていいからね。」
驚いてムクリと体を起こした。
「え?今日の替わりにカレーうどんなんじゃないの?」
「ううん。残ってるカレーは、カレースープにしよう。明日は親子丼と玉子入りカレースープね。」
「えぇ〜。親子丼なの〜?おまけにカレースープに卵入れんの?卵づくしみたいでやだよ。いいじゃん、カレーうどんで。」
「ダメよ。モザイクに使うんだから卵食べないと。」
「えぇぇ〜・・」
ちぇっ。すっかりカレーうどんだと思ってたのに。
殻の内側がすごくベタつくから、ちゃんと洗って乾かさなくちゃ、と言いながらママは部屋を出て行った。
「ああ〜、苦しい。」
朝からお腹いっぱいだ。
いつもならママはコーヒーだけ、ボクはトーストと牛乳(時々カフェオレ)とフルーツなのに、今日は2人とも目玉焼きがついていた。しかも2個ずつ!!
「おはよう。茹で卵もあるからね〜。」
ママが笑顔で続けた。
「今日からしばらく、朝もおやつもフルーツじゃなく茹で卵にするわよ。家の卵全部使い切ったから、今日また買ってくるわ。」
「マジで言ってる?」
「マジもマジ。大マジよ。」
そこまで卵好きではないボクにとって、朝から衝撃。
昨日は冷蔵庫に9個の卵があった。4個は目玉焼きに化けているから、茹で卵は5個あるってことになる。
「ここにあるバナナは?腐っちゃうよ?」
恐る恐る訊いてみた。
「そうね、じゃあ今食べちゃって」
「はい?」
「いいじゃない。いつもコーヒーだけのママが、頑張って目玉焼き食べんのよ?りくは育ち盛りなんだから、遠慮せず食べなさい。」
「ええ〜・・。」
「ちょっとの間だけよ。みてなさい、絶っっ対、卵の殻が間に合わなくなるから。」
はい!と勢いよくボロボロになった茹で卵が出てきた。
黄身があちこちから飛び出た不恰好な茹で卵を手に取ると、ママが苦戦してくれた様子がわかる。
ちぇっ、茹で卵か。でも、忙しいしこういうの苦手なママが、ボクの文化祭のためにわざわざ茹でて、おまけに剥いといてくれたんだもんな。
「ありがとう。」
「いいのよ、文化祭のためだもんね。ただ、問題があって・・。」
「何?問題って。」
塩とマヨネーズ、どっちを付けるか迷いながら訊いた。
「剥いたら、殻がぐちゃぐちゃになっちゃった。」
てへ!とか言ってウインクしている。
「・・・・・えー!?それじゃ使えないじゃん!」
というわけで、作った意味のなかった茹で卵を、バナナと一緒に1個だけ食べてきた。
膨れたお腹を抱えて、そういえばアリ姐さんも蜜でオナカパンパンだったな、なんてことを下駄箱でボンヤリ考えていたとき、恵太に背中をボスっと叩かれた。
「オェッ」
「うわ!なんだよ、具合でも悪いのか」
「具合悪くはないんだけど、食べ過ぎちゃって。」
「朝からやる気満々じゃん。」
ゲラゲラ笑われたけど、こっちは笑い事じゃない。
「田端が、朝のうちに男子でベニヤ板取りに行ってくれって。」
「えぇ〜、休み時間でよくない?」
「昼間は用務員さん忙しいんだよ。トミゴンにオッケーもらったってよ。面白そうじゃん、行こうぜ!」
お腹いっぱいなのにぃと嫌がるボクを、ソエジン達も先に行ってるからと言いながら、恵太はズリズリと引っ張っていった。
材料置き場に入ると、色んな臭いがした。
土やニス、ゴム、ペンキ。もちろん木材のいい匂いもするけど、近づくまでは他の臭いにかき消されている。
「お〜う、これで揃ったか?」
用務員の加藤さんは、ちょっと訛りのある面白い人だ。
「ええが、薄いし重くはねぇが、ササクレがあっから気ぃつけろ。それにデカいからな、人にぶっけねぇようにな」
「はぁ〜い」
「返事だぎゃ、ええもんだ。ついてこ。」
加藤さんが、昨日のうちに出しておいてくれたというので、一緒に外の雨除けの下に取りに行くと、ベニヤ板から大量の何かが飛び出した。
「うわぁ!?」
飛ぶのが得意じゃないらしく、どれもこれもパタパタと重そうに飛んでいる。見ると、足元にたくさんの茶色い三角ピラミッドがあった。ただの三角じゃない。妙に立体的だ。
「な、何だよコレ!?」
「コイツだよ!畑のブルーベリーにたかってる虫!」
わぁわぁと騒ぐボクたちに、加藤さんが
「ハッハッハ。こりゃあカメムシの仲間なんだわ。ピラミッドたぁ、よく言ったもんだな。」
と笑った。




