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珍しいセミ

「聞いて驚くなー。ボクチン達は、なんと、」

「なんと?」ワクワク

「なんとーー」

「なんとーー?」ドキドキ

「アブラゼミだよー!」

ズリッ

「え?フツーじゃん。」

「何言ってるかー!ボク達の羽を見てみなよー。」

うーん、飛び出た複眼は、ご存知のとおり脅威の視野を誇っているけど、どう頑張っても自分の羽を客観的に見ることはできない。

「ちょっと羽見せて。」

別にフツーの羽ですけど。

「どこか特別なの?」

「何言ってるかー!羽!透き通ってないでしょー!」

ないねー。

「これが特別なのー!世界中に3,000種類くらいのセミがいるけど、羽が透き通ったないセミは、数種類しかいないんだよー!外国行けばモテモテなんだからー!」

「え!そーなの?知らんかった。」

アブラゼミなんてありふれてると思ってたけど、日本の中だけの話なんだな〜。確かに、13年とか17年周期で繁殖する素数ゼミをテレビで見たことがある。うわ!すご!と思ったけど、地元の人へのインタビューでは、みんな何とも思ってなかった。

パパの友達が海外旅行でオーロラを見に行ったんだけど、現地の人からは、珍しくもないのに何で見に来るのかわからない、と不思議がられたそうだ。

身近すぎて気づかない物の中に、たくさんの宝物があるんだな。当たり前すぎて、わからないんだ。

そんなことを考えていると、ジジッと音がして、近くをセミが飛んでいった。

「あ!あれも兄弟ー。あれもー。あっちは妹ー。」

「???」

あっちこっちに、兄弟姉妹が大量にいるんですけど。

「ボク達も飛ぼー。あっちの木が美味しいかもー。」

「あっちって、あの枝が広がった木?」

少し離れたところに、背か高くて枝が大きく広がった木がある。あれは・・ケヤキかなぁ?

「うん。ボクチン先行くよー。」

ジジッと言って、兄?弟?は飛んでった。

「勇気、やる気、飛ぶ気!」

目をギュッとつむってから、思い切って飛びたった。

ギューーーン

うわ、うわうわ、速っ!速すぎだよー!


ベチンッ  ベチンッ

「痛った〜〜。」

「おぉぉ〜〜。」

どーやら兄弟揃ってうまく幹にとまれず激突したらしい。

「キミチンもボクチンもまだ飛ぶの上手くないー。一緒に練習するー。」

前脚で頭をさすりながら、目標の木まで2匹でもう一度飛ぶことにした。

「上手く飛べないと鳥に食べられるー。」

「鳥!?」

言われてみれば、カラスとかセミ食べるよな。あ!猫が捕まえてる時もあるかも!

「あ!アイツぶつかるー。」

兄弟が言う方を見ると、1匹のセミが車のフロントガラスにぶつかって明後日の方向に飛んでった。

えぇぇーー!?

「アレは姉ー。」

ええぇぇーー!?

いやいやヤバいでしょ。何はさておき練習しなくちゃ。

生死に関わるんだから!

「練習するー。今度はあの木にするー。」

ボク達兄弟?はしばらく練習を続けた。

その間、車にひかれたり、鳥に食べられる兄弟姉妹達を見るたびに、猛烈にビビってオシッコをちびった。

うわわわ。マジでヤバいよぉ。そーか。「セミのオシッコ」っていうけど、ほんとは身体を軽くするためじゃなくて、ビビってちびったのかもしれない。


何度か繰り返すうちに、だいぶうまくなってきた。

なんかくらくらしてきたな。なにか食べないとダメかもしれない。

・・食べるって言っても、樹液だけど。ハァ〜

こんな注射針とストローを合体させたみたいな口じゃ、他のものはムリだよね。ハァ〜

セミはサナギにならない不完全変態だ。幼虫のころから、樹液を飲むことに特化した注射型ストロー口だから、せいぜい食べられても・・りんごとか・・梨?

今の時期にはどっちもないし。ハァ〜

こんなことを考えていたら、桜の木にとまった兄弟が

「お腹へったー。ご飯ー。」

と言ったかと思うと、おもむろに口をブスッと刺して幹から樹液を飲み出した。しばらくちゅーちゅー吸って

「キミチンは食べないのー?すごく美味しーよー。」

と言った。

そうだよね。セミにとってのご飯は樹液だもん。赤ちゃんの頃から5年も食べたママの味?だもんね。

初めはちょっと抵抗があった(一応、ボクは人間なので)けど、幹に口をちょっとつけてみたら、セミのボクは誘惑に勝てなくなった。

あぁ、もうたまらない。食べたい!食べる!!

ちゅーーーっ ちゅーーーーっ

はあぁ、桜だ。遠くに桜餅の葉っぱのがする。

幼虫のボクが飲んでいた樹液とは、全然味が違う。木によって、こんなに樹液が違うなんてすごくおもしろい。

飲み始めたら止まらなくなった。

ちゅーーーっ ちゅーーーーっ

「そろそろ太陽が真ん中を過ぎたから、そろそろメスを呼ぶ練習するぞー。」

ん?なんだそれ?

「メスを呼ぶ練習ってなに?」

「こうするんだよー。フン!」

ジ・・ジ・・ジッ・ジッ・

お?なにが始まるの?

「フンガーーー!」

ジウィンジウィンジウィンジウィンジウィンジウィン

ヒェェェェー!?

ジーッという音に重なるようにして、ウィンウィンという音の波が繰り返されている。

なにこれ?音波を使った武器かなにか?

お腹の辺りから音が響いてくるってことは、セミの鼓膜はココにあるのか!

鼓膜を抑えつつ、音の主に向かって叫んだ。

「ちょ、ちょっと待ってーー!!」

集中してるのか興奮してるのかわかんないけど、ボクの声が聞こえていないみたいだ。もう一回!

「ちょっと待ったーーー!」

今度はそう言いながら前脚でポカリと叩いた。

ジッ・・グウェッ!?

最後に変な音を出して、やっと音波は止まった。

なんだかものすごい疲労感が襲ってきて、どっと疲れちゃった。

「やっと止まった〜〜〜。音大きすぎでしょ。」

ボクのぐったりした様子を見て、いきなりやり過ぎたということに気づいたのか、兄弟は前脚で頭部をポリポリ掻いている。

「急に鳴らしてごめんのー。」

「説明してからやってよ。小さい音から始めるとかさぁ。こんな大きい音、どこから出してるの?」

「おなかー。空っぽなんだけど、そこに筋肉があって、ブルブルブルブルって力を入れると音が出て、お腹の中で音がぐるぐる回るんだー。すごく疲れるけど、音を抱っこしてるみたいで、気持ちいいんだよー。」

ん?よくわかんないな。

「お腹が空っぽってなに?でも筋肉があるんでしょ?じゃあ空っぽじゃないじゃん。」

「空っぽの中に筋肉だけがあるのー!力を入れて筋肉を動かすと音が出るのー!お腹の中で音が回るんだってばー!」

んー?

筋肉が音を鳴らす楽器だとして、箱の中で音を鳴らしてるから、音が響くってことなのかなぁ?

鈴みたいな感じ?それとも蓋をしたバイオリンみたいな感じなのかな?

そーか!閉じた空間だから、音が反響してるうちに、どんどん大きくなるってことなのかも!

大きな声で歌うための糸口が掴めそうな気がした。

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