謎の紳士
「ヒェェェェー。」
ボクの羽が暴風に煽られてはためく。
キュッピが飛ばされないか心配だったけど、周囲に草がたくさん生えているから、その心配はなかった。
「い・・いまのジャンボジェットみたいな虫って、ショウリョウバッタに似てたけど・・・」
「メスなのー。オロロン。」
「メスだっピ。」
「えーー!?メ、メス!?あんなに大きいの?」
2匹はウンウンと頷いた。
「ボクたちアダンソンハエトリグモも、メスの方がずっと大きいっピ。」
確かに、教えてもらった時の茶色いメスは大きかった。
「一度にたくさん卵を産むメスは、たいていオスより大きいっピ。」
オロンは「ワタシはオスとメスだから同じー」とか言いながら、キュッピの横でウネウネしている。
「へぇ、そうなんだ。でもさ、カブトムシとかはオスの方が大きいじゃん。」
「それはね」
葉っぱがカサッというと、緑の三角形がニョッキリ顔を出した。
「ぬぉ!?」
「彼らは、オス同士で闘うからなんですよ。私達は闘わないので、オスが大きくなる必要はないんです。」
飛行機・・じゃなかったショウリョウバッタだ。
突然だったのと、あまりの大きさに驚いた。
大きいなぁ。長さだけで、ボクの倍はある。
ショウリョウバッタは小声で話しているので、鼓膜を押さえなくてもうるさくない。餌を食べるでもなく、飛ぶでもなく、腹這いになってじっとしている。
「キミがいるなんて、気がつかなかったよ。ココでなにしてるの?」
「隠れているんです。」
「え?敵でもいるの?」
「まあ、そんなところです。」
ショウリョウバッタは、静かに立ち上がった。
わぁ、やっぱり大きいなぁ。
すらっとしていて、サラブレッドみたいだ。ママが「イケメンバッタ」と言うのも頷ける。
「この辺りにオンブバッタがいるのは珍しいですね。」
なんだか丁寧な人・・じゃない、バッタだなぁ。
「オンブバッタは、この辺にはいないの?」
「いえ、時々はいますよ。ただ、あちらほどではありません。」
そういうと、右前方の方を指(脚?)さした。
「あちらの方がオンブバッタが好む草がたくさん生えていますので。」
「じゃあ、あっちの方に行ってみるよ!どうもありがとう。」
ボクはそう言って、2匹と一緒に向かった、た、た、
・・・遅い!オロンが猛烈に遅い。あっちの方に向かおうにも向かえない。
溜息をつきながら、オロンのスピードに合わせてジャンプしたり戻ったりして進んでいると、ショウリョウバッタが
「大変なご様子ですね。ご一緒しましょうか?」
と言ってくれた。
やったー!大喜びでショウリョウバッタの背中に乗った。キュッピは、初めてバッタの背中に乗ったことで興奮してしまい、行ったり来たり何往復もしている。
「それでは、しっかり捕まっていてくださいね。」
ピョーーーーン トッ ピョーーーーン トッ
すごいスピードで飛んでいく。正確には跳ねているんだけど、とび跳ねる距離がボクとは段違いだ。
キュッピは、吸盤のようにしっかりくっついているオロンの陰に隠れている。
ほどなく、生えている草の様子が変わった。平べったくて長い草も生えてはいるんだけど、少し幅の広い草もある。ところどころで茶色い地面も見えている。
「この辺りでよくオンブバッタを見ます。」
「さっきと草の種類が違うね。」
「ショウリョウバッタとオンブバッタでは、食べる物が異なるのです。私達ショウリョウバッタは、ススキなどイネ科の葉を食べますが、オンブバッタはイネ科は食べません。先ほどの草地はイネ科の群生地でしたので、オンブバッタがいることは珍しいのです。」
へぇ。生活圏が違う、ってことか。オンブバッタって、こーいうトコにいるんだな。
ショウリョウバッタの背中からピョーンと飛び降りると
「どうもありがとう!オロン、キュッピお礼言って。」
と言った。
「ではこれで。オンブバッタに会えると良いですね。」
え?まだキュッピもオロンも降りてないけど?
ショウリョウバッタはクルリと背中を向けると、しゃがんだ。マズイ、ジャンプするんだ!
「待って待って待ってーーー!」
ショウリョウバッタの後ろ脚にしがみついた。
「どうされました?まだ何かご用でも?」
「まだキミの背中に、ナメクジとハエトリグモが乗ったままなんだよ。」
「さて。ナメクジもハエトリグモも乗せてはいませんが?」
「え?さっき乗せてくれたじゃん!」」
「いいえ。貴方しか乗せていませんが?」
へ?
「キュピ!」
「オローン?オオッ!?」
オロンがキュッピに突き落とされて、ドサッと落ちてきた。まったくひどいコトするなぁ。痛いーといって丸くなっちゃったじゃん。
「ああ、良かった。2匹とも無事だった〜。」
2匹の無事を確認してホッとしたボクは、
「やっぱり乗ってたよ!ほら!」
とショウリョウバッタに言った。
ショウリョウバッタは不思議そうに首を傾げながら、
「すみません、貴方しかいらっしゃいませんが。」
「ええ?そんなはずないよ。よく見て。」
「私には5個の目がありますが、複眼と単眼をどんなに凝らしても、お友達のお姿は見えません。」
「5個も目があるの!?」
2匹が見えないことよりも、そっちの方が気になってしまった。
「2個しかわかんないけど、どこにあるの?」
「目立つ2個は複眼です。色や形を判別します。そして、ここと、ここと、ここに単眼があります。」
ショウリョウバッタは、それぞれの複眼の上の、触覚側にあるポチッとしたもの1個ずつと、複眼と複眼の間で、やや背中寄りにある、ポチッとした1個を脚さした。よく見ないと気がつかないな。
「単眼は明るさ、つまり光を感知します。」
バッタの目が5個もあるなんて、全然知らなかった。
「へぇ〜。すごいんだね。」
突然、ショウリョウバッタが腹這いになった。
「あれ?どーしたの?」
「シッ!」
ショウリョウバッタが隠れたので、ボクも2匹の頭を押さえ込んで小さくなった。
オロンはすぐに目も引っ込めて小さくなったけど、キュッピはギュムッと言って痛がった。何でだろうと思って自分の脚を見ると、小さな鉤爪と吸盤のようなものがある。そういえば、学校の壁にバッタがくっついてることがあったけど、なるほど、こうなってるから葉っぱだけじゃなくて、平面にもくっつくことができるのか。
そういえば、コイツらのこと見えないって言ってたな。
アリンコは、「オマエにしか見えん」とか何とか言ってたけど、こういうことなのかな。
ぼんやりとそんなコトを考えていたら、
「見つけたわよ。」
という轟音がして、短い触角と三角顔をした緑色のジャンボジェットが顔を出し、ボクを連れてきてくれたショウリョウバッタは、脚をガクガクと震わせている。
「同じショウリョウバッタのメス・・なんでしょ。もしかしていじめられてるの?」
「・・いいえ。彼女は私のワイフです。」




