やっぱりこうなるのね
自分の部屋に行くと、すぐにアリンコが現れた。
「今日は2匹と楽しめたようだな。」
「出たな!諸悪の根源!」
「なにを失礼な!2匹はもちろん、オマエも楽しんでおったではないか。」
「そりゃまあ、そうなんだけどさ。でもコイツら、餌も食べられないくせに畑に行きたがるんだよ。暑いから行きたくなかったのに。」
「そこまで知恵が回るわけがなかろう。よく見ろ。」
机の上で2匹が遊んでいる。
ナメクジは
オローン グィーン オローン グィーンと、右へ左へ伸びて遊んでいる。
あれ面白いんだよな。
ハエトリグモは
んー・・・と動きを止めてからプルプルし始めた。そして、キュピッというとまた跳ね始めた。
やっぱりジッとしてられないんだよね。
2匹とも、なんだか微笑ましくてニンマリしてしまう。
「名前を付けてやればよかろう。オマエも言っていたでわないか。」
そうだ!名前をつけようと思ってたんだった。
・・・・・
・・・・・
「オマエはオロン。」
ナメクジが首を傾げ、傾げ、傾げ、テーブルについた。
ブハッ
思わず笑ってしまった。
「オマエはキュッピ。」
ハエトリグモは両手をバンザイして「キュピッ?」と言った。カニみたいで可愛い。
「安直な名前だのぅ。」
「いいの!わかりやすいでしょ!」
バカにしている割にはニコニコしている(気がする)。
「人間なに言ってるのー?オロー?」
「名前がナントカって言ってるっピ」
アリンコが前に進み出て、愉快な仲間達一匹一匹を指(脚)さしながら言った。
「オマエたち。コヤツはオマエたちに名前をつけてくれたのだぞ。オマエがオロン、オマエがキュッピだそうだ。覚えたか?」
「なまえー?ナメクジじゃなくてー?オロー?」
「ボクはキュッピってコトだっピ!」
「そうだよ。ボクは人間だけど、名前は「人間」じゃなくて「陸久」。みんな「りく」って呼んでるんだよ。オロン、キュッピ、よろしくね。」
「なまえー。オロンー。オロンー。りーくー。」
「キュッピだっピ!キュッピ!りくっピ!」
グィーン グィーン ぴょんぴょん ぴょんぴょん
思わずアリンコと目を合わせて、大笑いをした。
幽霊だけど、陽気で愉快な仲間達だ。
「ねぇ、アリンコ。ショウリョウバッタって、なんであんな形してるの?」
「ん?昼間のバッタのコトか?」
うんうんと頷くボクに、アリンコは
「あれはショウリョウバッタではないぞ。」
と言った。
「え!?ショウリョウバッタじゃないの?」
「あの娘は間違っておったが、あれはショウリョウバッタではなくオンブバッタだ。」
「え!?でもでも、検索してみたけどショウリョウバッタだったよ。何そのオンブバッタって、冗談みたいな名前。」
そう言いながら、スマホでオンブバッタを検索した。
「ほんとだ!ショウリョウバッタとそっくりじゃん!アレってオンブバッタだったんだ。しかも「オンブバッタ」ってほんとの名前なんだね。こんなに似てたら、見分けつかないなぁ。」
「・・まったくオマエはバカよのぅ。昆虫には似て非なるものがたくさんいるのだぞ。これまで何を学んでおったのだ。」
まだまだだな、そう言ってアリンコは消え、残されたボクは、楽しそうな2匹とは裏腹に嫌な予感しかしなかった。
ゴォォォ サァァ シャァァ
くぐもっているけど、水が流れるみたいな音がそこらじゅうから聞こえる。ときどきコポコポという音も。
土から出ている緑色の筒状のものが、上にいくにしたがって、平べったくなっていき、それが何枚もに分かれて広がっている。そこいらじゅう、緑色の平べったいものだらけだ。
すぐ横には半透明の薄汚れたプラスチック?みたいなものもあって、雨でも降ったのか、濡れて光っている。
・・・やっぱりね。
絶っっ対、バッタになるんだと思った。
「で?今日はショウリョウバッタなの?オンブバッタなのー?」
アリンコに訊いたのに、なぜか隣のプラスチックから耳をつんざくような声がした。
「りーくー。バッタになったのー?オロロン。」
へ?
「オンブバッタだっピ。」
へ?
「な、な、なにオマエたち!?」
愉快な仲間達は巨大化していた。
ボクが人間だとすると、ハエトリグモのキュッピは中型犬くらいだけど、ナメクジのオロンはボクの倍以上、なんならサイとかカバくらいの大きさがある。
なんだよこのサイズ!大きすぎだろ!?
幽霊だから薄ら透けてるし。そりゃあ、バッタの視力だったら、プラスチックに見えちゃうよね〜。
「りーくー。どしたのー。オロロン。」
こ、声がデカっっ
オナカの横がドッカンドッカン響いて辛い。
「もう少し小さな声で話してよー!なんでかわかんないけど、オナカに響くんだー!」
こっちも怒鳴ったけど、聞こえてなさそうだ。
オロー?
可愛子ぶって首を傾げたって、デカすぎて愛らしさなんかカケラもない。
キュッピが
「ココに鼓膜があるっピ!」
と言ってボクのオナカを指(脚)さした。
ん?身体をひねろうとすると、ぐるぐる回ってしまう。うーん、自分では、どうやっても見えないけど、オナカに鼓膜があるらしい。
そうか!だからオナカに響くんだ。
ズズズズズ・・ズズズズズ・・
ぬお!?地響きが!?
オロンが歩き出した。超絶遅い。しかも不規則で予測不能な動きをするから、うっかりすると潰されてしまいそうだ。幽霊に潰されることがあればだけど。
まずい。非常にまずい。
隣でドーンドーンと跳ねている、中型犬サイズのキュッピも厄介だけど、オロンが大きすぎてヤバい。
危ないんだってことを伝えたいけど、大きさが違いすぎて話しもできない。歩くのも超絶遅いし潰されそうで怖すぎる。
うわー、どうしよう。
「アリンコ、助けてー!」




