大団円?
衝撃的な方法でカマゾーが眼を覚ますと、ヒナちゃんは、良かった良かったと言って、ピーピーと泣いた。
「エサを食べないのにオナカがパンパンだったから、オヨヨと思ってたっピ。」
キュッピは、自分のおかげでたすかったんだと言わんばかりに、エッヘンと胸を張って誇らしげだ。
全員が喜んでいる。ほんとに目を覚まして良かった。
「眼に光ガ、入ってキタ瞬間、キーンと、アタマに音がして、何ニモ、考えらレナク、なった。何モ聞こえナク、なった。ヒナちゃんゴメン、ね。」
その話しを聞いたキュッピが
「カマゾーよく頑張ったっピ。水に飛び込んだ時は、もうダメかと思ったっピ。」
と言ったので、ヒナちゃんは号泣、ボクとオロンも、つられておいおい泣いてしまった。
「ボク、身体もこんなふうに小さいし、羽もほとんどないから、他の肉食昆虫に「男女」とか「チビ」とか言われて、しょっちゅうエサを横取りされてたんです。」
カマキリでも、エサの横取りなんてされるんだ。意地悪するヤツがいるのは、人間と同じなのかなぁ。
「エサを追いかけるのに夢中になって、待ち伏せしてたハラビロカマキリに気づかなくて、食べられそうになったことがあるんです。そのとき助けてくれたのがカマゾーくんでした。カマゾーくんは、ボクのことを絶対にバカにしないし、一緒にいてすごく安心できるんです。でもそれは、彼が強いからなんじゃないんです。カマゾーくんには感謝しかないのに、ありがとうを伝えないままだったから・・グスッ」
ん?ボク?男女?
「助けラレたのは、オレの、ほう。ヒナちゃんハ、覚えてナイ。産まレテ、すぐノ時、オレは、ヘンなヤツ、こっち、来るナって、兄弟から言わレテ、独りボッチだった。そんな時、他のムシから、助けテくれた。その時から、大好キ。ボクのヒーロー。ヒーロー守ル、あたり前。」
ん?ヒーロー?
「カマゾーはおもしろいヤツだけど、変なヤツじゃないっピ。変わってるだけだっピ。」
「それって褒めてるの?」
そう言ってみんなで笑った。
「よかったオロー。もう2匹とも独りぼっちじゃないオロー。元気でねー。オロロン」
「これからは、ボクもカマゾーくんを守ります!」
「キュピ。敵が来たら教えてあげればいいっピ。」
カマゾーはヒナちゃんを背負うようにして、元の草むらへ帰っていった。
2匹が見えなくなるのを待って、疑問を声に出してみた。
「ねぇ、もしかしてヒナちゃんって・・・オス?」
「そうだっピ。今頃なに言ってるっピ。」
「オスだよー。知らなかったー?オロロン」
「えー!メスだとばっかり思ってた!」
「メスなんて言った覚えないっピ。」
・・・確かに言ってない。
「でも、でも!キュッピは「チョウセンカマキリのメスと間違えるんならともかく」なんて言ってたし、みんな「好きな子」とか言ってたし、オロンだって「純愛」だって言ってたし・・・」
「キュピ?純愛はオスとメスじゃなきゃダメなんだっピか?」
「そーそー。そしたらワタシなんて、1匹でオスとメスだから、純愛の完結体なのねー。オロロン」
「オロンは、雌雄同体だからでしょ。」
「そんなの関係ないのー。仲間になかなか会えないからなんだからー。オロロロ」
ありゃ。オロンがちょびっと怒って、目が三角になった。
「ボク達の場合、好きな相手を見つけることなんて、ほとんどないんだっピ。例えばボクは、メスのそばに行くだけで、食べられちゃうかもしれないっピ。それでもそばに行くのは、子孫を増やすためなんだっピ。だから、子孫繁栄を考えないで、好きな相手を見つけるのは、すごいことなんだっピ!」
「そんなもんか。」
「そーよー。好きもいろいろあるのー。オロロン」
「そうだっピ。ボクもいままで好きってどんなことか、わかんなかったっピけど・・・」
「?」
キュッピが少し溜めてから
「りくとオロンとずっと一緒にいたいっピ!きっとこれも、好きってことなんだっピ!」
と堂々と両手をあげて言った。
「ワタシもー!ワタシもなのー!オロロン」
愉快な仲間達は、キャッキャッと楽しそうにくるくる回っている。
「そうだね!ボクもオマエらが大好きだ!」
そう言ってオオカマキリのまま抱きつこうとしたら、2匹から見事に拒まれた。
目が覚めると、いつものボクの部屋だった。
両手を伸ばしてから勢いよくグイッと起きあがると、机の上ではアリンコが居眠りをしている。
キュッピとオロンはどこだ?
キョロキョロと見回すと、部屋の隅で2匹でお互いに寄っかかりながらグースカ寝ていた。
起こさないように、静かに、静かに。
ボクの大好きな仲間達だ。
思わず顔がほころんだ。
そっと部屋を出て扉を閉めると、キッチンのママに
「おはよー。」
と言った。
ママは、
最近早いのね、と言ってカフェオレの用意をしてくれている。
「ねぇ、ママ。カマキリの寄生虫って知ってる?糸みたいなヤツ。」
「あら珍しい。りくの方から寄生虫のこと訊いてくるなんて。」
そう言って、ボクの前にいつもの甘いカフェオレを置いてくれた。
最近ちょっと甘すぎる気がする。次からは、少し砂糖を減らしてもらおう。でも待てよ。甘くなくなったらアリンコ怒るかな?
そんなことを考えていると、
「ハリガネムシっていうのよ。」
「え?」
「だーかーらー、カマキリの寄生虫でしょ?糸みたいな。ウニョウニョっていうより、どっちかっていうとウネン、ウネンって少し固い動きをするヤツ。
「うん、そうそう。」
「あれはハリガネムシっていうの。最終宿主はカマキリだけじゃないけどね。ハリガネムシは、交尾のために、宿主を水辺まで連れていくのよ。」
へぇ。あの気持ち悪いニョロニョロは、ハリガネムシっていうのか。交尾のために水辺に行くっていうのは、キュッピが教えてくれたから知ってるんだな〜、これが。
「それがね、最近の研究で、カマキリの光を感じる仕組みを利用して、水に飛び込ませてるのがわかったらしいよ。」
「光を感じる仕組み?」
「光っていってもただの光じゃなくて、水面を反射する光のうちの、決まった性質に反応するみたいだ、ってことまでわかったみたい。アスファルトの反射する光も、似たような性質を持ってるから、寄生されたカマキリが道路に集まることが多いんだって。」
「へぇ〜。カマキリを道路で見かけることがあるけど、ハリガネムシに寄生されてるのかな。」
「かもね。しかも、水たまりとかだと干あがっちゃうから、ちゃんと深い水を選ぶ傾向にあるんだって。」
カマゾーは水たまりに飛び込んでたから、珍しいタイプだったのかもしれない。
「道路にいるカマキリは、ハリガネムシをオナカから出せないから、長生きできないね。」
「そうね。でも、どっちにしても寄生されたカマキリは長生きできないのよ。」
「え?」
「寄生されてたカマキリは、ハリガネムシを追い出したとしても、長生きできないってこと。」
「なんで!?だってオナカからいなくなってるんだよ?だったら、エサもまた食べられるようになるじゃん!」
ボクは驚いて、思わず立ち上がってしまった。
「や〜ね〜、どうしたのよ。ほら、座って。一度でも寄生されたら、身体はそんなに簡単に元通りにならないのよ。」
じゃあカマゾーは?せっかく助かったのに、すぐ死んじゃうの?
カマゾーの憎たらし気な顔を思い出した。何度もボクを「エサ」だって言ってたっけ。でもボクに、エサって言って悪かった、って言ってくれたんだ。
「すごいよね。やっぱ寄生虫って奥が深いわ。」
「ボク!ボクは!・・・寄生されても頑張ってるカマキリがすごいと思う・・!」
そう言うと、涙が溢れてきた。
ママは、びっくりした顔をしたけど、すぐに
「そうね。頑張ってるカマキリもすごいね。」
と言って、泣いているボクを抱きしめて、小さい子にするようにアタマを撫でてくれた。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
次回は文化祭です。つたない文章ではありますが、今後も楽しんで頂ける作品となるように心がけて頑張ります!




