思ってたんと違う
そーかそーか。
アリ姐さんは女王だったのか。
・・って、だったらこんなところをウロウロしないで、ちゃんと巣にいなくちゃダメじゃん!
巣の未来はアリ姐さんにかかってるんだから。
「女王なのに、なんで巣から出てきゃったの!?早く帰んなきゃ。」
ボクはアリ姐さんに声をかけると、早く早くと言って、どんどん下へ降りていった。
とりあえず早くアリ姐さんを巣に戻さないと、巣が崩壊しちゃうからな。
・・でも、しょうがないから行くんだ。別にアリが好きなわけじゃない。そもそも虫に興味なんてないんだ。だけど、ボクを家族だって言ってるし、何かあったら寝覚が悪いじゃないか。行きはするけど、絶対、絶っっ対に中には入らないぞ!たとえ夢でも絶対に嫌だ!!考えたくもない!暗い穴の中で、さっきより大量のアリに囲まれるなんて・・とてもじゃないけど耐えられない!
巣に連れ込まれるのを想像して戻る足が(脚が)鈍る。
が、名案を思いついた。
アリの巣に入らずにどこか離れたところに逃げちゃおう。そうすれば、もう大量のアリを見なくて済むし。な〜に、入口で適当に誤魔化して入らなきゃいいんだ。そうだ、そうしよう。そうと決まれば、さっさとアリ姐さんを送ってお別れだ!
また急ぎ足になったボクに、今度はアリ姐さんが首を傾げている。
「何なの、いったい。まあいいわ。アリアリ」
地上に降り立つと、土と緑の壁だけの世界になった。
虫になって改めてみる地面は不思議な感じがした。
色とりどりで、土の粒も大きさがまちまちだ。いつも見ている「ただの土」は、ものすごく複雑だった。
地面は平面に見えても河原みたいなんだな。それも、川の上流みたいに大中小の粒がゴロゴロしていて、すごいデコボコだ。色だって、黒や灰色、茶色には濃いものから薄いものまで様々で、透明なものもある。
スゲ〜。地面って、こんな風になってたのか。
ボーッと見ているボクに、アリ姐さんは声をかける。
「こっちよ。」
黙ってアリ姐さんについていく。デコボコ地面は一見歩きにくそうだけど、大きな土の粒は避けて通るし、ボクの身体も軽いから問題なくヒョイヒョイ歩くことができる。それでも足元がぐらつく時があるけど、6本の脚がうまい具合にバランスを保ってくれる。
やっぱ虫ってスゲ〜!
色々な発見にホーとかへーとか言っていたら、黙ってついてこいと言われた。自分だってアリアリ言ってるくせに、と思ったけど口には出さなかった。
地面に降りてからは、道を知っているアリ姐さんのほうがダントツに早い。さっきまではボクが急かしていたんだけど、追いつくのがやっとだ。
突然、緑の壁がなくなって、開けたところに出た。日差しが当たって周囲から湿度が無くなった。遠くに大きな岩山が見える。自分の大きさからすると、庭にある大きめの石くらいだろうか。
「もうすぐよ。アリアリ」
岩山の下には隙間があって、アリ姐さんはそこに向かっていく。
あの下に巣穴があるのかなあ?
アリの巣といえば、開けたところにぽっかり空いた穴を想像してたけど、ちょっと違った。
近づくにつれ、シャワシャワと騒がしい音がしてくる。
あの音はなんだろう。それに、隙間の周りにはモヤがかかっている。はて?
「お土産持ってきたわよー。」
ウキウキとアリ姐さんが叫ぶ。
シャワシャワ音が一層大きくなった。
モヤが動き出した。
・・えっ!? ウソでしょ!?
アリ姐さんが巣と呼んでいたのは、大量、いや、激量のアリの塊だった。
ギィヤァァーーー!
逃げるまもなく、アリ姐さんとボクはアリの雪崩に巻き込まれた。