ボクの正体とは
暗闇だ。夜かな?
ポカポカしてあったかい。
注射針のような口を木の根っこにブスッと刺した。
ちゅーっと吸うと、樹液が飲める。
ハァ〜極楽極楽。
なんだかまた眠くなってきた。
ぐぅーーぐぅーーーぐぅーーーー・・・
暑っ!?
な、なんだ?急に暑いぞ??
しかも、何これ硬っ!?
身体が硬くなってきて、だいぶ動きにくい。
うわぁ〜しかもむず痒くなってきた!
とりあえず、もう一回ご飯食べよ。
ちゅーーーっ ちゅーーーーっ
う・・ん。また寝ちゃったのかぁ。
さっきはすごく暑かったけど、ちょっとだけ暑くなくなった。
なんかどんどん動きにくくなってるし、背中の方がめちゃくちゃ痒くて気持ち悪い。よくわかんないけど、そろそろ外に出なくちゃいけない。
出なくちゃいけないんだけど、ここの暮らしが気持ち良すぎるんだよな〜。
・・ぇ・・・ぇ・・ね・・ぇ・・
ん?なんか聞こえるぞ。
耳を澄ませてみる。
・・・・・
何も聞こえないなぁ?気のせいか。
・・ぇ・・・ぇ・・ね・・ぇ・・
あれ?やっぱなんか聞こえる?
ーーーーねぇ!
「うわっ!」
急に近くで声がした。びっくりして思わず口を根っこから外してしまった。
「ボクチンもう飛びに行くけど、キミチンは行かないの?」
「へ?あ、ボク?」
「キミチンに決まってるでしょー。今から出発しないと、また暑くなるよー。」
近くで声はするけど、姿は見えない。
そっか!ボクはセミになったはずなのに、こうやって食っちゃ寝してるってことは、土の中にいるんだ。
「ボクも行くよ!上に行けばいいんだね。」
返事がない。あれー?先に行っちゃったのか。
「待ってー!」
慌てて追いかけた。やり方はわかんなかったけど、前脚で土を掻いてみたら、ゆっくりだけど上に進める。
・・結構しんどいな、コレ。
しばらく進むと、前脚がスカッと宙を掻いた。
「は、はぁ〜やっと外に出たぁ。」
まだ夜なのかな?真っ暗だけど、絶対近くに木があるはずだ。キョロキョロすると、目の前にボクが樹液を吸っていた木があった。
あぁ、コレがボクを育ててくれた木だ。4年?いや5年になるかな。感慨深いなぁ。
「キミチン何してるー?ぐずぐずしてると死んじゃうよー。」
死んじゃうなんて聞いてないよ!
「あわわわわ。すぐ行く、すぐ行くよぉ。」
ボクは大急ぎで木に向かった。羽化するために。
足の先は、毎度おなじみ鉤爪のようになっていて、幹をらくらく登ることができる。ヨチヨチと木を登って行くと、上の方にさっきのセミ(たぶん)がいた。
「キミチンやっときたねー。お互い無事に大人になろーねー。じゃーあとでねー。」
なんか軽いな。まいっか。
だんだん身体の表面の殻が硬くなって動けなくなってきた。とりあえず、もう少し硬くなるまでの間、ちょっとだけひと休みしようかな。
そんなことを考えていたら、ものすごく苦しくなってきた。身体の周りを何かでギューッと押さえつけられる感じ。いや、正確には内側から膨張してるのかもしれない。お腹の部分が勝手にモニモニ動き出す。苦しい、苦しいともがいているうちに、ピシッと背中の殻にヒビが入った。
ええぇ〜〜。もう羽化が始まっちゃうの?まだ疲れてるのにぃ。とはいえ、このままだとめちゃくちゃ苦しい。
ピキピキッ ピシッ
あぁ〜・・やっぱ割れてきた。ショボンヌ。
ここで何もしなかったらどーなるんだろ?
そんなことを考えていたら、ショウジョウバエになった時のことを思い出した。あの時も羽化したんだった。
あのとき、羽化に失敗して下に落ちてたショウジョウバエを思い出して、ブルルッと身震いした。
危なっ!セミも同じとは限らないけど、可能性は高い気がする。何としても羽化を成功させなくちゃ!
頭の方から、ゆっくりと上半身から出していく。殻から出たときの開放感が気持ちいい。
せーの!ヨイショォー!
のけぞるようにして、身体全体を出した。
わっ、とと・・ふぃ〜、何とか落ちずに済んだ。
次は羽を伸ばせるように、体制を変えなくちゃ。羽を伸ばすためには、殻を掴んでぶら下がるようにしなくちゃいけない。腹筋?で身体を起こすと、殻の頭の部分を前脚で掴んだ。最初、右前脚がちょっと滑ってうまく掴めなかったから、一瞬ヒヤッとしたけどギリセーフ!
羽は、ぐちゃぐちゃなように見えて、実は緻密に畳まれているんだ。殻が硬いから、羽が傷ついちゃうんじゃないかと心配だったけど、いまのところ問題ない。
吹き込んだ空気が行き渡るように、羽が伸びていく。
ここまでで、もう体力は使い果たした。
もうダメだ〜。つ、疲れた。
意識が遠くなってくる。とりあえずちょっと寝よう。
「おい!おーい!」
「ん?だれ〜?・・うぉ!?」
目を開けるとドアップのセミがいた。
「コ、コワッ!」
「何がコワイだー!キミチン失礼すぎー。」
「ごめん、ごめん。ボケッとしてたからビックリしちゃって。キミはさっき声かけてくれたセミだよね?」
「そーだよー。ボクチンとキミチンは兄弟だよー。」
「え!兄弟?」
・・・初のパターンだな。そーいう設定もあるのか。
「よく兄弟だってわかったね。知ってたの?」
「卵の時のこと、少しだけ覚えてるー。ママンが、近くにも兄弟いるからねって言ってたー。」
お!ママンって呼んでるのか。
「ねぇ、ボクたちって何ていうセミだっけ?」
「何言ってるー?自分がダレかわかんないー?」
「そーなんだよ。教えてくれる?」
「ボクチン達は特別なセミだよー。」
え!なになに?ツクツクボウシとかヒグラシとか?
なんかめっちゃワクワクしてきたんだけど!




