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おんぶの遺伝子

「ヤダヤダ!離れてよぉ!」

オンブバッタは騒いでいる。

ハッ!

我に返ったものの、背中から降りたくない。

人間のボクは、降りなくちゃ!と思ってるんだけど、バッタのボクが、ここで降りたら他のオスに取られちゃうよ!と思ってる。

ええい!ボクは人間だ!

思い切って背中から降りると、慌ててメスバッタに謝った。

「ごめんね。背中がつるりとしてスベスベで、すごくキレイな色してたから、思わず乗っちゃったんだ。」

「ほんとにビックリしたんだからね!」

ぺこぺこと謝って、ようやく許してもらった。

「ボク達、ここの奥の原っぱにいたんだけど、ショウリョウバッタが、ここにオンブバッタがたくさんいるからって連れてきてくれたんだ。」

「ああ、奥に行くほどイネ科の葉っぱが増えていくから、オンブバッタは減っていくのよ。この辺だと、ハルジオンもヨモギもたくさん生えてるから、オンブバッタもたくさんいるの。」

ふむ。ハルジオンとヨモギって、餌のことなのかなぁ?ヨモギはわかる。草餅の素になる草だよね。ボクは草餅苦手だけど。ハルジオンってなんだ?

「ねぇねぇ、ハルジオンって何?」

「貧乏草のことよ。ほんと、ひどい名前だよね。私達にとってはご馳走なのに。」

なるほど!貧乏草のことか。花がボロ布みたいだとか、手入れが行き届かない庭に咲いてるとか言われちゃって、可哀想ね、ってママが言ってたなぁ。

「オンブバッタとショウリョウバッタって似てるけど、食べるものが全然違うんだね。」

「うーん、そうね。私達は似てるとは思わないけど、区別がつきにくいって他の虫から言われる時あるかも。」

とりあえず食べながら話しましょ、と言ってピョンピョンと草の根元に連れてこられた。草丈が高いから、地面からは葉っぱの白い裏側しか見えない。遠くから見ると、ただ白いだけだったけど、近くで見ると、白いのではなく白い毛がたくさん生えていて白く見えているのがわかった。

「上の方の葉っぱのほうが、柔らかくて甘いから、上に行こうか。」

そう言うと、メスバッタはピョーンと軽やかにジャンプした。ショウリョウバッタと比べると、力強さはないけど、とてもしなやかな動きだ。屈んだ時に一瞬広い背中が見えて、バッタのボクはキュンとした。

おんぶで頭がいっぱいになるのは、なんでなんだろう。

うーん、遺伝子の成せる技だな。

オロンとキュッピは、楽しそうに遊んでいるからほっとくことにして、ボクも葉っぱに向かってジャンプした。後脚がしっかりしてるから、前脚は添えるだけでも十分跳ね上がることができる。バッタの跳躍力ってすごいなー!

自分の走り高跳びの記録を思い出した。

80cm

あぁ。

恵太に「へ?ふざけてんの?」って言われたあと、みんなに爆笑されたっけ。校庭の向こう側では、女子が走り幅跳びやってて、笑い声に反応した女子からも注目されちゃったんだった。あん時は、めっちゃ恥ずかしかった。

そんなことをぼんやり考えていたら

「何してるの?早くおいでよ。」

メスが上の葉っぱから降りてきた。

「うわわわ」

メスはボクの倍くらいの長さがあるから、ボクの乗っている葉っぱに乗られると、一気に茎までたわむ。

グワングワン揺れるから、鉤爪と吸盤を使って、落ちないようにしっかりと葉っぱをつかんだ。


メスに急かされて上の方まであがると、葉っぱが少し柔らかくて小さくなった。色も濃い緑色から淡く白色がかっている。

この辺は生えたての葉っぱなんだな、きっと。

「コレを食べるんだよね?美味しいの?」

と訊くと、

「あたりまえでしょ。なに言っちゃってんのよ。」

と言ってアングと口を開けた。

大きな顎はあるけど、全体的に丸っこい。

ウネウネした葉っぱの縁に食らいつくと、丸が互い違い回るみたいに、マグマグ食べ始めた。ほんとに「マグマグ」って言葉がピッタリだ。なんだか口がお尻みたいに見えてきちゃって、おかしくなってきた。

「プププッ」

「ちょっと!なに笑ってんのよ!」

レディを怒らせてしまったみたいだ。いかん、いかん。

でも、葉っぱの縁をお尻がマグマグ削っていく。

「アハハハハ」

「なによ!なにがおかしいのよ!」

自分も葉っぱを食べたらこうなるのかと思うと、笑いが止まらなくなってしまった。お年頃なので。

ずーっとゲラゲラ笑ってたら、

「プッ・・アハハ」

最終的に2匹で大笑いしていたら、メスが

「なんか久しぶりに笑ったわー。」

と言った。ちょっと淋しそうだ。

「最近は楽しいことなかったの?」

メスは少し黙ると、ゆっくり話し始めた。

「子どもの頃から仲良かった友達2匹と一緒に、よく遊んでたんだ。葉っぱの上で追いかけっこしたり、早食い競争したり。私ともう1匹はメスだったから、そのうちオスと全然大きさが違ってきちゃって。それでも変わらず仲良くしてたんだ。」

なるほど。幼馴染ってやつだな。早食い競争なんて、おもしろいじゃん!3つのお尻がマグマグマグマグ・・

ププッと笑いが漏れたけど、メスは気にする様子もなく話し続けている。

「大きさが違ってからは、私かもう1匹のメスがオスをおんぶして、3匹で遠くまで行ったりしてたの。だけど、2匹とも人間に捕まっちゃった。あの日は、彼女がオスをおんぶする番だったから、人間の手が伸びてきた時に逃げきれなかったの。」

「えっ・・・」

「緑色の網でできた箱の中に入れられちゃってるのに、私に「逃げて!逃げて!」って言ってた。それ以来、オスが近くにきても、怖くておんぶできないの。だから、さっきは怒ってごめんね。」

「・・・ううん。大変だったね。」

なんとかそれだけ言ったけど、それ以上なんにも言えなかった。

その2匹が人に飼われたのか、長く生きられたのか、ボクにはわかんないけど、アリンコが「自分達の生きる道は厳しい」って言ってるのは、こーいうことなんだな。

その時だった。

「うわ!なに、なに?」

不意に、たくさんの虫たちが飛んできた。珍しく、普段は向こうの原っぱにいるというショウリョウバッタ達が頭上を通過していく。

「あれ?ダイミョウもいる。」

ダイミョウ?

そういえば、さっきも元妻バッタが「子どもの頃ダイミョウに餌を横取りされた」とか「顔が怖い」とか言ってたな。

「ねぇ、ダイミョウってなに?」

「ダイミョウバッタのことだよ。知らない?えーっと・・トノサマバッタって言えばわかるかな?」

「ああ、コメツキバッタ?」

「違う違う。コメツキバッタはショウリョウバッタのことだよ。」

「え?そーなの?」

「そう。ショウリョウバッタの後脚を揃えて持った時に、身体を縦に揺らすような動きをするのが、お米をついてるみたいに見えるからなんだって。ショウリョウバッタは後脚が強いからね。」

「へぇ〜。バッタって、いろんな種類がいるんだね。」

「自分もバッタのくせに、なに言ってんのよ。」

そう言って、メスバッタは笑った。

さすがに「ボク実は人間です」なんて言えないなぁ。

そうしている間にも、虫がどんどん通過していく。

あれ? 


ギュンッ ヒューーーーン ギュンッ ヒューーーーン


どこかで聞いた音がする。


ギュンッ


屈んだ刹那、声をかけてきたのは元妻バッタだった。

「アンタたち!早く逃げな!!」

え?

「人間が来たよ!」

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