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アリ姐さんは女王なの?

一通り緑の虫をボコったアリ姐さんは、ビビるボクにお土産用の蜜を吸うように言った。

吸う、ってお土産用でしょ?飲んじゃっていいのかな?

よく意味がわからなかったけど、震えながらとりあえず飲んでみた。

ああ、やっぱり美味しい・・

・・だめだ・・何も・・考えられない・・

バコッ!

「お土産にするんだから飲んじゃダメでしょ!」

ほわわんと恍惚の境地にいたボクは、アリ姐さんにぶっ叩かれて我にかえった。痛って〜〜

「素嚢に入れるのよ!わかった?」

そのう?何だそれ?

叩かれた頭を撫でながら首を捻っていると、アリ姐さんは自分が運ぶからもういい、とため息をついた。

「私たちには胃袋が2つあるのよ。一つは自分のため、もう一つは仲間にあげる食べ物を溜めておくために使うわ。あなたは何にも知らないのね。アリアリ」

アリ姐さんは、どうやって生きてきたのよ、とぶつぶつ言いながら蜜を吸った。

「ふぅ〜もういっぱい。」

ボクはそれを聞いてホッとした。もうアリ姐さんの乱暴狼藉を見なくて済む。緑の虫も安心しただろうな。

「痛かったよね。もう叩かないよ。」

緑の虫は、半透明のキレイな身体をしている。なかなか大きいけどおとなしくて、顔はアリよりシュッとしていてちょっと可愛い。

それにしても、目の前で仲間が叩かれているのに、どの虫も逃げ出さなかったな。なんならこちらを引き止めている気がするけど、何でだろう。

「何言ってるの。蜜をもらう代わりに、私たちが敵から守ってあげてるのよ。」

あ!授業でやったかも!「共生」ってやつだ。ってことは、この緑色の虫はアブラムシだな。

「そうか。だからバコバコ叩かれても逃げなかったんだね。ウィン-ウィンの関係ってことだ。」

うんうんと一人頷いているボクを尻目に、

「バコバコなんて失礼ね!いいから早く帰るわよ。」

アリ姐さんは、膨れたオナカを重そうに揺すってアリアリ言いながら行こうとする。ボクは慌てて

「え!?敵から守るんでしょ?置いて帰っちゃうの?」

と言うと、アリ姐さんは

「バカね。これから家族がどんどん来るわよ。あなただって、私の残した道標を辿ってきたんでしょ。ああ、ほら。みんな来たわ。アリアリ」

と言った。

道標?なんのこっちゃ?と思いつつ、ユラユラする葉っぱから落ちないように注意深く下を覗くと、アリの行列が見える。

へぇ〜本当に一列になってる。おもしろ〜

感心して見ている後ろから、アリ姐さんに声をかけられた。

「さ!もう行くわよ。みんなお腹をすかせてるわ。」

え!?待って待って。巣に連れていかれちゃうの?ボク、どうなっちゃうの?

ビビるボクにとって、巣は悪魔の巣窟でしかない。だけど

「・・はい。」

逆らえないボクの選択肢は、頷くしかなかった。


アリ姐さんはチョロロロ・・と軽やかに降りていく。オナカが重いはずなのに不思議だ。強い風が吹いて茎まで揺れているから、なかなかスリリング。こんな状態の中なのに、こんな角度で降りるなんて。人間だったら絶対無理だ。

降りる途中で、やってきたアリの行列とすれ違うことになった。縦に並んだアリ達を見て足がすくむ。アリ姐さんはボクのことを「家族」と認識してくれたけど、他のアリがそう思ってくれるかはわからない。ボクの頭は不安でいっぱいになった。

襲われたらどうしよう。

思わず身震いした。そもそも見た目も怖いし、めちゃくちゃたくさんいるじゃん!

アリ姐さんの陰に隠れてできるだけ気配を消してみる。消えたかどうだかわかんないけど、やらないよりマシだ。

「お疲れさま。いまから蜜を持って帰るわ。」

アリ姐さんが先頭のアリに声をかける。みんな同じ顔で、ボクには区別がつかない。アリ姐さんだけはオナカがパンパンに膨らんでいるから、辛うじて区別できるけどね。

「この子に持って帰らせて、私はまた餌探しをするつもりだったの。でもこの子ったら素嚢の扱い方がわからないのよ。アリアリ」

やめて!指(脚?)ささないで!せっかく気配消してるのにー!

ボクは俯いてできるだけ小さくなった。

「あら?そんな子いたっけ?アリアリ」

先頭のアリはそう言うと、2番目のアリに問いかけた。

「ねえほら、こんな子いたっけ?」

「あら、どうだったかしら。ねえ見てみて。アリアリ」

同じ顔をしたアリ達が次々に近づいてくる。もはやどのアリが先頭だったのか何番目だったのかわからない。

アリは複眼だから、ありえない数の目に凝視されることになった。みんなアリアリ言っている。

うわああぁぁああ!やめてぇぇ!

小さくなっていたボクは、焦って今度は細くなっていく。アリ姐さんの後ろに隠れようにも、周りを同じ顔をしたアリ達にぐるりと囲まれてしまった。


「たぶん私のハトコのハトコのハトコだと思うのよ。」

アリ姐さんがそう言うと、確かに家族の臭いがするしね、とみんな口々に言って頷いていた。ビビっていたボクは「するしね」の「しね」に反応してしまい更に縮こまったが、みんなは納得しているようだった。

よくわからないけど、ここはボクも頷いておこう!

フルスピードでコクコクと頷いた。人生でこんなに頷いたのは初めてだ。脳みそがシェイクされたみたいでクラッとした。

「じゃあね。」

そう言ってすれ違った。行列はアリアリ言いながら通り過ぎていき、アリ姐さんは、長い行列のところどころで声をかけている。

「あら!」

アリ姐さんは途中のアリに向かってちょっと嬉しそうに声をかけると、ボクの方へくるりと振り向いて

「ワタシの子よ。」

と言った。

「へえ〜。」

よく見分けがつくな〜と感心していたボクは、不意をつかれて一瞬意味がわからなかった。

「え!?子ども!?」

子どもだというアリが、ぺこりとお辞儀をした。若いからなのか、アリ姐さんより若干茶色が薄い気がする。でもやっぱりボクには他のアリと区別がつかない。なんならアリ姐さんだって、オナカが膨れてなかったら区別がつかないだろう。

「子どもって、アリ姐さんの?」

驚きのあまり、頭の中でだけ呼んでいたあだ名?を呼んでしまった!ヤバッ

「「アリ姐さん」ってなんなの?」

アリの中には「ねえさん」という概念がないようで、なんなの?なんなの?としつこく聞かれたけど、気のせいだよと逃げ切った。

それより!

卵を産むのは女王アリだけのはずだ。

アリ姐さんは餌を探し回っているし、子ども達の面倒を見ていると言っているし、てっきり働きアリだと思っていた。大きさだって、女王アリは他のアリより大きいはずなのに、アリ姐さんは他のアリとほとんど変わらない。(というか区別がつかない)

「子ども(卵)を産んだ」気がする。ってコトか?

いやいや、頭の中がお花畑過ぎない?

首を捻っていたが、アリ姐さんに急かされて歩き出した。

いくら考えてもおかしい。聞き間違いかもしれない。

「さっき会ったのが子どもってことは、卵産んだことがあるの?」

「あるわよ。たくさんじゃないけど。アリアリ」

ええーっ!?そーなの!?

アリ姐さんは女王アリだったのか。

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